少しずつ変えていくことに耐えられないならば、原子力に負けるしかない ~電力自由化と脱原発は別次元ではないのか~

  濱田 幸生


■電力自由化と脱原発はワンセットではないはずだ

私は、かねがね今の脱原発派の論理の立て方では政府の思うつぼにはまっている、と思うことしきりです。あらためて確認すれば、脱原発派の皆さんの論理はこんな骨格です。
①[原発再稼働阻止]・[再処理阻止]→
②[再生可能エネルギー拡大]・[FIT(全量固定価格買い上げ制度)推進]→
③電力自由化[電力会社解体]・[発送電分離]
私が危惧するのは、脱原発の戦略を再生エネルギー=FITの拡大におき、発送電分離による電力自由化に見いだしていくという、まったくの新自由主義的構造改革路線に変容していることです。しかも段階を経て実現するという斬新的改革ではなく、一挙にやってしまえという急進的路線です。
確かに原発の息の根は止まりますが、一緒に日本の息の根も止まってしまいます。病気を治そうとして、患者ごと殺してしまうようなものです。大変に無責任な理想主義です。 日本共産党、みんなの党、維新の会、社民党、朝日新聞、東京新聞、毎日新聞などの論調がこれです。 なんと、不倶戴天の関係であるはずの新自由主義とリベラル潮流が同居しているという景観を呈しています。結論から言いますと、このオリジナルモデルがドイツにあるのですが、原発の再稼働を認めずに、ドイツと同じように①、②、③の「改革」を同時実行すると、100%の確率で電気料金の大幅値上げと電力不足の加速を引き起こします。
電気料金の高止まりは、中小国内製造業を確実に疲弊させていきます。また、原油高騰による輸入増大による国富の流出はすでに4兆円規模にまで達しています。将来、これに瞬間停電、あるいは広域停電が加わる可能性が高まっています。
このような国内事情をまったく省みることなく、朝日新聞の論調は社説も記事も原発再稼働反対一色に染まっていて、公示日7月4日の社説ではこの調子です。
「半年間の安倍政権で目につくのが、自民党の『先祖返り』ともいえる動きだ。(中略)原発政策も同様だ。(安倍政権は)停止中の原発の再稼働や原発輸出への前のめりの姿勢ばかりが目立つ。こうした動きを後押しするのか、待ったをかけるのか。有権者の選択にかかっている」。
どうやら朝日は、去年の衆院選の時と一緒の「脱原発選挙」のモードに持ち込んで白黒をつけたいようです。
しかし、朝日の「自民党の先祖返り」という指摘は正確ではありません。実は菅内閣の原発事故対応の大失敗を受けた民主党野田政権時から、「先祖返り」は始まっていると見るべきです。
野田前首相が、大飯原発再稼働を訴えた時にこう言ったことを思い出して下さい。彼はこう言ったはずです。
「(現時点では)原発が無くては国民の生活と産業のためのエネルギーを賄うことができない」。
つまり野田首相は、前任者だった菅氏のとおりに脱原発を訴えて原発電力の代替は自然エネルギー電力だとした場合、電気料金の値上がりは避けられず、大規模停電すらありえますよ、と警告したのです。 しかし、再生可能エネルギーの限界をたぶんよく知りながら、野田政権と安倍政権は菅内閣が作った再生可能エネルギーのFIT(全量固定買い入れ制度)を継続しました。
電力料金の自由化移行の値上がりにより、発電・発送電の実費コスト(紺色部分)が1998年と変わらないのに、2012年では家庭用では45%、産業用では39%値上がりしています。

この原因は、ドイツでは電気料金の半額弱までが再生可能エネルギーの賦課金負担という異常な構造となってしまっているからです。 電力の自由化を脱原発政策と一体に同時実行したドイツでは、国民は情報開示と電源選択の自由というささやかなプラスを得て、それと引き換えに年々増え続ける賦課金負担と電力料金の値上げという重い荷を背負い込むはめになりました。
2011年ドイツでは年間で7.5ギガワットの太陽光発電が設置され、その補助金総額は20年間累積で合計180億ユーロ(当時のレートで1兆8500億円)でした。 我が国は既に初年度だけの認定設備が12.2ギガワット(2月末現在)ですから、ドイツの1.62倍です。そして買い取り額はその2倍ですから、20年間累積で約7兆円前後と推定されます。 1年間にするとざっと3500億円といったところでしょうか。これが薄く広く電気料金に上乗せされるわけですが、思い出して頂きたいのはFITという制度は「20年間固定買い入れ」なのです。

