【沖縄・砂川・三里塚通信】
辺野古・大浦湾からの報告(22)
◆ 機動隊も「可愛い孫」
新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている。当初、3人の感染者でとどまっていた沖縄も、3月下旬以降徐々に感染者が増え(5月23日現在142人、死者6人)、沖縄の主要産業である観光業は客が激減。県経済は大きな打撃を蒙っている。
各種イベントも集会等もことごとく中止になる中で、不思議なことに、辺野古新基地建設に向けた埋め立て工事は全く変わることなく続けられ、私たちも変わらず陸と海の現場での抵抗を余儀なくされている(4月半ば現在)。
辺野古の工事用ゲート前で私たちの前に立ちふさがる大勢の警備員はマスクをしていない。その後ろで自分たちだけマスクを着用している防衛局職員に「警備員の人権侵害だ!」とヤジが飛ぶ。生コン車やダンプの車列がゲートに近づくと、機動隊が出てきて、座り込む市民を排除する。1人を3人がかりで両腕と足を抱えて移動させる「濃厚接触」が、1日に何度も繰り返されるのだ。(海でも海上保安官がカヌーメンバーを身体拘束する「濃厚接触」が…。)
私は毎週木曜日、辺野古ゲート前現場の当番(集会の司会や座り込み行動のリードなど)を担っているが、参加者の中には必ず歌や踊りの得意な人、みんなを盛り上げるのが上手い人がいて、現場は歌あり踊りあり、機動隊の中にも、密かに楽しみにしている人もいるらしい。私もこれだけ長く顔をつき合わせていると、若い機動隊員が可愛い孫たちのような気がしてくる。
最近では、車列が近づくと、できるだけ搬入を遅らせようと、機動隊の並ぶ前でカチャーシー(沖縄の群舞)をみんなで踊るのが定番になった。7分もかかる長い曲なのだが、機動隊はそれが終わるまで待っていて、そのあと排除にかかる。それも以前と比べてずいぶん丁寧になったと、久しぶりに参加した県外の参加者が驚いていた。
彼らの祖父母世代の人たちが必死で抵抗している気持が伝わっているのか。工事が行き詰まっているため、上からの締め付けが緩いのかもしれない。政府の姿勢次第ではまた強硬になるのかもしれないが、それは彼らの本意ではないだろう。
終末の様相を呈しつつ保身に躍起となっている安倍政権は、辺野古問題でも支離滅裂だ。とうに破綻しているのに止めることのできない埋め立て工事は、ますます矛盾が露わになってきた。極めつけは、大浦湾側埋め立て予定海域の水面下90メートル地点の地盤強度を測定せず、別の地点の数値から類推した数値を当てはめていることだ。同地点は、予定滑走路の先端と埋め立て用護岸が接する地点であり、活断層のラインとも合致することから、地質学の専門家グループは「液状化して護岸が崩壊する可能性」を指摘し、防衛省に同地点の調査を強く求めたが、「調査の必要はない」との回答。調査すれば、埋め立てなどできない数値が出るからとしか思えない。
◆ 国の違法を許さない住民の訴訟、異例の展開
私たち辺野古・大浦湾沿岸住民15人が原告となり、沖縄県の埋立承認撤回を取り消した国土交通大臣の裁決は違法だと、裁決の効力の執行停止、及び裁決の取り消しを求めた訴訟(「国の違法を許さない!住民の訴訟」。2019年1月提訴)の判決が4月13日、那覇地裁で言い渡され、原告中11人に対し「原告適格なし」として訴えを却下した。
もちろん不当判決であり、私も含めた11人にとっては極めて遺憾だが、原告団&弁護団は控訴しないことを決めた。裁判所は同時に、原告適格を認めた4人の原告について弁論を再開すると通告したからだ。裁判は続行され、まだまだ希望はある。
異例の展開を見せたこの訴訟の経過を見てみよう。
2018年8月31日、沖縄県は仲井眞弘多元知事の行った辺野古新基地建設のための埋立承認を撤回し、工事は止まった。これに対し、基地建設工事の事業者である沖縄防衛局が、「一般私人」の権利救済を目的とする行政不服審査法を使って国土交通大臣に「救済」を申し立て、国交大臣が「撤回」の執行停止を認める決定を行ったことにより、11月1日から工事は再開された。これについては県民だけでなく全国の行政学者から、国の機関である防衛局は「私人」には該当せず「法の濫用・悪用」「不法」「違法」とのごうごうたる批判・非難が巻き起こったが、防衛局はこれを無視し、同年12月14日から辺野古崎の浅場海域への土砂投入を強行開始した。
年明けて2019年1月29日、私たち住民は、国交大臣の「執行停止」の執行停止(=「撤回」の効力の復活)を求めて提訴。4月5日、国交大臣が「撤回」そのものを取り消す「裁決」を行ったため、訴訟は、その裁決の取り消しと、(取り消し決定までの)裁決の効力の執行停止を求めるものへと発展した。
