【衆院選を検証する】

野党共闘敗北を東京・大阪の結果から考える

仲井 富

① 共産党との選挙協力が立憲の敗北とする妄言 東京大阪の結果分析
② 野党共闘つぶしが戦略の共産党共闘批判 秋田イージス・アショアの完敗
③ 自公が怖れる野党共闘の波及効果 無党派層と維新票の良識が勝因
④ 2020年暮れの京都市長選挙では自社公民社民の現職推薦
⑤ 全国知事会は2018年8月14日、日米地位協定の抜本的な見直し提言
⑥ 辺野古反対だが地位協定改定は一言もない野党共闘の周回遅れの現状
⑦ 評論家の俗論 中北浩爾教授の連合の支持なくては政権に手は届かない

◆ ① 共産党との選挙協力が立憲の敗北とする妄言 東京大阪の結果分析

 共産党との共闘が立憲民主党の敗北の要因だと言うマスコミや評論家の批評は誤っているといいたい。以下に、総選挙の中で最も勝敗に影響する東京選挙区と大阪選挙区を対比して、立憲の消長を概観してみたい。

 東京選挙区は22選挙区のうち、小選挙区8名、比例区3名と、前回選挙の小選挙区4名比例区2名から倍増した。もし首都東京で共産党の選挙区協力がなければ完敗だった。東京・大阪という二大選挙区で勝てなければ、政権交代など語れない。
 大阪選挙区は19選挙区のうち現職2名落選、比例区1名が当選したのみだ。維新の天下とはいえ、平野博文立民代表代行、辻元清美立民幹事長代行の2名が比例区復活もなく落選した。当選者は比例区復活の1名のみだった。

 菅直人首相の消費税自公案抱きつき発言以降、国政選挙で連敗続きの野党だが、その菅直人は、前回からの野党共闘のお陰で、それまでの比例区復活から選挙区当選を果たしている。今回も2千票の僅差だったが、選挙区当選を果たしたのは、まぎれもなく共産党のお陰である。東京選挙区で当選した長妻議員ら数名は、共産党東京都委員会にお礼の挨拶に訪れている。

 大阪連合は、東京連合と並んで共産党排除で自公政権の与党ならぬゆ党と比喩されるように、共産党嫌いで知られているが、連合東京の組合員96万人に次ぐ組合員39万人を誇る。だが電機労連出身の平野博文立憲民主党代表代行が落選、その実力の程度を天下に示した。連合組合員の連合離れは、東京、大阪において著しく、組合員の1割前後しか連合の候補者に投票していないという実態を、平野落選が象徴しているといえよう。
 衝撃的なのは、比例区代表党派別得票数の結果だ。立民はほぼ各府県で20%前後の比例区票を得ているが、大阪のみは約36万票で得票率9%と全国最低の得票だ。しかも10%以下は大阪選挙区のみだ。これが反共の大阪連合の実力だといえよう。

◆ ② 野党共闘つぶしが戦略の共産党共闘批判 秋田イージス・アショアの完敗

 共産党との共闘がマイナスだったと言う俗論をマスコミや評論家が一斉に指摘している背景には、自公政権の、来年の参議院選挙における野党共闘潰しという戦略が見える。それは秋田県のイージス・アショアを争点とした前回参院選の完敗である。野党共闘が成功している道府県では、少数ながら選挙に手馴れしている地方連合が世話役となり、市民活動家などを含めてきめ細かい手法で野党共闘を進めてきた。その成果が秋田県のイージス・アショア反対運動に象徴される野党共闘の完全勝利となった。菅官房長官当時、安倍首相自らが乗り込み、さらに人寄せパンダの小泉進次郎などタレント議員を総動員したが完敗した。

 沖縄をはじめ1人区で勝利した直近の国政選挙は2919年の第25回参院選挙だった。予想通り自公政権の勝利に終わったとはいえ、れいわ新撰組と1人区における女性候補の健闘によって、東日本の1人区を中心に野党統一候補の女性を中心に勝利した。
 野党が勝った1人区では、岩手、秋田、山形、宮城、新潟、滋賀、愛媛、大分などで自民現職が落選した。れいわ旋風を除けば、低調な選挙だったが、48.80%の低投票率の中でも自民は単独過半数を失い、改憲3分の2を割った。

