【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】

サングルポットとカッドゥルパイの冒険⑧
ポッサムの災難(つづき)

高沢 英子

 罠にかかって気を失ってしまったポッサムを前にして、カッドゥルパイが一人おろおろ気を揉んでいたあいだじゅう、サングルポットは、何をしていたんでしょう?
 実は知りあったばかりのぼろぼろ服を着た小さな花の女の子のおじさんが開いている洋装店で、吊り下げられているあれやこれやの服の試着に夢中になっていました。  
 お店の上のほうでは蜘蛛さんやコガネムシさんが座り込んで、せっせと縫物に励んでいます。

 “これぼくが最初に選んだんだけど”
 “いいね、それとてもあんたに似合ってるよ”とおじさんはいいました。まるで蝶々のさなぎみたいにぴったりだよ“
 そこで、サングルポットはそのスーツを買い、いっしょにすてきな散歩用ステッキも買いました。

 こうしてなかなか見映えのするサングルポットが外に出たとき、あのぼろぼろ花のスカートを着た小さな女の子は恥ずかしがって、ぼさぼさの帽子の下に顔を隠して「あたしはダンスが好きだったの、そしてあなたが好き、でも、帰ります」と言って走り去りました。
 しばらく何も話すことができないでぼうっとしていたサングルポットも、やおら彼女を追って駆け出そうと考えたとき、彼女は姿を消してしまっていました。

 でもこの花のぼろぼろ着の小さな女の子は家に帰ったのではありません。彼女は帰る家なんかなく、どこにもゆくところのない孤児でした。
 森の生きものたちは彼女に親切ではありましたが、とくに彼女をかまってくれるものも愛してくれるものもいなかったのです。

 このとき、サングルポットは突然カッドゥルパイのことを思い出しました。
 遠くで彼を呼んでいる声が聞こえたような気がしたんです。
 たしかにそれはカッドゥルパイの声でした。

 カッドゥルパイは可哀想なポッサムが静かに横たわっているのを見つけて夢中で“助けて!助けて!助けて!!!”と叫びたて、サングルポットがかれの声を聴きつけて駆けてくるまで大声でおーい、おーいと叫び続けていたんです。かくれていた花のぼろぼろ着の女の子もそっと出てきてあとを追いました。
 森の生きものたちが、いっせいに同じ方角にむかって走り、サングルポットが着いたときは、森の生きものたちで、ごったがえしていました。

 カッドゥルパイはサングルポットに会うと大粒の涙を流して叫びました。“見て!人間が何をしたかを!”
 ここには、この大きなばね付きの鉄の罠を外す力のある生きものはいないし、ポッツサムは死ぬまでこうしているよりほかないと、みんな悲しんで泣いているときでした。
 とつぜん大風みたいな地響きが聞こえてきました。生きものたちは真っ青になって叫びました。“人間だ!人間だ!”

 生きものたちは慌てふためいて、叫び声を上げながらこけつまろびつ逃げだして、それぞれかくれてしまいました。
 サングルポットとカッドゥルパイは茫然と立ち竦んだまま、大きな音が近づいてくるのを待ちました。

∮さてこのあと何が起きたのでしょう? メイ・ギブスはが何をオーストラリアの子供たちに語りたかったのでしょうか?
 女性イラストレータとして、自立を目指して船出したメイの筆は、彼女がそれまでに培ったしっかりしたデッサンに支えられ、生き生きした森の生きものたちの姿が、リアルとファンタジーの織り交ぜられた美しいイラストとともに描き出され、人間と自然の共生という、かねてからの強い願いを込めた思想が展開されていくのです。次回をお楽しみに。  

 (エッセイスト)

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