【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(71)

QR決済と時事のおしゃべり

坪野 和子

 今回より在留資格問題の話題から離れようと思っていたが、最近のパソコンは勝手にニュースが入ってくるようになってきた。メディアを覗こうとしなくても目に入る。興味があろうがなかろうが大谷翔平という名前は毎度目に入ってくることになる。気になっていることが文字として目に飛び込むと何も考えずともクリックしてしまう。この数か月、難民・移民・在留・永住・帰化と追っていたため、その関係のキーワードを検索せずに辿れるようになっていた。先日も、川口、クルドなどという文字を目にしたらマウスの人差し指が自然にクリックしてしまった。日々だんだんヘイトの人たちからの意見・コメントが増えてきているのは差別主義と本当に迷惑がかかっている人たちとが一体になるかもしれない怖さを感じている。拙稿「入管法から「難民」「避難民」「在留資格」を考える③」でも述べたが、トルコは世界一の難民受け入れ国で自国の人口は8360万人に対して累計の難民が380万人なのだ。その後知ったのは、イラク出身元難民はトルコ国籍取得が多いとのことだ。…ということで、時々補足をしていくことになりそうだ。

 さて、今回は、2つのトピックを。券売文化日本とQRコード文化定着インドとATMすら整わないパキスタンとの比較。在日・元在日インド人(帰国・転勤)たちと政治や国際情勢に関するいくつかおしゃべり。

 1.日本の券売機文化会計・インドQR文化・え?ATM
 食券を買って席に着き着丼を待つ日本のシステム、みなさまはどう思われているのだろうか? 私はとても苦手だ。そば・ラーメンであっても知らない店のメニューはイメージしづらい。文字が並んでいて写真がついていてもだ。席に座ってから(立ち食いでも場所を決めて)食べるものをゆっくりと選びたい。オーダーした後、え?これにすればよかったと思うこと多数。
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 しかも昨今は進化どころか退化。特に松屋フーズ採用のNECとU-Senが作った券売機は複雑すぎてイライラする。もたもたしていると後ろに誰か待っていないだろうかとプレッシャーも感じる。私だけではない。UI(ユーザーインターフェイス)が悪いとX(旧Twitter)に多数書き込まれている。現在ではスマホから事前QRで直ぐにとのことだが、アプリを入れたりするほどの頻度で外食するほどではない。昨年仕事をした八潮ハラルフードコートでは、外国人のお客様が頭に来て券売機に蹴りを入れていた姿もあった。こういった券売機は人手不足・お客の分析などお客のためではなく、会社・お店の事情だ。シンプルなのに券売機を設置しているラーメン・そば店はワンオペだったり立ち食いだったりするのだが、衛生面・提供を早める・役割分担などお店もお客もメリットがある。

 一方、食券といえばレトロな昭和の趣があったりすることもある。大宮タカシマヤの近くにある街中華「多万里」。入口でおばちゃん(おばあちゃん)がプラスティックの食券を出してくれるお店だ。機械ではない温かみとオーダーを迷ったり持ち帰りするのにアドバイスをいただいたりと「人」の存在が心地よい。初めてこの店に入った時、デパート最上階のファミレスで、国鉄の切符のような食券が楽しかった子ども時代を思い出した。今「昭和ブーム」であるが、ちょっぴり豊かになった当時のぬくもりは再現できないだろうと感じている。

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 さて、日本に仕事で来た外国人は日本でのオーダー・会計システムについてどう感じているのだろうか?観光客ではなく暮らしていることで。インド人とのおしゃべりからピックアップしてみよう。

