■【米国大統領選挙報告】
脱原発か 核のルネッサンスか 武田 尚子
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今年2012年3月、オバマ大統領は、アメリカに新しい核プラントを建設す
る許可を与えたと発表した。30年ぶりのことだという。そしてマスメジアには
「核のルネッサンス」という言葉が、しだいに登場するようになった。「ルネッ
サンス」という希望の響きの背後に暗い影を感じてしまうのは、やはり筆者が戦
中戦後世代のせいだろうか。
福島の震災。悲惨な窮境のなかで、日本の人々が譲り合い助け合う姿が世界に
大きな印象を与えたあの日から、早くも1年半。そして今、アメリカでの日本関
係の報道は、核エネルギーを利用する電力会社や政治家をはじめとする核プラン
ト再建への動きで埋まるようになった。脱原発の声の高まる日本で、福島の震災
を忘れたかのように、プラントは再開してゆくようだ。
青年オバマの核世界に対する思索は、つとに1983年、コロンビア大学の学
生時代に形成され始めている。彼は『品位ある世界』(つまり核のない世界)を
夢見る学生を大学新聞サンダイアルで称賛したが、その記事『戦争思考を打破す
る』のなかでは、そのような世界に至る方法は語られていない。しかし彼の意見
にはたちまち反響が集ったが、ナイーブすぎて現実を知らない危険な考えだとい
う意見が圧倒的だった。
時あたかもレーガン大統領が1兆ドルの武器を積み上げ、ソ連を『悪の帝国』
と呼び、ネヴァダの砂漠で多数の原爆実験を行っていた。これに対する一般の反
応は、核兵器凍結運動だった。レーガンの政策は地球上の文明とほとんどの生命
を終決させる脅威を与えると、批判者は主張した。
1982年6月には、「バクダンではなく、パンを」というプラカードを掲げ
てセントラルパークに10万人が集った。アメリカのローマカソリックの司教た
ちは核戦争を非難する公開状を教区に送った。
アメリカ国内で沈黙のうちに行われている軍国主義の伝播と、戦争の脅威の増
大に対して青年オバマは警告を発し、セミナーのバロン教授は彼のサンダイアル
の記事にAを与え、彼をハーヴァード大学院の法学部に推薦した。
オバマはインタビューを受けて、外交政策に関心を抱く学生として、アメリカ
とソ連がいかにして効果的に核兵器を管理してゆけるか、そして、人類の直面す
る危険を和らげるどんな方法があるかを模索するのが、彼の中心課題だと述べた。
26年後、大統領になったオバマは、核から自由な世界を樹立できる条約や同
盟を得るために新しい地球規模の規則を求めようと努力した。『私はナイーブな
人間ではない。これは簡単に達成できる目標ではない。ひょっとすると私の生き
ている間にはむりかもしれないが、辛抱と持久力が必要だ』
しかしこれまでいずれのアメリカ大統領も、最終的には核のない世界を目指し
て一歩ずつ計画を練ったことはなかった。ロシア訪問の機会を利用して、彼は核
保有の2超大国が、2200個ずつある核弾頭をそれぞれ1500個に減らせる
という交渉をすすめると言明した。反対を予期してオバマはいった。『核兵器を
保有する国が存在するかぎり、米国は抑止力を維持することは明確にしたつもり
だ』
オバマは、兵器を減らすことは、米国と同盟国が『核世界を作り直す最初の第
一歩になる』と主張した。目標のなかには、北朝鮮とイランに核兵器プログラム
を停止させること、諸国家に核不拡散条約を取りやめる意思をくじかせることが
ある。しかしこれは明らかに、パキスタン、インド、イスラエルには痛撃である。
オバマのキャリアの重要時点で、核武装についての彼の考えは何度もでてきた。
しかしいま、彼自身と彼のプログラムとは最終的な試練に直面しているといわれ
る。多くの核の専門家たちが、第2核時代の始まりと見なし、新しい核兵器国が
増殖中のこのとき、とりわけイランが核弾頭を作りあげたりしたら?と。
さて2010年月4月8日、オバマ大統領はプラハで、ロシアの大統領、ヂミ
トリー・メズヴェデフと会見し、2009年12月5日に期限のきれた戦略的兵
器縮小条約(START) にかわる新しい核軍備縮小条約に調印した。
両国はまた長距離ミサイルおよび発射台をそれぞれ700台ずつ減らすことに
なった。
世界の2大核保有国である米国とロシアが、両国の核兵器の3分の1を縮小す
