【視点】

政治家の衰退した倫理観と旧統一教会問題

——判決、そして各界プロの発言からわかること

羽原 清雅

 旧統一教会問題は、岸田政権、茂木自民党幹事長らのもとで、あがきが続いている。
 「政治家」というものを国民はどう見ているのか。「偉い人」「社会を広く知り、より良くしたい人」「地元の発展に寄与する人」などの期待含みの声は当然あるだろう。しかし一方で、「偉ぶるわりに接近したくない者」「いかがわしさも持ち合わせる者」「選挙時だけ調子よく、議会では何をしているか分らない者」「口は達者、行動は不審な者」など、不信感も少なくない。 
「清濁併せのむ」政治家が当然視された時代が長く続いてきた。そんなものだろう、との評価は政治家の「濁」の部分を容認することになって、むしろ政治家にとっては「濁の容認」は都合の良いイメージでもあった。
 「清潔」で売り出したはずの公明党でさえ、権力の味を知ると、私的利益に走って強固な支持基盤で得た議席から滑り落ちたり、結果的に辞めたが、いかがわしい性的な言動を暴露されても議席にしがみつき、党幹部までが温存させようとしたりする。もともと悪い輩ではなくても汚れがちになるのが政治という舞台である。
 まして、自民党のような大組織では、社会経験豊かな人材が多く、しかも長期の権力の座にあれば、それなりに「濁」の人材が混じっても不思議はない。

 だが、今度の特異な「宗教」組織との関わりを見ると、議員らの汚染度の広がり、地方議会や行政機関までの波及、犠牲者の傷の深さとその数や金額の多さ、さらに政治家らの「知らぬ、存ぜぬ」の無責任ぶりなどは、戦後の現憲法下以来、あえていうなら明治期の議会開設以来、と言ってもおかしくない大きな事態である。

 悪事を働く組織は決して少なくない。つねに存在し続けるし、尽きることもあり得ない。しかし、有権者の信託を受ける時点から、票の取りまとめを受け、見返りに政治家の信頼をダシにする「広告塔」を務める関係はおかしくないか。しかも、弁護士たちが長年国会議員自身に警告的文書を送り、最高裁をはじめ各地で判例が示され、報道に波はあっても半世紀以上続く犯行であり、仮に本当にミスや失敗であっても、本来なら個々の政治家がみずからの言葉でそれぞれ社会に経緯を説明し、陳謝すべきなのだ。政党が一括責任を負う形で、しかもかなりの杜撰な申告であり、その程度の言い逃れではすまされない不祥事である。

 政治家は、やはり信頼されるべき存在である。書生論に過ぎなくても、政治家が時代の方向を決める立場にある以上、各人が倫理性を保持し、正邪の嗅ぎわけを果たし、「騙し」の側に身を置くべきではない。ただでさえ、宰相に値する人物が払底、貧し鈍する首相を擁して、それに耐えている現状では、せめて政治の土台になる倫理性くらいは持ってほしい。
 有権者の側も、現状を投げて棄権せず、おかしさを排除する努力は果たしていきたい。

 今回は、この教団をめぐる悪事の判例をピックアップするとともに、長く追及してきた人たちの説明の一部を紹介したい。              

*全国での旧統一教会に対する「判例」
 全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が2022年7月時点でまとめた、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の責任を認めた全国の判例から一部を紹介する。これは、最高裁まで争われ有罪となったもの、地裁、高裁段階までのものが計30件(他に類例2件)。
 また、監禁致死、薬事法違反、窃盗、恐喝、名誉棄損、殺人、暴行、公選法違反、特定商取引(特商)法違反など、統一教会信者に対する刑事事件(2013年1月現在)の事例が34件ほど示されている。相当の数にのぼり、選挙区で地方紙に目を通す政治家、地元秘書らが知らないはずがない。

献金勧誘行為の違法性(福岡地裁、同高裁、最高裁平成9年9月)
 未亡人2人に対する献金勧誘行為が不法行為で、教会に使用者責任がある。計3760万円認容。
(東京地裁、同高裁、最高裁平成11年3月)
 女性に対して上記例と同じ。2540万円認容。
(奈良地裁、大阪高裁、最高裁平成12年1月)
 2人の女性に対し、上記例に同じ。計820万円認容。奈良地裁は教会の組織化された献金勧誘システム自体が違法、とした。

