【運動資料】

「脱原発テントといのちを守る裁判」意見陳述書

※この意見陳述書は経産省前で行われている脱原発のための「テントひろばの闘い」の訴訟における河合弘之弁護士の陳述書をテント日誌10月9日号から転載したものです。

控訴人(一審被告、一審参加人)ら訴訟代理人
弁護士 河合 弘之


◆1.はじめに

 私は20数年前から,脱原発訴訟(原発差し止め訴訟)にずっと関わってまいりました。そして,3・11を迎えるまでは,敗訴に継ぐ敗訴でございました。
そのような敗訴の最大の理由は,被控訴人経産省を含む原子力ムラの原子力に対する安全・安心キャンペーンにあります。そして,大部分の国民もそれを信じていたことにあります。裁判官も国民の一部ですから,テレビも見れば新聞も読みます。ですから,原発安全・安心キャンペーンに毒されていました。そして,原発差し止め訴訟の原告やその代理人は,ありもしないことを大げさに言い立てる変な人たち,すなわち「オオカミ少年」なのだと裁判所は思っていたのです。
 したがって,私たちの主張には聞く耳を持たない,そのような形で敗訴を重ねていたわけです。

◆2.我が国が亡びるとすれば原発事故か戦争

 そして3・11が起きました。事故から数日たった後に,当時の原子力委員会の委員長・近藤駿介氏が,菅直人首相(当時)に「福島原子力発電所の不測事態シナリオの素描」(通称:「最悪のシナリオ」)というレポートを提出しました。福島原発の事故の今後の進行について,最悪の場合にはどうなるのかという諮問を受け,当時の原子力委員会の委員長・近藤駿介氏は,原子力安全基盤機構(JNES)の若手技術者を動員して,最悪の場合を想定いたします。そして簡単にいうと,4号炉の使用済み燃料プールが崩壊した場合には,福島原発から250キロの範囲の地域,すなわち東京,したがってここの裁判所も含みますし,関東圏すべて,首都圏全部を含みますが,その範囲に強制立ち退き,あるいは任意の立ち退きが指示されることになります。
 すなわち,日常の生活や,経済活動には使えない,そのような土地になるということでございます。
 全くの僥倖によって,その4号機の使用済み核燃料プールは崩壊しないで済みましたけれども,そのように原発事故というのは国を滅ぼしかねないような事態を起こす恐れがあるのです。そのことを忘れて,このテントのことを論じることはできません。私は原発差し止め訴訟をずっと続ける中で,我が国が滅びるとすれば,それは原発事故,或いは戦争しかないという確信を抱くに至りました。そして不幸なことに現在の政権は,この二つの危険をあえて冒そうとする,冒険主義の政治を行っております。

◆3.現政権の推進するその二つの危険は関連しており,テロを呼び込む

 憲法9条を恣に,捻じ曲げた解釈改憲をなし,安保法制が現在,今日にでも通ろうとしています。アメリカは民主国家でありますが,最大の好戦国でもあります。戦後の多くの戦争は,民主主義の名のもとに,そのほとんど全部がアメリカによって起こされたといっても過言ではありません。アメリカが大きく関与してできたその度に,日本はこの憲法9条を盾に「憲法9条があるので,戦争はできない。参戦することはできない。」として,戦争に巻き込まれることを免れてまいりました。
 しかし,今回の安倍政権が成立させようとしている「戦争法案」では,その言い訳を自ら放棄して,アメリカの好む戦争に進んで協力しなければいけないという政治体制を作ろうとしているのであります。そして,原発を再稼働させ,戦争に巻き込まれる危険を敢えて冒そうとしているという意味で,現在の政権は「亡国の政権」であると言っても差支えないと思います。そして,この原発事故の危険性と戦争,すなわち集団的自衛権の問題と深く関連致します。なぜなら,集団的自衛権というのは「味方の敵は,敵」ということになるのです。逆に相手側,すなわち敵の側から見ると「敵の味方は,敵」ということで,テロを呼び込むのであります。このことは,昨年12月のISによる後藤健二さんへのテロ行為を見ても明らかです。ISは,日本が敵に協力したので報復するということで,後藤健二さんを殺したのです。そして,その報復の方法が原発に対するテロではない,という保証はありません。
 ISが死を恐れない武装したテロリストを二組に分けて,ある原発を襲った場合に,日本の原発が極めて脆弱であるということが言われています。また,北朝鮮がミサイルで若狭湾に十数基ある関電の原発を狙った場合にどういう事態になるか。北朝鮮は崩壊状態を迎え,金と食糧が無くなっていよいよ困ったとき,日本を脅かして金や食料を脅し取ろうと考えないとする保証はありません。仮に,平城に近いミサイル基地からミサイルが発射されたときは,最短で7分,最長でも20分で若狭湾の原発に到達するというのです。このことは私が言っているのではありません。防衛相のホームページを見てください。ノドン,テポドンが発射さて7分から20分で我が国に到達するということが図入りで明記されているのです。原発がミサイルで攻撃された場合,原発から大量の放射性物質が放出されます。そして,福島原発事故以上の被害を引き起こします。その意味で,原発は「自国にのみむけられた核兵器」であり,「他国に提供する核弾頭」なのです。そういう危険を今の政権,そして経産省を含む政権は行っているのです。戦争を挑発し,またテロを挑発し,その結果,原発を攻撃され,日本が滅びるかもしれない,という危ない橋をわざわざ渡ろうとしているのだ,ということを忘れてはなりません。そうした事に対する全般的な抗議,反対の意思表示,それがテントひろばの活動の意味なのです。国民の正論の発信地として,非常に重要な意味を持っているのであります。

