都議選大勝に潜む危なさ             仲井 富

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一、 郵政選挙圧勝から二年で自公の敗北


  世の中というのは面白い。あれだけの大勝利をした2005年郵政選挙で、自公与党
3分の2という絶対多数の、ある意味での独裁体制が、二年後の2007年参議院選挙
でもろくも崩れ去った。ねじれ国会と言う現象を生んだが、自公大勝、正確には
小泉自民を大勝させた民意は、2年後にはこれに「ノ-」を突きつけた。そして
3年後の都議選では、石原都知事の下で強固な過半数体制を確保していた、自公
が過半数を割るという大敗北をした。1979年の鈴木俊一知事以来、70議席
を下回ることのなかった自公中心による『与党体制』が30年ぶりに終焉した。

 都議選敗北後にあの自信満々の石原都知事が、顔をゆがめて「自民党政権の失
政のつけを払わされた」と愚痴をいった。半分は当たっているが、半分は三期目
の石原都政が、東京新銀行や築地移転、東京オリンピックなどさまざまなところ
でボロが出始めているつけも払わされたのであり、自民党本部だけのせいにする
のは、それこそちゃんちゃらおかしい。しかもその自民党の副幹事長という要職
と東京都連の責任者は、長男の石原伸晃である。親子こそろって情けない顔をみ
せたが、攻めるときは威勢がいいが、逆境にはからきし弱い石原親子の姿が大写
しになった。

 これで東京オリンピック誘致が不成功に終われば、石原知事は辞任するだろう
、という噂がもっぱらだ。しかし息子を二人も自民党の代議士にして、その面倒
を見なければならず、やめられないともいう。95年7月、国会議員在職25年の永
年表彰の場で「国政に絶望した。自民よさらば」と大見得を切ってかっこよく国
会議員をやめた。だが99年には計算ずくの駆け込み立候補で東京都知事に当選
。いまや自民党の応援弁士で駆け回っている姿は、「口舌の徒」にすぎない石原
慎太郎の本質をまざまざと見せつけている。


二、 民主大勝の中身は薄氷の過半数だ  


  民主党は、たしかに数字上では、大躍進だ。改選時議席34議席から54議席へ
と20議席増えた。しかも新人22人が議席を得た。得票数でも前回都議選の総
投票数437万票が投票率の上昇で、563万票で126万票増加した。そのう
ち民主には113万票が流れた。自公は自民38議席、公明23議席で合計61
議席だが過半数の64議席には3議席不足した。民主は第一党で54議席を獲得
したが過半数には10議席足りない。

これに共産8,ネット2と無所属諸派の2が加わって合計66議席で、やっと過
半数を超える。大勝利だと大騒ぎをしているが、共産とネットなどの協力がな
ければ過半数体制はない。これは参議院で初の野党江田五月議長が誕生した
が、民主議席は108であり、単独過半数の122議席にとどかず共産、社民、
日本新党、無所属などの協力なくして運営できない状況と酷似している。しか
も冷静に観察すれば都議選で民主が自民から奪った議席は10議席のみであ
る。

 あとの10議席は、共産の5議席、ネットの2議席、無所属諸派の3議席をう
ばったものである。都議会のなかでもっとも石原都政と対決してきた共産、ネッ
ト、無所属などのいわば貴重な戦力が落選して、若さはあるが、政策能力も、質問
能力も、あるいは人間性もまだ未熟な新人22人が当選したからといって、喜ん
いでばかりはおれないはずだ。下手をすれば4年前の小泉チルドレンの大量当選
とその末路に似て4年後には消えゆく可能性十分だ。
 
  もう一つ重要なのは、四年前の都議選との比較では、民主は驚異的な伸びのよう
に見えるが、2年前の直近の参議院選挙と比較するとほとんど変化がみられない
ことだ。参院選挙東京地方区で民主は2人当選、民主の比例区得票は約229万
票、今回都議選でも約229万票でほぼ同じだ。ということは大勝といっても前
回参議院選挙の得票と変わらない。自民は前回参院選挙で比例区約154万票、
今回都議選で約146万票、大敗したと言ってもわずか8万票減っただけである

公明は全区に候補者を出していないから比較できないが、共産党だけは前回参
院選の比例区得票約55万票から約15万票のばして都議選で約70万票を獲得
している。参院選挙で民主にふれた振り子は、以後の自民党の考えられない失策
によって、いまなおとどまっているがそれ以上ではない。したがって次の総選挙
までは持ちこたえられるだろうが、振り子は逆方向に振れてゆくものだというこ
とを自覚すべきだろう。


