【沖縄の地鳴り】

雨中の11・14シールズ新宿反辺野古集会へ

仲井 富


 11月14日、ふと思い立って雨の中を新宿に向かった。一週間くらい前のインターネットの記事で、シールズのメンバーが記者会見で、辺野古埋め立て強行に抗議して、東京、名古屋、大阪、福岡、辺野古現地などで、一斉抗議行動を行う、ということを知った。冷たい雨が降る中で、ほんとに一週間くらいの告知で人は集まるのか。かつては集会の案内はすべて郵便と電話でしかできなかった。どんな集会でも一カ月の準備が必要だった。いちど「シールズなるものを覗いて見よう」という好奇心で出かけた。

 定刻の午後2時半に新宿東口の、新宿アルタ前に近づいて驚いた。まだ集会は始まっていなかったが、広場は白いビニール傘で埋まっていた。老人の予想では、この雨の中で人は集まるまい。せいぜい数十人で、ひょっとしたら雨天中止もありうると思って出かけだが、予測は外れた。そのことにまず感激した。

 やがて宣伝カーを演台に仕立てたもので集会が始った。司会者の挨拶は、「今日の辺野古工事強行に抗議する集会の決議文を読み上がます」だった。本来、こういうものは集会の終りに一種のセレモニーとして朗読されるものだが、シールズの司会者は、それを冒頭に持ってきた。これも若々しい声で読み上げられると、簡潔で要を得た辺野古工事強行への意味と意義をまとめたもので、実に新鮮な感じだ。

 その後、沖縄一区選出の共産党赤嶺政賢衆議院議員、糸数慶子参議院議員が壇上に立った。赤嶺議員の話で印象に残ったのは「工事を強行すると騒いでいるが、まだ本格工事の埋め立てが始まったわけではない。埋め立ての土砂はまず名護市内の土砂をトラックに積んで投入する。それをやるためには名護市長の許可を取る手続きも要る。そういうところから闘いが始まる」という話だった。彼の話は初めて聞いたが、実に分かりやすく明確に問題点を指摘する、ベテラン議員の味があった。

 糸数慶子参議院議員は、「私も赤嶺さんも、明日沖縄に帰れば、辺野古ゲート前の座り込みに参加する。私の子供は三人、それに三人の孫がいる。これから百年二百年も使えるような新基地を、普天間危険性除去という名の下に受け入れることは絶対できない。それが沖縄県民多数の心だ」と語り、「アメリカにまたオール沖縄の代表を送り、不退転の沖縄の決意をアメリカ本国にぶつける」と語った。

◆白藤博行専修大学法学部教授のスピーチ 行政法学者100人が反対声明

 その後、白藤博行専修大学法学部教授のスピーチがあった。これは私自身も参考になり、かつ今日、自公政権が公然と憲法はおろか地方自治法もすべて、沖縄には認めていない事実を明白にしたものだった。最も端的な現れがつい最近、佐賀県知事が「同意できない」と言ったら、あっさり佐賀空港へのオスプレイ配備訓練を撤回した。にもかかわらず辺野古新基地反対の翁長知事には一顧だにしない。「沖縄差別」は一目瞭然だ。白藤教授のスピーチはそのことを明白にした。以下に要旨を紹介する。

— 米兵は車をぶつけても、人を殺しても、少女を強姦しても、基地の中に逃げ込めば裁かれない。日米地位協定という法律で、米兵は罪を逃れ、沖縄の人たちはまともな人権も認められていません。最近、辺野古新基地建設の問題に対して全国の行政法学者400人によびかけました。5日間で、辺野古埋め立て承認に関する行政法学者による反対声明に100名の賛同者が集まりました。私たちは本土において様々な場面で人権を守られております。しかし、沖縄の人々は自らの安全や土地の使用など基本的な人権すら守られておりません。それはなぜか。本土と沖縄には安保条約に基づく、日米地位協定、さらに特別特措法という高い壁があります。アメリカに要求されれば、日本政府は、こともあろうに私人になりすまし行政不服審査法を沖縄防衛局に適応し、そして裁判所にお墨付きを出させようとしています。立憲主義も法治主義もない。こんなことを行政法学者は絶対に許すことはできません —