同年12月までに5回行われた口頭弁論の中で、原告側は、原告適格性及び、防衛局の「私人なりすまし」や国交大臣の裁決の違法性を主張したが、被告の国(国土交通大臣)は、「門前払い」(原告不適格)を主張するのみ。裁判所の再三の要請にもかかわらず違法性についての反論を出そうとしない国の代理人に対し、平山馨裁判長はしばしば不快感を示した。その訴訟指揮には、中身(裁決の違法性)の審理に入りたいという裁判長の姿勢が感じられた。
訴訟は12月10日の第5回口頭弁論で結審し、判決の期日は3月19日と決まった。一方で沖縄県は、国交大臣の裁決は違法な国の関与だとして地方自治法に基づく「関与取り消し訴訟」と、行政不服審査法を国の機関が使うことの違法性及び、県の埋立承認撤回の適法性を問う「抗告訴訟」という2つの訴訟を提起し、係争中だった。
住民の訴訟がいよいよ判決期日を迎えようとしていた前日(3月18日)、「明日の判決期日が取り消された」との連絡に、耳を疑った。2日前(16日)に裁判所から出廷予定者の確認も済んでいた中でのドタキャン。弁護団事務局が裁判所に理由を問い合わせたが「言えない」との返事。折からの新型コロナウイルスが理由ではなさそうだ。
実は16日、最高裁が「関与取り消し訴訟」の上告審判決を3月26日に言い渡すことを決定。17日の地元メディアは「県の敗訴が確定する見通し」と伝えていた。既に出来上がっていたであろう地裁判決の内容に対し、最高裁から地裁の担当裁判官に対し何らかの圧力があったのか? あるいは担当裁判官が最高裁判決を受けてから判決文を書き直そうと考えたのか?
異例はまだ続いた。原告団&弁護団が抗議の記者会見を予定していた19日、裁判所は訴訟の一部、すなわち「執行停止」についてのみ決定を出したのだ。その内容は、「重大な損害を避けるため裁決の効力を停止する緊急の必要性」はないとして執行停止の申し立てを却下する一方で、原告15人中4人の原告適格を認めた。原告適格とされたのは、「埋立行為又は埋立地の用途により、著しい被害を直接的に受けるおそれのある」辺野古住民と、「高さ制限」に抵触する豊原住民(二見以北=大浦湾沿岸の住民は全員「原告適格なし」とされた)。
辺野古新基地建設に関して住民側が訴えたこれまでの訴訟はすべて門前払いだったことからすれば、一部ではあれ原告適格を認めたことは画期的だ。これによって「入口」を突破し、実質審理(裁決の違法性の判断)への道が開けたからだ。
3月26日、最高裁は予測通り、県敗訴の判決を言い渡した。最高裁が一度の弁論も開かず福岡高裁の判断をそのまま追認したのは「司法の死」を意味すると、各方面から批判が噴出した。とはいえ「関与取り消し訴訟」はいわば「手続きの正当性」を問うたものであり、那覇地裁で係争中の「抗告訴訟」が「本丸」と言われている。
4月13日の判決では、大浦湾に軟弱地盤が存在していることが「公知の事実」となっていること、地盤改良工事による住民への被害を試算する必要性に言及し、さらに、設計概要変更に沖縄県知事の承認を受ける必要があり、それに際して改めて環境影響評価が実施されるべき、とまで踏み込んでいる。弁護団の1人は「(延期となった3月19日の判決で)裁判長は原告勝訴判決を書いていたのではないか」と推測した。住民の訴訟の今後の展開、それと県の「本丸」訴訟がどう絡んでいくのか、目が離せない。
◆ 変わらない自然の営みと人間の愚行
裏山から、鈴を転がすような美しい鳴き声が寝床の耳を震わせると「あぁ、夏が来たなぁ…」とさわやかな気分になる。毎年この時期、繁殖のために渡ってくるアカショウビンだ。その美声で目覚める朝は、この地に住んでいる幸せをしみじみと感じる。やんばるの雨期を告げるイジュの清楚な花も、森のあちこちを白く染めている。コロナ禍の中でも変わらない自然の営み、季節の巡りが、今年はいっそうありがたい。
(アカショウビンの鳴き声は「キョロロ~~」と表現されることが多いが、実際には、文字では表せない、もっと深みと余韻のある声だ。奄美や沖縄での名称=「クッカルー」「クカル」は、鳴き声にちなむと言われる。)
そんな自然の営みに真っ向から反する蛮行が、人間界では横行している。そもそも、今回の新型コロナウイルスのパンデミックは、地球の自然生態系を破壊し続けてきた人間の文明、経済・社会のあり方が引き起こしたものであり、自然からの鋭い警告だ。それに対して武器や軍備は何の役にも立たないことがこれ以上ないほど明らかになった。
