【オルタ広場の視点】

菅内閣支持急落と喜ぶ野党の落差 与党支持率総計4割の重み

仲井 富

はしがき

 安倍後継の菅政権が揺らいでいる。直近の毎日新聞世論調査では、支持率40%、不支持49%と逆転した。コロナ対策を不安とする民意を表現したものだ。以下に世論調査の分析と、ほくそ笑む野党の現状を実態を明らかにした。このままだと来年の総選挙まで持たないと言う与党関係者も出てきた。野党が一本化しても政権獲得までの支持を得ることは100%あり得ない。ではどうするか。その重要なポイントを提起した中村喜四郎氏、元自民党の大物だいぎしだが、それだけに選挙に関しての見方は慎重ではあるが、貴重な問題提起を紹介したい。

 ◆ 各社世論調査で菅政権支持率急落 毎日調査では支持率逆転
 ◆ 安倍前首相の桜を見る会前夜祭 納得できない66%
 ◆ 政府の旅行需要喚起策「GoToトラベル」批判が支持率低下要因
 ◆ 12月5、6日実施した共同通信の全国電話世論調査
 ◆ 共同通信の世論調査分析 東京新聞2020年12月7日
 ◆ 菅内閣支持率低下に野党はほくそ笑んでいるが政党支持率では最低
 ◆ 東京五輪・パラリンピック開催について6割以上が再延期または中止を
 ◆ 保革伯仲」を実現する投票率10%アップ運動を 中村喜四郎・元建設相の提案

◆ 各社世論調査で菅政権支持率急落 毎日調査では支持率逆転

 毎日新聞と社会調査研究センターは12月12日、全国世論調査を実施した。菅内閣の支持率は40%で、11月7日に行った前回調査の57%から17ポイント下落した。不支持率は49%(前回36%)で、菅内閣発足後、不支持率が支持率を上回ったのは初めて。
 菅政権の新型コロナウイルス対策について聞いたところ、「評価する」は14%で、前回の34%から20ポイント下がり、「評価しない」は62%(前回27%)に上昇した。新型コロナ対策の評価が下がったことが、支持率の大幅減につながったようだ。

 新型コロナに対する日本の医療・検査体制については、「不安を感じる」との回答が69%で、「不安を感じない」は17%だった。「どちらとも言えない」は14%。8月の調査では「不安を感じる」は62%で、「不安を感じない」は23%だった。新型コロナは「第3波」で、新規感染者が過去最多を連日のように更新。重症患者の急増で、各地で病床が不足するなど医療体制が逼迫(ひっぱく)していることに、多くの人が危機感を持っているようだ。
 政府が緊急事態宣言を再び発令すべきだと思うかとの問いには、「発令すべきだ」は57%で、「発令する必要はない」は28%、「わからない」は15%だった。政府は今年4~5月、約1カ月半にわたって宣言を出した。宣言が出ると対象地域の知事は市民に対し、外出自粛要請、学校や福祉施設などの使用停止の要請や指示などが可能となる。

◆ 安倍前首相の桜を見る会前夜祭 納得できない66%

 安倍晋三前首相の後援会が主催した「桜を見る会」の前夜祭に関して、安倍氏のこれまでの説明に納得できるか聞いたところ、「納得できる」は9%で、「納得できない」は66%にのぼった。「関心がない」は25%だった。安倍氏側は前夜祭の費用を補塡(ほてん)したことを認めており、東京地検特捜部が捜査している。安倍氏は国会で「補塡したという事実はない」などと答弁していた。

 政党支持率は、自民党が33%で前回の37%より低下した。その他は、立憲民主党12%(前回11%)▽日本維新の会8%(同6%)▽共産党6%(同5%)▽公明党3%(同4%)▽れいわ新選組2%(同3%)▽国民民主党1%(同1%)▽社民党1%(同0%)▽NHKから国民を守る党1%(同1%)――など。「支持政党はない」と答えた無党派層は31%(同31%)だった。

