【沖縄の地鳴り】

許せない「民意」の黙殺

大山 哲

 沖縄の県民投票は、72%の県民が、辺野古基地反対の意思を表明した。この事実を、政府は口先だけで「真摯に受けとめる」としたが、全く意に介しない。
 むしろ「国には従え」とばかり、民意を踏みにじって、3月25日から新たな埋め立て区域(辺野古側)に土砂の投入を開始。海面を赤土で染めた。
 かつての美しい海浜と豊かな漁場が、日増しに失われるのを眼前に、政府の振興資金で条件付き賛成に回った地元(久辺3区)の人たちからも、悲嘆の声が漏れ聞こえた。

 現在、工事の進捗状況は、埋め立て計画全体に照らすと、初期段階で、大半はこれからが本番。埋め立て全面積(160ヘクタール)の約75%、土砂量(2100万立方メートル)の94%の、とてつもない大規模護岸、埋め立て工事が控えている。
 日米同盟による抑止力の維持のため、何がなんでも辺野古に米海兵隊の新基地を造る。政府の姿勢は頑なである。
 その強い意図とは裏腹に、埋め立て工事の前途には、多くの難題や障壁が横たわっていることが浮上した。
 大浦湾の予定地には、工事を阻む57ヘクタールの軟弱地盤が存在するというのだ。防衛省は、2014年の海底ボーリング調査で、この事実を掌握していた。にも拘らず「工事に支障はない」と強弁し、沖縄県からの疑義にもまともに応えなかった。
 県の独自調査で、軟弱地盤は水深90メートルに達し、現在の日本の土木技術では、埋め立て改良工事は不可能なこと。7万7000本の砂杭(すなぐい)を打ち込まなければならず、必要な砂の量は650万立方メートル、つまり東京ドームの5.2個分だというのだ。

 そのことから、建設完成には、少なくとも13年間を要し、総工費は2兆円超の天文学的数字に膨れ上がることを公表した。
 玉城県知事は、安倍首相、菅官房長官、岩屋防衛相など政府要路に、この数字を提示し、辺野古新基地建設の断念を要請し続けている。
 防衛省の当初目標では、新基地の工期は8年、総工費も約3000億円を見込んでいたはずだ。すでにこれは誤算となった。現時点で、工費はすでに目標額を超え、財政支出計画も示されないまま、ねずみ算式に増え続けている。
 国は、新たな事態に則った新基地の総工費や工期など、具体的な事業概要を明確に公に示していない。

 辺野古新基地は、米海兵隊に提供される施設だが、建設費のすべては日本国民の血税で賄われる。当然ながら、2兆円を超える巨額工事は、国民の厳しい財政チェックを受ける必要がある。
 日米同盟を金科玉条に、国の専権事項の理由だけでは事は済まないはず。一方的に工事を強行するのは、民主主義国家の信が問われることになろう。
 政府は、工事期間や総工費について、県の提起に肯定も否定もせず、無視する姿勢を通した。

 事態が変わり、動き出したのは、論議が国会に持ち込まれ、一連の衆参両院の委員会で野党側が集中的に辺野古問題を追及したことである。
 安倍首相は1月30日の国会答弁で、5年目に初めて軟弱地盤の存在を認め、地盤改良工事の必要性を説明した。国は沖縄県に建設計画の変更を申請しなければならない。
 県はあくまで辺野古NOの立場から、不認可の方針。これを巡って、再び裁判闘争に持ち込まれる公算で、紛争の火種は絶えない。
 岩屋防衛相は、繰り返し、水深90メートルには固い地盤があり「工事は順調に進められる」と強調していた。しかし、これは明らかな虚偽答弁で、90メートルのボーリング調査は実施していなかったことが判明した。
 従って、目算は大幅に狂うことになり、ついに「新基地建設には、少なくとも11年8ヵ月かかる」と工事の遅延を認めざるを得なくなった。

 政府は、絶えず「世界一危険な普天間飛行場の一日も早い返還」を言いつつ、辺野古基地とリンクさせているので、返還時期は明かさない。
 一度は「5年以内の機能停止」で県と合意したのに、これをあっさり反故にした。では、仮に辺野古の完成が11年後だとすると、それまで普天間は返されないということか。
 そのことを明確にしないまま「県の協力が得られないから」と、辺野古を認めない県に責任を転嫁している。

 これに対して、県は「辺野古が完成するまで普天間の危険性を放置するのは、事実上の基地固定化だ」と強く反論。どう理由をつけようと、普天間は無条件に、早急に返還すべし。これが「一日も早い危険の除去」なのだから。

 県民投票は、明らかに辺野古NOの「民意」を突きつけた。少なくとも県民の政治意識を高め、全国各地にも、その波紋は静かに広がった。国際的な反響を呼んだことも、注目に値する。
 国会の野党勢力は、安倍一強政権を揺り動かすだけの力はない。しかし、辺野古をめぐる論戦を見た限り、政府は防戦一方だった。
 「抑止力」の機能さえ疑われる米海兵隊のために、巨額の国費を投じることが、果たして妥当なのか。
 県民同士の世論を分断し、争わせる国の愚策は終わりにしてほしい。「民意」の黙殺も許されない。
 今ほど、日本の民主主義と自治のあり方が問われている時はない、と思うからだ。
                     (元沖縄タイムス編集局長)   
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