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メールマガジン「オルタ」118号(2013.10.20)

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◎米国2閣僚千鳥ヶ淵墓苑献花のメッセージとは何か?'
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ロシアはどこへ行くのか。           石郷岡 建

先月中旬、モスクワを訪問し、約1週間にわたり、各界の関係者と面会し、現在、ロシアが置かれている状況を聞いた。ちょうど、ロシアが、シリアの化学兵器問題に関し、シリアと米国の間を仲介する形で、「シリアの化学兵器の全面廃棄」と「米軍の軍事攻撃中止」の合意を達成し、「プーチン外交の勝利」と盛り上がっていた時期でもあった。モスクワの町は、いよいよきらびやかになり、欧米モードを売る高級ブティックや高級レストランが立ち並び、「パリの華やかさを抜いた」と豪語する人も現れるまでになっていた。 しかし、表向きの笑顔とは、対照的に、人々の間には険しい表情が見え隠れしていた。新しい動きへのダイナミズムはなく、将来への夢や希望が情熱的に語られることもほとんどなかった。ある意味では、プーチン政権の安定・安泰状況を示していたが、その一方で、将来への見通しのない停滞感や「もういい加減にしてくれ」という鬱屈した気分が同居し、行き場のない不満が漂っていた。


日米関係に新しい外交をシンクタンク「新外交イニシアティブ」の挑戦―                      猿田 佐世

この2013年8月11日、シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」が多くの方のご協力を得ながら設立の日を迎えた。アカデミー監督賞を二度受賞したオリバー・ストーン氏をお呼びし「オリバー・ストーンと語るもう一つの日米関係」と題して行った設立記念パーティには、150人を超える人にご参加いただき、会場は熱気であふれ、その期待の高さを実感した。 新外交イニシアティブは、外交チャンネルを拡充することを目的として設立され、情報収集・情報発信・政策提言を柱に活動を行うシンクタンクである。設立直後の現在は、地位協定の国際比較や、歴史問題についての提言プロジェクトを行っている。情報を収集し、事実を抽出し、専門家の分析・議論を経て、提言書にまとめ、日本、そして、ワシントンなどの政治の場に直接声を伝えていくのがプロジェクトの目的である。他、様々なテーマについて専門家による研究会も重ねており、沖縄の米軍基地問題についての書籍の出版も近く予定している


『変貌する世界の緑の党―草の根民主主義の終焉か?』                              白井 和宏

日本でも昨年7月に「緑の党」が発足した。そして今年7月の参議院選挙には10人の候補者を擁立したが、当選には遠く及ばなかった。安倍自民党の圧勝とは対象的に、脱原発を訴えた緑派やリベラルの諸政党は惨敗に終わった。それでも、世界一高額の600万円(参院選比例区)という供託金を用意し、さらに選挙費用をまかなうために「緑の党」は1億円以上の資金をカンパで集めた。日本の選挙制度という高いハードルを乗り越えて、国会議員を当選させるのは容易でないが、今回の試みは日本の市民運動にとっての新たな一歩となった。 多くの日本人にとっては影の薄い「緑の党」だが、欧米諸国では30年以上の歴史を持つ。EU議会で「欧州緑の党・欧州自由連盟」という統一会派を組み、15カ国、59人のEU議員が所属する。中道右派、社会民主主義、自由主義に次ぐ第4の勢力に成長した。さらにアフリカ、アジア・太平洋、中南米と世界90カ国で結成され、世界大会も定期的に開催している。


船橋洋一『カウントダウン・メルトダウン』を読む~福島第1原発事故における日米関係~               濱田 幸生

福島原発事故独立検証委員会、通称「民間事故調」の設立者であり、プログラムディレクターをつとめた船橋洋一氏(元朝日新聞社主筆)による、福島第1原発事故の大著『カウントダウン・メルトダウン』(文芸春秋)が出されました。本書は膨大な民間事故調の聞き取りと、その後の船橋の取材によって構成され、熟達の平易な文体で書かれています。 評者によっては新たな知見が乏しいと言う人もいますが、米国NRC(原子力規制委員会)、ホワイトハウス科学技術補佐官、国務省、米大使館、米海軍までを網羅した重厚なドキュメントは、これまで存在しませんでした。 国際政治の狭間で福島事故がどのように受け止められ、そして日米が軋轢を重ねつつ「放射能という悪魔」を封じ込めていく姿は感動的ですらあります。 この本は、事故の状況と同時に、今までの類書になかった米国政府、軍内部のやりとりが重層的に書かれて思わず引き込まれます。閉鎖的な艦船という性格から、いかなる被曝も認めないある種の「ゼロリスク」論に立つ米海軍、日本との同盟関係を重視する国務省・大使館、原子力のプロとして冷徹に事故を分析し、対策を練るNRC(米国原子力規制委員会)が、三者三様の立場でぶつかり合いながら進むというやりとりなどは、日本で初めて公にされるものです。