る誓約をしたのだ。これは20年間にはじめての歴史的な合意の結果である。こ
の調印の行われたプラハは、オバマ大統領がちょうど1年前核の存在しない世界
のヴィジョンを語った土地であり、象徴的な意味があった。
此の条約で最も問題になりそうな点は、核不拡散条約に参加している国がたと
え攻撃を仕掛けても、アメリカは反撃しないという新しい約束をしたことである。
この条約は核廃絶への第一歩を刻んだオバマの快挙であり、彼の大統領としての
業績の一部として、長く記憶されるだろう。
その後2011年3月11日、福島の震災が起った。その被害の大きさは、核
プラントを持つ世界中の国々に、核エネルギーの平和利用を可能にしたプラント
の可否について考えさせ始めたのである。しかし最近オバマは、日本の大災害に
触れながら、アメリカの核プラントは安全であり、彼のエネルギー計画の主要な
成分であることに変わりはないという。
核のない世界をあれほど望んでいるオバマが、たとえ兵器ではなくとも、福島
のような悲劇を生じさせうる核プラントの建設を再開させるとはいったいどうい
うわけだろう。この疑問の少なくとも一端は、ワシントン・ポスト紙に紹介され
た次の記事が答えてくれるだろう。
「オバマの姿勢は、彼の政治的ベースを支える多数者とは反対である。新しい
調査によると環境保護主義者も、民主党の新しい有権者も、核プラントは安全で
ないという。ただ、オバマは核産業については経験がある。彼のホーム州イリノ
イは他のどの州よりも多くの核プラントを持つ。そのうえシカゴには、アメリカ
の核プラントの最多数を持つエクセロンの本社がある。
『私は今でも核エネルギーは全体としての様々なエネルギーミックスのなかで
重要だと思う。我々は此のエネルギーは、安全で理にかなったやり方を使わなく
てはならないと信じる』とオバマはいう。
主要な原子力研究所のあるニューメキシコのテレビ・レポーターに、核研究の
予算が(福島以後)カットされるのではと聞かれて、オバマは答えた。『日本の
危機は、資金の供給がいかに重要であるかを銘記させた。我々にはそのための予
算がある』
2011年の年頭演説で彼は、風、太陽熱、核、クリーンな石炭、天然がスの
すべてをクリーン・エネルギー源として、2035年までにアメリカの80%の
電力をまかなうことを目標にすると述べた。
核エネルギーはすでにアメリカのエネルギー生産総量の20%を占めている。
しかし核プラント建設のコストは非常に高額であり、代替えに天然ガスが浮上し
てきたので、ウオールストリートは公益事業投資をいやがる。そこで(核産業は)
政府に援助を求めた。オバマは2012年の予算に新プラント建設のために36
0億ドルのローンを組み込んだ。これはブッシュ大統領のエネルギー政策予算と
して始まった185億ドルをうわまわるものだ。
若干の批判者は、オバマの側近がエクセロン社にごく近いための政策だという。
エクセロン社とその従業員は、オバマの、議員選挙と大統領選挙キャンペーンの
ために、34万ドルを何年かにわたり寄付した。また大統領の長年のアドヴァイ
ザーであるアクセロッドは、エクセロンのために顧問会社を共立した。現在はシ
カゴの市長になったラーム・エマヌエルはかつてのホワイトハウスの重要スタッ
フであったが、それ以前、投資会社ワサースタイン勤務中に、エクセロン社設立
の仲介をしている。
オバマが大統領になってから、エクセロンは少なくとも1つの重要な政争でオ
バマを助けた。同社は、地球温暖化にたいする立法を阻止する商工会議所の商業
グループに抵抗して、商工会議所を脱退することでオバマを支持したことである。
ホワイトハウスのスポークスマン、クラーク・ステイーブンズはいう。『オバ
マ大統領の核プラント政策は、全く彼が正しいと信じる政策からでたもので、そ
れ以外ではあり得ません。21世紀のクリーン・エネルギーを確保する最善の方
法だという信念からです。つまり広い領域の風、太陽、生の燃料、天然ガス、ク
リーンな石炭、および核エネルギーのすべてをエネルギー産業が分かち合って生
産しアメリカの需要を満たすためなのです』
もうひとつのエネルギー畑の主要プレイヤーはジューク・エネルギー社である。
主任重役のジム・ロジャーズは、2012年の民主党の全国大会をノースカロラ
イナのシャーロットで実現させるべく醵金運動をリードしている。2010年中
