【「労働映画」のリアル】

第59回 労働映画のスターたち(59)長門 裕之

清水 浩之

 《やんちゃで純情 庶民と家族の傍に立ち続けた「長男坊」》

 東京・ラピュタ阿佐ヶ谷で8月1日から始まる「長門裕之― Natural Born 銀幕俳優」。少年時代から老年期まで、70年にわたり俳優として活動した長門裕之さん(1934-2011)の足跡を再検証しようと、8週間で計38作品が上映される大規模な回顧特集だ。

 私たち昭和の終わりごろに育った世代にとっての長門さんは、テレビをつけると毎日のように姿を見かける「ザ・芸能人」だった。フジテレビの「ミュージックフェア」や、歯磨き粉「ソルトサンスター」のCMなどに、妻の南田洋子さんと仲良く共演されていた印象が強い。
 その後、ビデオソフトやDVDの普及で、若き日の出演作が手軽に見られるようになると、まるで別人のように溌溂とした青年が現れたので驚いた(よく指摘されたのが、サザンオールスターズの桑田佳祐氏を連想させる、「やんちゃ」な風貌)。

 最近は Amazon Prime Video や Hulu、U-NEXT などの動画配信サービスで、旧作邦画が続々と公開されている。そのおかげで、長門さんの出演作は日活時代の『太陽の季節』(1956/古川卓巳監督)や『豚と軍艦』(1961/今村昌平)、松竹での『秋津温泉』(1962/吉田喜重)、『拝啓天皇陛下様』(1963/野村芳太郎)、東映の『日本侠客伝』シリーズ(1964/マキノ雅弘)……と、20代から30代にかけての脂が乗った時期に出演した多くの作品にアクセスできる。つまり、全国どこでも「私の長門裕之映画祭」が開けるわけで、賞や名誉に縁のなかった彼の真価を確認できる環境が、ようやく整ってきたといえよう。

 70年分のフィルモグラフィを眺めると、一見不良だが心優しき青年(女性にモテる)、庶民の心情に共感するインテリ(女性にモテる)、気が短くてそそっかしいが義理人情に厚い若い衆(女性にモテる)…と、一貫した人間像が浮かんでくる。実人生でも借金や女性関係など数々の「炎上」に見舞われながら、決して威張ったり日和ったりせず、最後まで庶民の視点を持ち、妻を愛し、支え合って添い遂げた。まるで人生そのものが一本の主演映画だ。やんちゃで純情、人情味あふれる好漢の魅力を、今後も多くの人が発見していくだろう。

 昭和9年、京都のカツドウ屋「マキノ一家」の長男坊として生まれる。父は歌舞伎出身の映画スター・澤村國太郎。母は「日本映画の父」マキノ省三の娘・智子。叔父・叔母にマキノ雅弘、沢村貞子、加東大介らが揃う家庭で育ち、6歳の時、片岡千恵蔵主演『續清水港』(1940/マキノ正博)に初出演。阪東妻三郎主演『無法松の一生』(1943/稲垣浩)で、人力俥夫の松五郎が愛情を注ぐ「ぼんぼん」を愛嬌たっぷりに演じ、名子役と謳われた。

 1953年、大学在学中に東宝の『次郎長三国志』シリーズで再デビュー。製作を再開した日活に移り、石原慎太郎の芥川賞受賞作『太陽の季節』で主役に抜擢されたことが、俳優生活と実人生の両方で大きな転機となった。
 戦後社会のアンファン・テリブル=「太陽族」を演じるには、長門さんの素朴な雰囲気がそぐわず、本物の太陽族・石原裕次郎や、6歳下の弟・津川雅彦が一足先にスターの座を駆け上がっていく。追い抜かれた彼は大いに焦るが、叔母の沢村貞子に「あんたの鼻が雅彦みたいに高くなるわけじゃない」と諭され、顔よりも芸で売れる俳優になろうと決意する。