献金勧誘及び物品販売行為の違法性(仙台地裁、同高裁、最高裁平成13年6月)
 3人の女性に対する献金、人参濃縮液の販売行為が信者による違法行為であり、教会に使用者責任がある。計812万8000円認容。
(東京地裁、同高裁、最高裁平成20年2月)
 夫の病死した女性に、信者らが10年間以上、再三献金等をさせてきたことの違法性を認め、教会に使用者責任があるとして2億7620万円の支払いを命じた。
(東京地裁、同高裁、最高裁平成19年)
 75歳の女性に、教会の教義が「先祖の悪行がその子孫の病気の原因で、これを免れるために献金を要求するもの」としてその違法性を認め、教会の使用者責任を肯定。献金、関連会社の商品代金、弁護士費用、慰謝料の計4438万2763円を認容。また、教会の関連会社が教会の下部教会だと認定、同会社の責任を肯定した。東京高裁で4901万3736円
 支払いで和解成立。
(東京地裁、同高裁平成20年1月)
 かつての信者が夫を亡くしたあと教会に関わり、2003-05年に五輪塔、天運石、聖本、高麗人参濃縮茶などの代金、献金で被害。彼女は信者らによる教義の説明や相談で発生、増幅した不安、畏怖が継続した。献金等の勧誘行為の違法性は一連の経緯を踏まえて判断すべきで、因縁に苦しむ先祖の霊を助けるために物品の購入、多額の先祖解怨献金の必要を信じ込ませることは社会的に相当な範囲内の行為とはいえず、高額のものについての違法性を認定、教会に2190万円の支払い義務を認めた。
(東京地裁、同高裁平成22年8月)
 1989年、教会信者の正体を隠して52歳の女性に、マンションを売却して献金しないと色情因縁の解消はできない、先祖因縁の恐怖などの不安をあおって、マンション、株式売却による5300万円以上の献金をさせた事実は、社会的に相当な範囲を逸脱する違法な行為と認め、教会の使用者責任を肯定。高裁判決は計1億5131万0235円の支払いを命ず。
(福岡地裁、同高裁平成23年1月)
 1987年、53歳未亡人が、女性信者の因縁トークで印鑑を購入、その後物品販売で約5000万円、その後20年間の信者生活のなかで約7000万円を献金。夫の若死の因縁が子に及ばない一念で、教会長、婦人部長らが煽り、暗に害悪の告知をしたとして不法行為を認め、信徒会は教会と実質的に同一として使用者責任も認定。高裁は一審の3300万円支払いに加え、霊の親への貸金やホーム費などの損害も不法行為として計7100万円支払いを命ず。

霊感商法の手口による物品販売行為などの違法性(福岡地裁、同高裁、最高裁平成13年3月)
 2人の女性に印鑑、大理石壺、多宝塔、釈迦塔、人参濃縮液を売りつけた行為が信者による不法行為で、教会とKKハッピーワールドに使用者責任がある。提訴前の交渉で被害未回復の計580万円認容。 
(東京地裁、同高裁、最高裁平成14年10月)
未亡人に多宝塔、人参液、釈迦塔(計9000万円余)を売りつけた行為が信者による不法行為で、教会に使用者責任がある。被害実額に約70%の遅延損害金の付加が認められた。

伝道の手口と献金勧誘の手口の違法性(広島高裁岡山支部、最高裁平成13年2月)
 元信者がビデオセンターを通した教会の詐欺的入信勧誘と献金の説得について組織的不法行為が認められるとして、献金70万円と修練会参加費相当額の損害及び慰謝料の100万円を命じた。元信者の請求を棄却した岡山地裁判決を、広島高裁岡山支部が破棄した逆転判決。

借入させた資金を交付させる手口の違法性(甲府地裁平成13年6月)
 統一教会信者が女性に金融機関からの借入金を貸すよう頼みこんで返さない行為が不法行為だとして、5000万円の支払いを教会に命令。高裁で原判決に即した和解が成立。

伝道の手口の違法性(札幌地裁、同高裁、最高裁平成15年10月)
 元信者20名に対する教団組織の勧誘・教化行為は、組織的、欺瞞的、脅迫的であって、勧誘される側の信仰の自由を侵害するおそれのある違法なもの。計2000万円余を認容。この件では、詳細な事実認定に基いて判断を下した決定的な判決で、最高裁判決で確定。

◇①伝道、教化活動の違法性(札幌地裁平成24年3月)
 元信者39(ほか1)、近親者友人23の計63名の原告に計約2億9000万円の支払命ず。
 ・教会の伝道、教化活動そのものが不法行為、と認定。不法行為となる基準は①宗教性の秘匿②特異な宗教的実践内容の秘匿③親などとの絶縁④不安と恐怖による行き過ぎた献金、という他宗教団体にも適用する基準を定立した。
 ・信徒会は教会組織の一部に過ぎない、と教会の責任を正面から認めた。
 ・脱会までの献金、物品購入、研修費について、伝道、教化活動と相当因果関係のある損害と認めた。
 ・近親者の物品購入の被害のうち、信者のために購入したものを損害と認めた。
 ・精神的、肉体的苦痛について慰謝料を認めた。詳細な基準を設け、最高額は771万円。
◇②(札幌高裁平成25年10月)
 元信者39、布教課程者1、近親者友人ら16の計56名のうち元信者37名については統一教会の控訴棄却。ほかは原判決破棄、元信者らの請求棄却。双方上告せず確定。
 ・教会の布教、教化課程が被勧誘者に対する違法な行為だと認めた。違法性の判断基準は一審判決の基準を取り消して、手段が宗教団体であることを殊更に秘して勧誘し、いたずらに害悪を告知して相手側の不安をあおり困惑させるなど、相手方の自由意思も制約する不当なものである場合、目的が利益獲得等不当な場合、結果が相手方の財産に比して不当に高額な財産の出捐をさせる場合という基準に変更された。しかし、布教、教化課程の事実認定は、一審判決をそのまま踏襲したので、違法性の判断基準は論理的には一審判決通りのものとなる。(以下略)元信者40名中38名が脱会通知後3年以上経過してからの提訴で、教会は時効を主張したので、被控訴人3名の時効成立を認めた。
(札幌地裁、同高裁平成27年10月)
 地裁は、違法な勧誘で入信させられ、精神的苦痛、経済的損害の賠償を求めた元信者3名に計3800万円の支払いを命じ、高裁は双方の控訴を棄却し、地裁の結論が確定。地裁は「宗教だと明かさない伝道活動で教義をすり込み、信者の自由を侵害した」とし、高裁も同旨の判断を示した。

