【選挙分析】
参院選に次ぐ与党連敗
― 新潟県知事選結果とその後 ―
仲井 富
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◆参院選上回る6万票差の与党大敗の衝撃 国政選挙に影響
新潟県知事選の余韻が残る11月4日、原発即時ゼロを訴えて全国講演行脚を続ける小泉純一郎元首相が新潟市内で講演を行った。再生可能エネルギー拡大に取組む「おらってにいがた市民エネルギー協議会」(代表理事は佐々木寛・新潟国際情報大学教授)の主催で、米山隆一新知事も挨拶。壇上で小泉元総理と手をつないで高らかに掲げる場面もあった。参加者は約650名。開会冒頭、新潟県の新知事である米山氏や、新潟市長の篠田氏から、自然エネルギー開発や低炭素社会の推進に向け、期待を込めた挨拶が行われた。その後、元首相の小泉純一郎氏が基調講演を行った。
シンポジウムでは、「おらってにいがた市民エネルギー協議会」代表理事(新潟国際情報大学教授)佐々木寛氏のコーディネートにより、デンマークのサムソ島で100%自然エネルギーによってエネルギー需要を賄う地域を実現したソーレン・ハーマンセン氏、木質ペレットによる熱エネルギー開発を行う佐藤靖也氏、自然農法を中心に地産地消のエネルギー循環モデルを目指す刈屋高志氏による意見交換が行われた。基調講演やシンポジウムでも強調されたのが「東日本大震災の教訓」や「エネルギーを基盤とした新たなコミュニティづくり」だ。
11月4日の新潟の講演後、記者団の囲み取材で小泉氏は「野党が一本化して原発ゼロを争点にしたら野党は勝つ」と答えた。さらに民進党の原発政策(2030年代原発ゼロ)に対しても、小泉氏は「公約は分かりやすく作らないとダメだ。「2030年代に原発ゼロ」は分かりにくい。今でも原発ゼロでやっていけるのだから。どうして分からないのか。いま原発ゼロを宣言した方が、原発ゼロに向かって国民も企業も準備しやすい。将来はゼロというよりも、早く決めた方がいいじゃないか」。
政権与党の自公政権が全力を挙げて取り組んだ10月16日の新潟県知事選挙で7月の参院選に次ぐ連敗となったことで、県内与党に衝撃が走っている。「このままで行くと次の総選挙では勝ち目がなくなる」という危機感が広がる。当初は、自公推薦の森民夫氏(前長岡市長)の当選を疑う人はいなかった。新潟県市長会の会長であり、かつ全国市長会の会長も務める実力者、参院選では彼が選対責任者を務めたが、僅か二千票余の差で惜敗している。
前回の参院選で勝利した森ゆう子を推薦した新潟連合が、今回は自公推薦の森を支持することを早々と決めた。主体性のない民進党もまたそれに追随、ついには民新党から衆院選に出る予定だった米山隆一氏を、県知事選に出馬することを理由に処分する始末。しかしこれが米山氏の退路を断ち公然と原発再稼働反対をかかげ旗幟鮮明に県民に訴えることにつながった。市民連合新潟の共同代表を務める佐々木寛新潟国際大教授は「米山陣営は遠慮なく再稼働反対を主張でき、無党派層に浸透で来た」と述べている。
「市民連合新潟」の呼びかけによる共産、社民、生活三党の小党派との結束でやっと選挙直前に立候補までたどり着いたが勝利の展望はなかった。あまりにも歴然とした差があり過ぎたからだ。7月の参院選の新潟選挙区の党派別比例獲得数でみると、自民47万、公明9万、維新5万で合計約61万票だ。米田側の基礎票は民進28万を除けば共産9万、社民4万、生活2万で合計15万に過ぎない。民進を加えても合計で43万票だ。自民党が圧勝と錯覚したのは当たり前の話でもある。
◆自民支持層28%も再稼働反対投票へ 出口調査の結果から見る
