【コラム】
槿と桜(65)
韓国語と日本語―「数詞」と「助数詞」あれこれ
辞書的な説明になってしまいますが、「助数詞」とは、数を表す語(数詞)のあとにつけて、その物や事柄の数量を示す接尾語です。この「助数詞」は「数詞」や使われる物や事柄を示す単語と関わって、実際、使うときにこれでいいのだろうかと、ふと考えてしまう場合がときどき起こります。
日本語を学び始めた頃、韓国語にも「助数詞」がありましたから、あまり抵抗感はありませんでした。たとえば日本語で数を言うときに「漢語」で「1(いち)、2(に)、3(さん)~」と言う場合と「和語」で「1つ(ひとつ)、2つ(ふたつ)、3つ(みっつ)~」と言う場合があります。これは韓国語にも同じ用法があって、韓国語では「漢数詞」と「固有数詞」と区別して呼んでいます。「漢数詞」が「1、2、3~」、「固有数詞」が「1つ、2つ、3つ~」にあたります。
日本語での「漢語」の「1(いち)、2(に)、3(さん)~」は、「数詞」ですから、これに「助数詞」が後ろにつくのは当然です。そして「和語」の「1つ(ひとつ)、2つ(ふたつ)、3つ(みっつ)~」の「1、2、3~」はもちろん「数詞」です。でも「つ」は助数詞です。
たとえば「3歳」は、韓国語では「固有数詞」の「3」を使って「세살 (セサㇽ)」と言います。この「살 (サㇽ)」は「~歳」です。でも日本語の「3つ」は、これで「3歳」の意味ですから「3つ歳」とは言いません。ただし韓国語では「漢数詞」の「3」を使って「삼살 (サㇺサㇽ)」とは言いません。
つまり日本語では「漢語」の「3歳」も「和語」の「3つ」も使えますが、韓国語では「固有数詞」の「세살 (セサㇽ)」しか使えません。この点は韓国語の「漢数詞」「固有数詞」と日本語の「漢語」「和語」が似ているようで異なる点です。
さらに「和語」では「10」までで、それ以上はありません。しかも「8つ(やっつ)、9つ(ここのつ)」まではすべて「つ」がつきますが、「10」には「つ」がつかずに「とお」と言います。
初めてこの言い方を知ったときはとても不思議な気がして、その理由を何人かの日本の方に訊きましたが、明確な答えは得られませんでした。笑い話的には「5」のときに「5つつ」と「つ」を2回使ってしまったから「10」には使えないと言われたことがありましたが、もちろん学術的な根拠はないでしょう。
ところが韓国語の固有数詞は「99」まであります。これをすべて覚えなければいけませんから、外国人が韓国語を学ぼうとすると、めげてしまいそうになる要因の一つです。この点は韓国人でも同様で、「固有数詞」をしっかり言えない、あるいは知らない子どもは多いですし、大人でも「50」を超えますと、怪しくなる人も少なくありません。
それでは韓国語の「漢数詞」と「固有数詞」ではどのように違うのか、以下に示してみましょう。
漢数詞 固有数詞
---- ------------------ -----------------------
0 영/공(ヨン/コン) ―
1 일(イㇽ) 하나(ハナ)
2 이(イ) 둘 (トゥㇽ)
3 삼(サㇺ) 셋 (セッ)
4 사(サ) 넷 (ネッ)
5 오(オ) 다섯(タソッ)
6 육(ユㇰ) 여섯(ヨソッ)
7 칠(チㇽ) 일곱(イㇽゴㇷ゚)
8 팔(パㇽ) 여덟(ヨドㇽ)
9 구(ク) 아홉(アホㇷ゚)
10 십(シッㇷ゚) 열 (ヨㇽ)
11 십일(シビㇽ) 열하나(ヨラナ)
12 십이(シビ) 열둘(ヨㇽドゥㇽ)
このように並べてみますと「漢数詞」では11からは「10」と「1」、「10」と「2」のように音を組み合わせればいいわけで(多少発音が変わりますが)、日本語と同じだと言えます。しかし「固有数詞」は組み合わせればいいものもありますが、以下に示すように「漢数詞」ほどには単純ではありません。
漢数詞 固有数詞
---- ------------------ -----------------------
20 이십(イシㇷ゚) 스물(スムㇽ)
30 삼십(サㇺシㇷ゚) 서른(ソルㇽ)
40 사십(サシㇷ゚) 마흔(マフン)
50 오십(オシㇷ゚) 쉰 (スィン)
60 육십(ユㇰシㇷ゚) 예순(イェスン)
70 칠십(チㇽシㇷ゚) 일흔(イルン)
80 팔십(パㇽシㇷ゚) 여든(ヨドゥン)
90 구십(クシㇷ゚) 아흔(アフン)
