【沖縄の地鳴り】
「土人」問題について
平良 知二
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「土人」問題が起きている。
沖縄本島の北部、東村高江の米軍ヘリパッド建設現場近くで、本土から送り込まれた警備の若い機動隊員が、反対住民を「土人」と罵った。相手を見下す差別用語である。住民の抗議行動に感情が高ぶって、思わず発したのかも知れない。問題となり、沖縄では新聞紙上で批判が相次いでいる。私自身は、久しぶりに聞く言葉だなあ、と不謹慎にも妙に感じ入った。今では死語に近い。
死語に近いその言葉が、若い人の口から出たということが驚きであった。六十代以上の人ならまだしも(まだしも、という言い方はおかしいのであるが)、若い世代が怒りにまかせて吐き出したのである。人は緊張、緊迫した場面では、使い慣れていない言葉は咄嗟(とっさ)には出てこない。そうだとすると、失礼ながら当の隊員は、この言葉になじんでいたのではないか。あるいは若者のネットなどではそのような差別語、罵倒の言葉が行き交っているのかも知れない。ヘイトスピーチの嫌がらせが横行しているし、自分の気にくわない人や団体を罵倒する傾向があるかとも思われる。
この問題で、鶴保沖縄担当相が「差別ではない」と発言し、安倍内閣も鶴保氏を擁護した。わざわざ閣議決定をする擁護ぶりであった。基地問題全体に波及させてはまずいという判断であろう。沖縄の住民を「土人」扱いすること自体、大きな問題になるが、差別問題として広がっていくと、「基地の過重負担」「全国の70%の基地集中」など基地問題の本質(構造的差別)に行き着くので、事態の悪化を恐れた、と言える。
しかし、沖縄は実際、差別されている。差別は戦後ずっと続き、今の「辺野古新基地」問題に至っている。「普天間飛行場は沖縄県外へ」という知事を先頭とする県民の切実な叫びに、政府は「辺野古が唯一」と冷たくリフレインし、別の方策を一切考えなかった。住民の反対を押しのけて工事を強行し、反発する県を裁判にかけた。「基地は沖縄」というぬぐい難い差別意識が根底に横たわっている。国民の多くも「基地=沖縄」に疑問を持たない。
こういう現実の中、「沖縄に寄り添って」という言葉をたびたび聞く。言われている側が恥ずかしくなる。なにやら差別用語くさい。
今回の機動隊員は、政府の強硬姿勢と沖縄に対する国民的なそんな空気に流され、あの怒声を発した。そうでなければ、いきなり「土人」などと出てくるはずはない。沖縄は本土と異質だと見る目が、そこにはある。そういう目を政府が助長している。
開き直って、たしかに「土人」であります、と答えるべきなのか。差別の底に押しとどめられたままなのだから。
(元沖縄タイムス編集局長)