◆ 政府の旅行需要喚起策「GoToトラベル」批判が支持率低下要因

「GoToトラベル」事業についても尋ねた。GoToトラベルを「中止すべきだ」との回答は67%で、「継続すべきだ」の19%を大きく上回った。「わからない」は13%だった。政府の新型コロナ対策分科会は感染急増地域での一時停止を提言したが、菅義偉首相は11日、全国での一時停止については「考えていない」と述べている。
 調査は、携帯電話のショートメール機能を使う方式と、固定電話で自動音声の質問に答えてもらう方式を組み合わせ、携帯714件・固定351件の有効回答を得た。【伊藤奈々恵】

◆ 12月5、6日実施した共同通信の全国電話世論調査

 共同通信社が12月5、6両日に実施した全国電話世論調査によると、菅内閣の支持率は50.3%で、前回11月から12.7ポイント急落した。ここでも、政府の新型コロナウイルス対策は「評価しない」が55.5%。「評価する」は37.1%で、11月の前回調査から賛否の多数が逆転した。感染防止と経済活動のどちらを優先すべきか尋ねたところ「どちらかといえば」を含め「感染防止」を挙げたのは計76.2%に上った。「桜を見る会」疑惑を巡り、安倍晋三前首相の国会招致を60.5%が要求。57.4%が政府に再調査を求めた。
 回答は固定電話524人、携帯電話519人。
 以下最も総合的にアンケート調査を行った共同通信の調査結果をみてみよう。

◆ 共同通信の世論調査分析 東京新聞2020年12月7日

 与党内ではGoTo事業への疑問が相次ぐ。自民党参院幹部は「『感染拡大は止めたいが、GoToは止めない』では国民は理解できない」と指摘。公明党関係者も「政府が旅行を奨励すれば国民は緩む」と感染状況悪化との因果関係を認めた。「やめればGoToのせいだと言われる。政府は引けない」とも語った。
 自民党のある閣僚経験者は菅義偉首相の12月4日の会見に触れ、「コロナ対策について説明すべきことを説明していない」と批判。政治資金規正法などの違反が疑われる安倍晋三前首相の「桜を見る会」問題と吉川貴盛元農林水産相の金銭授受疑惑が立て続けに表面化したことから、「支持率はどんどん下がるだろう」と漏らした。

◆ 菅内閣支持率低下に野党はほくそ笑んでいるが政党支持率では最低

 先の臨時国会で首相を攻めあぐねた野党はほくそ笑んでいる。立憲民主党幹部は「GoToを含むコロナ対策と疑惑で政府・与党への不信が広がった」と断じ、共産党の小池晃書記局長は会見で「首相がコロナ対応で迷走する姿に国民が失望している」と語った。
 菅義偉内閣の支持率が、週末の報道各社の世論調査で軒並み下落した。新型コロナウイルス対策について経済優先の政府対応を評価しないとする声が多い。支持率の低下は首相の解散戦略にも影響を与える可能性がある。だが仔細に世論調査の内容を分析すれば、野党の見方は、表面的すぎるといわざるを得ない。

 毎日新聞調査では、菅内閣の支持率は逆転したが、政党支持率で見ると、自民33%、公明3%、維新8%で合計44%だ。これに対して野党合計の支持率は、立憲12%、共産6%、国民民主1%、社民1%、れいわ2%で合計22%だ。内閣支持率の低下だけでは次の総選挙を語ることは出来ない。

 また共同通信の世論調査では、自民41.5%、公明3.7%、維新5.6%と合計50.8%に達する。対する野党は、立憲7.2%、共産3.1%、国民民主1.7%、社民1.0%、れいわ1.3%で合計13.3%だ。立憲の支持率7%台は、かつて民主党政権の菅直人内閣、野田内閣の末期の支持率並みでしかない。支持政党なし層は、32.5%に上る。
 どう甘く見ても来年の総選挙で野党連合政権など夢のまた夢と断言できる。野党連合政権の前に、与野党伯仲の状況を作ることに全精力をあげるべきだろう。
支持政党なし層は、毎日、共同ともに32%強に上る。

◆ 東京五輪・パラリンピック開催について6割以上が再延期または中止を

 共同通信の調査は、東京五輪とパラリンピック開催について聞いた。政府や東京都はあくまで開催を目指しているが、世論は正直だ。予定通り開催すべきだ31%、再延期すべきだ32.2%、中止するべきだ29.0%で合計61%が開催不能とみている。世界中に広がるコロナ患者は合計1,000万人に達した。しかも大国のアメリカ、インド、ヨーロッパ諸国は更に拡大している。どこから見ても夏季オリンピックを開催する条件など見当たらない。