三、 いままでの都議会民主党は野党か与党か


  都議会民主党の体質ははなにかも問われる。彼らは石原都政三期10年の間にな
にをしたのか。共産党に言わせれば、民主党は石原都政の90%以上に賛成して
きた与党体質だと批判する。野党なのか与党なのかそれともその間のゆ党なのか
、まことに正体不明だった。
  石原都政の第一期は、野党とはいいがたい。むしろ石原都知事におべっかを使
って、みずからの選挙を有利にしようというような魂胆が顕著だった。したがっ
て東京オリンピックをはじめとして東京新銀行、築地市場移転など重要課題では
ことごとく賛成だった。

したがって石原都政の二期目も対決姿勢はなく、まともに都知事選挙に取り組
まなかった。ようやく二期目の後半から三期目に至って、4年前の都議選で当
選した都議たちの中から反石原の動きが現れてはきたが、候補者擁立は遅れ
て、市民主導で淺野元宮城県知事を担ぎ出したが、勝負にならなかった。
都議会民主党の与党的体質がもっとも顕著に現れたのが、東京オリンピックに
対する態度だ。アジアの北京のあとにヨーロッパのロンドン、その次に再び
アジアの東京とは常識的に考えにくい。それにもかかわらず東京オリンピック誘
致を持ち出したのは、石原三選の大義名分づくりにすぎない。五輪招致活動の経
費150億円、インフラ整備費1兆580億円、競技施設整備費3249億円と
いわれる。

 東京都が取り組む緊急の課題は、またまたゼネコンを動員するハコモノや道路
作りではない。いまなすべきことは発生間近かといわれている、南関東大地震へ
の対策ではないか。3000億円もの五輪基金は都民の命の安全と都市環境保全
に使うべきであり、そういう理念と政策目標を対置させるべきであった。だが都
議会民主党は注文はつけたが賛成した。せめて今回の都議選で公約した築地市場
移転反対と東京新銀行からの撤退を第一党の責任において実現することが緊急の
政治課題といえる。


四、8月臨時会流会と議会運営に共産の協力不可欠  


  7月の改選で民主党が最大勢力となった東京都議会は、8月10日に開かれる
予定の臨時会を前に民主党など野党が要求した東京新銀行と築地市場の移転に関
する二つの特別委員会設置などをめぐり対立したまま開会できず、流会になった
。都議会筋によると、臨時会の流会は記録がある1947年以来初めてという。
野党民主、共産、、ネット、無所属と自公の対立は決定的となった。自公が民主
党の特別委設置に反対したのは、この特別委で新銀行と築地移転という都政の最
大課題が否定されることは、石原都政の失政が真正面から問われることになる。

 加えて10月の東京オリンピック誘致が不成功に終われば、石原都政への大打
撃となり、石原自身が退陣せざるを得なくなる。もしもそういう事態になればポ
スト石原の都知事選挙では、民主に都知事の席を奪われかねない。ここはぜった
いに民主の狙いを阻止しなければならない、ということなのである。都議会民主
党がようやく野党第一党の責任を自覚して行動を開始したともいえる。民主は都
議選で「新銀行の存続反対」と「築地市場の移転反対」を打ち出し、自民との対
立点を強調した。有権者への約束ともいえる二つの課題を審議するため、特別委
を設置する方針だ。一方の自民は「すでに議論は尽くされている」として、とく
に新銀行の特別委設置に抵抗感が強い。新銀行の否定は、石原都知事の責任を決
定的に問うことになるからである。
 
都議会に設置されている9つの常任委員会。会派間で委員ポストをどのように
配分するかを巡っても、民主と自民でもめている。民主は、勢力の大きい会派か
ら順にポストを埋めていく従来方式の変更を主張している。少数会派や無所属の
議員が、希望の委員会に所属しやすいようにするためだ。自民は「第1会派にな
っていきなり慣例を破るのは、ルールに反する」と反発する。自公が与党として
30年にわたって築き上げてきた、慣例をそのままにしていては、新たな都議会の
流れはつくれない。ここも野党第一党の姿勢が問われることになる。   

 ここで決定的な存在となったのは共産党である。従来のような野党が与党かわ
からない民主党ならともかく、都議会第一党として野党全体をまとめなければ、
議長はおろか常任委員会の委員長も取れない。共産党の持つ8議席の協力なくし
ては何も出来ない。したがって従来共産党が一貫して反対してきた東京オリンピ
ック、東京新銀行、築地移転なとについて共産党と同一歩調をとらざるを得ない
。当然のことだが、これについては自公からの批判のみならず、共産党アレルギ
ーも一部にある都議団民主党の内部から、不満が続出しかねない。いずれにして
も都議会の攻防は、都議会臨時会での議長、委員長などの選出を経て、9月末の定
例都議会で始まることになる。「都議会が面白い、目を離せない」というような
場にしてもらいたいものだ。

                 (筆者は公害問題研究会代表)

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