それでは次に、これらの「数詞」が「助数詞」と組み合わされてどのように使われるのか、見ていきましょう。
韓国語では漢数詞と固有数詞で使える助数詞が決まります。上述しました「~歳」でもわかると思います。日本語では物や事柄を示す単語によって助数詞が決まりますから、「漢語」「和語」、どちらでも使える場合があります。
けれども和語の「つ」の使い方は、私のような外国人には規則性がはっきりしていないため、厄介な助数詞です。
たとえば子どもに年齢を聞いて、「3つ」、あるいは「3歳」と答えても違和感はありません。でも「1人」「2人」は「ひとり」「ふたり」と言いますが、「いちにん」「ににん」とは言わないと私は教えられました。でもあとから「1人前」は「ひとりまえ」とは言わずに「いちにんまえ」と言うことも知りました。
さらに期間の長さ(序列を示すものではありません)を言う場合の「1月」「2月」「3月」「4月」は「ひとつき」「ふたつき」「みつき」「よつき」と言っても、「1カ月」「2カ月」というように「~カ月」と言ってもどちらも違和感がありません。でも「5カ月」以上になりますと、日本語の「和語」では言わないようです。
韓国語では月数で期間の長さを言う場合、「漢数詞」(日本語の「漢語」)と「固有数詞」(日本語の「和語」)どちらもすべて言うことができます。ただし、上で示した比較表でわかりますが、まったく異なる言い方です。
「1カ月」「2カ月」~「12カ月」→「(일)1개월 イㇽゲウォㇽ」「(이)2개월 イゲウォㇽ」~「(십이)12개월 シビゲウォㇽ」。
「ひとつき」「ふたつき」→「한달 ハンダㇽ」「두달 トゥダㇽ」〜「열두달 ヨㇽトゥダㇽ」となります。
韓国語で「漢数詞」のあとにつける助数詞の代表例が「年月日、何時何分」です。日本語と同じと言いたいのですが、「何時」のときだけ「漢数詞」ではなく「固有数詞」に変わります。
たとえば、2020年2月10日9時12分→2020년 2월 10일 9시12분ですが、これをすべてハングルで表記しますと「이천이십년 이월 십일 아홉시 십이분」となります(下線部分が「固有数詞」です)。
外国語として韓国語を学習する方には「ややこしい」と感じると思います。
ただ韓国語の助数詞は日本語より規則性があります。日本語と違って、韓国語は「漢数詞」と「固有数詞」の使い分けがあり、「固有数詞」で使う助数詞には、日常よく使うものに「歳(살 サㇽ)・時(시 シ)・時間(시간 シガン)・個(개 ゲ)・本(병 ビョン)・人数(사람/명 サラㇺ/ミョン)・冊(권 クォン)・匹(마리 マリ)・台(대 デ)・枚(장 ジャン)」などがあります。
ただ助数詞がつくと次の数字の発音が変化して、1(하나)→(한)、2(둘)→(두)、3(셋)→(세)、4(넷)→(네)、20(스물)→(스무)となるため、注意が必要です。
たとえば「~歳」は「~살(サㇽ)」ですが、1歳は「한살(ハンサㇽ)」と言い、「하나살(ハナサㇽ)とは言いません。2歳も「둘살(トゥㇽサㇽ)」ではなく「두살(トゥサㇽ)」です。
「漢数詞」で日常よく使うものには「年(년 ニョン)・月(월 ウォㇽ)・日(일 イㇽ)・分(분 プン)・秒(초 チョ)・度(도 ト)・貨幣(원 ウォン)・回(회 フェ)・泊(박 パㇰ)・階(층 チュン)・番号(번 ボン)」などがあります。
韓国語では助数詞の前につく数詞、つまり「漢数詞」と「固有数詞」の使い分けが重要ですが、日本語の場合は助数詞の使い分けに重きが置かれているように感じられます。
しかも一つの単語にいくつかの助数詞が使えたり、助数詞が明確に決まっていなかったりもします。私がいちばん難しさを感じたのは、たとえば「1本」「2本」「3本」と文字を見れば、同種の数詞と助数詞が並んでいますが、「いっぽん」「にほん」「さんぼん」と発音しなければならないことを知ったときには大げさではなく、目の前が暗くなりました。
この助数詞については、教室で教えるたびに、学生たちに十分には理解されていないと感じてきていて、今回、敢えて私の日本語学習経験も加えて書いてみましたが、やはりまだまだ説明しきれていませんし、日本語の助数詞の難しさをあらためて認識させられました。
(大妻女子大学准教授)
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