つまり初年度42円(太陽光)の価格のまま20年間、そしてこの制度を止めない限り毎年買い込む高額買電料は積み重なっていくのです。 しかも最初は1年間分ですが、次年度は2年間分、3年目は3年間分と積み重なっていきます。なんか年齢スライド型ローン地獄のようですね。
ドイツでは、初期は我が国と同じくらいの3000億円前後でしたからあまり負担は見えなかったのですが、積もり積もって13年現在では、年間200億ユーロ(2兆4000億円)にも達するようになってしまいました。

するとさすが国民の負担も人口8000万人のドイツだと、一人当たり3万円という途方もない額になり、電力貧困層という電気代が払えない貧困層まで誕生するようになってしまいました。これは税負担と電気料金上乗せの二重の形で消費者・国民が背負います。しかもこのFITで儲かるのは、太陽光発電装置を付けられる富裕階層だけという金持ちに優しい制度です。ですから遠からず、FITは買い入れ額を大幅に落とすか、買い取り量に制限をつけるか、はたまた買い入れ額を再生可能エネルギーで一本化するなどして競争原理を導入せざるを得ないでしょう。

というか、そんなことをするくらいだったら、FITなど初めから止めりゃよかったのです。 要するに、第1段階の広域系統運用が出来上がる2016年ごろまでには、FITには大鉈が振るわれる可能性が高いと思われます。 そしてFITが後退、ないしは廃止されるということは、今までの脱原発派が唱えていた「脱原発=再生可能エネルギー=電力自由化」という三点セット戦略が崩壊する時でもあるのです。 野田、安倍政権は、意図したかどうかわかりませんが、脱原発派の脱原発=再生可能エネルギー=発送電分離(電力会社解体)というシナリオを、あえてFITを続けることで国民に脱原発派のシナリオの実現不可能性を実証して見せた、ということになります。

いうまでもなく、脱原発は必要です。しかし、それはこのような急進的な政策によってやった場合、その被害のほうが大きいのです。 しかも今のように原油高の時期に、電力自由化とセットで叫ぶなどは正気の沙汰ではありません。 再稼働に関しては、規制委員会の新規制基準による客観的判断によればいいのであって、規制委員会がしっかりと機能している今、再稼働反対と一般的に叫んでもまったく無意味です。

政府が、規制委員会に対して不当な政治的圧力を政府が加えることがあるなら、国民がきちんと抗議すればいいのであって、今ではありません。ムード的急進路線をとれば、すべてか破綻します。少しずつ確実に変えていくことに耐えられなくなったならば、原子力に負けるしかないのです。