間選挙の寄付金ではわずかに民主党寄りだったこの会社は、地方銀行からの10
00万ドルの融資を(民主党大会のために)保証している。ただそれは純粋に彼
の会社の経済発展のためで、2016年に共和党大会がシャーロットで行われる
となれば、我が社はそれを応援するとロジャーズは語っている。
オバマは全体として、彼の政治歴のなかで、エネルギー会社関連の寄付にはあ
まり頼っていない。2008年の選挙にはエネルギーと自然資源会社はオバマに
280万ドルを寄付したが、同時に彼等は共和党のマッケーン候補には410万
ドルを寄付している。またオバマの支持者は2012年のキャンペーンでも、会
社単位のパック献金はこれまで通り拒否すると誓約している。
大統領のこの立場は、フォックスニューズによれば、最終的な選挙を左右する
インデペンデント派にはよく受け入れられている。彼等の大半は核エネルギーを
安全と信じているためだ。しかし民主党の過半数は反対しているという。―20
11年3月18日付ワシントンポストより要約―
以上は、福島震災直後の報道である。ではオバマの核プラントに対するスタン
スはその後変わっただろうか。彼は福島の災害は人災であったことを信じていて、
金をかけ、整備を完璧にしてプラントを維持すれば、あの災害は防げたはずだと
確信しているようにみえる。
2012年8月1日に開かれた東京電力とその先任幹部に対する裁判は、昨年
3月11日の震災後のプラントのメルトダウンを刑事事件として裁くことになっ
た。その直前7月31日に、東京電力は、政府が1兆円の資金をつぎ込んだ後、
正式に国有化された。
ご承知の通り、東京電力の福島第1核プラントの事故の責任は1年に余る争点
になっていた。福島事故調査委員会という特別のグループが議会によって作られ、
その委員会が、事故の責任ははっきりと東京電力と政府にあるとしたのである。
委員会は『事故は、政府、規制官、東京電力の(利害の)衝突と、その3者に
よる管理、統合の欠乏によるものであり、彼等は核の安全管理という国民の権利
を、いとも効果的に裏切った』と断じた。
さて福島が確かに人災であったとすれば、オバマの、アメリカの核プラントの
安全への強い自信は、はっきりと裏書きされたことにはなる。しかし、たとえ完
璧な整備をしても尚起こりうる事故、限度のありすぎる核燃料の廃物処理の問題
を、いったい、オバマはどう考えているのだろう。
おそらく様々な代替えエネルギーのミックスが、アメリカの需要を十分に満た
せる時が来たら、核のプラントはいらなくなるという想定なのだろうか。
アメリカでは簡単には起らないとしても、オバマ大統領自身の言うとおり核リ
アクターの運転に「絶対安全はあり得ない」。
私には忘れ得ない映画の一つに、スタンリー・キューブリックの『博士の異常
な愛情』がある。あるとき狂気の発作の始まった空軍の将軍が、厳重な管理下に
ある原子(水素)爆弾をロシアに投下せよと下した命令が、バクダンを回復する
秘密のコードを知らせてもらえない部下に伝えられて、ついには爆弾に乗っかっ
たアメリカの将校が、カミカゼよろしく、ロシアの標的めがけて飛行機から飛び
出してゆくという、キューブリックの驚異的なブラック・コメデイである。
核爆弾の操作には重層の人間が関与しているのだから、どれほど慎重にしても
なおあり得る機械装置の大小のほころび事故の他に、関係者の神経衰弱とか狂気
が、地球を破滅させるかもしれない可能性のうえに、核爆弾管理の成立している
おそろしさを、いやでも心に焼き付ける。
核爆弾と核プラントではなるほど話は違う。しかし、福島の事故のときアメリ
カから派遣されたGMのエンジニアが、日本側では見落としていたリアクターを
とりまく厚い壁に生じた裂け目を発見した、と読んだ記憶がある。核プラントの
事故では、福島やチェルノブイルのような大事故でさえ、地球の壊滅は起こさな
いだろう。核パワーのおかげで、今後もふえつづける人類が受けるエネルギーの
大きな恩恵に比べれば、多数の人間の幸福を一瞬にして奪い去リ得る核リアクタ
ーの危険は、あえて見過ごすべきなのだろうか。
此の疑問を追っているうちに、私はいくつかのことを学んだ。その第1は、オ
バマが明言したように、アメリカのプラントを可能な限り安全にすべく、実に多
くの研究がなされ、ケアが与えられていること。しかもその方法は、彼の言うと
おり、日々に刷新されていることである。
