【視点】

連合東京・大阪の虚像に振り回され総選挙で崩壊の危機 野党共闘

仲井 富

 ◆野党共闘の怪 小林節 慶大名誉教授 弁護士

 保守リベラルの月刊誌『月刊日本』10月号で、小林節慶大名誉教授が「野党共闘」と「選挙区内調整」について以下のように論じている。

 ――この期に至っても、野党第一党の立民からは、「特定の選挙区で共産党の候補者を降ろせ」「共産党とは選挙協力はしても、政権を奪取しても共産党は閣内に入れない」とか、訳の分からない話しか聞こえてこない。これは、要するに、共産党は立民の議席獲得のために犠牲になれ……と言っているに等しい。政治家以前に人として失礼千万な話であろう――と述べている。

 さらに小林節氏「共産党異質論」について公開討論を行うべきだと以下のように述べる。
 ――もちろん、立民もそれなりに「理屈」を言う場合がある。曰く、「共産党とは基本理念が異なるから内閣に入れることはできない」。
 しかし、それならば、「俱に天を戴けない」相手に、自分達の存続にかかわる選挙協力など求めるべきではない。
 しかも、「基本理念が異なる」と言っている内容に説得力がない。曰く、「自衛隊、日米安保、天皇制等について考え方が違う」。しかし、まず、立民の中でも上記論点について意見が一様でないという事実を指摘しておきたい。

 その上で、①日本国憲法は、本来、自衛隊や日米安保のいらない世界を目指しているが、今の国際情勢がそれを許さないことは認める。しかし、憲法が海外派兵を禁じていることは今守られるべきである。②明治憲法下の統治権を総攬していた国の主権者たる天皇と、日本国憲法下で主権者国民の総意に基づく象徴天皇は、法的に別異のものである……。という共産党の主張のどこが「俱に天を戴けない」程にまずいのか? 立民が公開討論の場を設けることを期待する。
 これは非常に重要な、時の公的関心事であるのだから。――

 ◆共産党との野党共闘を潰すかに見える連合本部の動向

 いまや連合本部の方向性は、いかにして共産党を含む野党共闘を潰すかにかかっているようだ。しかもこれらの動きは自公政権とも合い通じていると言っても過言ではない。しかし過去の連合の選挙調査を仔細に検討してみると、連合東京・連合大阪はそれぞれ連合組合員の一割前後しか連合候補に投票していないという衝撃的な結果がみてとれる。それでも共産党を除外せよと立民などに迫るのは一体どういう所存なのだろう。

 以下は2013年の参院選における連合自身による調査結果である。この参院選で民主党は、2010年の菅直人首相の「民主党政権の間は消費税値上げしない」という公約を破棄して「自公の5%値上げに同意する」とした裏切り行為によって大敗北を喫した。以降の2013年、2016年、2019年と3回の参院選。衆院選も、2014年総選挙以降、2017年に党名を変えるなど転々としたが敗北の連続である。この10月末投票の総選挙も、共産党との野党協力を不満とする連合からの異論で、野党共闘そのものが危機に瀕している。だが連合の組織力は、どれほどの影響力を持っているのか、連合自身の唯一の自己分析ともいえる2013年参院選の内部資料から検討してみたい。

 ◆連合の内部資料「第3回参院選総括のまとめ」

 2013年参院選における連合本部の調査結果を、私は連合本部の友人から面白いものがあると手渡された。これは連合本部内だけで外部に公表されていない資料だ。連合の「第23回参院選総括のまとめ」という文書は以下のように指摘している。

 ――2013年の参院選のなかで、民主党の6年前の比例区2,300万票から700万票という劇的な減少にもかかわらず、連合関係組合の比例区候補は、ほぼ安定した得票を堅持している。2013年当時、旧民主党は選挙区で35名、比例区で20名の公認候補を擁立したが、結果は選挙区で10議席、比例区で7議席の獲得にとどまり、改選前の44議席から17議席という大惨敗を喫した。
 連合推薦候補と組織内候補は、選挙区の連合の組織内候補は5名が民主党から立候補したが、いずれも惜敗した。民主党の比例代表得票数は、2010年の1,845万から713万票と1,100万票減らしたが、連合の9名は、160万票の個人名簿を獲得し、2010年時の159万票からは微増した。
 第23回参院選の投票率は、2010年の57.92%を5.31ポイント下回って52.61%となり、過去三番目の低さとなった。自民圧勝の予想が選挙戦序盤にマスコミ各社から報道されたこと、選挙争点がはっきりしなかったこと、政治不信が蔓延していること、どの政党も無党派層の受け皿となり得なかったことなどが原因であると思われる。なお投票を棄権した人の数は4,936万人で前回の4,378万人から558万人増加した――

