風と人のカルテ(3)

被災地にみる医療・介護の「近未来」

色平 哲郎

 東日本大震災から3年が過ぎたけれど、いまだに二十数万人の人が避難生活を送る。
 中でも福島は、原発事故で約8万人が避難指示を受けて、強制的な避難を強いられている。
 長引く仮設生活は、避難者に過大なストレスを与える。

 いわゆる「生活不活発病(廃用症候群)」は仮設住宅に蔓延している。
 日ごろ、マイペースで田畑に出て、体を動かしていた高齢者が災害を機に狭い仮設住宅に入ると、座りっぱなしの生活になり、全身の機能が一気に低下する。

 新潟県中越地震の後、厚生労働省特別研究で実施した高齢者対象の「生活機能調査」によれば、地震の影響で屋内ないしは屋外の歩行が難しくなったとの回答割合が約37%。
 また、その後、地震前の機能が戻っていないとの回答が11・3%に上り、被災高齢者の生活機能の低下が顕著だった。

 東日本大震災後も、避難が長引くにつれて生活不活発病が深刻化し、こうした状況には、もはや医療だけでは対応しにくくなっている。多様な人の手が求められているのだ。

 佐久総合病院を辞して、宮城県石巻市の仮設診療所長となった長(ちょう)純一医師は、「医師や看護師だけで被災者をケアするのは難しい。様々な立場の人が協力することが大切だ」と説き、介護関係者はもとより、NPOやボランティアとも連携した「チーム」で、被災地医療を構築しつつある。
 仮設住宅の診療所で、情報を共有しながら24時間、365日、患者さんを診る体制を築こうとしている。

 例えば、腰痛を悪化させて立ち上がれなくなった女性に対して、長医師の腰痛治療と並行して介護ヘルパーが身の回りのお世話に当たる。
 訪問看護師が定期的な「見守り」を行い、さらには介護に当たる夫の負担を軽減するため、リハビリの理学療法士が訪問。
 これらのスタッフが、入れ替わりでかかわる。

 もちろんマンパワーに限りがあるので、常に十分なケアというわけにはいかないだろうが、「チーム」の意識が形成されることで、スタッフの動きは格段に良くなった様子だ。

 「話を聞く」といった手法で、個々の患者ニーズの8〜9割は診療所を中心とした地域連携で応えられると長医師はみている。一方で、大きな病院との連携も重要と力説する。

 多様なかかわり合いで、避難者の孤立化が回避できる。
 と同時に、それは迫りくる「超高齢社会」のニーズの先取りともいえようか。

 (筆者は長野県・佐久総合病院・医師)

※この原稿は色平哲郎2014年3月14日付ブログから加筆転載して戴いたものです。
 http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201403/535427.html


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