【編集後記】

加藤 宣幸

◎来春に予想された辺野古移転工事が11月の県知事選前に繰り上げられる可能性が出てきたという緊迫した情勢の中で、今年3月まで沖縄大学学長として沖縄の環境問題に取り組んでこられた浅井国俊氏に『仲井眞知事の辺野古埋立「承認」は違法である!』という現地沖縄からの痛切な叫びを巻頭に戴いた。本土にいる私たちは米軍基地問題を沖縄の人々に押し付けたまま、あまりにも現地の苦痛に無関心であり、あたかも沖縄を切り捨てるかのような安倍政権の政策を内心では容認していないだろうか。

『最低でも県外』という最低の希望さえ顧みられない沖縄の人々には『夢』と言われようが『独立』しか解決策がないのかという気分が漂い始めたという。かつての本土復帰への熱気は冷えたどころか、1972年5月15日から42年を経て、沖縄の心は静かに離れつつあるのではないか。『琉球処分』『沖縄決戦』『普天間』と本土が沖縄に何をしてきたのか。歴史を直視して、常に沖縄の人々の側にありたいと思う。私たちの出来ることとして毎月の「オルタ」に沖縄の声を届け続けたい。

◎『日本の安保にとって最大のリスクは安倍晋三である』と喝破したのは柳沢協二氏だと言われる。彼は防衛官僚として防衛庁官房長・防衛研究所長などを経て、小泉・安倍・福田・麻生政権で内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)として、安保の実務を担ったが、新著『亡国の安保政策——安倍政権と「積極的平和主義」の罠』(本号書評参照)では、解釈改憲による集団安保」を強行する合理的な条件は全くない。あるのは「安倍首相のやりたいという思いだけだ」と極めて具体的に論破している。

今、その安倍首相は、法的裏付けのない私的諮問機関に『お友達』の学者や官僚OBを集めて「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)なる組織をつくり、その答申を受けたという形をとって「解釈改憲」を強行しようとしている。これは戦後日本が『一発も撃たず』『一人も殺さず』築き上げた『戦争をしない国』から『戦争が出来る国』に、国の形を、憲法の改正もせずに一内閣の恣意で決められるもので、いわば憲法を無視し、立憲政治を根底から崩すものである。この暴挙について人権派学者として幅広く活動されている阿部浩己神奈川大学大学院教授に『知の重みが失われるとき』として厳しく批判して戴いた。

◎発足1年半が過ぎても安倍政権と中国とは首脳会談も開けず緊張がつづくが、主因は尖閣問題にある。これは、極右政治家石原元都知事の挑発から始まり、安倍首相の靖国参拝がさらに事態をこじらせたのだが、自からは『ドアは開かれている』と繰り返すばかりで、一向に打開への動きを見せない。かえって、これを政治的に利用し、『戦後レジュームからの脱却』と称して社会全体を右傾化させ、これを推進する読売・産経などを中心とするマスコミは今にも中国が尖閣に攻めこむかのようにナショナリズムを煽る。まさに歴史が教える危険な道だ。はたして国交回復後最悪といわれる日中関係に刺さった棘・尖閣問題打開の道はあるのか。出張先の上海で突然、中国公安当局に身柄を7か月も拘束され、先月解放されて帰国されたばかりの政治学者・朱建栄東洋学園大学教授とかねてから中台関係を深く追求する専門家の岡田充共同通信客員論説委員との緊急対談をお願いした。

◎米欧のマスコミは激動するウクライナ情勢について、今にも米ロの新冷戦が始まり、悪のロシアに立ち向かう市民の戦いとして大量の情報を流しているが、事態はそう単純なものではなさそうである。長い間、毎日新聞モスコー支局長として勤務したロシア問題の専門家・元日大教授石郷岡建氏に『ウクライナ危機の背景と行方を、今一度、考える』として状況を豊富なデータをもとに客観的に考察して頂いた。まだまだ現地情勢は流動的で予断を許さないが私たちは問題の本質を冷静に把握していきたい。

◎今号も桜井国俊・阿部浩己・荻原妙子各氏という素晴らしい方々を新しい執筆者としてお迎えすることが出来た。また【メデイア紹介】として『現代の理論デジタル版』の復刊を紹介したが、今後メデイア間での連携を期待したい。

◎【日誌】4月21日:立正大学石橋湛山記念講堂・『ウクライナ危機はなぜ?』小森田秋夫・服部倫卓・藤森信吉・蓮見雄・下斗米伸夫・小泉悠・川崎恭治・石郷岡建・石川一洋。22日:第一議員会館・ND主催・『今なぜ、集団安全保障なのか。—安全保障の最前線から考察する—』・柳沢協二・パネラー・山口二郎・鳥越俊太郎。23日:生活クラブ福岡専務懇談。25日:ソシアルアジア研究会・『中東を見る視点』荒木重雄。共同通信社・不安定研究会・『ウクライナから見えるもの』・山崎博康。28日:運動史研究・浜谷敦。30日:隨園別館・中国国際学校問題懇談。

5月2日:日吉・久保孝雄・竹中一雄。7日:横山泰治氏訪問。岩根邦雄・浜谷敦・小林徳雄。8日:東工大田町キャンパス・『都市の環境倫理』・吉永昭弘・間宮陽介。9日:前橋・猪上輝雄氏見舞・平和センター訪問。17日:教育会館・曽我祐二出版記念会。18日:長岡市・妙宗寺・三宅正一33回忌。

                           (加藤宣幸 記)

■【今月のオルタ動画案内】
  YouTube配信 http://www.youtube.com/user/altermagazine

◎対談:『尖閣の出口を探る』 朱建栄東洋学園大学教授・岡田充共同通信客員論説委員


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