【自由へのひろば】

参院選挙のブロック毎結果分析と今後(1)

仲井 富


◆沖縄・東北・信越での重要拠点で野党大勝

 参院選挙を終えて、俄かにマスゴミをはじめとして「改憲勢力三分の二獲得」と今にも憲法改正が差し迫ったかのごとき論評を広まった。それを受けて「三分の一に届かなかった」と野党側にも気落ちする人々が多い。だが、ことはさほど単純ではない。仔細に参院選挙の勝敗を地区ごとに点検すれば、よく物が見えてくる。今回の参院選は、数では敗けたが、自民党が全力を挙げた重点選挙区では沖縄を先頭に野党統一候補がすべて勝利した選挙だった。したがって政治的には安倍政権完敗の選挙だった。これが選挙後の「改憲とりわけ九条改憲」論後退につながっているのだ。野党統一を先導し候補者を降ろした共産党の役割は大きかった。

 全体的に見れば、三十二の一人区では十一勝二十一敗、三年前の参院選では二勝二十九だったことを思えば、野党統一候補の大健闘が目立つ。その十一勝なるものは、自民党が最重点地域として安倍総理をはじめ重要閣僚などを送り込んだ地域ですべて勝利したことだ。また複数区では、北海道の三人区二勝、東京の六人区での野党三勝、愛知の四人区二勝など、全体としては十四勝をあげ、自民の十六勝に対して互角の戦いをした。ただ前回と同じく大阪では四人区ゼロ議席と惨敗だった。
 以下に北海道・東北ブロックから九州ブロックに至る、七つの比例区ブロックごとに参院選の勝敗を点検する。なぜ三分の一獲得ができなかったかと言う最大の問題点も見えてくる。

(1)北海道・東北ブロック 七勝二敗
 ここで最大の勝利は北海道の二人当選である。二人区をこれまで分け合って来たが、今回は三人区となった。当初、三人区二名の候補者は無理だとの見方もあったが、農政通の鉢呂吉雄の決断が功を奏した。結果は自民現職が一位で約65万票、二位民進徳永が約60万票、鉢呂約49万票、次点の自民新人が約48万票、総体としては自民二人の得票が約2万票上回るというきわどい接戦だった。
 東北の六県のうち秋田を除く青森、山形、岩手、宮城、福島の五県で野党統一候補が勝利、自民党はわずか一勝という戦後政治史にかつてない大敗を喫した。二人区から一人区になった宮城選挙区では野党統一候補が完勝した。このブロックは自民党が最大の接戦区として、わざわざ東北ブロック用のマニフェストまで作成し、安倍総理や人寄せパンダの小泉進治郎などタレント議員を含めて総動員したが完敗した。ブロックとしては北海道を含めて与党二勝七敗という歴史的大敗だった。反TPPと震災復興の遅延などが政権政党を倒したといえる。

(2)関東ブロック 七勝十三敗
 ここでは複数区が茨城〈2〉、埼玉〈3〉、千葉〈3〉、東京〈6〉、神奈川〈4〉となったが、東京で民進二、共産一が当選、茨城、埼玉、千葉、神奈川では一名が当選、一人区の群馬、栃木は大差で敗北した。ブロック全体としては与党十三対野党七となった。

(3)北陸・甲信越ブロック 三勝三敗
 最大の焦点となったのが新潟選挙区である。ここは全国で唯一、小沢一郎と山本太郎の「生活の党」の候補森裕子が難産の末統一候補となった。ここも二人区から定数削減で一人区になって初の選挙であり、110万票余を与野党が奪い合う大激戦となった。結果はわずか2,279票差で森裕子が自民現職の中原八一を制した。お隣の長野県も二人区から一人区となったが、民主新人の杉尾秀哉が自民現職の若林健太郎を7万票余の大差で下して当選した。さらに山梨県は民主新人の宮沢由佳が、自民新人の高野剛を2万票弱の差で振り切った。すべて一人区となったこのブロックは富山、石川、福井で大差で敗れ三勝三敗だが大健闘といえる。

(4)東海ブロック 四勝四敗
 ここでは、愛知が四人区となったが、民進党新人の伊藤孝恵が大健闘で四位に入った。現職の斎藤嘉隆も50万票台で票の分け合いもよく二名当選を果した。静岡県も二名区で新人の平山佐知子が69万票余で当選を果した。さらに注目の三重選挙区は、前回〇一三年には民主党候補が敗北しており、岡田党首の進退を賭けた選挙となった。安倍政権は、伊勢志摩サミットの成功とともにオバマのヒロシマ訪問で点数を稼ぎ、民進党首の三重選挙区の勝利に全力を注いだ。三重県知事も抱き込み、新人の山本佐知子を民進現職の芝博一にぶっつけたが、2万票弱で敗退した。岐阜県は現職同士の対決となったが民進現職が大差で敗北した。しかしブロック全体では、四勝四敗と互角の選挙結果となった。