それなのに、人間のあくなき欲望から辛うじて免れ、世界に誇る稀有の生物多様性を未だ維持している「宝の海」を埋め立て、巨額の血税を浪費して巨大軍事基地建設を強行するなど、自分で自分の首を絞めるに等しい。
私の属する名護・ヘリ基地反対協議会とその海上行動チーム(辺野古ぶるー)、オール沖縄会議、沖縄選出野党国会議員団などが相次いで沖縄防衛局に対し、「不要不急の辺野古基地建設を止め、その費用(政府の発表で約9,300億円、沖縄県の試算では2兆5,500億円)をコロナ対策に」と要請したが、防衛局側は「危険性除去の唯一の解決策である辺野古移設を進める」との一点張り。「今いちばん危険なのはコロナだろう!」と怒声が飛んだ。
案の定と言うべきか、4月半ば、辺野古工事の受注会社の作業員にコロナ感染者が出て作業中断を余儀なくされ、私たちの側(オール沖縄会議)も、感染拡大防止の観点から5月末まですべての抗議・阻止行動の休止を決めた。玉城デニー沖縄県知事は4月20日、県独自のコロナ緊急事態宣言を発し、県民に警戒を呼びかけた。
ところがあろうことか、翌21日、沖縄防衛局は沖縄県に対し、大浦湾の軟弱地盤改良工事に伴う「設計概要変更申請(約2,200頁にも及ぶ書類)」を提出したのだ。それも、始業時刻(8時半)直後、県の出先機関である北部土木事務所(名護市在)の窓口に置き去る、という既視感のあるやり方で。彼らが県民の目を盗んで後ろめたいことをやるときの常套手段だが、もちろん沖縄県も県民も激怒。どさくさ紛れの「火事場泥棒」、職員の在宅勤務等の中でコロナ対策に追われる県行政への「嫌がらせ」「いじめ」だとの声が噴出した。
沖縄県は当然、変更申請を承認しない方針だが、その場合には政府は裁判に持ち込み、政権の走狗と化した司法を抱き込んで強行するつもりだろう。天に唾するこの愚行を止められるかどうかは、主権者であるあなたの手にかかっている。
(沖縄県は5月15日、申請の審査に必要な期間のめどは「163~223日(休日除く)」と防衛局に通知した。最終判断は早くて年末~年明け以降になる。)
◆ コロナ禍の今こそ
沖縄の「日本復帰」から6年後の1978年に始まり、毎年行われてきた「5.15平和行進」が今年、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、初めて中止となった。しかし、「平和行進」が問い続けてきた「復帰」の内実、今もなお変わらない日米による植民地的な沖縄支配の実態は、コロナ禍の中でいっそうくっきりと浮かび上がっている。
3月末、在沖米軍嘉手納基地内で3人のコロナ感染が報道されたが、直後に米国防総省は、すべての米軍基地の感染状況を非公開とする方針を発表。以来、一切の情報は閉ざされたままだ。「基地内で感染者が増えているらしい」との噂もある中、米兵たちはマスクなしで出歩いたり、集団で公道を走っている。基地のゲートに入るときは検温が行われているが、出るときはフリー。「民間地に出てくるときこそ検温してほしいよね…」と市民は眉をひそめる。
4月10日には、普天間基地からPFAS(有機フッ素化合物の総称)を含む大量の泡消火剤が基地外の民間地に流出し、保育園や住宅地に泡が降り注いだ。PFASは発がん性が指摘され、環境中に半永久的に残留すると言われる有害物質だ。撤去作業に当たった宜野湾市消防本部が断念せざるを得ないほどの量だったが、米軍は傍観。あまつさえ同基地のスティール司令官は「雨が降れば収まるだろう」と発言、コロナ禍に追い打ちを掛けられた市民の憤激を買った。
「Student Driver」と表示された、未熟な訓練兵が運転する戦車が、広々とした基地の中ではなく一般車の通行する民間道を連なって走り、低空飛行訓練の米軍機が爆音をまき散らす状況は変わらない。5月12日には、北谷町で2人の米兵による外貨両替店強盗事件も発生した。
5月20日、コロナ緊急事態宣言や休業要請が解除された。いつ基地建設工事が再開されるかもしれないと、私たちは毎日警戒を続けている。国会で審議されていた検察庁法改悪に対し、世論の力が「待った」をかけたことに勇気づけられた。コロナ禍の今こそ、百害あって一利もない新基地建設という愚行を止める世論の力が、ここにも欲しい!
(作家、沖縄在住)
※本稿は、婦人民主クラブ発行『ふぇみん』3250号、3253号、3255号掲載の原稿に加筆修正したものですが文責は『オルタ広場』編集部にあります。
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