■ 農業は死の床か。再生の時か。

~「減反見直しは露と消えるか」~           濱田 幸生

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減反、またの名を米の生産調整を巡る攻防が最終局面に入りつつあります。
選挙を目前に控えて、いっせいに全農JA、自民党農水族の包囲網が固められ
ました。

前後の状況を簡単にご説明します。石破農水大臣は独走と言われながらも果敢
な減反見直しを唱えてきました。今までこのようなことを言った農水大臣は現れ
ませんでした。私は、農家のやる気と意欲を削ぎ落し、補助金にすがる淀んだ農
政の流れに抗して、突き進む石破氏に期待していました。
氏は、「いろいろな角度から減反政策について見直す。タブーを設けず、あら
ゆることが可能性として排除されない」(2008年12月28日TVでの発言)と述べる
など、各種の媒体を通して消費者に直接減反の見直しを訴えてきました。麻生総
理が石破氏を農水省に据えた人事そのものが、減反という日本農業の宿痾を段階
的に断つという意志があると見られていました。

農水大臣は実になり手が多いのです。農水族にとって農水大臣になるのはいわ
ば農水族出世ゲームの上がり、これで一生農業利権と終身議員の地位は安泰だか
らです。不祥事の温床となるのもむべなるかなです。このようなポジションに連
綿と続く農水族ではなく、自民党総裁選挙で唯一人、減反見直しを唱えた石破氏
を当てるということ自体、官邸の意志を感じさせるものでした。

農水省入りした石破氏がまず着手したことは、2008年末、MA米不祥事の責任を
取らせる形で当時の農水省官房長官ら幹部職員を更迭したことです。この官房長
官は総合食料局長当時に、減反を強化したことで名をはせている官僚でした。こ
の減反墨守の古株を切り、同時にMA事故米処理を受けて農水省内に10人の改革チ
ームを発足させました。そしてこれに農水省内の課長クラスの農政改革派を当て
ました。

これは立場こそ違いますが、民主党がかねがね言っている「霞が関に民主党議
員を送り込んで改革する」ということの先鞭をつけたものだと言ってもいいかも
しれません。石破氏は見かけのヘンテコさ(失礼。だってそうなんだもん)とは違
って、明確な理念と戦略を持っているかに見えました。

予想されたように、この石破農政改革は、各方面からの大きな反発と重圧を受
けることになります。その最大のものは、今年春からの全農JAを挙げての「生産
調整を守れ!」という大キャペーンと、それに後押しをされた自民、民主両党の
農水族議員からのものでした。

民主党は、他の政策分野は知りませんが、農政に関してはほとんど自民党の政
策と変わりありません。いやむしろ、本家自民党農水族よりいっそう旧来の農政
にしがみついている印象すら受けます。

それはこの減反というリトマス試験紙を浸してみれば分かります。民主党はか
つての記事でも書きましたが、謎の方針転換を行っています。2007年の参院選に
「農家所得補償」政策という花咲ジジイ的大盤振る舞い選挙マニュフェストで大
勝するやいなや、一転して2008年6月には減反見直し方針を完全に捨て去ります

私はこの陰に、当時民主党内で隠然たる勢力になっていた小沢一郎氏の影を見
ます。氏こそ一人区、つまりは農村選挙区での田中角栄型必勝法を民主党に伝授
した張本人だと私はにらんでいます。

農村の過半数を占める兼業農家を押さえることによって、その利害の代弁者JA
を民主党支持に向けさせることでした。兼業農家にとって、減反を見直すことが
、大減収につながると脅かし(*この減反見直し=農家減収が正しいか否かについ
ての検証は稿を改めます)、石破農政改革に対して叛旗を翻させ、一挙に農村票
を自民党から引き剥がすというのが、小沢氏の目論見ではなかったのかと私は考
えています。

理念もクソもありません。あるのはただ選挙リアリズム。新鮮味皆無。因循姑
息。思考停止。票田第一、利権第一。日本のリベラルは小沢一郎氏のような人を
大立者に据えねば勝利できなかったツケをやがて支払うことになるでしょう。

まぁそれは置くとして、この方針は着々と完了しています。まず、同じ穴のム
ジナである自民党農水族が悲鳴を上げました。彼らは「石破などにこのまま農政
をやらせたら、衆院選で大敗する!」という悲鳴を上げ出しました。もちろん、
彼らが農村選挙区に帰る週末の度に、しっかりと各地域のJAに「石破を支持し、
減反見直しなどに同調すれば、次の選挙で必ず落す」と釘を刺されたことはいう
までもありません。

かくして減反見直し包囲網の環は閉じつつあります。石破氏は減反見直しを選
択制にするとトーンダウンし、その選択制すら今や風前の灯火状態まで追い込ま
れています。その最大の原因はなんでしょうか?

JA?農水省?いえいえ、消費者という名の国民です。国民が農業をどうするのか
、今までのように消費者負担のまま兼業農家に任せたままでいいのかという問い
に反応しなかったからです。消費者の無関心、それが最大の原因なのです。

             (筆者は茨城県在住・農業者)

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