◆スペシャルゲストのソウルフラワーユニオン登場

 集会途中で雨も小降りとなり、参加者の顔を見ることができた。やはり若者や若い女性、中年の女性が多い。原発デモのような中高年のおじさん、おばさんの集まりとはかなり違う。スペシャルゲストのソウルフラワーユニオンというのも、国際的に有名なグループらしい。司会者がその名を告げると会場がどよめいた。近くにいた若い女性に聞くと沖縄でも、辺野古節、満月の夕、踊れ!踊らされる前に!などの歌で、辺野古基地反対を2008年ころから歌っているというから年季が入っている。そういうメロディが流れる集会というのも緊張をほぐしてくれる、安らぎがあっていい感じだ。

 雨が止んで顔が見えてくると、かなり報道陣も来ており、またアメリカ人らしい人たちが、しきりに写真を撮っている。面白い女性がいた。安倍首相の木偶人形をつくり掲げている。そして壇上のスピーチに対する拍手の度に、持っている木槌で安倍人形の頭と叩くのだ。みんな、その人形を叩くしぐさが面白くて、写真に撮って行く。アメリカ人の撮影者も「面白い」と言いながら、撮影していた。明日はドイツに帰るという二人の日本女性もいた。やはり、いたたまれない気持ちで参加したのだろう。安保法制可決後も、日本全国で、小さくとも声を挙げよう、安保法も沖縄辺野古も一体のものとして、考えるという市民運動の波が、本土で広がっていることに注目したい。

◆集会決議文の朗読と学生スピーチ

 集会の締めくくりに、もう一度決議文の再朗読があった。「初めは、ちょっとアセッテ早口に読んだのでもう一度決議文を読みます」というのも、素直でいい感じ。スペシャルゲストのソウルフラワーユニオン登場のときも、「準備に時間がかかりそうなのでちょっとお待ちを」と言ったり「あっ、早くなりそうなので間もなくです」となったりする。楽屋裏が丸見えの素人らしい、もたもたぶりをさらけだしているのも、素直で好感が持てる。学生たちのスピーチもちゃんと原稿用紙に書いて、それぞれが、素直な自分の感覚を披露した。日本の民主主義の危機と、沖縄で行なわれている政治的暴力は一体だ。これを傍観することはできない、という危機感に溢れていた。辺野古に座り込みに行って来た、女子学生の切々たる訴えが心に残った。「かつて私はなにも知らずに沖縄のきれいな海と空を享受する旅に出た。その海が戦争のために埋め立てられ、青い海とジュゴンなどの生きものが死滅する。そのことへの不安と怒りでいっぱいだ。真実を知った私は一人の人間として沖縄の人たちとともに戦う」と語った。

 決議文では「我々は日本国憲法が保障している自由と民主主義を守り発展させたい。安保法制も辺野古新基地もまさに共通の、自由と民主主義の問題だ」という。そのアピールに新鮮さを感じるから不思議だ。自由民主党は、自由と民主の憲法も地方自治も投げ捨てて、アメリカに更に寄りそって戦争も辞さないかまえだ。野党の民主党も学者も立憲主義違反と自公政権を攻撃するが、沖縄で憲法が保障する自由と民主主義、基本的人権が圧殺されている現状には一言も語らない。岡田民主党党首の、辺野古を問われて「お気の毒だが辺野古に我慢してもらうしかない」という返答に象徴される。既成政党が投げ捨てた自由と民主主義の旗を、彼ら若者、学生、女性たちが高々と掲げ始めた。その根底に流れるのは「沖縄も安保も同じ自由と民主主義のテーマだ」ということだ。

 振り返ると明治の自由民権運動以降、足尾鉱毒事件は日清、日露戦争と不離一体だった。田中正造大学の坂原辰男事務局長は「足尾鉱毒事件が顕在化した1890年から125年を経たが未だ足尾鉱毒問題は続いている」という。戦後の水俣四日市公害は日本の高度成長の犠牲だった。砂川、三里塚は国家権力とアメリカの占領政策の犠牲となった。三里塚空港反対闘争を今なお続ける畏友加瀬勉氏[千葉県多古町在住]は、「日本の住民運動は時を超え、地域を超えて連綿と地下水脈のようにつながっている」という。沖縄米軍基地は戦後70年銃とブルドーザによる強制基地化が今後も続けられようとしている。当面の選挙や運動の個々の勝敗は別として、若者や女性たちの間に広がる「自由と民主主義≒辺野古反対」の叫びに、「希望」を感じた。

 (オルタ編集委員)


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