■政府の「電力システム改革」では発送電分離は最後に

さて今年の4月2日に、安倍内閣の「電力システム改革」を進める方針が閣議決定され、政府は、この「電力システム改革」を3段階で進めるとしています。
・第1段階・・・ 2015年をめどにして、広域系統運用機関の創設し、地域を超えて電力を融通できるようにする。
・第2段階・・・2016年をめどにして、電力の小売りの全面自由化。家庭や企業に自然エネルギーを売れるようにする。
・第3段階・・・2018~20年をめどにして、発送電分離。電力会社の送配電部門を別会社にする。
これを多くのマスメディアは「骨抜き」にしたと批判しているようです。というのは、この「電力メカニズム改革」では、当面中心となるのが「広域系統運用」だからです。
脱原発派やマスメディアは、飯田哲也氏命名によれば「幕藩体制」のような電力会社の地域独占を解体する第3段階がメーンになると考えていました。
彼らの描いた「電力会社解体」シナリオでは、第3段階の発送電分離を初めにすることで、第1段階の電力供給の地域独占体制の廃止と、第2段階の電力の自由化が実施できるとしていたようです。
しかし、今回の安倍内閣の「電力システム改革」では、順番が逆になり、発送電分離は最後の2018年から20年にまで繰り下げられてしまいました。
これが彼らが「骨抜き」と呼ぶ理由です。ひょっとして発送電分離まで行き着かずにフェードしてしまうことを危惧しています。
朝日新聞記事などを読むと、「(改革案が)骨抜きにされる」と表現し、さらに「背景には電力業界の抵抗があり、自民党政権になって改革が巻き戻されつつある」と、まるでこの電力改革に反対する奴は悪者扱いです。
あいにくですが、朝日と違って私は「骨抜き」にされてよかったと思っています。
現在、福島事故から3度目の夏を目の前にして、電力業界は電源比率の大きな部分をになっていた原発が停止している上に、その改修費だけで莫大な損失を被っている状況です。
おまけに泣き面に蜂なことには、代替である火力の原油相場が高止まりしている上に、円安まで重なっている始末です。
このような中で、善し悪しは別にして電気料金を低く抑えていた原発の稼働停止により、電気料金の上昇が現実のものとなるでしょう。
たぶん第1段階の広域系統運用だけで、電力融通がむずかしい我が国の周波数特性からしてそうとうに難問なはずです。
原発に代わって火力の主力は天然ガス火力ヘ移行していますが、現状では国際情勢の不安定と、それを狙ったヘッジファンドにより価格の乱高下が繰り返されています。
この現状で「電力シテスム改革」第3段階の発送電分離を強行した場合、電力の不安定といった事態はより深刻化します。
なぜなら、喉から手がでるほど電気が欲しい小売りや送電業者にとって、発電側が圧倒的に強い売り手市場になってしまうからです。
そもそも、発電業者には、再生可能エネルギーのFIT制度か導入された時点で、太陽光の馬鹿げた高値で火力に対するインセンティブ(やる気)を失いかかっています。
その上に燃料高ですから、現状のような電事法による電力の供給義務がはずれた場合、電力価格をできるだけ安くしていこうとする技術革新に対するインセンティブは薄れていくでしょう。
また、発電部門の中心である火力発電は、出来合いの部品をポンポンとプラモデルのように組めば素人でも出来てしまうメガソーラーなどと違って、予定から完成まで10年近いスパンがかかる技術的にも高度な重厚長大産業です。
このような部門には一画千金を狙う銀バエのようなホット資金は流入しません。ですから、今は太陽光のみが盛況ですが、発電部門主力の火力には参入は限りなくゼロに近いはずです。
というわけで、残念ながら電力自由化派の目論見とは逆に、電力市場での競争は小売り以外にはおこらず電気料金の値下げどころか、今の燃料高と再エネ法による法外価格の設定により、電力小売り価格の上昇が始まります。
その上、この電力融通もできていない現状で、発電部門と送電部門を切り離すと、大規模停電の可能性が高まるでしょう。
ところで、我が国の電力供給は地域バラバラで(※下図参照)、全国をつなぐ送電網はありません。
日本の電力網は、新潟県の糸魚川を境に東は50ヘルツ、西は60ヘルツに分かれていて(糸魚川ライン)、このラインをまたいで融通できる電力は、100万キロワット程度しかないのが現状です。
この欠陥が東日本大震災の時にもろに出たのは、私のような東日本に住む人間には骨身にしみています。
また、日本は、地理学的にも日本列島は東から西に長く伸びており、時差が約1時間あります。つまり九州で夜に突入しているのに、東日本以北ではまだ明るいのです。
この時差を利用して電力ピークの電力融通ができないかという考えもあります。
私はこの電事法改正にはおおむね反対ですが、この第1段階のみは大いに必要だと考えています。
我が国のような原発停止、エネルギー国際市場の不安定という難しさがなかったドイツや英国の電力自由化ですら失敗していることを、「改革派」はもう少し真面目に総括されたほうがいいと思います。
私はこのような電力事情の中で、「電力自由化」を急ぐ理由は全くないと思います。

■原発事故に乗じたショックドクトリン(火事場泥棒)

