都知事選真の敗者はだれか 消費税5%値下げを拒否した立民幹部

仲井 富

◆ 投票率に注目 55%と期日前投票率過去最高 都議補欠選挙自民全勝

 コロナ騒ぎと梅雨模様の悪天候の中で、私は投票率は5割を切るだろうと予想していた。しかし予想は違った。確かに前回より投票率は落ちたが過去最低の43.19%をはるかに上回った。都知事選では過去に投票率50%を下回ったのは4回あるが、50%を下回るという私の予想よりはるかに高い投票率だった。しかも期日前投票は過去最高の15%に上ったことも意外だった。昨年の統一地方選挙では、投票率30%台や無投票が多かったが、東京都民は意外と健全な考え方を持っていると思った。

 小池知事の圧勝に終わった感があるが、それは野党分裂が生み出したものだ。小池知事の会派都民ファーストの会の没落も大きい。都知事選挙と同時に行われた都議補欠選挙では、4つの選挙区すべて、公明の支持を得た自民党候補が勝利した。野党はこの面でも全面的敗北を認めざるを得ない。安倍政権支持率が30%前後に低迷しているにもかかわらず、地域では自民党が勝っている。ここにも野党共闘の底の浅さが露呈したと見るべきだろう。

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  東京都知事選投票率の推移 

◆ 山本太郎の消費税5%値下げは野党共闘を不可能にしたか

 山本太郎は、れいわ新撰組単独の候補として立候補した。理由は単純明解である。小沢一郎氏の度重なる説得に同意しなかったのは、消費税5%へ引き下げという一点において合意できなかったからだ。しかし小沢氏の説得後の会見では、消費税の話は出てこない。野党統一のため、今回はやめて共産党推薦の宇都宮健児を野党統一候補として協力しようという話だけだった。

 もし野党共闘が成立していた場合、どういう結果になったか。
 2019参院選、主な政党の比例区得票は、以下のようになる。合計すると自公の与党系の得票は255万票で、立民などの野党票とほぼ同一である。維新の比例区票は約48万票だった。維新は元熊本県知事の小野泰輔を推薦した。
  自民:188万 公明:67万 合計:255万票
  立民:100万 共産:65万 国民:27万 れ新:46万 社民:10万 合計:248万票
  維新:48万票 元熊本県副知事小野泰輔を公認

 スタートから野党統一がなっていれば対等の戦いが可能だった。だが野党統一の足並みはそろわず、遅れに遅れて、ようやく選挙直前に立民が共産党の宇都宮支持を決めた。
 れいわ新撰組の山本太郎が唯一の条件とした消費税5%値下げは、共産はもとより国民民主党も賛意を表明している。唯一立憲民主党幹部のみが終止一貫して反対した。自民党内でも西田昌司参院議員を先頭に若手議員らが、最大のコロナ対策は消費税ゼロであるという声をあげていた(末尾<参考資料>参照)。
 にもかかわらず枝野、菅、野田、辻元などの旧民主党政権幹部は、消費税値上げという最大のマニフェスト背反で大敗した責任を自覚していない。野党共闘をつぶした最大の戦犯は、立憲民主党に巣食う消費税値上げグループだ。

◆ 共同通信の都知事選出口調査結果 無党派層6割小池に投票

 都議選当日の共同通信社が実施した出口調査結果では「自公支持層の8割以上が小池氏に投票 都のコロナ対策」として以下のように報じている。

 ――小池百合子氏は自民、公明両党の支持層の80%超を固め「支持する政党はない」とした無党派層の56.9%を押さえるなど、幅広く支持を集めた。都の新型コロナウイルス感染症対策を評価した人は60.7%で、うち79.6%が小池氏を支持し、勝利の一因となった。
 宇都宮健児氏を支援した立憲民主党の支持層は、45.9%が宇都宮氏に投票した。31.6%は小池氏、17.3%は山本太郎氏に流れた。共産党支持層は、宇都宮氏が60.9%を固めたものの、山本氏が18.4%、小池氏も16.1%を獲得した。小野泰輔氏は日本維新の会支持層の47.8%、無党派層の11.3%から得票した。
 出口調査に応じた人のうち、都のコロナ対策を「評価しない」とした人は34.5%。うち27.0%が小池氏、26.9%が宇都宮氏、22.1%が山本氏、18.8%が小野氏を支持し、投票先が分かれた――

 昨年の参院選挙の1人区における野党勝利のパターンは、いずれも野党一本化によって、無党派層の50%から60%が統一候補に流れた。さらに維新支持層の大半もこれに続いた。さらに自民、公明からも流れている。そういう勝利のパターンを無視した今回の立憲民主党の姿勢は許しがたい。初めから勝つ気のない選挙で、昨年参院選比例区得票100万票を雲散霧消させた。