◆4.脱原発への道

(1)再稼働を抑え込む
 これから私たちは原発のない平和な社会を創っていかなければなりませんが,そのためには私たちの戦略として,まず再稼働を抑え込む必要があります。いま川内原発が動いているわけですが,1基動いたからと言って,それで一喜一憂してはいけません。それを止めることは今からでもできますし,また2基目を動かさないよう,私たちは粘り強い闘いをしなければなりません。再稼働を抑え込むには,もちろん裁判だけでは足りません。集会もする,デモもする,マスコミにも働きかける,首長に働きかけ,そして選挙の時には脱原発の候補にきちんと投票する。そういう活動を粘り強く続けなければならないのです。

(2)自然エネルギー
 それにより原発を抑え込んでいる間に,自然エネルギーを促進して,原発がなくてもエネルギーが十分に供給される,平和で豊かな社会を創らなければならないのです。そのために努力を続けていけば,ドイツのように必ずブレークスルーの時期が来ます。自然エネルギーであれば,安全で楽しく,豊かで穏やかで,そしてお金が儲かる社会ができる,それを私たちは実現して見せなければならないのです。
 実際にもそれが可能であることを示すため,私は自然エネルギーの映画を作ろうとしており,先日はドイツに行って映画の撮影をしてきました。ドイツではすでにそのようになっているのです。自然エネルギーは全電気エネルギーの30%を超えています。ドイツが脱原発に向かうことが出来たのは,自然エネルギーに対する信頼感があるからです。私たちもそうした形で,自然エネルギーを開発・促進しなければなりません。きちんと促進して実力を付けなければいけない。私たちは原発再稼働を徹底的に抑え込むとともに,自然エネルギーを促進してブレークスルーを呼び込もう,こういう運動の中で,自然エネルギーが儲かるということが分かれば,大企業も,中小企業も雪崩を打って自然エネルギーに向かうのです。そして,そういうところまで持っていくには国民運動が必要です。

◆5.テントひろばの闘いの意味

 裁判だけではなく,デモもやるなど,いろいろな表現を行う。その国民運動の拠点として,このテントが必要なのです。日常的に,そこに行けば仲間に会える,意見交換ができる,そこから日常的な発信ができる。このテントという恒常的な場,これが重要なのです。脱原発のための国民運動の場,自然エネルギー促進のための国民運動の場,日常的な運動の拠点として,この場所が絶対に必要なのです。このテントひろばは,亡国の役所・経産省との救国の闘いの基地でもあります。また,国民の抵抗権の行使の拠点でもあります。私たちは,あくまでも合法的に非暴力の手段で,この国民運動を推進していかなければなりません。そのための恒常的な基地として,常設的な施設として,このテントは絶対に必要なのです。経産省の土地のごく一部が,それも公園の一部が長期にわたって占有されることの不都合を,原発が推進される危険,戦争が呼び込まれる危険と比較して,どちらが避けるべき損害なのかということを,裁判所は大所高所に立って判断をしていただきたいと思います。
 現在の政権は,白を黒と,また黒を白と言いくるめる政権であります。あの憲法9条のどこを,どのように読んだなら,「味方が攻撃されたら,出かけて行って戦争をやって良い」などと読めるのでしょうか。
 元の最高裁長官も,元の内閣法制局長官も,「それは無理だよ,法律解釈,憲法解釈の範囲を超えている」と述べています。これが,司法のトップに居られた我々の尊敬すべき人たちの言っていることです。それを無視し,平気でいられる現在の政権,そしてその一部である方が,私たちの向かい側に座っている被控訴人,経産省の方々なのです,それが経産省という役所なのです。
 そのようなことを考えて頂き,どちらが正しいのかということをよくお考えになって,判決を賜りたいと思います。


最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