◆ ③ 自公が怖れる野党共闘の波及効果 無党派層と維新票の良識が勝因

 2019年参院選挙の最大の政治的焦点は1人区の勝敗にあった。だが安倍・菅が応援に入った1人区重点区の結果は4勝9敗となった。菅直人元首相国政選挙での自公消費税値上げ案抱きつきで、2010年参院選で大敗して以降、国政選挙では連戦連敗の野党だが、1人区で見ると、2010年、自民21、旧民主など8。2013年、自民29、旧民主など2。2016年は野党統一によって自民21、旧民主など11と健闘した。
 以上の選挙で注目すべきは維新票の動向だ。大阪維新と異なり、勝利した野党共闘の選挙区では、維新票の大半は、秋田でさえ寺田候補に投票していた。維新票の良識もまた重要な注目点だ。

 2019年参院選は、自民22、野党統一候補10となったが中味の濃い結果だ。何よりも安倍・菅が全力を集中した1人区での健闘が光る。しかしこういう結果について、肝心の立憲民主党など野党幹部がきちんと認識していない。
 その象徴が、2020年2月の京都市長選挙における自民党現職市長を、福山書記長の立憲が、自公との野合ともいえる推薦を平然と行っていたことだ。

◆ ④ 2020年暮れの京都市長選挙では自社公民社民の現職推薦

 立憲民主党福山書記長のいる京都立憲は、2020年2月2日投票の京都市長選挙で自公と組んで現職市長を推した。悪名高き自社公民社民連合である。これに対して共産とれいわ新撰組は共産党の候補を推した。結果は現職市長の4選となったが、その結果分析を見ると立憲支持者の多数はれいわ・共産の候補に投票していた。政党支持者別の投票行動でもっとも特徴的なことは、立民支持者の投票である。
 立民支持者の45.4%が共産・れいわの福山氏に投票、続いて29.4%が京都党の村山氏に投票、現職の門川氏に投票したのは4分の1の24.4%に過ぎなかった。また社民党の支持者の100%が福山氏に投票したというのも、保革5党の推薦がいかに時代遅れかを象徴している。また N国支持層の80%が福山氏に投票しているのも興味深い(京都新聞 2020・2・3)。
 保革5党の相乗り選挙がナンセンスということが見抜かれた選挙結果だろう。

 国政では自公政権と対決すると言いながら、立憲の福山書記長が自社公民路線に平然と乗っかっている。枝野代表の「大飯原発3・4号機の再稼動は正しかった」などという妄言に代表される原発ゼロ戦略のなさなど、自ら墓穴を掘ることによって、無党派層をはじめ立憲支持者の離反を招いた責任が問われる。
 自公政権に対決すると言いながら、原発政策も地方首長選挙でも自公政権と野合し、あるいは責任逃れをする姿勢にこそ敗北の要因があるというべきだ。 

◆ ⑤ 全国知事会は2018年8月14日、日米地位協定の抜本的な見直し提言

 日米地位協定をドイツやイタリア並みに改定することは、いまや沖縄の保革にとどまらず、日本政治の常識となっている。既に日米地位協定の改定を求める地方自治体などの決議が以下のように広がっている
 全国知事会は2018年8月14日、日米地位協定の抜本的な見直しを日米両政府に提言した。故翁長雄志・沖縄県知事の「基地問題は一都道府県の問題ではない」との訴えを受け、2年近くかけて提言にまとめ、7月の全国知事会議で全会一致で初めて採択した。

 提言は、航空法や環境法令など国内法の適用や、事件・事故時の基地への立ち入りなどを日米地位協定に明記するよう要請。米軍の訓練ルート・時期に関する情報を事前提供すること、基地の使用状況などを点検して縮小・返還を促すことも求めている。この日は同会長の上田清司・埼玉県知事らが外務、防衛両省と在日米大使館を訪問。上田知事は報道陣に「基地のない県も含めて共通の認識を持った」と述べた。