◆三分の一確保失敗の元凶は大阪 全国最低の一桁得票率

(5)近畿ブロック 一勝十一敗
 近畿ブロックの民進党は惨憺たる敗北である。前回も橋下維新と自民、共産の後塵を拝して、ブロック内の当選者はゼロだった。特に大阪は四名区でゼロ議席だった。今回は京都で現役の福山哲郎の一議席のみ。共産は前回京都、大阪と二議席を確保したがゼロ議席に終わった。しかも滋賀、兵庫、奈良で民進の現役三名が落選するなど、野党が三分の一議席を確保できなかった最大の戦犯は近畿ブロック、わけても大阪四名区の民進ゼロ議席といえる。
 市民派の辻元清美代議士は「護憲、護憲」と国会では派手に活躍しているように見えるが、護憲勢力三分の一確保失敗の元凶は大阪にありとの認識が欠如している。地元の高槻などでは府議がひとりも居ない。また民進は大阪市議会はゼロ議席。連合大阪も東京に次ぐ組織力だが影響力は低下の一方だ。一言で言えば、大阪維新憎しの自公民連合社民共産の既成勢力連合に加担している間に、完全に民主・民進から大阪の民心は離れたといえよう。

(6)中国・四国ブロック 一勝七敗
 中国は島根・鳥取合区、四国は高知・徳島合区と定員は二名減った。二人区の広島のみ現職の柳田稔が当選したが、得票は一位の宮沢洋一約57万票に対して柳田約26万票とダブルスコア以上の大差だった。岡山は江田五月の五回連続当選区だったが、今回は江田の引退を受けて後継の黒石健太郎が約33万票を獲得したが、自民新人の小野田紀美に10万票余の大差で敗れた。
 各区とも大差の敗北の中で四国で唯一伊方原発のある愛媛で民主と社民支持の無所属候補水江孝子が自民現職の山本順三に対して約32万票を獲得、8,429票差まで追い上げた。敗北したとはいえ殊勲甲といえる大健闘だった。

(7)九州ブロック 三勝七敗
 福岡県は前回まで二人区で自民民主の指定席だったが今回から三人区となり、公明が新たに当選した。一人区では前回、沖縄の糸数慶子のみが当選したが、今回は村山元総理の地元で現職の足立信也が27万1,783票とわずか1,090票と言う僅差で自民新人の古庄玄知を下した。あまり知られていないが大金星というべきであろう。
 鹿児島は川内原発の立地地域で大きな争点だったが、自民現職の野村哲郎約44万票に対して野党統一候補の下村和三は約22万票とダブルスコアの大敗だった。しかし同時に行われた鹿児島県知事選挙は、熊本地震の影響を重く見て川内原発の一時停止と点検を訴えた三反園訓が自民現職知事の四選を阻止するという大金星をあげた。争点の明確な地方の知事選挙などでは、東京を除いて、滋賀、沖縄、佐賀、岩手と安倍政権の敗北が続いていることに注目すべきだ。

◆沖縄島尻担当相の息の音を止めた大差の勝利

 沖縄選挙区は無所属新人で元宜野湾市長の伊波洋一が35万6,355票を獲得し、初当選した。24万9,955票だった自民現職で沖縄担当相の島尻安伊子に10万6,400票の大差をつけた。伊波氏の勝利により、参院沖縄選挙区の非改選一議席と衆院小選挙区の四議席を含め、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する「オール沖縄」勢力が国会の沖縄選挙区の全議席を独占する形となった。全国的に自公政権優位のなかで、辺野古移設や憲法改正を推し進める安倍政権に対し、県内有権者は厳しい審判を下した。
 島尻は六年前の参院選で、民主党が投げ捨てた「辺野古県外国外移設反対」の旗を掲げて再選された。にもかかわらず〇一二年の安倍政権成立とともに「県内移設唯一の選択肢」に転じ、四人の自民党代議士、仲井真知事らを「辺野古移設賛成」に転向させた張本人である。その背信を沖縄県民は許さなかった。今回の島尻惨敗は、まず得票差に表れた。伊波は翁長知事が〇一四年に仲井真との知事選で約10万票、正確には9万9,745票差だったが、それを上回る10万6,400票の大差だった。日本の戦後政治史においても、現職閣僚としては歴史に残る屈辱的大敗であった。

 同じく現職閣僚が敗退した福島県でも自民の現職閣僚が敗れたが、その差3万票程度だ。安倍政権の菅官房長官が直々沖縄現地に赴いてあらゆる業界、市町村長を招集して予算配分や振興計画、さらに辺野古現地の誘致派に交付金を配る法律まで作るというバラマキをやりまくった末の惨敗だった。目玉の東北五県、新潟、長野などでも敗北し、頭を抱えている菅官房長官の顔が浮かぶ。参院選後における沖縄高江地区のオスプレイ訓練区域への反対運動に対して、選挙翌日から、本土の機動隊数百人を動員しての強行排除を行っている。選挙結果を無視する暴挙も、安倍・菅体制の焦りの表れである。

