【コラム】槿と桜(84)

韓国と日本のコンビニ事情

延 恩株

 韓国語でコンビニエンスストアは「편의점」(ピョニジョㇺ)と言います。漢字では「便宜店」と書きます。「편의」が「便宜」で、「점」が「店」です。日本語での「便宜」には〝都合が良い、便利が良い〟あるいは〝特別な処理、適したやり方〟といった意味がありますから、日本の方にもこうした漢字が使われているのは理解できると思います。ちなみに中国語では「便利店」(ビエンリディエン)と言います。

 でも、韓国人の私からしますと「あれっ」と思うのは、日本語には漢字で表記する言葉がないことです。日本語として使われているコンビニは「Convenience store」という英語を外来語として受け入れて、しかも短縮形で使い、「コンビニエンスストア」と言う人はめったにいません。「コンビニエンスストア」と言えば、英語ですから英語圏で通じるかもしれません。でも「コンビニ」は日本で考え出された外来語ですから、「漢字表記はないけれど、これが日本語なのだ」と私自身、変な納得をしています。

 さて、韓国と日本のコンビニを比べますと、外観はほとんど同じです。また販売されている商品もよく似ています。ほとんど同じと言っていいでしょう。日本の方が韓国へ行って、ちょっとした食べ物や日用品などの買い物に困ったら、私はコンビニに行くように勧めています。なにしろセブンイレブン、ミニストップなど日本でもお馴染みのコンビニも多く、勝手がわかっているという安心感が生まれるからです。

 韓国には四大コンビニチェーン店があって、その一つが「GS25」(ジエス・イシボ)です。韓国で店舗数がいちばん多いコンビニです。韓国で生まれたコンビニ店で、2005年に「LG25」から店名を現在のように変えました。
 「セブンイレブン」も韓国でよく見かけるコンビニです。外観、看板も日本とまったく同じですから、店舗だけを見ていると日本にいるような錯覚に襲われます。発音もほぼ同じです。
 そして、以前は日本の「ファミリーマート」として韓国人に馴染まれていましたが、ファミリーマートが撤退し、韓国独自のコンビニとして出発したのが「CU」です。韓国語には長音がありませんから発音は「シユ」です。
 もう一つのコンビニが日本のイオングループの「MINISTOP」です。日本から韓国に進出したコンビニ企業はいくつもありましたが、今から30年以上前に韓国で営業を始め、現在では韓国で唯一の日系のコンビニです。発音は「ミニストップ」ではなく「ミニスタッㇷ゚」です。 

 韓国と日本のコンビニは外観はほぼ同じと書きましたが、それは建物そのもので、コンビニ店の入り口周辺は日本のそれと様子が違います。それは店の前にテーブルと椅子が数セット置かれていることです。たいていはプラスチック製の簡単なもので、大きな日傘を立てているものもあります。店で食べ物を買ってすぐに食べたいときには大変助かりますし、見知らぬ人との相席をあまり好まない日本の方と違って韓国人はあまり気にしませんから、テーブル、椅子が有効に使えます。

 面白いのは、日本ではコンビニの前にたむろして食べ(飲み)ながらおしゃべりしているのは若い人たちが多いのですが、韓国ではこうしたテーブル、椅子を利用するのは若い人たちのみならず年配の人も多いことです。そして、夜になると一杯飲み屋気分でお酒を飲んでいる人もそう珍しくありません。
 韓国のコンビニでは、店の前だけでなく、店内にも食べられるスペースが以前からありました。日本では最近になって店内にイートインスペースが設けるコンビニも増えてきました(ミニストップはイートインを以前から取り入れていました)が、必ずあるわけではありません。

 また日本では消費税の関係でそのコンビニで買った食品を店内で食べれば、消費税が10%、持ち帰ると8%とややこしいのですが、韓国にはそのような区別はありません。ちなみに韓国の消費税は日本と同じで10%です。そして内税表記ですから、コンビニやスーパーマーケットで品物に表示されている価格が支払う金額です。日本は外税ですから品物の値段に税金を加えた金額を支払う必要があります。
 また韓国では、未加工の食料品や農作物、畜産物、水道代金は課税対象になっていません。つまり消費税がかかりません。日本では少し消費税が安くなる場合があって、飲食料品と定期購読している新聞の2種類は消費税が8%です。

 ちょっと横道にそれました。軌道修正します。
 韓国のコンビニでは店内で食べられるスペースはありますが、椅子に座って食べられるところは少なく、たいていはスタンド形式ですから立って食べることになります。
 立って食べるカウンターには電子レンジとお湯が置かれていて、店内で買ったものを温めたり、カップラーメンにお湯を入れて食べたりすることができます。電子レンジやお湯の用意がしてあるということだけでしたら、日本のコンビニも同じですが、店内で食べられるコンビニが少ないですから、その点は不便です。
 昼食の時間もあまり取れない忙しい人にとって、韓国のコンビニは短時間で食べられる貴重な〝食堂〟になっているというわけです。

 そのほか韓国と日本のコンビニで少し違うのは、日本のコンビニではアルコール類やタバコを扱っていないところがあります。でも韓国ではほぼアルコールもタバコも扱っています。時たまタバコを扱っていないコンビニもありますが、珍しいかもしれません。ただし高速道路のサービスエリアにあるコンビニはアルコール類を扱っていませんが、これは当然でしょう。

 また、韓国と日本のコンビニの弁当コーナーで異なる点があります。それは日本ではパックに入った惣菜がかなりの種類を揃えて置いてありますが、韓国のコンビニにはありません。そのかわりいかにも韓国らしい小分けされた各種キムチ(각종 김치)、豚足(족발)、豚の腸にもち米や香味野菜、豚の血を混ぜてソーセージ状にした「スンデ(순대)」、私がときどき食べたくなる餅をコチュジャンベースで甘辛く煮込んだ「トッポキ(떡볶이)」などが置いてあります。これらはおかずというより小腹が空いた時の食べ物と言ってもいいかもしれません。

 日本のコンビニやスーパーマーケットではまず見かけないのが商品のそば、あるいは商品そのものに「2+1」や「1+1」といった数字がついている場合があります。日本の方にはまずその意味がわからないでしょう。
 「2+1」とは、この商品を二つ買ったら1つおまけします、という意味で、「1+1」とは、この商品を1つ買ったらもう1つおまけします、という意味なのです。
 韓国にいる時は私もついこの手の商法に乗ってしまい、結局、買いすぎたと後悔することもありました。単純に得な買い物をしたと喜んでばかりいられない場合もありますから、要注意です。

 今回は韓国のコンビニの様子について簡単に触れました。確かに便利で、たいていの日用品でしたら24時間、いつでも買うことができます。でも私は昔ながらの市場での買い物も楽しいと思っています。何よりもお店の人と話をしながら買い物をするのは、コンビニではできません。
 昔ながらの商店と現代的なコンビニ、それぞれの特色がありますから、上手に使い分けて買い物をするのが賢い消費者と言えるかもしれません。

 (大妻女子大学准教授)

(2021.09.20)
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