【「労働映画」のリアル】

第35回 労働映画のスターたち・邦画編(35) 仲村トオル

清水 浩之

 《30年経ってもベビーフェイス 「万年青年」上司が見せる 凡人なりの戦い方》

 今年4月からテレビ東京で始まったビジネスドラマ枠「ドラマBiz」が面白い。第1弾は江口洋介がスゴ腕の転職コンサルタントに扮した『ヘッドハンター』。10月に始まったばかりの第3弾『ハラスメントゲーム』では、唐沢寿明が有能なコンプライアンス室長となって「炎上」案件を解決していく。

 この二人が「頼れるヒーロー」なのに対して、第2弾『ラストチャンス 再生請負人』の仲村トオルは、いささか「頼りない」サラリーマン。勤務先の銀行が吸収合併されても「このまま残った方が無難かな・・・」と考えていたが、あれよあれよという間に業績不振の飲食フランチャイズ企業で社長職を押し付けられ(!)、社員たちの死活をかけた再建に奔走するハメになる。
 これといった技能も持たず、取り柄といえば、銀行員時代に培った誠実さと正義感だけ。そんな主人公が追加融資を求めてオロオロ歩き、現場の社員と一緒になって悔し涙を流す。「M&A」やら「グッドバッド方式」やら横文字のマネーゲームに狂奔する投資家連中から見れば《デクノボー》に映るであろう男が、「凡人なりの戦い方」で社員みんなの生き残りをかけて苦闘する姿が印象に残った。

 今回のドラマで、あらためて「仲村トオルって、いい役者だなぁ…」と感じた方も多いのではないだろうか(私もその一人)。青春スターとしてデビュー以来30年余り、常に第一線で活躍し続けてきた彼にこんな感想を持つのも大変失礼なのだが、その間一貫して「ベビーフェイス(善玉)」であり続け、50代に入ってもなお青年っぽさを感じさせる人物像だからこそ、その見事な「成熟」に驚かされるのではないか。
 一見頼りないが、いつも誠実に物事に取り組み、最終的にはみんなの信頼を勝ち取っている・・・。国を代表する人物がウソを重ねて居直り、《大人のなり損ね》ばかりが跳梁跋扈する現代の日本では、たとえ地味でもこんなおじさんになれたら本望ではないか!と思わせる説得力があった。長い年月をかけて「味のある二枚目」に成長した、仲村トオルさんの足跡を辿ってみよう。

 1965年生まれ、東京出身。専修大学の学生だった頃、たまたま雑誌で見た映画のオーディションに応募する。会場に行くとツッパリ少年が集まっていて、初めて『ビー・バップ・ハイスクール』(1985、監督・那須博之)の内容を知ったというが、スタッフはそんな彼の無意識過剰な大物ぶりにスターとしての素質を感じ、主人公2人組のうちの硬派・トオル役に抜擢した。軟派の色男・ヒロシ(清水宏次朗)とのコンビは当時の中高生の熱狂的な支持を集め、シリーズ6本が作られる大ヒットとなった。

 映画界の住人となった青年は、黒澤満プロデューサー率いる日活撮影所のスタッフたちに演技の手ほどきを受け、「最後の撮影所出身スター」として成長していく。日本テレビの『あぶない刑事』(1986~98)は往年の日活アクションのDNAが受け継がれた人気シリーズ。新人刑事・トオルくんが柴田恭兵&舘ひろしの「悪い先輩」コンビにオモチャにされながらも、きっちり出世して「先輩の上司」になってしまう展開は、撮影所という「学校」ならではの人間関係を映しているようで微笑ましかった。

 1990年代の終りから2000年代にかけて、日本の「撮影所」が衰退していた時期には、香港映画『ジェネックス・コップ』(1999)、『東京攻略』(2000)、韓国映画『ロスト・メモリーズ』(2002)、『青燕』(2005)、中国映画『パープル・バタフライ』(2003)と、アジア各国の話題作に相次いで出演。いずれの作品にも「善玉」の日本人として登場し、武士道的なイメージを醸し出す役割を担っていたことは興味深い。

 テレビドラマにもコンスタントに出演してきたが、代表作となったのが関西テレビ制作の『チーム・バチスタの栄光』(2008)。大学病院を舞台とした医療ミステリーで、優秀ゆえにかなり変人の厚生労働省調査官・白鳥に扮し、お人好しの心療内科医・田口(伊藤淳史)とコンビを組んで、様々な難事件を解き明かしていく。身長差20センチの凸凹ホームズ&ワトソンは人気を集め、2014年までにドラマ4シーズンと劇場版が作られるヒット作となった。

 40代に入ってからは経営者や父親の役を演じることが多くなるが、青年っぽさの抜けない感じが絶妙な隠し味となっている。池井戸潤・原作のWOWOWドラマ『空飛ぶタイヤ』(2009)では、 運送会社の2代目社長役。自社のトラックで起きた脱輪事故の真相を追及するが、世間からの非難を浴び、社員や家族の困窮を目にするたびにオロオロしてしまう「頼りなさ」が実にリアルだった。

 近年は「誠実」のイメージをそっくり裏返して、太宰治・原作の舞台『グッドバイ』(2015)での浮気男など、コメディで活躍する機会も少なくない。今後も「味のあるおじさん」として観客を大いに楽しませてくれるはずです。

(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信

◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
 働く文化ネットでは、毎月第2木曜日に労働映画鑑賞会を開催しています。お気軽にご参加ください。