では再生可能エネルギー拡大の切り札として登場したFIT(全量固定価格買い入れ制度)の実情を見てみましょう。
メガソーラーは土地代の安い北海道と、被災地・東北に建設ラッシュが始まりました。
災害や戦争の後に、そのショックに乗じた「改革」が来る場合があります。
福島事故の後に、原子力に対する恐怖と反省が生まれたのは当然です。私も「被曝地」の住民のひとりとしてよく理解できます。
しかし、原子力とは本来なんの関係もないはずの再生可能エネルギーの全量買い取り制度をたいした国民議論もなしに決めたり、果ては電力自由化などに進むのは、大規模災害の利用主義です。
ましてそれを復興計画とは無縁に、被災地に持ってくるなどは意地汚さにもほどがあるというべきでしょう。           
設置も既製品を鉄骨のフレームに載せるだけですから、設備屋もあまりに簡単な工事すぎて儲かりません。
「資源エネルギー庁新エネルギー対策課によると、国内で稼働するメガソーラーのうち、8割は中国・台湾などの海外製品」(産経新聞5月1日)だといいます。
「国内メーカーの競争力底上げをなおざりにしたまま、急速に門戸を開いた国の施策に、東北大学大学院の桑山渉特任教授は『国内メーカーを中心とした仕組みを作らず、中途半端な施策を進める国のあり方には疑問。電力料金でまかなわれる買い取り制度は、国民の税金を投入しているようなもので、それが海外メーカーに吸い取られるのは問題だ』と指摘している。」(同)
しかし、太陽光に関してはこの競争力の底上げも難しいでしょう。なぜでしょうか。理由は簡単。
太陽電池は要するにシリコン製品です。このポリシリコン、メタルシリコンの世界的産地が中国で安価に入手できるのですから、輸入に頼るしかない他国はかなうはずもありません。
しかも製造工程はこれ以上ないくらいの簡単さ。ターンキーと呼ばれる一貫生産ラインを作ってしまえばジャカスカ出来ます。
太陽光発電装置は、一見ハイテクに見えますが、実はn型シリコン、p型シリコンに2ツの電極を付けただけの簡単な半導体デバイスです。バカデカイので、半導体と呼ぶのはちょっとというだけのシロモノです。
こうなったのも、今、世界の太陽光発電の需要は、セルベースで25ギガワットですが、供給能力はその倍の50ギガワット以上あると言われ、過剰生産となっているのが根本原因です。
なんのことはない、FITによって、我が国は巨額の税金で中国企業を儲けさせ、その中国企業も過剰生産で片端から潰れているのです。まことに非エコ的風景です。
誰が儲かっているのかさっぱりわからないが、巨額の税金をつぎ込んでくれるというのだからなんとかなるだろうと、後から後から新規参入者が絶えないという奇怪な業界がひとつ誕生したわけです。
よりによってこの世界的太陽光発電の大過剰生産・大不況時に、42円の世界一の超高額買い取り価格を設定したら、とんなことになるのか、国産保護もなしでそれをやったらわが国が好餌になるのは見えていました。
「岩手県では県内の未利用地50カ所を選定したリストを作成。県が把握する限り18カ所で契約締結、少なくとも4カ所の主体は海外資本という。」(同)
この再生エネ法を書いた役人は、まるで世界の太陽光市場のマーケティグをしなかったとみえます。
地道にいろいろな種類の再生可能エネルギー源を拡げ、それをつなげていくというオーメドックスな道を取らず、一挙に国単位でドカーンっとやった挙げ句、投機筋と中国製パネルとバイヤーに牛耳られるはめとなったのです。
こんなことはFITの先行事例のドイツを見れば、分かりきったことでした。
地方にはメガメーラーの空き地を求めて、バイヤーが徘徊し、高圧線の付近に空き地があれば吹っ飛んでくる風景がそここで見られるようになりました。
電気量販店は、大きな屋根をみると直ぐにセールスに押しかけ、農家の納屋の上にもソーラーが重そうに乗っているのが珍しくなくなりました。屋根貸し商法も大流行のようです。
なにせ、太陽光はドイツの2倍という法外な価格で20年間買い取るという、経済性を度外視したのがFITですから。
しかし、冷静に考えれば、150万くらい投資して、ほんとうに儲かるのは十何年先なんですがね。

