【編集事務局便り】234

■今号では、栗原猛氏から「政治に道理と常識の復活が急務」、羽原清雅氏から「郵便貯金の没収は『詐欺師もどき』」をご寄稿いただきました。
また、高木 一成氏から山崎洋氏の近著「二つの祖国のために「海を越えて、丘を越えて」『山崎洋の仕事集』」について書籍と著者のご紹介をいただきました。

 東欧研究者で翻訳家の山崎洋氏は、ベオグラード在住、2020年のコロナ禍で「ベオグラード便り」を皮切りに、その後オルタ広場にも数回にわたりご寄稿いただいています※。静かな言葉使いと冷静な分析の中に独特のユーモアを交えた文章で、引き込まれます。
 高木氏の紹介にもあるように、洋氏は、1941年のいわゆる「ゾルゲ事件」で連座して網走で獄死したユーゴスラビアのジャーナリスト、ブランコ・ヴケリッチと日本女性、山崎淑子のあいだに生まれた一粒種。1963年に父の母国に留学して以来ベオグラードに住み、当時のユーゴスラビアの自主管理について学び論じ父ブランコ・ヴケリッチの当時の仕事にもせまり、その後ユーゴスラビアが分裂し変遷する中、バルカン半島の情勢や文化を語り、セルビア語の辞書を編み、現地の小説や日本の俳句をそれぞれに紹介するなど、様々な分野で足跡を残しています。
 かつて舟運でさかえ、ヨーロッパの中でも最古の都市の一つとして知られるベオグラードは、幾多の戦いの場となり、現在の「ヨーロッパの「周縁部」にある国セルビア」iの首都になります。ユーゴスラビア解体後も、「国境はまるで生き物のように描き換えられ」ii、ベオグラードも4回も国がかわったといいます。
i:「二つの祖国のために「海を越えて、丘を越えて」『山崎洋の仕事集』」P421
ii:YOUTUBE「詩人のみた欧州」四元康祐、山崎佳代子、中沢けい【日本文藝家協会オンラインサロン】43:40 https://www.youtube.com/watch?v=tFn4uByh86w

 日本とセルビアの文化に造詣深く、ジャーナリストの目をもつ山崎洋さんの仕事集を通じて、戦前から現在の日本、また現状の世界を見る、歴史的地理的に新たな視点のヒントが得られるものと思います。

『山崎洋仕事集 丘を越えて海を越えて』の書籍はこちらから
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 ※山﨑洋氏のオルタ広場への過去のご寄稿はこちらから。
 オルタ広場60号(2023.4.20)NATO空爆とコソボの悲劇
 オルタ広場52号(2022.8.20)【往復対談】「現代において『正義の戦争』-『戦争の正義』がありうるか」を読んで
 オルタ広場49号(2022.5.20)セルビアから見たウクライナ戦争
 オルタ広場26号(2020.6.20)コロナの春、ベオグラード便り

■尾崎=ゾルゲ研究会代表の加藤哲也氏による講演「岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」iiiによると、「ゾルゲ事件」は、戦前には国民の引き締めに使われ、戦後にはセンセーショナルな事件として扱われてきたがiv、が、最近になり新しい資料が公表され、歴史的な観点での学術研究は始まったばかりだという。改めて過去の事例を学ぶことで、国際的マスメディア、国家の宣伝やフェイクニュースに惑わされることないよう、真実を探す目を養っていければと思います。
 iii https://www.msz.co.jp/news/topics/09548/ 明治大学登戸平和研究所資料館にて。
 iv「戦中・戦後につくらたゾルゲ事件のイメージは、それ自体が「情報戦」の産物だったといえる」(明治大学登戸平和研究所 「登戸研究所による防諜作戦」山田朗

■ベオグラード在住の詩人・山崎佳代子氏(山崎洋氏の伴侶)が1999年、NATOがセルビア・モンテネグロに対する空爆の最中、当時12才だった息子・光さんがベオグラードの家で描いた絵を挿絵に、戦争で故郷を失った子供たちから聞いた体験などを綴る「戦争と子ども」も西田書店から上梓されています。

■「あなたの近くの外国人(裏話)」で在日外国人の生活現場での話を寄せていただいてる坪野和子氏から長年多くの外国人の日本語学習者や留学生などに携わっている現場からの実体験報告を入管法に絡み、数回にわたり連載いただく予定です。
 コンゴ動乱をテーマに連載いただいている大賀 敏子氏の「アフリカ大湖地域の雑草たち」、清水 浩之氏の「労働映画のスターたち」は今月は休載いたします。
 今月号に掲載できなかった成川秀明氏の「非正規労働者の増大と労働組合の対応・組織化=日本と欧米主要国との対比」については、次号に掲載させていただきます。

■梅雨の真っ最中とはいえ、真夏日もあるなど気候が安定しませんが、お体十分にお気をつけください。(MK)

(2023.6.20)
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