だが選挙結果は大逆転だった。中盤までは予測がつかなかったが、次第に再稼働反対が県民世論にアピールしだした。あわてた自公側は次々と大物幹部やタレント議員を送り込んだ。勝機逃すべからずと素早く行動したのは民主党内の脱原発派議員たちだ。阿部知子議員によると「私は前後4回応援に駆けつけました。副代表の江田憲司、近藤昭一、その他松野頼久、篠原孝、前原誠司、玉木雄一郎、初鹿明博、赤松博隆、船山康江氏など、あらゆる議員を誘いました」という。連合と民進党野田幹事長の方針など構っておれないという危機感が、新潟知事選挙に結集した。「原発再稼働反対」「TPP反対」など分かりやすいスローガンに結集すれば安倍政権はもろいということを今回も証明したことになる。
朝日新聞の出口調査は以下のように述べている。(朝日新聞016・10・17)
10月16日に投開票が行われた新潟県知事選は、当初の「劣勢」との予想を跳ね返し、野党3党(社民、共産、自由)が推薦した米山隆一氏が当選をはたした。米山氏が新潟県民の支持を幅広く集めた背景として、「柏崎刈羽原発の再稼働反対」を主要な争点として掲げ「原子力ムラ vs 市民」の構図を作り出したこと、そして民進党執行部から公認を得られなかったにも関わらず、現場レベルでの「野党共闘」を実現させたことがあげられるだろうと指摘、要旨以下のように解説している
― 再稼働反対派64%、米山氏に今回の新潟県知事選は争点が明確だった。柏崎刈羽原発の再稼働を認めるか、認めないか。そのことが選挙結果に直結した。県内90投票所で出口調査を実施し、4,812人から有効回答を得た。それによると、投票の際に最も重視した政策は①原発への対応(29%)②景気・雇用(24%)③医療・福祉(18%)④地域の活性化(17%)⑤子育て支援(8%)の順。最も多かった「原発への対応」を選んだ人の投票先は米山隆一氏に84%、森民夫氏に15%と明瞭な差がついた。「景気・雇用」「地域の活性化」を選んだ人はいずれもダブルスコアで森氏が米山氏を上回った。よりストレートに柏崎刈羽原発の再稼働への賛否を聞くと、反対64%、賛成28%。反対と答えた人の64%が米山氏、34%が森氏に投票。この差が決定的だった。賛成の人は72%が森氏に、24%が米山氏に票を投じた。
世代別に見ると、男性の20~40代で森氏が強かった一方、女性の40~60代で米山氏が大きくリード。「経済」を重視する男性の働き盛り世代と「生活」を重視する中高年女性の意識の違いがくっきり浮かんだ。自民支持層の73%が森氏に投票したが、25%が米山氏に流れた。無党派層は米山氏に63%で森氏の34%を引き離した。民進支持層は85%が米山氏に投票し、森氏はわずか14%。民進党が「自主投票」を決めたことは、支持層の意識とかけ離れていたといえる。(峰久和哲)―(注)下図の共同通信出口調査もほぼ朝日出口調査と共通している。
◆米山を勝たせた保守支持層離反と無党派層の圧倒的支持
自民党の時代錯誤を証明したのが、新聞の折込広告等に入っていた、与党の推薦する森候補陣営による自民党の法定届け出ビラだった。「共産党・生活の党・社民党がコントロールする県知事を誕生させてもいいのですか?」「赤旗を県庁に立てさせてもいいのですか?」「共産党・生活の党・社民党主導の知事では、県政が大混乱し、新潟県は国から見放されてしまいます!!」。にもかかわらず、自、公、維新で計約61万票の参院選比例区票は、約46万票の得票に終わった。前述のように、米田側の基礎票は民進28万を除けば共産9万、社民4万、生活2万で合計15万に過ぎない。民進を加えても合計で43万票だ。だが結果は約52万8千票と6万5千票の大差をつけた。ということは、自民、公明、維新支持者と無党派層の支持なしには考えられない。これは先の朝日新聞出口調査であきらかである。