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  東京都知事選挙開票結果

◆ 山本太郎は敗北を宣言 れいわの参院選比例区票に13万票上積み

 山本太郎は都知事選後、完全敗北だったと述べた。しかし、れいわ新撰組の単独候補で約58万票を獲得した。2019年の東京におけるれいわ新撰組の比例区得票は約46万票だったから、12万票を上積みしたことになる。今後は東京中心に都議選などへの参加も考えていると言う。

 山本太郎にも一言いいたい。
 かつて国政参加でさまざまな政党がブームで勝利したが、所詮ブームは一度限りだ。土井ブームの時も女性議員が一挙に増えたが、彼女たちの政治的力量は無かった。6年後には雲散霧消した。小泉ブームは刺客騒ぎで多数の女性議員が当選したが、次の総選挙で生き残ったのは7、8名のみ。そして小沢民主党幹事長時代の民主党は女性議員を含め話題を振りまいたが、2012年総選挙で憲政史上最大の敗北で消滅した。

 山本太郎を担いで100人を国政にと、旧民主党の馬渕議員などが画策しているが、所詮根無し草が集まってくるだけで、当選すればバラバラになるのは目に見えている。それよりも如何に地域に根をはるか、と言う事は、地方選挙、都議・区議選挙から砦を築いて行くことだ。根無し草の国政選挙のみに賭けることはやめたほうがいい。
 国政選挙で100万票を取っても、いまや都議会議員定員126人中わずか5名という立憲の現状がそれを証明している。大阪はさらに悲惨だ。消費税反対の社民党を離脱して民主党政権に移り、消費税賛成の総括討論を堂々と行った辻元清美・立憲民主党幹事長代行の地元大阪では、大阪市議ゼロ、府議会議員1名、参院選挙では定員4名区で3期ゼロ議席の惨状である。
 大阪と東京という最大の選挙区で、何故敗北し続けているのかを根本的に反省し、建て直しを計らなければ、野党政権など絵に描いたもちに過ぎない。

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  各党の都道府県別比例区得票数 2019年7月

◆ マスコミは5%の軽減税率で沈黙 旧民主幹部は嘘つきを清算せよ

 マスコミは各紙とも、最大の争点であったはずの山本の消費税5%値下げの真意をあいまいにして、もっぱら野党共闘できなかった責任の一半は山本太郎の無謀な立候補にあるかのごとき論調だ。しかし各社はすでに10%値上げの際、安倍政権との談合で5%の軽減税率の恩恵に浴している。それを進めたのは公明であり、公明新聞もそのなかに入る。要するに消費税5%値下げは禁句なのである。

 立憲民主党幹部もまたその一翼を担っている。すべて財務省支配の構造に組み込まれているのだ。自滅的な民主党政権の消費税値上げに賛成し、辺野古移設をも容認した民主党政権時代の御用学者や活動家が、いまや国会デモの市民グループの代表などというナンセンスを誰も疑おうとしない。唯一、正鵠を得たのは民主党政権の総務相を務めた片山善博慶大教授の、党の再生は「嘘つきを清算することだ」という以下の指摘である。

 ――民主党は高をくくっていた。3年前の衆院選で「消費税は上げません」といって政権を取ったのに、まるでそんなことは言っていなかったような振る舞いをした。野田首相は「消費税引き上げは大義だ」とまで言い始め、世間の人は大うそつきだと見た。ところが、どういうわけか、民主党に残った議員たちは自分の中でその問題を勝手に清算していた。党の再生はうそつきを解消する作業から始まる――

<参考資料>
●MMTで「消費税ゼロ」は可能 28兆円減税でインパクト
   西田昌司・参院議員 2020年4月15日 毎日新聞 政治プレミアム
 昨年10月に消費税率が10%に引き上げられる以前から消費増税に反対してきた。残念ながら予定通り税率が引き上げられた結果、2019年10~12月期の国内総生産(GDP、季節調整値)改定値が年率換算で7.1%減ということになった。そこにこのコロナ禍だ。おそらく年率換算で10%以上のGDPの低下になる。この状況では消費税は当分の間は凍結し、税率をゼロにすべきだ。MMT(現代貨幣論)ならばそれが可能だ。
 消費税の10%をなくせば28兆円の減税になる。事実上給料を10%増やすのと同じ効果があり、即効性がある。8%や5%に下げるのではなく一気に0%にすることで大きなインパクトを与えることができる。4月1日の参院決算委員会で安倍晋三首相に「消費税ゼロ」について質問した。首相は昨年の消費税率の引き上げについて「全世代型社会保障制度への改革のために、どうしても必要だった」と答弁した。その一方で「西田委員の言っていることの効果を否定するわけではない」とも答えた。

 (世論構造研究会代表、オルタ編集委員)

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