アメリカの活動中のリアクターは平均年齢32年であり、その老化状況が現在
大きな問題になっている。これらのリアクターのうち73基は60年つまり60
歳までの延長使用を認められている。そのうちの10基は既にこの新しい延長期
操業に入っている。
しかしそれだけではない。操業者たちは、‘中間期’つまり中年のリアクター
に再生策を加えており、それは1リアクターにつき10億ドルかかるという。規
制官と核エネルギーの研究者たちはこれら老化しつつあるプラントに再生術を施
こせば、それらを80歳まで安全に操業することができるかどうかという、今核
産業が直面している重大問題を研究しているのである。もしも最多数の高齢のプ
ラントの集結している米国のプラントでそれが可能であれば、ヨーロッパもアジ
アもソ連そのほかも、アメリカにつづくだろう。
古くなりつつあるリアクターを管理する現在の計画には、取り替えることの最
も困難な構成成分―プレシュア・ヴェセル、それを囲むコンクリートの壁ならび
にそれにつながるメインパイプやケーブルを定期的に点検することが含まれる。
以下の報告要旨の大部分の筆者レナード・ボンドはこれまでの、「危険を発見
したら修理する」というパターンでなく、「モデルを作って危険を予知する」方
法を同僚と模索研究しているという。事故を防ぐためになによリも重要なのは、
リアクターのひび割れを見つけることである。早期に見つけて手当をするために、
様々な新しい方法が試みられている。
例えば2002年2月。オハイオのデイヴィス・ベーシー核プラントで、リア
クターのプレシュア・ヴェセル(放射能の中枢であるロッドを囲む強力なスチー
ルのシリンダ)のふたに3つのひび割れが発見された。蓋のひびは特別修理を急
ぐことでもなかったが、その後放射能のロッドを入れてある囲いが少し動いてい
ることがわかった。何しろ15センチの厚さのあるスチールの壁に守られている
のだから動くのは不可能なはずだ。
もっと調べてみると、アメリカのフットボール大の空洞が見つかった。その空
洞のために、プレシュアのかかったインテリアの内壁は1センチ以下になってい
た。もしもリアクターの運転中、プレシュアのかかっているときなら、放射能ロ
ッドの冷却水がひびから吹きだして冷却不能の事故が起き、リアクターに重大な
損害を与えかねない。プラントのオーナーは、けっきょく、ひびの入ったふたを
新しく取り替えたが、それには6億ドルを要した。
別の例では、米国の核規制官と、あるプラントのオーナーには、おそらく19
90年には放射能ロッドのメカニズムに現れていたはずの故障がわからずそのま
まプラントを稼働させた。1995年までには、リアクターのひびから漏れる酸
を出す水が、プレシュア・ヴェセルのスチールの壁を浸食して、要員が発見する
まで7年間も壁を蝕んでいたことを知った。このような緩慢な、たゆみない崩壊
は、核プラントが年を経るにつれ起りやすい。
NRC(核エネルギー規制委員会)と核産業は電力研究所(Electric Power
Institute) とともに、高齢化するリアクターの主要な構成要素をどのようにし
て計測し監視するかを研究している。最大の心配は、リアクターのプレシュア・
ヴェセルとそれにともなう配管、コンクリートの包囲壁の崩壊、老化するケーブ
ル、埋没された水道管の腐食である。
現時点では、これらのなかのどの部分がリアクターで最も重大な問題なのかが
わからない。というのも、60-70年も、商業規模のリアクターを運営したも
のはこれまで世界にいなかったのだから。我々は原子力の新時代に入ったのであ
る。
過去30年に、プラントの多数の部品――タービン、いくつかの主要パイプ、
プレシュア・ヴェセルの蓋などが取り替えられ、あるいは修理再生された。しか
しリアクターの中心要素―つまりプレシュア・ヴェセルおよびそのスチールとコ
ンクリートの壁―はもともと取り替えられるように設計されたてはいなかった。
典型的な1ギガワットのリアクターは300メトリックトンも重量があり、12
メートル以上の高さがあるのだ。
だから大半の分析家は、故障が起きたら、リアクターに切りこんでプレシュア・
ヴェセルを引き出し、新品ヴェセルと取り替えるより、新しいリアクターをまる
ごと作った方がやさしいだろうと考える。では1つのリアクターの主要な構成要
素が、後20年は持つだろうと決定するにはどうするか?
