【時世時節】

国民離れの政権人事

――国政の足場を国民に返せ!
羽原 清雅 

 第2次岸田再改造内閣が発足し、自民党人事も動き出した。だが、過去にないほどの不評である。国政の人事なのに、「国民・有権者」の存在に配慮していないからだ。
 岸田首相は「変化を力にする内閣」と理解不能な説明をする。岸田派は党内の足場が弱いためか、首相の政権維持の姿勢が目立つ。麻生太郎党副総裁、茂木敏充幹事長、安倍派の萩生田光一政調会長と松野博一官房長官の派閥バランスを重視、それに総裁選ライバルだった河野太郎デジタル相と高市早苗経済安保相を留任させた。新閣僚11人中7人が65歳以上(首相を含む20人中12人が65歳以上)など高齢・派閥順送り人事で、人材起用の新鮮さもない。公職人事である以上、議員掌握狙いは不当で、国民側に立つ政策遂行を考えるべきだ。新顔だけの「1年交代」人事もおかしい。
 目玉は女性閣僚5人の登用だったが、副大臣、政務官54人はすべて男性。たしかに女性議員はこのポスト経験済の人材が多く、新たな起用対象は少ない。だがそれも、女性軽視の自民党は「10年間で女性議員3割」といった悠長な目標だから、受け手の対象者が乏しいのだ。
 また、「傷」持ちの人材が相変わらず多い。早くも政治とカネ問題で小渕優子選対委員長、加藤鮎子こども政策相の名があがる。旧統一教会がらみの萩生田政調会長もいる。殺人事件関わり疑惑の木原誠二官房副長官は党幹事長周辺に隠れた。公人の彼、彼女らは有権者の疑惑を解く説明会見もしないから、一層不快感を強める。
 それに旧統一教会との関わりのある人物が閣僚に4人、副大臣26人中11人、政務官28人中15人。首相は「教団とは縁を切った」というが、2、3年は起用を避けるべきだ。しかも、旧教会の解散請求が出されるかどうかの時期に、所管する文科相の座に関わりのあった盛山正仁、副大臣に青山周平両氏、政務官に公明党議員を置いた。この団体への疑惑は世論の関心から消えていない。
 このような人事配置の狙いはただ一点、衆院解散にある。スケールの小さいままの野党相手に、それほどは負けまい、との思いもある自民党だが、岸田首相にとっては自らの政権の持続に関わる。10月解散説も流れる中、諸物価の高騰、不安定な経済状況、足踏みするデジタル化や子ども政策、原発処理水の波紋、軍事予算などの財源問題、対立しがちな対中・追従しがちな対米関係など、見通しのつかない課題が山積、言葉で逃げかわす、いささかノーテンキな首相も落ち着かない。
 だが、任期4年の半分をやっと経る程度の早期に、おのれの政権維持を狙い、恣意的に解散していいものか。巨額の選挙費用を使って解散していいのか。よほどの事態でなければ、与えられた4年間議員としての職務を果たすのが当然だろう。
 安倍時代あたりから国会軽視の風潮が強まり、臨時国会召集の野党要求を黙殺したり、国会説明や論議を軽視、黙殺したり、野党のもろさを逆手に取るかの所業が目立つが、そのひとつが衆院解散の権力行使だ。
 取りざたされがちな首相候補として萩生田光一、西村康稔(安倍派)、河野太郎(麻生派)、茂木敏充、小渕優子(茂木派)、林芳正(岸田派)、高市早苗(無派閥)各氏らの名が挙がる。将来の日本を考えるとき、人気投票ではなく、左・右の傾斜度、貧窮層への配慮度、国際的視野と自立度、人間的魅力、文化性、総合的相対的視野などを、折々の言動や人物を日常的に長く観察することが必要である。我々の「政治」であり、受け身になっていてはいけない。
 <山陰中央新報コラムに掲載>
                      (元朝日新聞政治部長)  
(2023.9.20)
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