【沖縄の地鳴り】

右翼保守論壇に見る辺野古問題〜安倍政権批判高まる

仲井 富


◆一水会機関紙新年号が翁長知事の辺野古反対陳述全文掲載

 右翼保守陣営の論壇や人士のなかに、福島原発以降、原発停止の運動が広がり、それが安保法案強行反対の運動となり、今や沖縄の安倍政権による、辺野古新基地強行路線への批判につながっている。さまざまな動きの中で、私が驚いたことは、新右翼の機関紙『レコンキスタ』新年号だ。同紙は大判8ページ建ての新聞だが、その中で見開き2ページを使って辺野古新基地反対の訴訟を起こした翁長沖縄県知事の陳述書全文を掲載した。冒頭に「沖縄の声に耳を傾けるべき」と題して以下のように述べている。「普天間新基地建設をめぐる翁長知事と安倍政権との闘いがついに司法の場に移る。平成27年11月、国は翁長知事が基地建設予定地である名護市辺野古沖の埋め立て承認を取り消したことに対し、提訴に踏み切った。問題は話し合いによる決着を求める段階を過ぎ、より激しい争いへと発展した。ここに翁長沖縄県知事による陳述書の全文を掲載する」

 わが「メールマガジン・オルタ」も12月号で要旨を掲載したが、全文24,000字余を掲載した「レコンキスタ」には及ばない。一水会は昨年末、新右翼という自称をやめると聞いたが、まさに右翼保守陣営の新たな動きを象徴するものだ。

 一水会などはすでに昨年9月6日、安倍政権の安保法強行に対して、東京渋谷区富ヶ谷の安倍私邸に数十人のデモ隊が抗議行動を行っている。日の丸を翻しながら行進するデモ隊のコールが渋谷の高級住宅街に響いた。「米軍の傭兵に直結する安保法案を廃案にせよ」「国民の声を聞かない安倍首相は辞任せよ」。安倍私邸につながる路地の入口にはバリケードが築かれ、制服警察官が立ちはだかった。「日本を対米隷属国家たらしめる安保法案は廃案にせよ」「安倍は辞任せよ」と声を上げた。一水会の木村三浩代表は、次のように語った。「アメリカは無謀なイラク戦争でガタガタになった。その総括もせずに日本に肩代わりさせようとしている。安倍さんはそれに乗ってはならない」(田中龍作ジャーナル)。

 60年安保の時代には、われわれは連日、港区南平台の岸総理私邸にデモをかけた。アメリカ大使館と岸私邸への抗議行動は日課のようなものだった。いま、左翼や労働団体の米大使館や総理私邸へのデモは皆無だ。替って右翼民族派などが安倍私邸に抗議デモをかけているのだ。

(注)東京新聞(16・1・9)は民族派愛国者団体の「一水会」(木村三浩代表)が毎月1日に発刊している機関紙「レコンキスタ」1月号に、名護市辺野古の新基地建設をめぐり、国が翁長雄志知事を相手に提起した代執行訴訟の第1回口頭弁論で翁長知事が裁判所に提出した陳述書の全文が掲載された、と紹介している。

◆安倍総理は沖縄に宣戦布告した 『月刊日本』の安倍政権批判

 『月刊日本』015年12月号では「安倍総理は沖縄に宣戦布告した」という特集記事を組んでいる。ここでは主幹の南丘喜八郎氏が以下のように述べている。
 — 安倍総理! 貴方は日本国の総理として沖縄県民の願いをしっかりと受け止めねばならない。毅然と米側との交渉に臨むべきではないのか。いま貴方がやっていることは、悪代官(米国)に取り入った越後屋(安倍総理)だ。亜税の典拠に杵しむ農腿(沖縄県民)の必死の叫びにも耳を貸さず、悪代官に媚び諂って、農民を苛めている越後屋そのものだ。11月4日米紙ニューヨークタイムズ(電子版)は「沖縄の意思を奔走している」と題する次のような社説を褐戦した「先月沖縄県の翁長雄志知事が前知事による埋め立て承認を取り消したが、日本政府は翁長知事を無視し、10月19日に埋め立て工事を始めた。翁長氏は東京への抵抗を継続すると誓い、抗議する人々は警官隊と衝突した。平和や人権、民主主義を順守する国家を称する日米両政府の主張が試されている。日米両政府は沖縄の人々の権利を侵害している」

 ニューヨークタイムズの社説に続き、11月7日、モンデール元駐日大使が注目すべき発言をした。彼は1996年に橋本政権との間で普天間飛行場返還の日米合意を取り決めた人物だ。琉球新撒のインタビューに応え、辺野占問題についてこう述べている。「普天間飛行場の移転先を我々は沖縄とは言っていない。どこに配綴するかを決めるのは日本本政府でなければならない。日本政府が別の場所に配置すると決めれば、私たちの政府はそれを受け入れるだろう」
 ニューヨークタイムズの社説とモンデール氏の発言で問われているのは安倍首相そのものの姿勢なのだ。・・・安倍総理、沖縄の心の叫びに真摯に耳を傾け、米国と毅然として対峙すべきでだ。そう申し上げたい。
 同誌の新年号は「沖縄の民意を無視するな」という特集を組み、冒頭以下のように述べている。