≪連載≫海外論潮短評(73)

蕩尽される世界の海-グローバル漁業の憂慮される将来                                 初岡 昌一郎

1800年代に創刊されて長い伝統を持つ、アメリカの知識人向け月刊誌『ハーパーズ・マガジン』8月号が、メキシコの「コルテス海からの手紙」という長文の記事を掲載している。筆者のエリック・ヴァンスは気鋭のサイエンス・ライターで、カリフォルニアとメキシコ・シティをベースにして、『サイエンティフィック・アメリカン』などの大衆向け科学雑誌で健筆を揮っている。彼が行なっている海洋調査活動は、米国「ピューリツァー危機報道センター」の支援を得てきた。ここに紹介する論説は、海洋生物保護のために書かれた彼の多くの論文や記事の一部である。 手紙の形式をとるこのアピールはルポルタージュ風に書かれており、現地インタービューなどがふんだんに織り込まれたアクチュアルなものだ。しかし、以下の紹介は皮と肉を削ぎ落して、筋だけを追うものとなっている。


≪連載≫宗教・民族から見た同時代世界    

華人社会で安心をひさぐ童乩信仰       荒木 重雄

前号の小欄で、香港、台湾、東南アジアの華人の宗教は儒教・道教・仏教の三教が習合した「三教複合宗教」で、現世利益を求めての占いや祈願が大きな比重をしめ、その一形態として「童乩(タンキー)」信仰が盛んであることを述べた。今号では前号につづき、アラン・エリオット著『シンガポールのシャーマニズム』(春秋社)の手引きを借りて、その実態を垣間見よう。 


≪連載≫落穂拾記(26)

若かりし周恩来・河野一郎・川俣清音     羽原 清雅  

これは元社会党代議士川俣健二郎氏から聴いた話がきっかけだった。 彼は1926(大正15)年、秋田県で生まれた87歳。壮健にして記憶力抜群、声高で逞しい。早稲田大学雄弁会育ちで同和鉱業に勤務、あまり社会主義風の姿勢を感じさせない。 養父川俣清音(1899‐1972)も早稲田大学在学中に、稲村隆一の影響もあって社会主義運動に取り組む建設者同盟を結成、三宅正一、浅沼稲次郎たちとともに過酷な労働と収奪にあう農村に下放、秋田での農民運動を指導する。日本農民同盟には杉山元治郎、鈴木文治たちもいた。北海道出身ながら、尾去沢鉱山の労働争議などに加藤勘十たちとともに関係して、秋田に根差すことになる。 


≪連載≫中国単信  

「秦檜審岳飛」(秦檜が岳飛を裁く)     徳泉 方庵

中国の重慶市共産党の最高位に君臨し、次は国家主席をも狙うエリートとして注目されていた薄熙来(ボーシーライ)はその地位を利用しての巨額の収賄と横領、職権乱用などの汚職容疑で逮捕され、無期懲役、政治的権利の終身剥奪、全財産没収の判決が九月に言い渡された。 この間、中国国内は言うまでもなく、日本などでも少なからず注目を集めていた。しかし、裁判が始まる前日に山東省済南市の裁判所前で、「秦檜審岳飛」(秦檜が岳飛を裁く)というプラカードが掲げられたことは日本ではあまり知られていないようである。このプラカード、中国の歴史に少し詳しい人なら「おやっ」と思うのではないだろうか。


【横丁茶話】

大本営発表級のウソetc.            西村 徹

コントロール? 完全にブロック? よく言うよ  9月7日ブエノスアイレスで安倍総理は福島第一原発汚染水の海洋流出について「私が安全を保証します。状況はコントロールされています。汚染水は福島第一原発の0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている」と言い切った。ろくな知識もない、ただのシロウトの「ワタクシ」が安全を保証などできるか。その直後に東京電力の幹部は「コントロールできていない」と言った。そしてその後も汚染水漏出事故はほとんど連日のように起きている。


【北から南から】

中国・深センから ・ 『中国の自転車(前編)』  佐藤 美和子

実際に中国を訪れたことのない人や、最後の訪中は十数年前だという人には、中国といえば自転車、というイメージを持つ人が多いと思います。 かつての私もそう思っていましたし、91年に初めて訪中した時にはそのイメージ通りの自転車の洪水を目にして、心底ワクワクしたものでした。 現在、私は一時帰国中です。そこで、91年の留学当時、北京から両親に宛てて書いた古い手紙の束を、実家の押入れから引っ張り出してみました。その手紙の中に、北京での自転車のことを書いた覚えがあったからです。