市区町村別の得票を読み解くと、大票田の都市部での得票差が明暗を分けた。新潟市の8区を含めた37市区町村別でみると、米山氏が勝ったのは23市区町村、森氏は14市町村だった。米山氏は、有権者の3分の1程度を占める新潟市の全8区すべてで勝利。新潟市全体で約4万2千票の差をつけ、上越市でも約9千票引き離した。両市を合わせた得票差約5万1千票が勝敗を決した。米山陣営は当初から「浮動票が多い都市部が勝負の鍵を握る」とみて、大票田での活動を重視する戦略を描いていた。
一方、森氏は地元の長岡市で約1万票上回り、村上市や佐渡市などで勝った。阿賀町や関川村など町村部で強みをみせ、10町村中7町村で米山氏を上回った。ただ、町村の票数は少なく、森陣営は「郡部では組織票をまとめられたが、得票差はわずかにしかならなかった。今の選挙は都市部で伸びないと勝てない」と振り返る。東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題が大きな争点となったが、同原発が立地する柏崎市と刈羽村はいずれも森氏が勝ち、それぞれ約3千票、約600票上回った。
◆解散総選挙に向けての野党統一の可能性と連合の姿勢
市民運動の先導する野党統一しか勝利の方程式はない、ということを、7月の参院選と10月の新潟県知事選の結果が明示している。にもかかわらず、連合の神津会長らは、相も変わらず「理念も政策も異なる」とか「本来の民主党支持者の離反を招く」などと否定的発言を繰り返している。反面、安倍政権とは蜜月関係を強調して、安倍首相と会食したり、自民党とは、仲よくしたいらしい。それに引きずられて民主党の野田幹事長や細野副代表、馬淵選対委員長などが右往左往している。だが現実をもう一度見たらどうか。
1名区の選挙結果は、市民運動との統一候補によって前回参院選の2勝29敗から、7月参院選では11勝21敗と盛り返した。その結果、前回約700万票だった民進党の比例区票は約1,200万票まできた。比例区票で見ると前回参院選より、最も伸びたのは民進党の7%強増加である。統一候補を主導した共産党は1%しか伸びていない。自民党は2,000万票の大台に乗ってはいるが、前回比1%の伸びに過ぎない。公明党は前回より微減。維新に至っては前回より2%減少だった。前回2013年の選挙で愛想を尽かされて700万票と最低の比例区票だったことを想起せよといいたい。
野党統一選挙の恩恵を一方的に享受したのは民進党なのであり、連合候補もそれによってほぼ全員が当選できた。これは連合が自ら作成した「第24回参議院選挙 無所属候補選挙区と民進党公認候補選挙区における比例票の比較16年参院選の46都道府県比例区得票結果」に見事に現れている。(オルタ・16年9月153号 「参院選挙のブロック毎結果分析と今後(2)/仲井富」参照)
新潟県知事選挙で連合新潟は、早々と自民党の森民夫元長岡市長を推薦した。その連合の会長は自治労、事務局長は全電通というのだから、往古を振り返れば唖然とする。新潟県の016年の参院選比例区得票と得票率は013年参院選と比較して、自民40万9千票(41.1%)~48万6千票(40.64%)と微減。対する民進17万4千(16.7%)~28万1千票(25.25%)と前回比10ポイント近く増加している。与党公明は前回9万5千(9.1%)~9万2千票(8.27%)へと微減した。共産は前回7万8千票(7.6%)~8万9千票(8.0%)と微増である。維新は前回10万7千票(10.3%)と公明を上回ったが、今回は4万9千票(4.39%)と半減した。新潟でも民進党ひとりが比例区票増大の恩恵を受けている。
にもかかわらず、新潟県知事選挙で自民党森候補の推薦を決めた。連合と民進党県本部抜きで、参院選挙の森ゆうこの2千票余の勝利から3カ月後、6万5千票の大差で市民と野党、共産、生活、社民の推す米山新知事が誕生したという教訓をどう受け止めるのか。
