【侃々諤々】
早急に対策を採る必要がある。
領土問題をきっかけに韓国、中国との国際関係が悪化した2012年秋から、ヘイト・スピーチが激しくなり、いまも続いている。私は中国の教科書を研究した経験から、他国や民族への憎悪をあおるタイプの「愛国」には常々疑問を持ってきた。そしてそのような「愛国」感情から、たった二年間ほどの間に日本・中国・韓国の人々の心で憎しみが急速に育っている現状を目の当たりにして、真剣に憂慮している。私がその思いを強くしたのは以下の二つの出来事がきっかけであった。
一つ目は、2012年の夏、娘と中国・北京を訪れたときである。尖閣の国有化直前、すでに北京の巷では「釣魚島」則ち尖閣問題の話題で持ちきりだった。中国人の友人宅では歓待を受けた一方、周囲の全く知らない幼児から「日本鬼」「小日本」と言われたときは、きっと両親が日本人を罵っているのだろうと推測して、暗澹たる気分になった。
二つ目は2013年3月の大阪・鶴橋で行われた14歳の少女の「あなたたちが憎くて憎くてたまらない」「鶴橋大虐殺を実行します」という街宣であった。何度か訪れたあの街で、中学生までもが憎しみに満ちた人種差別的発言を堂々とするのには衝撃を覚えた。
子どももすでに大人が創り出した憎しみの渦に巻き込まれている。国家が外交によって解決すべき問題で、一般庶民が心に憎しみを育てるのは百害あって一利無しである。首相会談で国際関係は修復できるが、一度人の心に根付いた憎しみや悲しみは簡単には消えない。
日本で行われているヘイト・スピーチは、すでに言論の自由で許される範囲を超えており、日本は国際人権機関からすでに複数回にわたって人種差別禁止法とヘイト・クライム法の制定の勧告を受けている。標的とされている人々の心の傷がこれ以上広がらないよう、そして人々の心の闇が更に大きくなって、ヘイト・クライムやジェノサイド、戦争などに結びつかないよう、早急に対策を採る必要がある。言論の自由との兼ね合いはあるが、対策をこれ以上遅らせてはならない。
(京都在住・中国文学研究者)