婚姻破綻の苦痛に慰謝料支払い(東京地裁、同高裁平成28年1月)
 現役信者女性が、夫(のち離婚)の相続財産、給与、退職金などを夫の意思に反して内緒で教会に献金。その損害賠償請求訴訟で、14年間の148項目6000万円余の被害主張のうち、地裁は約3430万円、高裁は約3790万円につき、信者の財産状態を把握したうえで献金などの名目で交付させた教会の組織的不法行為を認め、損害賠償責任を認めた。また、婚姻破綻による精神的苦痛に対する慰謝料100万円の支払義務を認めた。

献金勧誘、物品販売行為の違法性(大阪地裁平成13年11月)
 主婦ら10名の献金や人参液、印鑑等の多種類の金銭被害の多くの訴えについて、信者の行為に違法性があるとして教会の責任を認め、計1億5800万円の支払いを命じた。大阪高裁で1億9800万円を支払う和解が成立。
(大阪地裁平成15年6月)
 難病の長男を持つ主婦の、ビデオセンター入会5万円、献金620万円、1200万円、多宝塔540万円の一部81万円等の被害につき、計6371万円の支払いを命じた。大阪高裁で7963万7500円の支払いで和解成立。

伝道の手口、合同結婚式勧誘の違法性(東京地裁、同高裁、最高裁平成16年2月)
 元信者3名がビデオセンターを窓口にした入教勧誘及びその後の詐欺、脅迫的教え込みの手口と、その後合同結婚式に参加させ相手と結婚させたことなどの違法性を認め、教会の使用者責任を認め、慰謝料などとして計920万円の支払いを命じた。

献金勧誘、物品販売行為の違法性(京都地裁平成14年10月)
 元信者の主婦ら15名の献金や物品代金名の多項目の被害の損害賠償のほとんどを認め、教会に計5373万円余の支払いを命ず。大阪高裁で同16年3月6000万円で和解成立。

伝道の手口の違法性(新潟地裁、同高裁、最高裁平成16・11、18・6、19・3順次判決)
 ①元信者51名中7名につき、教会の伝道方法が違法で信教の自由を侵害、献身者として過酷な生活を長期間強いられたことを認め、教会に不法行為責任がある。計1538万8000円の支払いを命じた。
 ②元信者51名中9名につき、上記の判断で教会の法的責任を認め計2222万8632円を。
 ③51名中残り35名につき、その主張を認め、信者による一連の勧誘、教化行為の違法性を認め、教会に8704万4147円の支払いを命じた。総計1億2466万余円支払いの判決が3度にわたり確認された。
(大阪高裁平成15年10月)
 元信者3名の、教会の伝道方法が違法で信仰の自由を侵害、教会の教義を盲従させ、過酷な労働を強いた訴えが認められ、計715万円の支払いを命じた。神戸地裁判決を大阪高裁が破棄した逆転判決だった。

教会合意書の清算条項の無効認定(東京地裁、同高裁、最高裁令和3年9月)
 夫と一人息子を亡くした女性に、信者らが「2人は地獄で苦しんでいる」などとして献金させた。うち203万円を教会から返却させた際、「今後」名目の如何を問わずなんらの請求もしない」との合意書を取り交わした。判決は、合意書の清算条項は公序良俗に反し無効、とした。返却分以外に362万円の献金があり、その分の請求権も放棄させることは容認できず、社会的に相当な範囲を逸脱した行為で違法。また、祝福結婚式などでの韓国渡航費用など40万円余も損害と評価すべき、とした。

合同結婚式参加者の婚姻無効(福岡地裁、同高裁、最高裁平成8年4月)
 教会の合同結婚式後に入籍した日本人信者男女の婚姻の無効を認めた。婚姻意思の不存在を主張した元信者女性の主張を認容。
 同種の判決や家裁の審判例は全国ですでに50件を超えている。