 ◆「日本語のトレーニングをしてから来たし、先輩から聞いていたから会計のシステムで困ることはありませんでした。来てすぐPayPayもスマホに入れました。ですが、意外と現金しか使えないお店が多かったので驚きました。インドはなんでもQR決済ですから。現金を持ち歩かない人が多いです。最近、日本では飲み物の自動販売機もQR決済で買えるようになってきましたが、ついこの前までは小銭を探して買っていたので少し便利になりました。それまではコンビニを探しました。インドでは路上のチャイを飲むにもQRコード決済ですから。果物やジュースだってそうです。のどが乾いたらすぐに何でも飲めますから」

 ◆「私は、買い物はデビットカードだけです。いくら払ったかすぐにわかりますし、記録しやすいです。現金しか使えないところは諦めて買いません。そうすれば余計なお金を使わずにすみますから。日本は2度目の転勤ですが、あまり進んでいなかったので(QR決済)前回と同じ方法を取ることにしました」

 ◆「インドに帰ると現金を持ち歩くと危険なのですべてQR決済ですね。日本では自分の手でいくら使ったか確認しますからね。使えないところと使えるところといろいろあるので一括して現金にまとめることにしました」

 ◆「オレは全部クレジットカード。パキスタンの奥さんに家族カードを渡していて、奥さんに自由に使わせている(※とはいえ、滅多に女性が1人で外出することがない国でもあるが)家族のお金は全部一緒(※といいながらあちこちに口座を作っている)」彼は分割払いばかりしているようだが。

 ◆パキスタン人がカラコルムにATMができ、世界最高峰のATMとやたら自慢している。当時、洪水で大変だったのに。それより、ATMなど私も滅多に利用しなくなったのにそれを必要とするパキスタン。全然自慢にならない。なぜカラコルムにATMが必要かというと中国との貿易に現金が必要だったりするからだろう。おそらく中国の圧力か要望かで設置したのではないかと考えられる。早晩、この国はネパールのように独立国であっても自治区のような位置づけになるだろう。

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 ◇「ファミレス、テーブルのタブレットで注文するのに、その場で会計できないんですねえ(※今は一部の決済方法ならテーブルで決済ができる店も増えてきたが)、インドではテーブルのQRコードをかざしてメニュー画面を開いてオーダーを選び、そのままGoogle payで会計が終わります(※日本ではQRが一部の店にはあるがそのまま会計というシステムはまだない。また過日食事した店ではQRと店員オーダーを併用していた)。
 そういえば、昨年仕事をした八潮ハラルフードコートのテーブルにQRコードが貼られていて外国慣れした日本人や東南アジア人のお客様がかざしたらメニューでもオーダーでもなく、お店の宣伝だったので思わず笑っていた(本音は苦笑いかも)。

 ◇「日本のCoCo壱番屋って店員さんがオーダーを取りにくるんですね。インドのCoCoは普通にQRだし、辛さもトッピングもスマホを見ながら決めて注文していたんですけれどね」
 私が知るインド人、CoCo壱番屋大好きな人が多い。初めての日本食って思っているらしく、インドのカレーとは別物みたいだ。旅行に行って外食は「いつものところ」=CoCo壱番屋のようだ。出勤の仕事があるとき、CoCo壱番屋へ行くとか、クライアントの会社訪問やシステム復旧で出かけるとき、CoCo壱番屋の場所をチェックしてから行く人もいる。
 いずれにしても日本はインドより遅れをとっているといえよう。尚、インド系の友人が「僕、最近中国に仕事で行ったけれど、中国もインドと同じでお金のこと、発展していたよ」と。ああ、思い出したがインドではお年寄りが最新のスマホを使い、若者がお年寄りのお下がりを使っていた。新しいもののほうが簡単だからと子どもがお年寄りのために新しい機種をプレゼントし、古いのを子ども(孫)に与えているそうだ。それは中国も同じだと知った。

