【沖縄の地鳴り】
米中の対決を憂える
米国がアフガニスタンから撤退した。ニューヨークの世界貿易センターに航空機が突っ込んだ同時多発テロの衝撃から20年。米国史上最も長いといわれる戦争がやっと終わった。だが、タリバンの復活、米軍撤退に伴う混乱もあって、バイデン政権に対する目は米国内外で厳しい。
そのことを意識したか、バイデン大統領は「世界は変わり続けている。我々は中国と深刻な競争をしている」「ロシアの挑戦に…直面している」と撤退演説で中国とロシアの“脅威”をわざわざ挙げ、アフガン関与を終える理由の一つとした。これからは中国(とロシア)が要注意だ、アフガンに構っておれない、と。
近年の中国は確かに覇権主義的な動きが目立つ。東シナ海から南シナ海に「第1列島線」、太平洋に「第2列島線」を引き、南沙諸島の一部を軍事基地化するなど力を前面に出してきている。フィリピンやベトナムなど周辺国の批判もどこ吹く風である。
台湾海峡にも波風が立ってきた。7月の中国共産党100周年大会で、習近平総書記(主席)は「台湾統一は党の歴史的任務」「いかなる台湾独立のたくらみも断固として粉砕する」と強い調子で演説した。台湾独立派と米国を念頭にしたものと受け止められている。ある米軍幹部は、中国の台湾進攻が「6年以内に起きる可能性がある」とまで危惧、米軍による台湾防備の強化を説いている。
中国が台湾進攻とはまさかと思うのだが、香港での強権発動のこともあり、習政権の強硬姿勢は周辺国に警戒心を植え付けている。
沖縄近海では尖閣諸島周辺に中国海警局の警備艇が現れない日はない。我慢比べのように海上保安庁の警備艇もその都度、監視しているのだが、何かのはずみということもある。一触即発の事態が生じないよう警備にも慎重さが必要だ。
ところが石垣市は、尖閣諸島の字(あざ)名を変え、新しい字地名の標柱を諸島(5島)に立てようとしている。字登野城(あざ・とのしろ)だったのを「字登野城尖閣」(あざ・とのしろせんかく)とし(市議会で承認され、決定済み)、市の所有をはっきりさせるという取り組みだ。
長い間、諸島への上陸は許されておらず、標柱を立てるという市の上陸要請は国の許可が下りないままではある。そういうことを知りつつ、あえて計画している。要するに、尖閣の地名を市の中に(そして日本の中に)取り込もうという狙いである。中国側は黙っているようだが、何を好んで自ら緊迫状況をつくろうというのか。
島々には標柱はすでに立っているという。復帰前に立てられたようで、それを地名を変えて新しくというのは、嫌がらせ、あるいは挑戦と受け取られる恐れがある。尖閣はいよいよ波高しとなる。
台湾海峡が慌ただしくなると、沖縄は当然のこと、前線となる。万が一、米中の武力衝突となれば嘉手納、普天間など米軍基地は攻撃対象となり、沖縄は戦場である。与那国、宮古の自衛隊基地も無事ではない。こんな事態はかつて思いもよらぬことだったが(というのもロシアは遠く、北朝鮮は対米国では力不足という現実)、台湾を挟んで米中がぶつかり合う危険が増してきて、悪いほうに予感が行ってしまう。先のバイデン大統領、習主席の演説はともに攻撃的であり、予断を許さない。
沖縄は危険度を減らす努力を続けるしかない。中国との交流を(今はコロナだが)各分野でさらに深め、緊張を高める行動に厳しい姿勢で臨むことだろう。特に習主席が省長をしていた福建省との関係は、もっと趣向を凝らしたものにしたい。台湾も福建との関係が深い。
20年前の9月11日は東京にいて、月島のテント居酒屋で仲間と飲んでいた。その場で事件を知り、もんじゃ通りの店に替え、テレビでニューヨークの現場に目を見張った。こんなことがあり得るのか、驚きの一語であった。4、5人の客もみんな、信じられないといった顔、目であった。
この20年、沖縄の現状はその時代と大きくは変わっていない。しかし、米中対決がエスカレートすると、とどめようのない事態に陥る恐れが強い。そうならないよう、対決緩和の方策を考える必要がある。沖縄は世界平和を粘り強く追求する地でありたい。
(元沖縄タイムス記者)
(2021.09.20)
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