 一方で、ヒロイン役の南田洋子との出会いが、その後の人生の「共演者」を決めた。当時の彼女は大映から引き抜かれたトップスターで、月給に10倍の差があったというが、「収入で肩を並べたらプロポーズしよう」と奮起し、日活アクション全盛期の撮影所内で、悲劇も喜劇も巧みに演じる、地味だが忘れがたい脇役としての地位を確立していった。

 今村昌平監督のデビュー作、大阪の旅芝居一座を描く『盗まれた欲情』(1958)では学生演劇出身の悩める演出家。九州の炭鉱失業者に扮した『にあんちゃん』(1959)を経て、基地の街・横須賀を舞台にした『豚と軍艦』(1961)で、善良なチンピラが悲愴な最期を遂げるまでを軽妙に演じ、ようやく演技者として高く評価された。

 1962年に独立し、岡田茉莉子主演『秋津温泉』、渥美清主演『拝啓天皇陛下様』などで、主人公を見守り続ける「作者の分身」的人物に扮する。この系譜は野坂昭如・原作『バージンブルース』(1974/藤田敏八)、最後の主演作『夢のまにまに』(2008/木村威夫)へと繋がり、「ダメなおれ」を率直に演じられる人柄が多くの作り手に愛されてきたことがわかる。

 テレビでは、西田敏行主演『池中玄太80キロ』(1980/日テレ)での、ニュース通信社の編集長“楠公(なんこう)さん”が忘れがたい。部下に指示する時はいつも喧嘩腰(「いいか、わかったか?…簡単にわかるな!」)だが、性格は親分肌で、何よりも義理人情を重んじる……長門さんが愛する「庶民」の姿が、見事に表現されていた。

<参考文献>
『待ってくれ、洋子』 長門裕之(主婦と生活社/2009年)
『新人間コク宝』 吉田豪(コアマガジン/2010年) ほか

ラピュタ阿佐ヶ谷「長門裕之― Natural Born 銀幕俳優」
(8月1日~9月25日)
 http://www.laputa-jp.com/

    (しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)

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●労働映画短信

◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
 働く文化ネットでは、毎月第2木曜日に労働映画鑑賞会を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。次回は9月に開催の予定です。
・働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島! 7月~8月
※《労働映画列島》で検索! http://shimizu4310.hateblo.jp/

◇新作ロードショー

『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』《7月23日(金)から 東京 アップリンク吉祥寺/アップリンク京都で先行公開》
 平均年齢65歳の高齢者団地が、国立競技場建て替えで移転を強いられた。その3年間の記録。(2020年 日本 監督/青山真也)
 http://www.tokyo2017film.com/

『明日に向かって笑え!』《8月6日(金)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》
 金融危機が原因で農協設立用の資金を奪われた田舎町の住民。悪徳なエリートたちへのリベンジに立ち上がる。(2019年 アルゼンチン 監督/セバスティアン・ボレンステイン)
 https://gaga.ne.jp/asuniwarae/

『モロッコ、彼女たちの朝』《8月13日(金)から 東京 日比谷 TOHOシネマズシャンテほかで公開》
 カサブランカ旧市街にあるパン屋。未亡人の店主と未婚の妊婦、二人の女性が助け合いながら生きていく。(2019年 モロッコほか 監督/マリヤム・トゥザニ)
 https://longride.jp/morocco-asa/

『フリー・ガイ』《8月13日(金)から 東京 TOHOシネマズ新宿ほかで公開》
 自分がビデオゲームの世界に生きるモブキャラだと知った青年が、愛する女性と街の平和を守るため、正義のヒーローになろうと決意する。(2020年 アメリカ 監督/ショーン・レヴィ)
 https://www.20thcenturystudios.jp/movie/Freeguy.html

◇名画座・特集上映

<全国>
【東京 渋谷 イメージフォーラム/京都 出町座】「ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ」…リバー・オブ・グラス/オールド・ジョイ/ウェンディ & ルーシー/ミークス・カットオフ