ビルマ/ミャンマー通信(10) 2つの「朗報」について                                 中嶋 滋  

ヤンゴンでは雨の降る回数も量も減り、照りつける陽の強さが増してきています。雨期が終わり乾期への移行が確実に進みつつあります。鬱陶しい黴の悩みからの解放は嬉しいかぎりですが、折角、雨で洗われて瑞々しくなっている街路樹の葉がすっかりホコリまみれになってしまうのは残念と、無い物ねだりの心境です。 そんな季節のなか、2つの「朗報」が届きました。 1つは、ミャンマー政府がILO182号条約を批准するというニュースです。2つ目は、この間お伝えしている結社法案についての新しい改正案が出されたことです。

韓国便り(3)今、小林多喜二・松田解子を思う。  金 正勲

9月8日韓国光州に来られた日本の市民団体と、こちらの市民団体の人々の前で「今、小林多喜二・松田解子を思う。日本国民と考える事」という題でお話をしました。 韓日交流を兼ねての講演だったので、やりがいがありました。 小林多喜二と松田解子に取り組んだ動機からはじめて、韓国で多喜二が読まれる理由、花岡事件と松田解子の活動、そして、松田解子の朝鮮人労働者への同情、松田の強制連行問題に関心をもっている最中に光州で勤労挺身隊の問題が話題となり、朝鮮女子勤労挺身隊のことについても関心を持つことになった経緯などを次々に述べました。 


【運動資料】

大枠合意もできず破綻するアメリカの世界改造計画―アメリカの制度(ルール)は世界の見本たりえず―       篠原 孝

私は今バリ島のグランドニッコーホテルの315号室で怒りに震えながらこの原稿を書いている。第一に、また逆戻りした政府・自民党の騙しの政策変更、第二に、アメリカの傍若無人な世界改造計画、そして第三に思い出すのが、自民党と民主党の成熟度合の差である。 


【運動資料】

元スイス大使村田光平氏の安倍晋三内閣総理大臣への手紙                          村田 光平

福島事故は確実に世界の安全保障問題となった感を深くします。その収束に最大限の対応をせず、未だに東電の経営の危機として対処している日本に対してついに世界は下記の通りたち上がりました。


【アメリカの話題】

ジェンダーの平等を目指して(その2)   武田 尚子

今回は先ず、ジェンダーの役割—その不平等がどうして起きたかを考えることから始めたい。つまり、女性の男性への服従は、いったいいつから、どういう風に始まったのだろう? もっとも常識的な答えは、女性の妊娠と出産、子育てに関わる一切の仕事が、しぜん、彼女たちを家内労働の担い手にしたということだろう。 たしかにそれはもっともなことである。しかし役割の分担がなぜ、女性の劣位を生んだかについては、これだけでは理解できない。


【オルタのこだま】

オルタ117号の感想            武田 尚子

オルタ117号をありがとうございました。今回も大きな問題がびっしりと詰まっていて、其の一編ずつに自分なりの考えを固めたいと思いますが、今日はお便りを書けません。手首は、使わないわけにいかないので、2ヶ月になりましたが、未だに苦労しています。

オルタ117号を読んで             豊間根 龍児

117号を読ませていただきました。教えられることばかり。こんな低レベルの読者も居るんだというところで感想を送らせていただきます。 

濱田論文を読んで             石田 奈加子

オルタ9月号掲載の濱田幸生氏の「世界一奇怪な米国農業」、大変興味深く読ませていただきました。米国そのものに住んでいますから、勿論大体のことは承知しておりましたが、やさしく、わかりやすく解説していただいて勉強になりました。


【投稿】

崩壊した二大政党制と野党結集の可能性   仲井 富

●敗北の原因を自覚せず集団自滅へ  民主党は9月4日「第23回参議院通常選挙総括について」という文書を発表した。内容は ㈰選挙の概要、選挙結果、得票数 ㈪検証課題と総括点、参院選前の都議選敗北の総括点 ㈫参院選挙の総括点について、再生への課題と取り組み の三項目からなっている。だがこの中には、なぜ07年に2300万票だった比例区票が今年の参院選で700万票に激減したのか。なぜ東京、大阪という最大の票田で一議席も確保できなかったのか。その根本原因はなにかという得票分析もない。唯一存在するのは、昨年末の衆院選敗北後とりまとめた「党改革創生本部 第一次報告」のみである。ここでは「大敗した理由」として以下のように述べている。


【俳句】                 富田 昌宏

色変へぬ松総立ちや九条死守   紅葉かつ散るや巴波川(うすよ)の遊覧船


【川柳】                 横 風 人

老後不安 何といっても 国の健康   前からよ 多重債務者は 国と国民


【編集後記】

◎シリア軍事介入をめぐって迷走したアメリカにタオルを投げた形になり、久しぶりにプーチンのロシア外交が得点してモスコーの意気は上がっている。日本のメデイアがロシアの国内情勢について伝えることは少ない。私たちの「隣国」ロシアを見る眼が「四島」がらみだけでよいわけはない。9月末にモスコーの定例「日露学術・報道専門家会議」から帰国されたばかりの石郷岡建氏に最近のロシア情勢について『ロシアは何処へ行くのか?』として報告して頂いた。
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