*刑事事件の事例
名誉棄損(福岡簡裁1988年8月)
 霊感商法で壺、多宝塔などを買った霊石愛好会福岡支部長ら2名が、霊感商法被害救済福岡弁護団の弁護士14人について「被害救済の美名に隠れた悪徳弁護士達に注意」というチラシを作成、頒布が名誉棄損罪に該当するとして有罪。2名に各20万円の罰金。
殺人(判決等不明 1993年4月)
 合同結婚式で日本人女性(34)と結婚した愛知県のフィリピン人男性(35)が、妻を自宅で絞殺。精神鑑定に付されたあとの結果は不明。
(判決等不明 1996年3月)
 合同結婚式で日本人女性信者と結婚し、3人の子がいる韓国人男性(33)が妻の母を郡山市で刺殺。子どもを連れて帰国したいとする男性と、女性家族との対立があった、という。
特商法違反(新潟簡裁2008年11月―09年3月)
 新潟市の「北玄(旧ケンコー)」社長と女性従業員2人が「不幸になる」など執拗に水晶の購入契約を結ばせ、特商法違反(威迫・困惑、不備書面の交付)で逮捕、2人に50万円、1人に40万円の罰金を課した。また別の日に高齢の女性客に3時間半にわたり装飾品購入を、別の女性客に家庭運がないと脅し数珠購入を、執拗に迫った。
 また、同社販売担当の女性2人が「家相が悪く、今のままでは病気になる。夫も健康を害し会社も大変なことになる」などと脅し水晶玉購入を迫った。2人に各40万円の罰金刑。
(2008年12月―09年5月)
 福岡市の「サンジャスト福岡(旧幸運堂)」の韓国人女性が「先祖の霊が人生を悪くしている」「購入しないと地獄に落ちる」と不安をあおり、水晶玉、彫刻など600万円以上を買わせて威迫、困惑容疑で逮捕。統一教会なども強制捜査された。女性と同社に罰金50万円が課せられた。
(2009年2-11月)
渋谷区の霊感商法会社「新世」の社長、営業部長、実行犯の女性5人が逮捕、統一教会渋谷、豪徳寺教会が強制捜査。不安をあおり、印鑑等を売りつけた。実行犯5人に各100万円の罰金刑。「新世」に罰金800万円、社長に懲役2年罰金300万円、営業部長に懲役1年6月罰金200万円、ともに執行猶予4年。物品販売は教会の組織活動の一環と認定。
(2009年10-11月) 
 和歌山県の販売会社「エム・ワン」従業員の女性店長ら3人が「運命を変えるため」などと迫り印鑑を購入させ、同法の威迫、困惑の容疑で逮捕。同社、統一教会和歌山など6ヵ所を捜索。店長100万円、鑑定士役の女性70万円、販売員女性50万円の罰金刑に。
(2010年1,2月)
 大分県警は「大分天一堂」販売員の信者夫婦を逮捕、大分の統一教会などを強制捜査。「先祖の災いで家が絶える。印鑑を買えば守られる」などと別の夫婦、女性を威迫、困惑させ、印鑑セットの契約をさせた。両名は各50万円の罰金刑に。
 別件で、同県警は由布市と倉敷市の2女性が、大分市の女性に「名前の画数が悪い。大凶だ」と不安をあおり、印鑑購入を迫ったとして大分の統一教会、「サンハート健美」など6ヵ所を捜索。そのうえで、「聖和」元販売員の信者女性2人を逮捕、罰金刑に。
殺人(春川地裁=韓国忠清北道2013年1月)
 日本人妻(52)が12年8月、腎不全の韓国人の夫を10年間世話をしてきたが、生活苦と家庭内暴力に耐えかね、タオルで窒息死させた。求刑は懲役7年に対し判決は同9年。女性は95年8月の36万組の合同結婚式でマッチングされ、韓国に居住していた。女性は控訴を取り下げて服役した。

*紀藤正樹弁護士に聞く
 9月15日と24日の2回、日本記者クラブで比較的長時間、旧統一教会の話を聞いた。紀藤氏は弁護士になった1990年以来、旧統一教会問題に取り組む。政治的党派はない。
 上記の判決内容を見てわかるように、信者として財産はすべて献納し、家族の貯金でも引き出して献金、夫婦や家族関係が断絶し、離散し、祖父母からわが子の人生までも狂わせ、きわめて悲惨な状態に巻き込んでしまう。そうしたおかしな宗教集団の言動をつぶさにトレースしてきた。その経験からの指摘に耳を傾けたい。
 メモをもとに記し、また紀藤氏のインタビュー記事(「放送レポート」)から引用する。

・旧統一教会は1954年に韓国で設立、59年から日本で布教を開始、64年に東京都で宗教法人として認められた。68年に「勝共連合」が結成、70年代後半から関連企業の「ハッピーワールド」が韓国から壺などを輸入、霊感商法を始めた。87年には多宝塔や壺などの商売をやめたが、その年に全国の弁護士300人で全国霊感商法対策弁護士連絡会を設けた。弁護団の財政は厳しく、ボランティアの協力で事務局を維持していた。このころ、教団による被害は1230億円に上ったが、真実は教会でしかわからない。
 <筆者補足―86年7月の衆参ダブル選挙があり、教団関連の「世界日報」が中曽根康弘首相の推進するスパイ防止法(国家秘密法)制定のプロパガンダを積極化し、自民、民社党候補者を支援し政治的な動きを強めた。一方、週刊文春が85年ころにこの教団や世界日報を取り上げ、その世界日報が87年には激しい朝日新聞攻撃紙面を作った。>
・90年代最大の安具楽牧場事件が被害7万3000人、4200億円だったが、これを上回っているだろう。これまでに韓国に3,400億円、米国に100億円ほどわたっているのではないか。1億?万円以上の献金者は991人、5億、10億といったケースもある。
・教団の解散命令が必要。命令が出されないなら、破産しかあるまい。破産となれば、清算人、管財人が入るので、実態が明らかにされよう。解散命令が出ても、時間がかかる。
・霊感商法事件などを警察が捜査しても、検察がブレーキになる。「宗教」となると、検察、裁判、行政も思考停止してしまう。「信教の自由」に限界があり、これに阻まれる。教団と政治、反社会と宗教は分離さるべきである。