◇次回のご案内
【2018年9~11月期 特別企画 アジアの労働映画】
第53回 労働映画鑑賞会 《人として扱ってほしい!》
・2018年11月 8日(木)18:00~(参加費無料・事前申込不要)
・会場:連合会館 2階 大会議室(定員250名、地下鉄 新御茶ノ水駅 B3出口すぐ)
・上映予定作品:『明日へ』(2014年・104分・韓国)
 2007年に起きた実話を基に映画化。大手スーパーの非正規社員として働く女性たちに突き付けられた解雇通告。彼女たちは様々な事情を抱えながらも、理不尽な仕打ちを撤回させるための闘争に立ち上がる。
 監督:プ・ジヨン 脚本:キム・ギョンチャン
 出演:ヨム・ジョンア、ド・ギョンス(D.O.)、ムン・ジョンヒ、キム・ヨンエ ほか
 詳しくは、働く文化ネット公式ブログをご確認ください。 http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島! 10~11月
※《労働映画列島》で検索! http://d.hatena.ne.jp/shimizu4310/00181103

◇新作ロードショー
『彼らの原発』《10月20日(土)から 東京 新宿 K’s cinema ほかで公開》
 2012年、大飯原発の再稼働で全国から注目された福井県おおい町。原発立地の町に暮らす人々の日常と言葉を記録したドキュメンタリー。(2017年 日本 監督:川口勉) 
https://twitter.com/Kare_Gen
『ガンジスに還る』《10月27日(土)から 東京 神保町 岩波ホールほかで公開》
 自らの死期を悟り、ガンジス河畔の聖地・バラナシを訪れる父に、仕事一筋の息子が付き添う。人生最後のときを、笑いと涙を交えて映し出す。(2016年 インド 監督:シュバシシュ・ブティアニ) 
http://www.bitters.co.jp/ganges/
『おかえり、ブルゴーニュへ』《11月17日(土)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》
 ワインの名産地・ブルゴーニュ地方。父の危篤の報せで10年ぶりに再会した三兄妹が、ブドウの収穫作業とともに、それぞれの人生を見つめ直す。(2017年 フランス 監督:セドリック・クラピッシュ) http://burgundy-movie.jp/

◇名画座・特集上映
◎北海道・東北
【新千歳空港ターミナルビル】 11/2~5「第5回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」…FUNAN(カンボジア)/On Happiness Road(台湾)/少年ハリウッド(日本)/他
【山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー】 10/26「金曜上映会 痛みと記録と物語」…石の賛美歌(ベルギー)/ロッツ・ゲットー(アメリカ)

◎関東・甲信越
【東京 TOHOシネマズ六本木ヒルズ/他】 10/25~11/3「第31回 東京国際映画祭」…氷の季節(デンマーク)/冷たい汗(イラン)/武術の孤児(中国)/漫画誕生(日本)/他
【東京 池袋 新文芸坐】 11/1~9「唯一無二の個性と存在感 追悼・樹木希林」…半落ち/トラック野郎 突撃一番星/あん/東京タワー/ツナグ/わが母の記/他
【東京 神保町シアター】 11/3~30「女たちの街」…銀座化粧/渡り鳥いつ帰る/女が階段を上る時/喜劇 特出しヒモ天国/幕末太陽傳/女の橋/夢千代日記/他
【東京 有楽町朝日ホール】 11/17~25「第19回 東京フィルメックス」…シベル(トルコ)/アイカ(ロシア)/幸福城市(台湾)/象は静かに座っている(中国)/夜明け(日本)/他
【川崎市アートセンター】 10/28~11/4「第24回 KAWASAKIしんゆり映画祭」…タクシー運転手/軍中楽園/パーフェクト・レボリューション/誰も知らない/他
【松本 上土劇場】 11/10「パレスチナ映画を観る会」…オマールの壁/ガザの美容室

◎東海・北陸
【金沢 シネモンド】 10/20~11/2「大映女優祭」…最高殊勲夫人/鍵/女と三悪人/雪の喪章/女系家族/婚期/しとやかな獣/羅生門/遊び
【岐阜 ロイヤル劇場】 11/3~16「銀幕の女王 山本富士子」…暗夜行路/私は二歳

◎関西
【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 10/20~26「大阪〈生きた建築〉映画祭2018」…かぶりつき人生/河内カルメン/当りや大将/現代インチキ物語 騙し屋
【大阪 十三 第七藝術劇場】 11/10~16「映像×民俗 ヴィジュアル・フォークロア」…見世物小屋~旅の芸人・人間ポンプ一座/カベールの馬/女が男を守る島

◎中国・四国
【広島市映像文化ライブラリー】 11/1~30「シナリオ作家 橋本忍」…生きる/勲章/真昼の暗黒/張込み/私は貝になりたい/黒い画集/切腹/他
【松山 シネマルナティック】 10/27・28「松山無声映画上映会 愛媛映画人編」…狂った一頁/御誂次郎吉格子/国士無双/浪人街 第一話・美しき獲物

◎九州・沖縄
【福岡市総合図書館 シネラ】 11/1~25「吉永小百合特集」…キューポラのある街/いつでも夢を/青春の門/おはん/夢千代日記/玄海つれづれ節/母べえ/他
【本渡第一映劇】 11/3~5「天草市民シアター」…伊豆の踊子(1963)/華岡青洲の妻

◎日本の労働映画百選
 働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』記念シンポジウムと映画上映会

・「日本の労働映画百選」公開記念のイベントを開催(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160614/1465888612

・「日本の労働映画の一世紀」パネルディスカッション(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160615/1465954077

・『日本の労働映画百選』報告書 (表紙・目次)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen_index.pdf

・日本の労働映画百選 (一覧・年代別作品概要)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen.pdf
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