いくつかのやり方があるが、ここでは主な方法を紹介するにとどめたい。
最善の方法は、「リアクターに聴くことだ」と研究者たちはいう。彼等は橋脚
や航空機の健全性のテストから学んで、音響テクニックと超音波テクニックの使
用をテストしている。
1989年、ペンシルバニアのリメリック・ジェネレイテイング・ステイショ
ンという核プラントで、冷却水をリアクターの底部に運ぶプレシュア・ヴェセル・
パイプの溶接部のあたりに小さなひび割れが見つかった。操業者は、今の稼働に
は差し支えはないが、此のひび割れが大きくなるかどうかを監視することにした。
彼等は音響発射モニタリングという技術を使うことにしたが、それはパイプラ
インとか風力タービンの刃などの金属構造を点検するのに用いられていた。この
方法を使うと、ひび割れが大きくなったときには音響エネルギーが小さな振動で
放出される―ちょうど地震のときその波動があらわれるように。ひとたび音響シ
ステムが設置されると、操業者は、割れ目の大きくなったことを示唆する超音波
動を聞くことができるのである。
最近上記の監視システムを使って、疲弊したステンレス・スチールパイプをテ
ストしたところ、この「音響エミッション」監視方式なら、人間の肉眼で捉える
以前に、割れ目ができたためのシグナルを探知することができた。その割れ目の
存在を知った後で、研究者は波動誘導テクニックを用いてその割れ目を監視した
ところ、割れ目にぶつかったとき、その波動はセンサーに飛び戻ってきた。これ
らのシグナルを観察することで、彼等は深さ2.45ミリ長さ47.7ミリの裂
け目が長さ68ミリの裂け目に拡大したのを見届けた。
もしも米国が全エネルギーの20%をまかなっている核燃料の供給を継続して
望むなら、『リアクターの寿命の延長を約束する健全な技術は存在する』と核規
制委員会は太鼓判を押されるはずだ。しかし2020年までに核エネルギー規制
委員会が、リアクターの稼働寿命の免許を60年から80年まで引き延ばそうと
いうなら、これまでの規則以上に(きびしい)規制や基準を樹立する必要がある。
これらの規制が新しく加筆されると、操業者には重大で高価につく構成成分の
取り替えや、改造費用や、全ての構成部品の改良に、はっきりした枠組みを与え
ることになる。もしも公益事業そのほかの核プラントが2020年までに核エネ
ルギー規制委員会から、彼等プラントの資本投資を可能にする新しい枠組みを与
えられなかったら、プラントの運営者はアメリカの核リアクターから退陣するほ
かないだろうと、記事の筆者はいう。
核リアクターの新たな改良や改造などは決して安価なものではない。いくつか
のプラントは既に、40-60年の寿命延長のためには1プラントにつき、10
億ドルは必要と報告している。だから最終的にはテクノロジーよりも経済が、6
0年以上の寿命の延長が実行可能かどうかを決定することになるだろう。これほ
ど大きな需要に、現在アメリカ国内にある104の核プラントなしに対応するの
は想像しにくい。
もしも米国が寿命延長免許を出さないとしたら、国内の老化核リアクターに代
表される100ギガワットの基底負荷エネルギー生産の損失を埋めるために何兆
ドルという莫大な投資が必要になる。
その投資が新しい核プラントか、安い天然ガスプラントか、何らかの代替えエ
ネルギーの施設のいずれになされるにせよ、核プラントの損失を置き換えること
は膨大な国家プロジェクトになるだろう。最高に注意深い眼と耳を使って、我々
の高齢化しつつあるインフラを監視することの方が、よりよい選択である。(と
此の報告は結ばれている。)
(此の記事は最初『古いリアクターと新しいトリック』として発表された。筆者
レナード・ボンドはジェット機のエンジンや核りアクターの監視と前兆予知に関
わるエネルギーの仕事で働いてきた。武田はその要旨をご紹介した)。
●ユッカ山の盛衰 核ゴミの始末をどうするか
現在アメリカには核燃料廃棄物処理の為にいくつかのオプションがある。
従来の貯蔵と改良の研究は今も変わらず行われている。しかし、堆積した老廃
物の大半がそのゴミを出したプラントのある土地に散在していることは自然の災
害やテロリストの標的になると心配される。