 — 九月一五日付のアメリカの経済誌「フォーブス」は、翁長雄志沖縄県知事を「日本で最も勇敢な男」とする記事を掲載した。また、二月四日付の「ニューヨークタイムズ」は、「沖縄の意思を否定している」として、日米両政府の沖縄への姿勢を批判する社説を掲載した。今や沖縄問題は日本の国内問題の枠に収まらなくなりつつある。慰安婦問題や南京問題のように、あるいはチベット問題やウイグル問題のように、国際問題化するのは時間の問題である。翁長知事は新著『戦う民意』(KADOKAWA)で、次のように述べている。「これまで沖縄の人たちは、言いたいことがあっても言葉をのみ込んできました。しかし、私だけは政治的に死んでも肉体的に滅んでも、沖縄を代表して言いたいことを言おうと思いました。それでも何割かは口に出しません。けれども以前は三割しか言えなかったことが、六割ぐらいは言えるようになりました。」沖縄に言葉をのみ込ませてきたこと、しかもその「六割ぐらいの民意」ですら無視しようとしていることに、我々本土の人間は恥を感じるべきだ。政府は沖縄の民意に耳を傾け、直ちに辺野古新基地建設を中止すべきである。 —

◆福島原発事故以降右翼保守陣営の亀裂 親米ポチという批判

 福島原発事故以降、右翼論壇、右翼保守陣営の中で、従来の原発推進路線への厳しい批判が相次いだ。戦後、アメリカに追随した自民党政権が、岸総理の時代に多額の政治資金をCIAから提供されたことは、すでにアメリカの機密文書をもとにした『CIA秘録』に詳しい。日本の戦後右翼は窒息していたが、この資金提供の恩恵を受けた。したがって、60年安保闘争でアメリカに、反対運動の阻止をになうことを容認され、政治活動のきっかけをつかんだ。ハガチー来日阻止闘争に対して、右翼が公然と牙をむいて歯向かってきたのである。その戦後右翼の体質を新右翼の「一水会」などは「親米ポチ」として厳しく批判してきた。

 右翼や保守陣営の中には、福島原発事故を契機として、従来の自民党政治に対する批判が公然と提起されるようになった。国会デモに参加した右翼人士の原発反対論は明白である。「われわれは日本の国土を愛する。ゆえに日本の国土そのものが住めなくなるような原発は許しがたい」というのである。マスコミや旧来の左翼は無視してきたが、公然と原発反対の宣伝活動を展開する人々や団体は右翼保守陣営の中に増え続けている。そういう一連の流れの中で、昨年来の安保法案の強行が、右翼保守論壇の学者や団体によって「憲法違反」と指弾されるようになった。いまや全国各地で地方自治体議会で「安保法廃止の決議」が相次いでいるが、これは自民党議員を含めた広範な安倍政治批判が広がっていることの証明だ。最近は、私の住む千代田区の共産党の講演会に、志位共産党委員長と保守派の論客小林節氏が並び立っていることに疑問を感じる人もいないくらい、旧左翼と保守右翼陣営の安保法案や辺野古問題での共鳴共感が広がっている。

◆産経調査で辺野古ノーが多数へ 憲法改正も反対多数

 私の周りでは、朝日、毎日、東京などの記事は熱心に読むが、産経、読売などは読まないという方が多い。私は逆に産経新聞の記事をほぼ毎日読むようにしている。なぜならば政権の本音がいち早く報道されるからだ。もう一つは世論調査での改憲問題、辺野古新基地建設への賛否は産経新聞でさえ大きな変化が起きているという発見もある。ともかく辺野古も改憲問題も一、二年前と様変わりした。
 昨年015年の憲法記念日を中心にした世論調査では、朝日新聞などはもとより、産経新聞でさえ賛否が逆転してきた。以下は産経新聞の「産経・FNN合同世論調査」である。憲法改正、安保法案、辺野古移設、共に反対が賛成を上回った。

 — 憲法改正の賛否をたずねたところ、賛成は40.8%で、反対は47.8%。集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案の今国会成立については、賛成が36.2%と前回3月の調査よりも5.1ポイントアップした。反対は49.5%だった。政府が目指す米軍普天間飛行場(宜(ぎ)野(の)湾(わん)市)の名護市辺野古移設については、賛成が39.9%で反対が44.7%で賛成の39.9%を上回った —(2015年4月27日)。

 辺野古移設については本土各紙とも傾向はほぼ同じだ。一昨年までに比べて、昨年来、辺野古移設には反対の国民的世論がはっきりと出ている。その原因は、一つには翁長知事の奮闘によるところが大きい。翁長、菅会談が実現したが、「粛々と辺野古を進める」という、官僚的な菅官房長官の談話を「まるで米軍占領時代の高等弁務官のようだ」と一喝されたことで、発言を取り下げた。だが、その小役人的性格は変わらず、意固地になって強行する姿勢が多くの国民の反発を買っていることに気づかない。辺野古移設問題は、安倍政権の強硬政策で、全国的な反対運動にひろがっている。それを背景として「辺野古移設反対」の世論が産経のような“政府広報紙”でさえ多数となった。

 改憲問題をめぐる国民世論の動向もまた、昨年一年間の安倍政権のなりふり構わぬ強行政策によって、いわゆる護憲意識が広がった一年間でもあった。いまや各紙ともに「九条改憲反対」は過半数を超える。護憲政党たる社会党、社民党は絶滅危惧政党に転落したというのに、九条改憲反対は国民の過半数を超える状況だ。究極のところ、自民支持層の30%台、無党派40%台という数字に象徴されるように、九条及憲法改正反対勢力は、広範な自民支持層と無党派層の中に存在することになる。私はこれを「護憲政党なき護憲勢力」と呼ぶのである。

 (オルタ編集委員)


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