・2007年ころから霊感商法摘発が相次いで報道はされたが、1992年の合同結婚式、95年のオウム真理教の地下鉄サリン事件よりも圧倒的に少なく、そのため、2000年以降旧教会は話題にならず、次第に政界に浸透していった。男女平等、男女参画事業推進条例に反対する運動を展開、地方自治体への反対の働きかけが広がるにつれ、政界に進出した。
 教義上、「男らしさ」「女らしさ」を推奨する宗教団体なので、そういうものを否定する男女平等やジェンダーフリーに反対。また、性教育が行き過ぎだとして「純潔キャンペーン」で政界に進出した。それが一部の自民党などの保守系政治家たちに受けた。
 教義は、神が男女を作り、女性のエバが先にサタンと姦通し、汚れた血でアダムと性交渉してアダムも汚れ、堕落した。悪いのは女性で、女性が罪を清算しないと、男性も清算されないという教えだ。男権社会と教義的なものが一致しているので、異性愛以外はダメ、選択的男女別姓もダメ。そして反共主義。これが、家族保守層に受ける。教会はカネも人も出せるので、政治家たちも利用しやすい。自民党、維新の会、国民民主党の一部政治家と、言動に親和性がある。
・合同結婚式のあった1992年、文鮮明教祖の来日時に自民党が深く関わった。(彼は米国で脱税により懲役刑を受けており、日本入国は認められなかった)。そこで、自民党全派閥から推薦人を一人ずつ出し、自民党副総裁金丸信がとりまとめ、法務省に認めさせた。
・欧州ではナチスの経験があり、カルトに対する厳しい認識がある。仏ではマインドコントロール的な手法を犯罪とし、独では統一教会名指しで警鐘を鳴らすパンフを作っている。(反社会的な)オウム、統一教会のような団体が大きくなる前に、摘発、解散の法整備を用意している。日本だけが、与野党を問わず議員の感覚が鈍かった。共産党、公明党も過去に弾圧された歴史があるから、宗教団体への取り締まりを強化すると、万一自分たちにも返ってきてしまったら、という懸念があったのではないか。
・信教の自由は本来、個人の信教の自由を守るためのもの。個人の自由な意思や信教の自由を侵害するカルトに対し、信教の自由を理由にカルトを守るのは本末転倒。日本は国際的にも信教の自由の感覚が違う。
・朝日新聞はベタ記事でも教団関係の記事を掲載していたが、オウム真理教事件のころから載らなくなった。だが、継続的に記録を残すことが、長期に追及の手掛かりになり大切だ。

*有田芳生前参院議員に聞く
 有田氏は1986年、朝日ジャーナル、続いて文藝春秋で霊感商法、統一教会を批判して以来、この教団について書き、話し、追及している。参院議員を2期務めたが、2022年7月の参院選挙では落選した。
 9月22日、夕刻の会合で1時間余、続いてグループで食事を共にしつつ話を聴いた。
 なお、最近作の「統一教会とは何か」(大月書店)からも要点をまとめながら引用した。

・文鮮明は1920年、北朝鮮側で生まれ、地元の宗教に触れ、メシアを名乗る。50年の朝鮮戦争で韓国側に来る。54年統一教会を設立、59年に日本で布教をはじめ、64年東京都で宗教法人となる。67年文は来日し、本栖湖で笹川良一らに会いアジア反共連盟結成を話したが実らず、68年に韓国、日本で結成した。(統一教会がマッチングさせる)合同結婚式は1960年以来毎年のように行われる。
(筆者補足―92年8月韓国での式は3万組ともいわれ、桜田淳子、山崎浩子らが参加し話題を呼んだ。ただ、日本女性の行方不明も多く、離婚、殺人などの事件もあった。参加には渡航費30万円、式に140万円が必要という)
・1973年に統一教会と岸信介元首相が接近、74年に清話会の福田赳夫(のち首相)が関連団体で講演。福田は、教会と勝共連合の初代会長久保木修己夫人の父が東大で同級だった。
 1986年の衆参ダブル選挙で、勝共連合、教会と自民党との関係が深まった。京都でチャームコンテストを開き91人の信者が参加、これを機に「原理講論」を広め、政治家秘書養成の講座を開いて、86年から議員秘書の活動を始めた。
(筆者補足―有田氏の書によると、かつて自民党の新井将敬、東力、民社党の菅原喜重郎の公設秘書が、また千葉三郎、東力、西川きよしの秘書を相次いで務めた者が、それぞれ信者だった。この秘書らは合同結婚式で結婚したり、勝共連合の活動家だったりしたという。また信者が私設秘書になったのは高橋一郎、伊藤公介、平沼赳夫、原健三郎、大塚雄司の議員の名が挙がる。「そんなものではない。数十人の規模」との証言も記している。)
・信者たちは、リヤカーで廃品回収をし、車内に寝泊まりしてハンカチ、靴下、つまみを売ったりして、資金を稼ぎ、献金していた。75年ころ、韓国から送金命令が出て、壺、多宝塔などの霊感商法が編み出された。
・有田氏の書には見落としてはならない指摘がある。文鮮明の「勝共連合」がイデオロギー集団にとどまらず、「準軍事組織」の一面を持っていたことだ。1966年結成の「世界反共連盟(WACL)」(91年に世界自由民主連盟に改称)は「90年代にも南米の反共ゲリラ、フィリピンの反政府ゲリラ活動を行なっている。この組織は台湾の蒋介石、韓国の朴正煕、日本の笹川良一、児玉誉士夫、そして統一教会の文鮮明の努力によって誕生した。86年までのこの会長だったのは、ベトナム戦争当時に特殊戦争統合司令官で、その後、在韓国連軍司令官だったジョン・K・シングローブ元陸軍少将であった。日本の世界反共連盟の会長も、統一教会の会長だった久保木修己が兼任していたのだ。世界反共連盟を称してマスコミでは、テロ・ネットワークとも呼んでいる。92年には、フランスの地方選挙で躍進した極右組織「国民戦線(FN)」に資金と人材(日本人もふくむ)を提供していたことがフランス国内で話題になるなど、その活動は国際的である」とある。
 もう一点、有田氏は「初期の統一教会が資金稼ぎのため鋭和散弾空気銃製作所を作った」と指摘する。この点は、「赤報隊」の項に関わってくるので、そこで触れよう。