一つの解決法は、土中に主要エネルギー部門の施設を作って廃棄物の入った容
器を入れておき、環境汚染の心配もなく、廃棄物を時間をかけて自然崩壊させる
ことである。核の廃棄物の隔離には、深い地下水面を持ち、地上の水がしみ通る
ことのない乾燥した環境が必要である。ネヴァダのユッカ山は此の条件に完全に
適合する。
2002年にブッシュ大統領はユッカ山を、堆積するアメリカの核ゴミ問題へ
の解答である、ここなら1万年も貯蔵しておけると決めた。此の施設はゴミをお
さめるトンネルまで、地中深く100階をおりてゆき、燃料生産からでる大半は
ウラニウムと武器生産からでるプルトニウムの核ゴミを容器に納めておく役目を
する。その容器はステンレス・スチールとアロイ22と呼ばれる腐食を防ぐ合成
材で作られる。
いうまでもなく、こんな場所に作る施設のことだから、いろいろの問題が出て
くる。それには地上水の浸透、地震の被害を受けやすいこと、ゴミが腐蝕するま
で施設が運営されねばならない時間の問題などがある。環境庁のいうゴミの腐食
に要する1万年は短かすぎる、実際にはその何倍もかかると科学者はいうのだ。
また地中の湿度のポケットは、過去に洪水を引き起こしたが、これは未来にも起
こりうるし、隔離したゴミと地上の環境を隔てるシステムを破損するかもしれな
い。
しかしユッカ山の出会った最大の障害は資金である。近年の経済不振と政府の
赤字で、アメリカ連邦政府にはこういった施設に金を出す余裕がない。元々考え
られたのは、ゴミの腐蝕に時間がかかるので、できるだけ放置して腐食プロセス
を長く続けておけば、次のプロセスが最も安価にできるだろうということだった。
実際に科学的に調査すると、それは大きなまちがいで、長期間の貯蔵費用が、直
ちにプロセスするより、2.5%よけいにかかることがわかったのである。
ところで最近、科学者たちはこの長期貯蔵のコストを減らすために。いったん
使った燃料をリサイクルすることに焦点を当て始めている。アメリカの基準では
使用ずみと判断される燃えかすはまだ実は生命を残している。そしてそれは将来
別の形の燃料として、エネルギー生産に使うことができる。多くの外国は既にそ
のリサイクルを行っている。その結果ゴミの量は減り、放射能をふくむ危険な使
い捨て燃料の採掘もしなくてすむ。核兵器に使われるのを恐れて再使用を禁じら
れていたアメリカでも、解禁になった。
ブッシュ大統領は熱烈にユッカ山貯蔵所を支持していたが、オバマ大統領は、
これが核ゴミの解決法とは思っていない。彼は新しい核リアクターを作る前に、
核ゴミの問題を解決しなくてはならないと2010年に声明した。さらに同年の
予算で、オバマはごくわずかを研究費として残しただけで、ほとんど完全にユッ
カ山関係の予算をカットした。
そこでブッシュのいった回答は何ら回答にならず、アメリカ政府とエネルギー
省とは一からやり直して回答を見つけてはならないところにきた。今こそ我々は
核ゴミの処理を解決し、さらに核エネルギープログラムの拡大をしなくてはなら
ない。
情報源:トマス・バッカス― Student pulse
●核パワーのルネサンス
スリーマイルアイランド、チェルノブイル核プラントの事故、さらに1970、
80年代の安価な自然ガスにも支えられて、かなり鎮静していた西欧の核の世界
に、‘核パワーのルネッサンス‘あるいは’核のよみがえり’という話題がしき
りにでてくるようになった。
そして今日では、西欧諸国の政策議題として従来の―あるいはそれをしのぐ大
きな核プラントの建設が登場する。2011年の福島事故では、放射能による直
接の死亡事故はなかったが、国民の核パワーへの不安がよみがえった。またそれ
はエネルギーの必要がいま、シェールガスの出現で多少緩和していることも一因
であろう。
核プラントの第1世代には、火力発電所による都会のスモッグ公害を防ぐとい
う正当性があった。核はまた外国からの石油輸入依存を減らす、経済的なエネル
ギーと見られた。
2007年から2030年までには世界の人口増加と産業の需要から、電力消
費は倍増すると予想される。また同期間にアメリカとヨーロッパでは古い核ロッ
