【オルタ広場の視点】

野党は就職氷河期世代対策を打ち出せ


岡田 一郎

 就職氷河期世代とは、バブル景気がはじけた1990年代半ばから2000年代前半に学校を卒業し、就職の時期を迎えた世代を指す。この世代は、当時、企業が正社員の採用を絞り込んだため、やむなく非正規の仕事を続けながら、30代・40代になってもなかなか正規の仕事に就くことが出来ていない人が多い。また、正規の仕事に就いても職場がブラック企業であったりして心身を病み、引きこもりになってしまった人々も多いと言われている。

 このままいけば、この世代は年老いて働けなくなったときに、無年金または低年金の状態に追い込まれ、孤独と貧窮の状態に追い込まれるのが確実である。にもかかわらず、この世代は長い間、「最近の若者は責任を負うのを嫌って、好きで非正規の仕事に就いている」などと謂れなき誹謗中傷を受け、「自己責任」の名のもとに何ら対策もされず、放置されてきた。

 政府は最近、遅ればせながら、就職氷河期世代対策に乗り出し、今後3年間で600億円を投じ、ハローワークに専門窓口を設置することや、氷河期世代に特化した特定求職者雇用開発助成金の創設といった政策を打ち出し、中央省庁や各自地方自治体も就職氷河期世代の中途採用に乗り出している。こうした施策はあまりにも遅すぎであり、焼け石に水を垂らすが如く、あまりにも小規模すぎると言わざるを得ないが、それでもやらないよりはましであろう。

 問題は野党である。政府が遅ればせながらようやく重い腰をあげ、就職氷河期世代対策に乗り出した今、野党は政府の対策の不十分さを突き、さらなる対策を打ち出させるべきではないか。そう考えた私は、野党がどのような就職氷河期世代対策を打ち出しているかを知るべく、野党5党(立憲民主党・国民民主党・日本維新の会・日本共産党・社会民主党)の2019年参院選の公約に目を通した。その結果、私は唖然としてしまった。

 野党5党のうち、就職氷河期世代対策を明確に打ち出していたのは社会民主党のみであったのである。さすが、社会民主主義の政党と社会民主党を称えるべきか、それとも社会民主党以外の政党が就職氷河期世代に対して冷淡であることを嘆くべきか、私は情けない気持ちになってしまった。野党ですら無関心であるならば、就職氷河期世代対策が進むはずはない。
 ちなみに、社会民主党の公約にはこうある。

 「ロスジェネ世代」(バブル崩壊後の就職氷河期世代/33歳~48歳)に対し、住宅支援や各種若者支援事業の適用年齢を拡大します。当事者参加の下、「ロスジェネ世代」の「非正規スパイラル」「ワーキングプア」「ひきこもり」「介護離職」などについて総合的な支援策を講じます。
http://www5.sdp.or.jp/election_sangiin_2019 2020年3月24日閲覧

 他の野党の公約には「非正規雇用者の正規雇用への転換」といった就職氷河期世代にも直結する政策が掲げられている。だが、就職氷河期世代の高齢化が進む中で、彼らが年老いて働けなくなったときのことも今のうちから考えておく必要はないだろうか。それに非正規労働者にすらなれず、高齢のひきもりになっている就職氷河期世代もいる。彼らの対策も打ち出されなくてはならない。その意味で、住宅支援やひきこもり対策を打ち出している社会民主党の公約はいい線をついていると思われる。

 一体、なぜ、就職氷河期世代はこんなにも無視された存在になってしまったのだろうか。それはひとえに、この世代があまりにもおとなしすぎたからであろう。何らかのアクション(たとえば、就職氷河期世代対策を訴える候補者や政党に投票するとか)をこの世代が早い段階で起こしていれば、就職氷河期世代問題は世間の耳目を集め、政府も野党も何らかの対策をしなくてはならないと、もっと早く考えたかもしれない。現に、野党の公約を見てみると、女性や性的少数者といったアクションを起こしている人々の対策は明記されていることが多かった。政治の世界では、声をあげない人間の意見は反映されないということを、私は改めて痛感した。

 しかし、就職氷河期世代のおとなしさを今、責めても仕方がない。彼らは今後、確実に年をとり、やがて働けなくなり、無年金や低年金の孤独で貧窮した老人たちが大量に出現することになる。彼らを支える社会保障費は膨大なものとなるだろう。そのとき、そのような老人たちをどうやって支えるか、野党も今のうちから対策を練る必要があるのではないだろうか。そのような問題が表面化したとき、政権を担っているのは自分たちなのかもしれないのである。

 (小山高専・日本大学・東京成徳大学非常勤講師)

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