・これも有田氏の書による。北朝鮮出身の文鮮明夫婦は91年11月30日からを12月8日まで訪朝し、金日成主席と会談、共同声明を出した。これは、<数年内の南北朝鮮の統一、朝鮮半島での核兵器製造・配置があってはならないこと、離散家族の対面の実現、文側による経済投資>などをうたった。金丸信が文鮮明との接近を試みたのは、このルートで拉致問題の手掛かりを求めようとしたのだろうが、そう甘いものではなかった。
 筆者は思うのだが、自民党内の右系の議員らは、反共ながら北側と手を結ぼうとすることに疑問もなく、文鮮明の北朝鮮に対する資金が日本の教会信者たちの苦渋の中から出されることにも考え到らず、また統一教会の怪しげな教義を調べようともしない政治家たちに不信感が消えない。
・なお、有田氏の書の後半に、「統一教会元信者の手記」が数編掲載されている。まじめに人生を考えるなかで、マインドコントロールにより、ゆがんだ道に突進してしまった「青春を返せ」という思いが伝わってくる。60年代に始まった「原理運動」が、若者たちを家庭から引き離し、学業をも捨てさせて以来、半世紀を超える今もまだ改革できない。それどころか、被害はさらに広がる。そのような宗教組織の「広告塔」になり、犠牲者を二代、三代にわたって持続させて恥じない政党や政治家、その周辺が群れなしているのだ。

*「日本の政治と旧統一教会の闇―ある元衆院政策秘書の回想」から
時事通信の元政治部記者で、ニューヨーク特派員、衆院政策秘書を経て、梶山静六経産相の政務秘書官として1990年の選挙を仕切った岡野龍太郎氏が「メディア展望」誌(新聞通信調査会)にこのタイトルのリポートを書いている。具体性があり、断片のいくつかを紹介したい。
・「(安倍元首相の銃撃から)1か月半余。まるで、戦後75年後の闇ともいえる『パンドラの箱』の蓋が開いたようだ。旧統一教会と政治との関係が白日の下にさらされたのである。・・・旧統一教会内部は混乱し、関係を疑われる政治家は開き直りか痕跡抹消に躍起になっていると伝わる。」
・「日本に旧統一教会が設立されたのは60年安保の前年の59年で・・・この頃から日本の大物政治家と統一教会の交流が始まっている。その後、霊感商法や合同結婚式が社会問題化すると、旧統一教会はより一層政治との関わり合いを深め、政界工作が公然化した。その頃の文鮮明の激烈な言葉がある。『まず秘書として食い込め。食い込んだら議員の秘密を握れ。次に自らが議員になれ』。すさまじい言葉である。これは世迷言ではない。その後実際に行われてきたのである。」
・「日本の戦後政治の光景が変化してきたのは安倍一強時代になってからである。安倍元総理の国家像『美しい国、日本』は、統一教会の初代日本会長の久保木修己氏の教義『美しい国、日本の使命』がオリジナルとされる。」
・「中選挙区時代の90年の総選挙で、筆者(岡野氏)が自民党の衆議院議員の水戸事務所で選対を仕切った際に、国際勝共連合の脅威に驚かされた。当時は茨城1区は定数4を自民党、社会党、民社党で競っていたが、それだけの自民党同士の戦いは激烈を極めていた。
 その時、競争相手の自民党候補に国際勝共連合が支援に入り、大量動員をかけて選挙区内の市町村に徹底したローラー作戦を仕掛けたのだ。要は、チラシ配布と戸別訪問だ。『勝共連合が300人規模でローラーを仕掛けた。彼らが歩いた後にはペンペン草も生えない』との情報を聞いた時には狂信的な軍団の圧力に身震いした。しかしこの中選挙区時代はまだ自民党の一部議員が旧統一教会の支援を受けていた程度であり、影響は限定的だった。ただし、地方政界への浸透は始まっていた。」