■地方経済への貢献ゼロ

あれだけマスコミが持ち上げた「メガソーラー発電所」といっても雇用はまったく生まず、設備関係もたいした経済波及効果が期待できず、地域経済への貢献度はゼロ。
地元はただ土地を貸しているだけで 、それすらも目をつけられたのが耕作放棄地のように利用されていなかった土地や、被災でできた空き地ですから土地代は二束三文。
部品が地場調達されるわけでもなし、ギラギラ光るパネルが増殖するだけで、地元はまるでメリットがありません。
「海外資本の進出なんて、これまでなかった岩手県金ケ崎町の担当者の表情は複雑だ。同町では、国が太陽光発電の固定価格買い取り制度を開始した平成24年7月前後にメガソーラー事業が急増。民有地4カ所で事業契約が締結され、うち1件が大手中国企業の子会社だった。同町のケースは民有地への進出のため、細かな契約内容に町が介入できない。」(同)
「契約満了後の土地利用も更新か撤退かで大きく変わり、まちづくりの長期ビジョンは不透明となる。「採算が合わずさっさと企業が撤退、ということも…。被災地が食い物になる」。地域に不安がくすぶる。」(同)
ソーラーパネルは原理が簡単なので、中国のサンテックパワーがシェアをにぎりましたが、過剰生産で倒産。
パワーコンデショナーの世界シェア4割を握っていたSMAソーラーも、太発電関連資材の暴落を受けて売り上げ激減で、株価大暴落で風前の灯火状態。
もう中国でもソーラー発電企業100社くらいが乱売状態です。
太陽光発電資材メーカーのGCLも倒産寸前で、在庫したウエハーだけで2億枚といいますから、とてつもない規模です。
これらが日本市場向け製品として叩き売られているのですから、まっとうな競争原理は通用しないはずです。
かつて世界一だったドイツのQセルズは会社更生法、シャープも同じようなもの、日独米を合わせてもたった35%で中国一国にもかないません。
これらのバカ丸出しのFITで吊り上げられた売電価格は、別に国が買い取るわけではなく、電力会社が買い取ることになります。
電力会社は、これを末端ユーザーたる消費者の私たちに電気料金値上げで転化します。
つまりは、私たちが電気料金の値上げに泣くことになります。
なんのことはない、おいしい初期の超高額価格のうま味は、外国人投機筋が吸い尽くし、国産メーカーは不況にあえぎ、中国製だけが支配し、電気料金は値上がりを続けるといったことになります。
実際、ドイツはまさにこのコースを忠実に辿りました。80万所帯もの電力貧困層を生んだ結果、FITからの離脱する方向です。

■このまま電気料金の上昇が続けばドイツのように企業が外国に逃げていく

ドイツ商工会議所がドイツ産業界の1520社を対象に行なったアンケートによれば、エネルギー・コストと供給不安を理由にして、5分の1の約300社が国外に出て行ったか、出て行くことを考えているという衝撃的数字が出ました。
日本でも、経団連が会員企業を対象に同様のアンケートによれば、以下の回答が寄せられています。(経団連タイムス2012年4月26日)
・「生産が減少または大きく減少する」           ・・・72.8%
・「国内における設備投資が減少または大きく減少する」・・・55.3%
・「海外における設備投資が増加または大きく増加する」・・・38.9%
・「収益が減少または大きく減少する」           ・・・96.5%
このまま電気料金の上昇が続けば、日本の製造業は外国に逃げ出すことでしょう。それはドイツでは現実になっています。
ドイツとわが国のFITの大きな差は、ドイツは原発が停止していないことです。
ドイツは未だ原発が稼働していますし、ヨーロッパ送電網からの電力供給も受けています。ですから、電気代もFITの圧力をそのまま受けるわけではないのです。
それですらドイツは薄氷をふむような供給事情でした。
そして地元の心配どおり儲からなくなれば、外国の投機筋はさっさとソーラー設備を捨てて逃げ出すかもしれません。私はそうなると思っています。買い切り価格が下がれば、わが国になど用はないのです。
安物の中国製パネルなどは捨てて逃げ出す外国資本が沢山でることでしょう。

■「原子力と人類は共存できない」の原点に戻りませんか

現在の脱原発派のミスリードは、原発ゼロの代替を再生可能エネルギーとしたために、その急激な拡大を図るためにFITを導入し、さらには発送電分離までをも一体のものとして論理構築してしまったことです。
冷静に考えれば、これらは本来別々なものではないでしょうか。
原発ゼロの代替は再生可能エネルギーである必要はなく、ならばFITという矛盾に満ちた制度も不要であり、発送電分離に至ってはなぜこの時期に出てくるのかさえ不思議です。
このようにふと我に返ると、なぜこんなことにこだわっていたのだろうと思う時があります。そのような時は、最初の場所に戻ることです。
つまり、私たちが本当にやりたかったことは「原発をなくすこと」だったはずじゃないですか。
再生可能エネルギーはそのためのツールでしかないはずで、目的ではなかったはずです。ところがいつしかそれ自体が目的と化してしまいました。
そこからFITというドロボーのような制度が必要となり、本来別次元の発送電分離まで飛び出したのです。
初発の「脱原発」に戻りませんか。まだ間に合います。

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