◆比例区票で圧倒しながら島尻惨敗 公明維新票の離反

 今回の沖縄選挙における自公維新三党の比例区得票は、合計約29万票だ。対するオール沖縄側は、社共民進三党で合計約24万票弱。まともにゆけばオール沖縄勢力は敗北しているはずなのに、なぜ10万票余の大差の勝利なのか。これを解いて行けば、沖縄及びその他の一人区選挙、さらに対決型の知事選挙で、沖縄県をはじめとして滋賀や佐賀、埼玉、長野、そして今回の鹿児島県知事選の自民敗北が見えてくる。

 安倍政権の自民一強体制は「争点のある対決型選挙には負ける」という弱点を持っている。それが沖縄のみならず、自民党が最重要拠点と位置付けた、東北、信越などで敗北したことで証明された。沖縄では比例区票ではオール沖縄に5万票の差をつけて優位に立っている政権与党が、10万票余の大差で惨敗を喫した要因はなにか。今回の沖縄選挙区で10万票余の大差を演出したのはオール沖縄自体の力ではなくて、むしろ与党側の自公維新支持者の「島尻ノー」の意思表示であり、それが「伊波支持」への投票行動となった結果である。
 オール沖縄の側もこの実態をきちんと総括すべきである。比例区票では与党側に圧倒されているのに「辺野古移設反対」で勝ち続けているのは、じつは保守勢力や無党派層の援軍があってこその大勝なのだ。「護憲派勢力や護憲政党が勝った」などとすべての運動を「九条護憲」に収れんする、単純な選挙総括をやってはならない。
 日本国内には護憲勢力は有権者の半数以上存在するが、その大半は保守リベラルや無党派層のなかに存在する。社民党の消滅が示すように、護憲政党は共産党以外は存在しない政治状況で、今なお「安倍政権下の憲法改正、中でも九条改正反対」が参院選後も過半数を占めている現実を冷静に分析すべきだ。

◆無党派層と公明維新の与党離反が一人区の勝因

 朝日新聞の全国的な出口調査(図1)で注目に値するのは、無党派層が野党統一候補に56%投票している点だ。これは〇七年の参議院選挙における民主党などの過半数獲得、さらに〇九年の民主党政権成立当時の無党派層の支持傾向と同じ流れが起きているということだ。民主党政権の失敗によって無党派層の離反が起こり政権は崩壊した。無党派層は棄権という形で政治離れが起き、支持政党が分散化した。今回は野党統一候補が三十二の一人区で成立したことで、政治参加の機運が高まった。その結果が無党派層56%支持という〇七年参院選以来の動きとなった。無党派層が投票行動に参加することで山形、新潟、長野などでは投票率が向上し野党勢力を助けた。大差にせよ小差にせよ一人区における野党勝利の原動力は無党派層と、本来自民支持層であるべき公明、維新などの支持者の大量離反によるものだ。

(図1)朝日新聞 016・7・11 1人区・各党支持層の投票先
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 以上全国のブロックごとに参院選挙を概観してみたが、問題点は明らかだ。勝利した一人区、あるいは僅差の勝負に持ち込んだ一人区では、民進党の比例区票ほぼ20から30%前後、それに共産、社民、生活等の比例区票プラス、公明、維新からの離反票プラス無党派層の圧倒的支持という構図だ。共同通信が当日行った出口調査でもほぼ同じ結果が出ている。驚くべきことは、維新支持層の46%が野党統一候補に投票し、与党自民の候補者には36%となっていることだ。維新支持層は維新の現状打破と改革姿勢は支持するが、知事選や国政選挙での橋下・松井ら維新幹部の安倍与党べったりを必ずしも支持していないということだ。

(図2)共同通信出口調査
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 野党統一候補の一人区での健闘の中で、まったく蚊帳の外にいるのが近畿ブロックの一勝十一敗だ。大阪は四人区で前回に続いてゼロ議席。比例区票、選挙区票もほぼ同数の34万票台で得票率は9%と一桁。これは前回の参院選とほぼ同じだ。得票率一ケタ台は大阪のみで全国最低の得票率である。ここでは無党派層からも完全に見放されていることが分かる。野党統一候補の勝利に対して、民進内部や自民側から、総選挙での野党共闘崩しが出てきている。共産党を加えた政権構想はあり得ないという批判だ。だが参院選の結果をみれば、すべて一人区の小選挙区でこそ野党統一の実現が唯一の選択肢ということが見えてくる。
 自明のことだが、今回の参院選における安保法制廃案は、衆院選の過半数戦略なしにはあり得ない。東京、大阪をはじめとする都市部での野党統一こそ喫緊の課題だろう。次号で各地域の選挙を詳しく分析し勝因、敗因を明らかにしたい。

 (世論構造研究会代表)


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