■編集後記

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◎この号では岡田一郎・木下真志氏という二人の若手政治学者に「インター
ネットと政治」の関わりを、西村徹先生には高齢の知識人としてPCに絡む
エッセーを富田昌宏氏にはPCをやらない立場から、そして上海の有留修氏
には中国のネット事情を、それぞれ寄稿して頂いた。 
 I・T理解力が「情報格差」を生み、さらに「規制緩和」が「社会的格差」
を拡大し「ホリエモン」と「下流社会」をつくった。そしてTV効果を計算
しつくしたコイズミの「ワンフレーズ・ポリテーク」は政治から「言葉とそ
の重み」を奪い、国民を劇場型政治の観客に仕立てることで「国民の思考力」
を失わせるという大きな罪を犯した。
 彼は、得意とする詭弁術とメデイア政治でしばしば「国民的熱狂」を創り
出したが、時に「国民的熱狂」が国家の針路を誤らせたことは、歴史が私た
ちに教えるところである。

 先の総選挙でのコイズミ自民の大勝、民主の敗北に見るまでもなく、いま
や、メデイアの動向が政治を支配する時代である。しかも権力側は常に、あ
らゆる手段を使ってマス・メデイアを操作するが、その対象はTV・ラジオ・
新聞・雑誌などからインターネットにまで広がっている。私たち市民の側も
この事実に積極的に対応していきたい。

◎3月28日、東京・両国で「オルタ」の熱心な読者で、亡くなる直前まで日
中友好に骨身を削った照井千郷さんをしのぶ会があった。主催は「評論出版
訪中団」の仲間たちで、メンバーには講談社・文芸春秋社・毎日新聞出版局
など大手出版社のOBやフリーのライター・大学教授など、このグループが
20年前に結成されて以来、十数回の訪中を重ねた実績を物語るかのように多
彩な顔ぶれが集まった。

 照井さんは社会福祉事業家で老人ホームと保育園を藤沢市で永年経営さ
れてきたのだが、この訪中団には初回から欠かさず参加された。もとはとい
えば、藤沢市が雲南省昆明市と姉妹都市になった時から日中交流事業に打ち
込み、雲南省の少数民族地区に8校の小学校を建設するプロジェクトに私財
を投じたという大変な篤志家である。
 照井さんは、きっと「政冷経熱」の臨界点も超えようかという近ごろの日
中関係悪化の雲行きを最後まで気にしつつ逝かれたに違いない。それを裏付
けるかのように、照井さんの長年のパートナーである北京の段元培氏から照
井さんの逝去を深く悼みつつ、最近の中国国民の対日感情悪化を強く心配す
るメッセージが届いていた。

 「オルタ」のよき理解者で、日中友好運動の先達でもあった照井さんは数
十回も日中を往復し、立派な交流事業を積み上げながら一貫して表立つこと
を嫌われたため、その業績を知る人は少ない。「オルタ」は照井さんの遺志
を継ぎ、ささやかながら日本と中国の相互認識を深めるために貢献したい
と思う。

◎春の人事消息として「オルタ」のレギラー執筆者初岡昌一郎氏が3月末で
姫路獨協大学外国語学部長を退任し同時に教職を退かれたことは先号で触
れた。同じく執筆者の木下真志氏が高知県立短期大学から1年間、東京大学
大学院法学研究所に研究員として出向されていたが高知の大学に戻られた。
さらに「オルタ」の読者で旧知の仲井斌氏が専修大学法学部教授を退任さ
れた。仲井氏は1968年から25年も西ドイツに滞在され、ドイツ社民党や緑
の党などドイツ事情の専門研究者として著名だが、この3月、『現代世界を
動かすもの』――アメリカの一極支配とイスラム・中国・ヨーロッパ――
(岩波書店刊・2700円)を上梓された。オビの副題に「一般人のための現
代国際政治入門」とあるように、アメリカの一極支配に抗する世界のあらた
な胎動について分かりやすく書かれている。

 特に今世紀の世界政治における最大の変動は中国の超大国化であり、日本
は超大国アメリカと超大国を目指す中国との狭間で国益と生存を考えなけ
ればならないことを認識することがまず対外政策の第一歩であること。そし
て毛沢東の中国と 鄧 小平以後の中国は異質であり、また政治システムの
社会主義と経済システムの市場経済化(資本主義)も異質であって、著者は
これらを『二つの中国』として「権力」「覇権」「国益」「闘争」という基
本概念で現代中国を語っている。「オルタ」の読者には号を改めて詳しく書
評で紹介したいが激動する世界政治を理解するために必須の好著であり強く、
お奨めしたい。

◎季節の人事異動というわけではないが民主党の代表がまた変わった。「情
報化政治」時代のまさにその「情報の処理」の政治的オペレーションに市民
社会でもありえないような稚拙さを露呈したのが前原代表であり、退陣は当
然である。
 ここは小沢新代表に「アジア外交の再構築」「格差社会の是正」などに焦点
をしぼり、まずは反コイズミ勢力の総結集を期待したい。小沢氏は共産党につ
いても「こちらから排除を言う必要はない」と発言しているようだが「豪腕」
が試される成り行きである。
                         (加藤宣幸記)