【コラム】
酔生夢死

キャサリン・タイってだれ?

岡田 充

 バイデン米次期大統領が、国務長官や国防長官など次期政権の外交・安全保障を担う主要閣僚候補を次々と発表した。重要ポストに女性や黒人を配した多彩な顔触れの中で目を引くのが、対中通商交渉の要になる米通商代表部(USTR)の代表候補キャサリン・タイ・下院法律顧問(46)。中国名は戴琪。
 台湾出身の両親のもと米国で生まれ、エール大、ハーバード法科大学院で法律を学んだ超エリート弁護士。中国語に堪能で、広州の名門、中山大学で2年間、英語を教えた経験もある。台湾と米国だけでなく、中国大陸にも縁のある「中国通」ということになる。

 彼女は2007年から14年までUSTRの中国担当法律顧問を務め、バイデン氏は「オバマ政権時代、彼女は中国の不公正貿易問題で大きい役割を果たした」と紹介した。こう聞かされれば、米中対立の余波で中国との軍事的緊張に包まれる台湾はさぞかし、この人事を歓迎しているだろうと思い、調べてみた。

 ところがどっこい。台湾人が書いたSNSをみれば、大歓迎どころじゃない。「台湾のコメで育った台湾人じゃない」「中国に同情的な中国人」「両親は大陸出身」などと、タイさんの出自や属性を問題視する書き込みであふれる。中でも「彼女は蒋介石側近の情報特務の親分だった戴笠の曾孫」といううわさが駆け巡ったが、同姓というだけのフェイクニュース。

 一方の中国大陸はどんな反応をしているのだろう。大陸でも「戴笠の曾孫」というフェイクニュースが広がったが、「余茂春よりもっと危険な人物」など、彼女を警戒する声が多い。余茂春は、中国大陸出身で米国に留学した民主派学者。トランプ米政権の対中政策の指南役で、ポンペオ国務長官の中国政策顧問を務める人物のことだ。
 SNSだけではない。中国の米国問題専門家、時殷弘・人民大学教授は、香港サウスチャイナ・モーニングポスト紙に「タイ氏の指名は中米関係にとって『否定的なシグナル』。彼女が中国との貿易問題に処理した経験を考えると、バイデン政権は中国に厳しい姿勢を続けるかもしれない」と語っている。

 いやはや、台湾からも大陸からもさんざんな評判。しかし移民大国の米国では、中国や台湾出身者で、政財界のエリートになる人材は少なくない。ブッシュ(子)政権ではイレーン・チャオ(趙小蘭)さんが、アジア系米国人女性として初めて閣僚(労働長官)に就任、彼女はトランプ政権でも運輸長官を務めている。
 バイデン次期政権は、トランプ政権の「対中新冷戦」には批判的だ。だが、タイさんのように中国語を通じて中国的思考方法を身に付けた人物が交渉責任者になれば、中国にとっては手ごわい相手になるのは間違いない。

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米通商代表部(USTR)の代表候補キャサリン・タイ・下院法律顧問

 (共同通信客員論説委員)

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