・「(その後2004年、民主党の政策担当秘書になり)改めて旧統一教会との関わり合いができた。今度は敵ではなく、陳情される側になった。第1次安倍政権崩落とともに旧統一教会(平和連合)側が政権交代直前の民主党に距離を詰めてきたのだ。
選挙が強く、民主党内で力がある保守的な思考の議員をターゲットに旧統一教会の国会担当の女性軍団が国会事務所に日参してくるようになった。
 政治家は選挙や資金面で支援を受ける派閥やグループのボスから『こんな人が行くからよろしく』と頼まれれば、たとえ旧統一教会と分かっていても、断るわけにはいかないから面談することになる。当時は旧統一教会の回し者が仮面をかぶり、100人規模で国会議員の事務所に潜行しているといわれていたが、誰がその関係者なのかは全くわからない。・・・平和連合の女性工作部隊は自然体の笑顔でそれができる。…ともかく工作対象と親しくなることが最優先課題である。アポなしの不意の訪問が常套手段だ。」
・「平和連合は『ジェンダーフリー』『夫婦別姓』など教義に反する不都合な法案があると周到な説明を仕掛けてくる。また平和連合のイベントや会合への出席、祝電依頼などがあり、出席も祝電も断ると代理でもよいからと名刺の提出依頼がある。・・・ある日、平和連合トップが『日韓トンネル構想』の説明を入念にしてきた。その壮大な構想には驚いた。たぶん自民党かどこかに、民主党工作の司令塔があり、取り込める対象をピンポイントで攻略してきたと思われる。便宜供与の見返りはパーティー券の購入である。」
・「選挙になると、大物議員のところには女性工作員が茶封筒入りの現金を地元まで運んでいるケースもある、とのうわさを聞いたことがある。・・・ただし、そのような『毒まんじゅう』を食えば、付け込まれ言いなりになることは明らかである。」
・「国会工作女性軍団は元大学の原理研究会と思われるベテランが配置されており、話題性も豊富である。時には自民党大物議員の『外』事務所のある国会近くのパレロワイヤル(ビル)の彼女らのアジトを訪ね、コーヒーを飲みながら自民党の数名の協力議員の名前を聞き出したことがある。」

*「記者襲撃―赤報隊事件30年目の真実」を読む
 この小文は、政治と旧統一教会の密着ぶりを明らかにし、政党、政治家の立ち直りの必要を望むもので、この樋田毅氏の著述(2018年2月刊、岩波書店)にまで触れるつもりはなかった。1987年5月3日、憲法記念日の夜、朝日新聞阪神支局が散弾銃を握る暴漢に襲われ、小尻智博記者を失い、重傷を負った犬飼兵衛記者もすでに他界された事件であり、すでに2003年にすべて公訴時効になっている。それでも前述の紀藤氏、有田氏とも、慎重に言葉を選びつつ、この事件に疑惑を抱く様子があった。

 この原稿を書くうちに、筆者(羽原)の育った新聞社での未解決事件であり、やはり記さざるを得ない気持ちになってきた。時間が経ち、複雑で密室的、また場合によっては海外にも絡みかねず、しかも時効の事例である。
 この書を記した樋田毅氏はもともと朝日新聞社会部の記者で、退職後もひそやかな取材を長く続けている方である。事件への思いは全く変わっていない。
 以前に一度、お招きして記者仲間で話を聞いたことがあり、その取材ぶりはち密で慎重、頭の下がる努力を重ねていた。今度の安倍元首相襲撃を機として浮上した旧統一教会の問題であり、彼の書をもとに 原点に立ち返っておきたい。
 樋田氏の書から、この宗教組織の疑わしい「闇」を具体的に拾っておきたい。彼は慎重で、「a」教会、教祖、日報、連合として実名を出していない。ここでも踏襲しておきたい。

:朝日ジャーナル報道(1984年秋ー85年春をピークに)a教会批判、霊感商法批判のキャンペーン記事を連続的に掲載。
 84年7月号の月刊「文藝春秋」に元a日報の編集局長、営業(業務)局長連名の「これが『a教会』の秘部だ a 日報事件で“追放”された側の告発」なる記事が掲載。これには、a教祖が「日本の復興は朝鮮戦争の特需によるもので、韓国・朝鮮人の犠牲のうえに日本の繁栄が成り立っている。(中略)だから、教祖は日本から莫大な金額を持ち出すことも、そのために日本人会員が苦吟することにも、良心の呵責を感じない」、さらに「物品販売活動に絡まる巧妙な脱税操作と、詐欺まがいの商品の高額販売」について「原価1万1300円の印鑑が数十倍の120万円、1万円の人参エキスが8倍の8万円、ツボに至っては5千円の物が実に400倍の200万円、10万円の多宝塔が500倍の5千万円で売られている」「これだけの暴利販売をやるには、尋常の手段では到底駄目のはずである」「世間では『霊感商法』と言っている『霊能者』や『先生役』を使っての相手を巧みにさそいこむ知能的なやり方」と暴露した。この雑誌の発売直前の6月2日夜、元編集局長は自宅近くで何者かによって瀕死の重傷を負わされた。彼は「犯人は(a教会が信者に教える韓国空手の)正道術の使い手だったと思う」と警視庁の事情聴取に証言したが、91年公訴時効になった。
 元編集局長をサポートしていた人物は「彼は襲った人間を知っている可能性が高い」といい、樋田氏は「警察は宗教組織の内奥へ分け入っての操作に及び腰だった」と記している。