 ◆連合組織内推薦比例区候補の得票数比較

 次に、「連合組織内推薦比例区候補の得票数比較」に01年以降5回の参院選比例区得票が示されている。2001年の参院選比例区得票の約170万票以降、173万票(04年)、182万票(07年)、160万票(010年)、160万票(013年)と大差がない(いずれも四捨五入)。
 07年の大勝以降、民主党全体の比例区票は劇的な下降線をたどったにもかかわらず、連合の組織内候補の得票は大きな変化がない。また010年には、菅元首相の消費税発言で大敗したが、連合候補は11人中10人が当選を果たしている。今回は同じ得票数だが、民主党全体の比例区得票激減を反映して、9人の候補者のうち6人当選となった。しかし民主党の比例区当選者は連合候補以外1名という結果だ。すなわち連合組織内候補は常に当選圏に入る可能性を持っていることになる。

 ◆議席ゼロとなった東京、大阪の連合組合員の一割前後しか投票せず

 連合の参院選のまとめには「2013年・各地方連合会の組合員登録数と連合組織内候補者9名の都道府県ごとの得票数について」という項目がある。これによると、連合の2013年の全国の組合員総数は約574万名。その中で各都道府県の連合組合員の投票率は全国平均で27.91%となっている。民主党が地方区で当選したのは北海道をはじめすべて複数区のみだが、東京5名区、大阪の4名区はゼロに終わった。ちなみに複数区で当選した道府県の組合員投票率は、20%台から40%台までで、ほぼ平均投票率と同じか、あるいはそれを上回っている。

 議席ゼロとなった東京は、連合組合員は96万人と全国最大だが、平均投票率27.91%よりはるかに低い8.25%。全国最大の連合組合員数を誇りながら、この投票率の低さもまた、東京ゼロという大敗を招いた要因といえる。
 さらに議席ゼロの大阪でも同じ傾向が見える。39万人の連合組合員のうち投票率は16.89%。ここも東京に次ぐ低投票率だった。日本最大の東京、大阪の二大都市で、連合の組合員は東京で8.25%、大阪で16.89%しか民主党に投票していないのだ。しかも投票率10%台以下というのは、47都道府県のうち東京のみ。大阪でも16%台というのだからその凋落振りは明らかである。

 ◆自社公民連合から脱皮できぬ東京・大阪の連合体質

 消費税、原発、沖縄、脱ダムなど、マニフェストを裏切り大敗した旧民主党だが、これを支持し続けてきた連合の政治姿勢も問われる。東京、大阪の連合組合員の民主党忌避感覚は、連合にとっても厳しい反省を迫るものだ。
 直近の2019年参院選挙では、1名区の地方区で、秋田、新潟などの地方連合組織がまとめ役として善戦しているが、大阪は今なお議席ゼロだ。地方選挙では自公と組んでバンザイし、国政選挙では対決するというが、無党派層を中心とする有権者の目線からはほど遠い。民主党政権誕生時には51%の無党派層の支持を得たが、このままでは近い将来の二大政党に向けての戦略は描けないまま推移することになろう。

 共産党はずしに最も熱心な玉木国民民主党の支持率は、常に1%から時には0%台だ。こんな姿勢では、自民党の支持率を常に上回る無党派層からの得票は絶望に近い。私の住んでいる千代田区では、共産党は赤旗日曜版で堂々と、新宿・千代田区を選挙区とする海江田万里の勝利のために戦うとしている。共産党の協力なしには海江田の当選はあり得ない。その海江田自身は、先の東京都議選では、小池知事の事務所に連合東京とともに顔出ししている。にもかかわらず、共産党は海江田支持を宣言しているのだ。自ら今次総選挙敗北を引き寄せているとしか思えない連合東京、連合大阪の無能無策に怒りを禁じえない。

 (世論構造研究会代表、『オルタ広場』編集委員)

(2021.10.20)
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