ドの刷新が必要にもなる。また増加する真水の不足に答えるためにも、甚大なエ
ネルギーを要する無塩化設備が必要だ。電力自動車はあっという間に普及するだ
ろうし、運輸交通目的の長期的な水素生産には大量の電力/高熱が求められる。
石油やガスの供給の中断がいかに国民に不便を強いるかを諸国は経験している。
自然発生のウラニウムが生む大量のエネルギーを使えば、常時エネルギーを供給
できるという利点が、核パワーにはある。
地球温暖化と気候変化の危険や影響についての一般の意識が、政治家やメジア
や国民一般に、石油依存のエネルギーをもっと無害なものに変えなくてはならな
いと思わせるようになった。核パワーだけが、今直ぐ大量に継続生産の(基底負
荷)できるエネルギーなのである。石油価格の上昇が、核エネルギーを電力に使
うことの経済に気づかせた。数種の研究が、少なくとも天然ガスの価格の高い間
は、核エネルギーのコストが最低だとしている。
核産業が目下小さな国家的な規模から地球規模の協力体制に入ろうとしている
今、中国で示されているように新しいプラントを連続して建設することは費用を
下げるだろう。さらにそれは核エネルギーの競争力を高めるだろう。
核リアクターの建設にはどの程度の時間が必要だろう。今日の大部分は5年以
下で建設されている。最高のプラントには4年、プレファブを使って3年が目標
であるという。しかし建設前の事前承認を得るのに7年かかる。
チェルノブイルの災害はソ連以外では起らなかっただろうといわれる。しかし
此の事故は高水準のデザインと建設と操業者の質の重要さに眼を開かせ、世界的
な安全協力への道を開いた。その後25年間の無事故は世界に核パワーへの信頼
を回復させたが、福島の事故は此の安全記録を中断させた。しかし福島を含めて
も、核の安全記録は、他のエネルギーよりも高く評価される。
もうひとつ大事なのは、チェルノブイルの事故後の関係者の健康に関するもの
だ。科学者たちは、何千人もの住民が放射能被害で死亡するだろうと予測した。
国連の報告によると2005年の半ば、60人以下の死亡者が直接放射能被害に
よると報告されているだけである。福島では放射能による死亡者はいないが、逃
避の仕方に問題があった。
核パワーについての批判の一つは、長年の核の老廃物について、しかるべき戦
略も備えもないことである。地元のコミュニテイは決してそんなゴミの置き場に
はなりたくないと主張する。しかしスエーデンとフィンランドでは、とことん話
し合うこと、長期の仕事の展望をもつことを補償の中心として、核の貯蔵を受け
入れている。事実スエーデンでは2つのコミュにテイが、最終的な貯蔵所に選ば
れようと競っているのである。核産業からの老廃物は、世界中で責任を持って処
理されていて、何人にも害を与えていない。
情報源:Thomas Backus
おわりに:
核ルネッサンスの推進者の言い分を聞いていると、なるほど核はかなり安全に
使うことはできるのだなと思わせられる。事実、核リアクターは相当な勢いで世
界の先進国はもとより、各国に普及しつつある。驚くなかれフランスでは、国の
消費する電力の77%を、核プラントから得ているのである。一方ではドイツと
イタリアのように、核パワーの生産を少なくとも今は全く見合わせた国もある。
またエネルギーに全く不足のないはずのアラブ首長国連合のように、プラントの
建設を予定しているところさえある。
オバマは風力や太陽やエサノールやクリーンな石炭エネルギーなどのミックス
の一部として、核エネルギーを使うという。その立場はロムニーにも共通してい
るので、核プラントの是非はこのキャンペーンでは問題になっていない。しかし、
ロムニーは最近、大統領になったら風力発電への政府の援助金をカットすると発
言したので、オバマの強い非難を招いている。
核エネルギー事情は、筆者にはまだわからないことばかりで、到底書き尽くせ
ない。オバマの核プラント擁護への転回には正直、失望した。ただ万一自分が大
統領だったら?を考えると彼の懊悩はわかる気がする。ドイツとイタリアが核プ
ラントなしでどこまで生きていけるのか、切に見届けたいと思う。
(筆者は米国ニュージャーシー州在住・翻訳家)
目次へ