 2.インド人と政治・国際情勢の話しをする
 このメールマガジン4月号が出る前日19日よりインド総選挙下院の投票が始まる。開票は全国一斉6月4日だ。ブータン人のように故郷での投票ではない。日本や国外在住の人たちは投票のボタンを押しに(電子投票)帰国する予定はなさそうだ。たまたま出張で帰国することがあれば別だ。路上でチャイを1杯買うにもQRコードでお会計するインドのことだから今後ネット投稿とかもありそうだが、いやいやコンピュータ・ウイルスもハッカーも先進国なのでなかなかそうはいかないだろう。
 
 ◆モディ首相とトランプ氏の比較をする
 いろいろな人(インド人)と話していると、なぜかそれぞれ別の視点でモディ首相とトランプ氏の共通点を挙げてくる。

 ◎リーダーシップと内向き政策を高く評価
 「トランプ、アメリカ・ファーストっていいですよね。まず自分の国が強くなくてはいけないから。モディさんもMake in Indiaで、まず自分の国を強くしようと引っ張っていってきました。安全保障に対する外交も力強い。テロリスト対策も実行しています。なにより2人がいいのは州によって差があった法律や行政システムがより平等になる方向に進めていったことです」
 州による格差はあまり日本のメディアでは取り上げられていない情報だ。だがアメリカもインドも深刻な問題だ。モディ首相はおかしな発言はないが、トランプ氏は大統領時代、中絶の問題など極端な発言をしているが州による道徳的な差を埋めたかったのかもしれない。今、大谷翔平選手の元通訳が賭博で問題になっているが、これも州で違う。
 「日本ではなぜトランプがネガティブなイメージばかりなのかわかりません」
 とも言われた。私もそういったネガティブなメディア報道ばかりしか知らない。支持者たちの声も知らない。
 
 私が知るインド人の多くはモディ政権になって経済の発展がめざましいと考えている。そして、「もし日本にいなくてインドに帰っていたら誰に投票する」かと言ったら「モディさんだろう」とかえってくる。「本当は10年やったから新しい首相が欲しい。10年ですよ。長い。でも今の路線でなければ次が見えないんです。他の候補に投票して、いい変化があるかどうかわかりませんから」

 ◎余計な・無駄な政策が多い/経済については望ましい
 「モディさん、なんで既存の健康保健省でなく、ヨガやアーユルヴェーダの専門の省庁を作ったのか理解できない。トランプ、メキシコ国境とか結局言っていただけで意味がない。これらを掲げたことで国内雇用の活性化にはつながらない。これ以外は国内政策の根本的な問題を解消しようと努力している。対外的にはどのくらい効果があったのかはどちらもわからない」(※翻訳)
 国民にとって意味がわからない政策が共通だったとは気づかなかった。日本は余計な・無駄な政策が多いからだ。

 ◎差別的な政策に不快
 ●コロナのロックダウン時期にイスラム教宗教施設で集会した人たちに対して「モディ、ばーか、ばーか」と怒りを私にぶつけたイスラム教のインド人。その後、イスラム教徒が多い土地にヒンドゥ寺院を建てるなど、そのたびに怒りを表してくる。
 トランプのイスラム教徒入国禁止や移民政策に共通している。
 ●バリバリのヒンドゥ教徒。しかし、モディ首相がヒンディ語第一公用語を掲げたら、めちゃくちゃ怒った。南インド出身。
 「首相だって、グジャラート語でしょ?インドの第一言語は出来ない人が多くてもサンスクリット語。それなら南の言語は対等だよ。英語は母語がなんであっても平等だからね」
 もしかしたら、南インドの頭脳海外流出を止めるために、教育言語を英語からヒンディ語に移行したいのかもしれない。そういう意味ではトランプと比較しなくても似て非なるものかもしれない。

 ◎問題があり過ぎる政敵
 「私はフィフティー・フィフティー。本当は10年やったから長すぎる。でも国民会議派、特にラフール・ガンディーは問題があり過ぎる。どちらに投票するかと言われたらモディさん。今、アメリカでトランプとバイデンを比べたら、バイデンはやっぱり問題が多すぎる」

(2024.4.20)
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