画像の説明
  毎日新聞者世論調査 12月12日実施

画像の説明
  共同通信全国世論調査詳報 2020年12月5、6日実施

◆ 保革伯仲を実現する投票率10%アップ運動を 中村喜四郎・元建設相の提案

 日刊ゲンダイ10月2日「注目の人直撃インタビュー」で中村喜四郎氏が当面の政局について要旨以下のように語っている。

――共産党との選挙協力についてはいかがですか。
 共産党アレルギーに対する恐怖心があり、難しいところはありますが、誰かが腹をくくるしかない。今年1月の共産党大会に出て「次の総選挙の小選挙区で100取らなければならない。そのためには日本共産党の力が必要」と話したのも、布石です。大切なのは「打倒自民党」という単純な理屈ではなく、「保革伯仲」「与野党伯仲」に向けてまとまること。自民党が目覚めて日本のためにしっかりやるのなら、政権交代しなくてもいい。野党はそういう考え方を持たなくちゃダメですよ。

――ゼネコン汚職で自民党を離党して無所属に転じて以降、26年ぶりの主要政党入りです。
 オール野党が一番無理なくできると思っていたのですが、合流という意見もあって立憲民主党という塊ができた。代表選では枝野さんや(現政調会長の)泉さんから推薦人にと言われましたが、断りました。党の最高顧問にとも言われましたが、それも断りました。立憲民主党入りが目的ではなく、野党をまとめるためにこっちへ来た。そのためには国民運動をやらなくちゃならない。オール野党を呼びかけなくちゃならない。党の肩書を持てば、党のためにやっているんだと思われかねません。

――「投票率10%アップを目指す108万人国民運動」を仕掛け、6月末から有志議員と署名運動を展開していますね。
 最後の中選挙区選挙となった93年と比べ、前回17年の投票率は13.58ポイント下がっている。1,440万人が投票していないんです。批判している国民も諦め、シラけ、無関心、刹那的になっている。前回の公明党の得票は697万票。7%弱の票が政権に乗って安定多数を支えている。
 ということは、たった7%の有権者が戻れば民主主義を取り戻せる。だから、野党は投票率を上げなきゃいけない。投票率を上げれば必ず勝てる。議員会館を3周ほどして議員140人の署名を集め、85人が活動し、動きだしてきました。野党が目的をひとつにして汗をかき、共有できるシステムが出来上がれば、大人の野党になっていく。受け皿があれば、互いの違いを認め、ケンカしても仲直りできる。

――野党の連携強化もそうですが、各議員の後援組織拡大も狙いと聞きます。中村さんの後援会「喜友会」は草の根組織で、その熱い支援は「中村教」とも呼ばれますね 
 手間暇を惜しまず、一人一人との接点を大切にする気持ちを持っていたことが、あの事件を経ても私が生き残れた大きな理由かもしれません。選挙制度が変わり、「地盤看板カバン」がなくても出馬しやすくはなりましたが、地元で信用を得るのは別。野党議員は選挙区に飛び込むのが苦手で、組合に頼ったり、風に頼ったり、マスコミに乗って注目を集めようと派手なことをやる。政治活動の関心事がそちらにあって、地元を固める意識が希薄なんです。

 野党になったら党より人。有権者から学ぶ、国民の声を聞く。それを大切にしなくちゃならない。投票率アップを訴えれば、誰でも選挙区を歩ける。ダメだと言う人はいないでしょうし、署名は断られても会話が生まれ、まっとうな運動だと賛同する人も出てくるでしょう。国民との距離を縮めれば、野党の未来は変えることができる。諦めさせる政治が自分たちを支えていると知っている自民党にはできない。だから、私たちはそこを突くんです。

●中村喜四郎氏略歴 元建設相 1949年生まれ。76年衆院初当選。建設相、科学技術庁長官などを歴任。94年に自民党を離党し、長く無所属で活動。2018年に野党系会派、19年9月に野党統一会派に参加。立憲民主党と国民民主党の合流新党に参加する。衆院茨城7区、当選14回。 

 (世論構造研究会代表・『オルタ広場』編集委員)
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