:南京大虐殺攻勢(1984年8月―88年4月)「都城第23連隊が南京大虐殺に関与か」の朝日新聞記事掲載。85年2月「無関係」との記事掲載。同年12月a教会のa日報記者と旧23連隊幹部が宮崎支局を訪問、同紙に連載のこの問題の記事掲載。87年1月にも朝日「無関係だった」との記事掲載(偶然か、翌日に朝日東京本社銃撃)。同日報紙が朝日批判の大型連載記事を掲載(87年10月―88年4月)

:朝日攻勢と脅迫状(1986年12月から翌年1月末にかけてa教会関連の勝共連合街宣車が朝日本社前で批判の演説しきり。同連合はスパイ防止法制定促進会議を支援。)
(87年2月26日消印ハガキ)a連合名で「岸元首相、福田元首相がついている」「教祖様は共産サタンを殺すために生まれてきた」など「サタン」を8か所使っていた。

:脅迫状(1987年5月6日)阪神支局襲撃事件の3日後、朝日新聞に赤報隊名の脅迫状が届く。「aきょうかいの わるくちをいうやつは みなごろしだ 」。使用済み弾丸の容器2個が同封されていた。記者襲撃と同メーカー、同種類。赤報隊という報道前の5月5日付けで、渋谷局<a教会本部の所在地>の消印があった。

:朝日新聞社などに絡む「赤報隊」名による事件
①東京本社銃撃事件(87年1月24日)銃撃時にはわからず、10月1日に2弾あり発覚。
②阪神支局襲撃事件(同年5月3日)目出し帽の男の数百発の散弾で2記者殺傷。
③名古屋本社新出来寮襲撃事件(同年9月24日)記者ら不在中散弾銃攻撃、人害なし。
④静岡支局爆破未遂事件(88年3月11日)時限爆発装置付き爆弾を仕掛け未遂。
ほかに87年3月11日、竹下登首相就任直前(隠蔽され9年後発覚)、中曽根康弘首相あて脅迫状事件(直後に発覚)、リクルート事件の元会長江副浩正宅に散弾銃射撃(88年8月)、愛知韓国人会館放火事件(90年5月)が発生しているが、すべて未解決のまま。

:銃砲メーカー・銃砲店・射撃プロとa教会・勝共連合
 前の項でも触れたが、樋田氏によると、阪神支局事件の起きたころ、a教会は全国に26店の系列銃砲店を持ち、その多くは射撃場も併設していたという。また、同教会は韓国で銃砲メーカーを経営、エアライフル「鋭和3B」を生産し、日本に輸出、販売していた。
 兵器の製造はa教会系の別企業が受け継いで、機関砲や戦車の部品などを製造している(2018年時点)。
 それだけではない。信者には、5、6人の国体級の選手がいた。また、樋田氏は「a連合には秘密(非公然の)軍事部隊(特殊部隊)が存在した」と証言した早大出身の元信者に取材し、その人物は元韓国大使(故人)の私的研究会に入り、韓国、北朝鮮、民団、総連の資料を入手、教会に流していた、という。
その関連で、元信者だった学生時代の知人の夫人で特殊部隊経験のあった女性から「銃を実践活動で持ったことはない。軍事訓練には参加した。(空手の)正道術をしていた屈強そうな男性が数十人ほど集められた。数日間の日程で、宿泊場所は東大の寮。特殊部隊の隊員は縦系統の指示、命令があるのみで、仲間同士の連絡ができず、集団を離れての生活を余儀なくされるため、脱落者も少なからずいた」と聞いている。

        ・・・・・・・・・・・・
 旧統一教会とその関連団体の動きを見ていると、表では組織への信頼を築くための「広告塔」を自民党や政党に食い込むことによって構築し、裏舞台では信者たちへの狭隘にして非論理的な教義に引き込み、非常時の事態に向けては暴力を辞さない実力行使のチームを築く。そして、周辺には、右翼的な思想を共通する日本会議的な組織をにらみつつ、表裏の言動を独走と孤立を避け、それとない協調を求める。また、狭隘な愛国心や排外的な在特会的な思考と行動をとる団体を横目で見定めつつ、その増強を許容する。
 右翼的な思考をもって、時間をかけてでも社会の色合いを「右色」に染めていく。政界へのアプローチは、その布石でもある。選挙という舞台を無償の「人力」で賄えば容易に引きずられ、有権者への浸透を図る安価な「広告塔」にもなる政治家集団を取り込む。いざとなれば、敵対するメディアなどは、ひそかな暴力機能が始末をする。

 政治集団は、そうして遠謀の言動を読み取れず、また過去の関わりを隠ぺいするために、また自己弁護のために、温存の方向に向かっている。改革を逃げ切れば、信者や元信者周辺の苦渋の日々は続き、解放のときは来ない。それが、本来あるべき政治なのか。
 大きな構図で見なければなるまい。改めない、また意識の浅い政治家は、次回選挙以降の政界から追放し、あるいは悪の世襲的踏襲を断ち切らなければ、政治の夜明けは来ない。
                     
 <元朝日新聞政治部長>

(2022.10.20)
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