◆日経新聞予測「野党共闘なら60選挙区で逆転」と首相の一月解散回避表明
時あたかも日本経済新聞は016年12月4日の1ページすべてを割いて「野党共闘なら60選挙区で与野党逆転」という特集を組んだ。それによると与野党逆転の可能性があるのは60選挙区、さらに30選挙区も伯仲の形勢になると指摘している。この図表によれば、たとえば新潟選挙区では、新潟1区、2区、4区で逆転の可能性を指摘している。この分析は、前回014年の衆院総選挙の各党の得票数を合算したもので、016年7月の参院選1名区の得票や得票率は算定の基礎となっていない。安倍政権側の日経までが、野党統一候補の勝算を掲げるようになったのは、参院選1名区の市民と野党の統一候補の勝利を分析し、これを衆院総選挙の1人区における与野党対決の方向性として重視しているということだ。
(図表 日本経済新聞 016・12・4 「衆院選、野党協力で60選挙区逆転」)
民進党内部にも新たな動きが始まっているようだ。12月の共産党大会に民進党副代表の安住氏が参加し、社民党の党首もともに共闘促進の挨拶をするという。安住氏の宮城県は1人区となった参院選で市民と野党3党の協力を最も先進的にすすめ大勝した。問題は共産党との共闘にあるのではない。野党統一を目指すしっかりとした市民共闘組織が先導し、野党4党をまとめる作業が大前提となる。単なる国政4党の選挙共闘では勝てない。支持率10%から5%、1%の政党のみで1人区の勝利はない。あくまでも市民主導の選挙態勢をどう組むかが勝敗の分かれ目なのだ。野党勝利の条件は無党派60%の支持と、自民20%、公明10~20%、維新の40%が常に野党候補に流れることによってのみ可能となっているのだ。
民進、共産の支持者も基本的には浮動的である。都知事選挙で自公支持者の多くが小池百合子の改革姿勢に共鳴したが、民進、共産支持者もまた、小池に多数が流れた。以下は朝日新聞の記事によるものだが、民進支持者の28%、共産支持者の19%小池支持に流れた。そういう意味で、たとえ共産支持者であっても、ある局面においては党の方針とは無関係にそれぞれの良識による投票行動を行うのである。それほど日本の政党支持者と無党派層の投票行動は流動的なのだ。安倍一強と言われるが、安倍政権は知事選や参院選などの1人区では常に敗北を繰り返している。これを最も意識しているのは自民党自身なのだ。
(図表 朝日新聞 016・7・4 都知事選「支持政党別の投票先は」)
安倍政権の広報紙「産経新聞」の12月15日朝刊は「首相一月解散見送りへ」と以下のように報じた。
― 安倍晋三首相は、来年1月の衆院解散を見送る方針を固めた。各種情勢調査の結果を分析した結果、現状で衆院選を実施すれば、自民、公明両党で3分の2超を有する現有議席を割り込む公算が大きく、衆院任期2年弱を残して勝負を打つメリットはないと判断した。来夏は東京都議選が予定されているため、次期衆院選は来秋以降にずれ込む見通し。首相は、年末か来年1月の衆院解散を選択肢の一つとして、自民党の古屋圭司選対委員長に所属議員の集票力などを調査・分析するよう内々に指示していた。若手議員の一部差し替えも検討したが、民進、共産両党などが共闘して各選挙区の候補者を一本化した場合、自民党の現有議席(292議席)を割り込み、与党の議席数が3分の2を下回る可能性が大きいことが分かった。加えて、衆院任期を2年近く残して厳冬期に衆院選に踏み切れば「党利党略で国民を振り回すな」という批判が強まりかねない。首相はこのような情勢を総合的に勘案し、1月解散を見送った。首相は周囲に「1月の解散はない。メリットはない」と語った。
(野党共闘で野党が与党を逆転する選挙区と、与野党の得票差が5ポイント以内になる選挙区 日経016・12・4)
(世論構造研究会代表)