【沖縄の地鳴り】

限りない自衛隊の増強
― 何を狙う「日本版海兵隊」創設 ―

大山 哲


 トランプ大統領と安倍首相のゴルフ外交で幕開けした日米首脳会談(11月6日)。日米同盟《軍事》の絆の強さを、しっかりと印象づけた。
 北朝鮮危機には、そろって対話よりも「圧力」を強く打ち出し、日米がまるで運命共同体であるかのような演出をした。会談を貫く象徴的な内容は、日米同盟の下での自衛隊の軍事的役割の増大、重要性を再確認し、合意したことである。

 こんな蜜月ムードの中で、トランプ大統領は「首相は、大量の軍事装備を(米国から)購入するようになるだろう」と、セールスマンよろしく、軍需産業界に代わって、兵器の売り込みをした。これに応えて、安倍首相は「日本の防衛力を質的にも、量的にも拡充していきたい。米国からさらに購入していく」と、自国の憲法条項を無視して、トランプ大統領に同調して見せたのだ。首脳会談で、兵器の取引話が公然と行われた異様な光景に、恐怖と不安、違和感を覚えないわけにはいかない。日本の防衛予算は、年々増え続け、17年度は5兆2,551億円(対前年度比2.5%増)にまで達した。これに呼応して、8月17日の日米協議(2プラス2)で、わざわざ小野寺防衛相は「自衛隊の役割を拡大する」と表明して見せたのである。

 自衛隊増強の理由は、中国の尖閣諸島などへの海洋進出や北朝鮮のミサイル発射への対抗手段、抑止力の必要を掲げる。次々明らかになるオスプレイ17機の導入計画、陸上配備型迎撃ミサイル「イージス・アショア」の購入、最新鋭機F35Aステルス戦闘機45機購入など、新鋭兵器の装備は、ほとんどが米国製で、トランプ大統領発言を裏打ちしている。
 さらに、新型護衛艦、潜水艦の導入、島しょ防衛と銘打った有事の際のミサイル攻撃用兵器の研究など、自衛隊の肥大化は歯止めが効かない。

 一連の自衛隊増強のなかで、かねてから噂されていた、自衛隊の「水陸機動団」が、来年3月に新設されることが明らかになった。陸、海、空の3軍しか持たない自衛隊に、水陸両用、総合攻撃機能を装備した組織を新設するもので、自衛隊の質的な大転換を意味する。「殴り込み部隊」で勇名を馳せる米海兵隊をモデルにした「日本版海兵隊」である。

 この機動団は、離島防衛の専門部隊として、長崎県相浦駐屯地など九州に2個連隊(約2,000人)が配置される。政府は公表を避けているが、真の狙いは、米海兵隊の拠点基地である沖縄のキャンプ・ハンセンへの配置による米軍との共同使用だと見られる。在沖米海兵隊の一部がグアムに移転したあとを想定し、2020年代の前半に、3つの機動部隊(600人規模)を配置する構想のようだ。そのことから見えてくるのは、自衛隊が、沖縄北部に展開する米海兵隊基地で、共同訓練をし、共同使用することを熱望していること。実際に共同訓練は増加の一途を辿っている。

 将来は、辺野古新基地の共同使用、はては肩代わりも射程に入れているはずだ。多くの県民の建設反対の民意に反して、「辺野古が唯一」に固執、工事を強行している政府の意図はなにか。「水陸機動団」の創設計画によって、より鮮明に実態が浮上してきたのだ。
 日米の要人、専門家の間では「安保や軍事の観点から、必ずしも辺野古である必要はない」が定説になっている。それにも拘らず、日米首脳会談や2プラス2などで、必ず「辺野古が唯一」との文言が盛られるのは、米側の要望というより、専ら日本側の強い要求であることが見て取れる。

 いみじくも、在沖米海兵隊のニコルソン司令官(中将・四軍調整官)が今年3月8日に「将来的にはキャンプ・シュワーブ(辺野古)で、陸上自衛隊が日本のオスプレイを使用すべきだ」と言明した。同司令官は、在沖米軍基地のすべてを自衛隊と共同使用する案も公言している。自衛隊の意図を先取りした発言であろう。

 新設される日本版海兵隊の「機動団」は、離島奪還など先制攻撃部隊と位置づけられる。戦争の口火を切る最前線の軍事行動が、憲法や安保関連法の論議のマトになることは避けられないはずだ。米軍との基地共同使用を、政府は「沖縄の負担軽減と抑止力の維持のため」と強調する。まったく相容れない矛盾した論法である。海兵隊に限らず、極東最大の嘉手納空軍基地と広大な知花弾薬庫が居座っており、過重負担から解放されることはない。

 基地の共同使用や、自衛隊の肩代わりへの県民の反発は根強い。北朝鮮の緊迫で、嘉手納基地には、次々に外来機が飛来し、連日けたたましい爆音を轟かせている。ゲート前での住民の抗議行動も熱をおびる。辺野古だけではないのだ。島しょ防衛のための自衛隊装備の増強で強調される「抑止力」は、得体のしれない幻影に思えて仕方がない。抑止力どころか、中国との間で限りない軍拡競争に陥る危険性をはらんでいるのではないか。

 いざという時には、まっ先に「標的にされる」と怯えているのは、自衛隊配備が着々と進む宮古や八重山の反対住民だけではない。もし非常時になれば、際限なく危険性は拡大する。わが身にも悪夢は迫っているのだ。

 (元沖縄タイムス編集局長)

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