【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】(34)

サングルポットとカッドゥルパイの冒険㉙

高沢 英子

 サングルポットとほぐれ花とフリーリーの釣り鉤食品商売では、お金持ちからはどっさり儲けましたが、貧しい孤児や年寄りのやもめ魚がきたときは、なにもとらずに、食べ物をあげていました。でも、おやおや、その餌鉤が、突然降りて来なくなりました。
 「どうしよう」とかれらは、おろおろしました。「あたし、いい考えがある」とほぐれ花が云い出しました「洗濯屋をやりましょうよ。赤ん坊のものは、いつも洗濯しなきゃならないけど、わたしたちは、それをすぐに洗ってやれるわ」
 サングルポットとフリーリーも「なるほど!」と納得して、すぐさま、うちのなかで、その仕事を始めました。

 そんなある日、ほぐれ花が大きなコートをこすりながらポケットをひっくり返すと、1枚の手紙が落ちました。大きな字で、書かれていて、見ると、驚いたことに彼女の名前があったんです。
 読んでみると次のようなものでした。

 親愛なる大タコ君へ 
 100万のパールと、珊瑚のすべてと、二枚貝湾の半分を君に進呈する、もし君が、リトゥル・オベーリアと、ほぐれ花にサングルポット、とよばれている2人のナッツたちを見つけてくれたらね。
                     貴下の忠実なる魚鉤係
                     ジョン・ドーリーより

 こんなメモを読んダほぐれ花の心臓は今にも止まりそうになりました。
 タコですって、だれのこと? あのひとたち、なにしようとしてるのかしら? ところが彼女が考えるひまもないうちに、サングルポットとフリーリーが、急いでそばにやってきたんです。
 「ビッグニュースだよ」とサングルポットが何やら手に持って振り回しています。「見て! 前の店の鉤にこれがぶら下がっていたんだよ」サングルポットが息せき切って云うのには「そこにこんなことが書いてあったんだ、いいかい、読むよ『ぼくはここにいる。この鉤をひっぱれ。すぐ引き上げるから、君たちの友カッドゥルパイ』だって」

 「まあ、カッドゥルパイ!」ほぐれ花はびっくりし「おう、仲良しのカッドゥルパイ、なんて嬉しいこと!」と叫びました。そこで彼女は例の手紙を思い出して「見て、こんなものが、さっきコートの中から出てきたのよ」とそれを見せました。
 「大ヒトデだ」フリーリーが叫びました「それに年寄りタコ、そいつの友人の大イカ、二枚貝湾に住んでる恐ろしく残酷なやつだよ」
 「すぐ逃げなくちゃ」とサングルポット「ぼやぼやしちゃいられない」とフリーリー。その声も終わらぬうちに、その近くで騒がしい物音が聞えてきました。「ジョン・ドーリーだ! 急げ!」

 サングルポットは、ほぐれ花の手を掴むと、みんな大急ぎで走り泳ぎでドアのほうへ行きましたが、ああ、遅すぎました。ジョン・ドーリーはもうドアのところに来ていたのです。でも、体が大きすぎて半分しか入れないでいました。「早く!」フリーリーはサングルポットを押し戻し、ほぐれ花もバックさせ「別のドアへ行こう」ところが、そこにも誰かいるではありませんか。「窓だ!」と叫ぶとフリーリーはほぐれ花をかかえて、窓の外に放り出し、サングルポットもかかえあげ、外に投げ出そうとしたとき、ジョン・ドーリーが入ってきて彼をとらえてしまいました。

 フリーリーはジョン・ドーリーに体当たりし、背後から歯をむいてかれの首を咬みまくりました。「ほぐれ花はどこにいるんだ!」ジョン・ドーリーはサングルポットを締め上げて怒鳴っています。
 「云うもんか!」サングルポットはジョンを思いっきり蹴とばしました。ジョンは手を伸ばしてサングルポットをとらえようとしますが、まだフリーリーに咬まれているので動きが取れません。
 「ほぐれ花はどこだ? 連れてこい、さもないとお前を嚙みちぎってやる!」
 「云うもんか」サングルポットは、もう一度思いっきり、かれを蹴りました。
 「それじゃ。こうしてやる」ジョン・ドーリーは激怒し、大きな顎をあけると、サングルポットの頭を口の中に入れました。

 そのときです「おやめなさい!」突然鋭い声がして、ジョン・ドーリーは、それがどこから聞えて来たのか、きょろきょろあたりを見回しました。
 それはアンでした。ちょうどかれらの真上で、彼女を載せた大きなドラゴンが、ギャロップしていたのです。アンはドラゴンからジョン・ドーリーに跳びかかり、かれの口からサングルポットを引っ張り出すと、腕に抱えて床に転がりました。

 ジョン・ドーリーといえば、これほど乱暴者で残虐なのに、じつはアンを愛していたので、アンが真っ青になって床に転がって気を失っているのを見て、すっかり動転しました。アンはぐったり眼を閉じたまま、腕をだらんと投げ出して口もきけません。ジョン・ドーリーはびっくりし、心配でたまらなくなってアンに声を掛けました「おお、口をきいておくれ、どうしたんだ、どこを怪我したの、アン?」その大きな醜い顔はひきつり、手も心配のあまり震えています。

 するとアンはゆっくり眼を開けると「ああ、ドーリー、わたしはここが痛むのよ」と胸に手を当てて云いました。
 「でも、どうしてそこが痛むのさ?」とドーリー、アンは呟きました
 「ああ、ジョン、あんたがこれほど乱暴者で、残酷で凶暴だと知って、私は怖くなったのよ」そして再び目を閉じて頭をがっくり垂れ、まるで死んだように横たわったままでした。

 これを見たジョンは、がっくりとアンのそばに膝をつき、彼女の手を取って必死になって云い出しました。「戻っておくれアン、ぼくのそばにいておくれ。ぼくはもう決して二度と海で悪さをしない。絶対残酷なことをして君を怖がらせたりしない。君にも海の生き物たちにも優しくして親切になる。絶対だ。これを海の神、ネプチューンにかけて誓う!」
 これを聞いたアンは目をあけ、ジョンの顔が真剣なのを確かめ、そのことばを信じることにしました。そこで起き上がるとかれの首に手を回し、優しく微笑んでみせたのでした。            

 (エッセイスト)

(2022.3.20)
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