 衆議院によると、この提言以降、20年4月末までに送付された地位協定の見直しを求める意見書は、都道府県議会では北海道、岩手、静岡、長野、和歌山、奈良、佐賀、宮崎、沖縄の9県。市町村議会は札幌市、長野市、岩手県花巻市、山形県鶴岡市、福島県喜多方市、神奈川県鎌倉市、東京都小平市、大阪府茨木市、福岡県大牟田市、佐賀県武雄市など151件で、計160件にのぼった。

◆ ⑥ 辺野古反対だが地位協定改定は一言もない野党共闘の周回遅れの現状

 野党共闘の共通政策に辺野古反対というスローガンがある。だが肝心の日米地位協定改定は素通りしている。ここに日本の国会議員の沖縄に対する周回遅れの認識が存在する。辺野古反対というふ抜けのスローガンになったのは、かつて民主党政権の菅直人元首相がオバマ大統領との会見で、辺野古反対の方針を撤回したことに起因する。

 2010年12月に沖縄入りした菅直人首相は、本土政党としては初めて「辺野古移設賛成」を表明、「空き缶(菅)帰れ」のデモに迎えられた。
 以降民主党政権の旧幹部らは、民主党政権に関わった御用学者らをも含めて、真っ先に辺野古賛成に転向した。日米地位協定改定を言わない野党など存在価値もないことを、上記の全国知事会を始めとした決議が証明している。
 野党共闘再構築のためにも「悪夢の民主党政権」の最高幹部らが一線から退くことが前提条件だろうと思う。

◆ ⑦ 評論家の俗論 中北浩爾教授の連合の支持なくては政権に手は届かない

 読売新聞の11月2日号に中北浩爾一橋大教授の以下のような寄稿が載っている。
 ――「立民は国民と合流することを優先し中道保守層に支持を広げるべきだ。連合の支持先が分れている状況では、政権に手は届かない。野党では今後、共闘のあり方を巡り軌道修正を求める声が出てくる可能性がある」――

 中北氏には本稿の冒頭で述べたように、大阪連合39万人を誇る電機労連出身の平野博文民主党代表代行が落選、比例区復活もなく消え去り、幹事長代行の辻元清美も同様の運命だった。そういう事実が見えていない。
 両者はともに民主党政権時代、菅直人政権の消費税値上げに賛成し、辺野古賛成に転じた。辻元清美は、民主党政権末期、消費税5%値上げの予算委員会の総括質問で堂々と賛成討論を行った。そういう過去がようやく断罪されたともいえる。

 2016年の新潟県知事選では、新潟連合が自公推薦の森を支持することを早々と決めた。主体性のない民進党もまたそれに追随、ついには民進党から衆院選に出る予定だった米山隆一氏を、県知事選に出馬することを理由に処分する始末だった。
 しかし、これが米山氏の退路を断ち、公然と原発再稼働反対をかかげ旗幟鮮明に県民に訴えることで米山知事当選につながった。市民連合新潟の共同代表を務める佐々木寛新潟国際大教授は「米山陣営は遠慮なく再稼働反対を主張でき、無党派層に浸透できた」と述べている。

 連合新潟は自民党候補の支援に回り野党共闘と対立した。もはや東京、大阪だけではなく、地方連合の一部も自公政権の使い走りをする時代だ。
 それでもなお野党共闘が勝利を収めているという事実すら認識していない。現場を見ないで、連合の支持なくしては勝てないなどという妄言を振りまく典型が中北教授である。野党共闘の現場を歩けと忠告したい(下表参照)。

画像の説明
  衆院選比例区 各党派の得票数・得票率〈ブロック・都道府県別〉
  (公明新聞 2021年11月2日)

 (世論構造研究会代表・『オルタ広場』編集委員)

(2021.11.20)
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