<北海道・東北>
【札幌 シアターキノ】「KINOフライデー・シネマ」…7/23 VIDEOPHOBIA 7/30 夜明け前のうた 消された沖縄の障害者 8/13 緑の牢獄
【大館 御成座】 8/2~15 霧が晴れるとき(アッツ島・キスカ島ドキュメンタリー)

<関東・甲信越>
【川越スカラ座】 7/17~8/6「森田惠子監督追悼上映」…小さな町の小さな映画館/旅する映写機/まわる映写機 めぐる人生
【舞浜 シネマイクスピアリ】「キネマイクスピアリ 舞浜で名画を」…7/23~29 ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢(2020年 アメリカ=イギリス)
【東京 京橋 国立映画アーカイブ】 7/20~9/5「逝ける映画人を偲んで 2019-2020」…白毛女/大阪の女/愛と死の記録/蝶々夫人/ねむの木の詩/わらびのこう 蕨野行/花札渡世/他
【東京 日暮里サニーホール】 7/27「無声映画鑑賞会 第756回 大都映画特集」…乳房(弁士:澤登翠)/争闘阿修羅街(弁士:山崎バニラ)/切られお富(弁士:山内菜々子)
【東京 北千住 シネマブルースタジオ】 8/4~9/28「溝口健二監督特集」…残菊物語/雨月物語/山椒大夫/近松物語
【まつもと市民芸術館/Mウイング】「松本CINEMAセレクト」…7/21 愛について語る時にイケダが語ること 7/31 大地を受け継ぐ 8/1 わたしはダフネ/1秒先の彼女/エリック・ロメール特集 六つの教訓話

<東海・北陸>
【富山 ほとり座】 7/24 急にたどりついてしまう(1995年 監督/福間健二
【名古屋 シアターカフェ】 7/17~25「のさりの島 公開記念 山本起也監督ドキュメンタリー作品特集」…ツヒノスミカ/ジム
【伊勢 進富座】 7/31~8/12 ペトルーニャに祝福を/ベル・エポックでもう一度/茜色に焼かれる

<関西>
【奈良 ホテル尾花】 7/23〜25「尾花座復活上映会」…海辺の彼女たち/ジョゼと虎と魚たち/湯を沸かすほどの熱い愛
【大阪 十三 シアターセブン】 7/22「ピアノ伴奏でみるサイレント映画」…ストライキ(1925年 監督/セルゲイ・エイゼンシュテイン)
【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 7/24~9/3「一周忌 追悼特集 森崎東 “たった一人の反乱的美学”」…喜劇 女は度胸/高校さすらい派/喜劇 女は男のふるさとヨ/時代屋の女房/他
【神戸 パルシネマしんこうえん】「朝パル」…8/12~18 犬の生活/のらくら

<中国・四国>
【広島市映像文化ライブラリー】 7/23~8/15「平和のシネマテーク2021」…叛乱/真空地帯/ビルマの竪琴 総集篇/私は貝になりたい(1959)/生きていてよかった/激動の昭和史 軍閥/他
【益田 島根県芸術文化センター】「グラントワシアター」…8/21 カツベン!(2019年 監督/周防正行)
【高知県立美術館】 8/21・22「真夏のホラー映画大会」…怪談雪女郎/悪魔のいけにえ/血を吸う人形/ウィッカーマン final cut

<九州・沖縄>
【福岡市総合図書館映像ホール シネラ】 8/4~28「台湾映画特集」…あひるを飼う家/光陰的故事/老年萬歳/童年往事/ある女の一生/バナナ・パラダイス/推手/上海假期/他
【ゆふいんラックホール/他】 8/26~29「第46回 湯布院映画祭」…助太刀屋助六/青春の殺人者/大地の子守歌/絵の中のぼくの村/サマーフィルムにのって/ミスりんご/かば/他

◎日本の労働映画百選

 働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view

                             (2021.07.20)