【「労働映画」のリアル】

第34回 労働映画のスターたち・邦画編(34) 尾野真千子

清水 浩之

 《平成随一のド根性ヒロイン 一家を牽引する「長男女子」の魅力》

 「朝ドラ」として知られるNHKの帯ドラマ枠「連続テレビ小説」は1961年に放送開始。1964年の『うず潮』(主演・林美智子)、1966年の『おはなはん』(主演・樫山文枝)が大きな反響を呼んだことから、以降は主に女性ヒロインの生き方・働き方を、半年にわたってじっくりと描く路線が定着した。現在放送中の『半分、青い』(2018、主演・永野芽郁)は第98作で、来年4月からの『なつぞら』(2019、主演・広瀬すず)が100作目となる。テレビドラマ史上最高の平均視聴率52.6%を記録した『おしん』(1983~84、脚本・橋田壽賀子、主演・田中裕子ほか)をはじめ、時代ごとに数々の話題作を生んできたが、「近年の最高傑作」として名高いのが、2011~12年の『カーネーション』 (脚本・渡辺あや、主演・尾野真千子)だ。今年4月から午後4時台での再放送が始まり、大相撲や国会中継での休止を挟みつつ、8月からは「戦後編」に入った。7年前の作品だが、いま見ても隅々まで面白くて惹き込まれる。

 ファッションデザイナーのコシノ三姉妹(ヒロコ・ジュンコ・ミチコ)の母で、昭和初期に大阪・岸和田で洋裁店を開いた小篠綾子(1913~2006)をモデルにした物語。幼少時に憧れた地元の名物「だんじり」には男しか乗れないことを知って悔しがるが、やがて、ドレスに出会ったことから洋裁に興味を持ち、ミシンを「女のだんじり」と見立てて洋服作りと普及に邁進していく。
 巧みなストーリー展開、斬新でエネルギッシュな演出、演技陣の絶妙なアンサンブルなど、見どころは山のようにあるが、なんといっても一番の魅力は、主人公・小原糸子の10代から60代までを演じた尾野真千子による、《凛々しい》ヒロイン像だろう。

 呉服屋を営む父(小林薫)との葛藤。男性優位社会での苦闘。そして戦時下、一家に降りかかる様々な不幸と直面しても、持ち前の勇気と才覚で乗り切っていく糸子。事あるごとにお父ちゃんと衝突し、パチーン!と張り倒されながらも挫けない「長男みたいな娘」というキャラクターは、尾野さんならではの持ち味=「かわいらしさ」と「ふてぶてしさ」がなければ成立しなかっただろう。男勝りでチャーミングな「なにわのスカーレット・オハラ」は、男性にも女性にも根強く愛される存在となった。平成随一のド根性ヒロインとして後世に語り伝えられるであろう女優・オノマチの仕事を、労働映画の視点から辿ってみよう。

 1981年、奈良県西吉野村(現・五條市)生まれ。4人姉妹の末っ子。中学生の時、地元で映画『萌の朱雀』(1997)を撮影しようとしていた河瀨直美監督にスカウトされて、過疎の村に住む一家の娘役で主演デビュー。当時は女優になることなど想像もしていなかったそうだが、作品がカンヌ国際映画祭の新人監督賞を受賞したことで注目され、NHK大阪局のドラマへの出演を経て高校卒業後に上京。独立系の映画を中心とした女優活動を始める。

 2007年、ふたたび河瀨監督と組んだ『殯(もがり)の森』で、グループホームの介護福祉士に扮し、認知症の老人(うだしげき)と共に森の中に迷い込む。地元・奈良の自然の中で、ドキュメンタリー・タッチで撮られた作品で、彼女が感情の赴くままに泣き叫ぶ、そのリアルな演技が強く印象に残った。この作品もカンヌ国際映画祭で審査員特別大賞を受賞。

 デビューから10年経ち、20代後半になると「実力派女優」としての目覚ましい活躍が始まる。2009年、NHK広島局のドラマ『火の魚』(脚本・渡辺あや)では、大物作家(原田芳雄)のわがままに振り回される若手編集者役。大先生の駄作を率直にこき下ろしたりと、丁々発止のやり取りを繰り広げ、作品は芸術祭大賞をはじめ国内外で高く評価された。
 NHK『外事警察』(2009)の若手刑事、日テレ『Mother』(2010)や映画『トロッコ』(2010、監督・川口浩史)での母親役などを経て、『カーネーション』のオーディションに合格。29歳で朝ドラのヒロインとなるが、「夢見る女学生」が「ガンコなオバはん」になるまでの、およそ50年にわたる女の半生をきっちり演じきったのはお見事。空襲が迫る中で「疎開はイヤだ」と駄々をこねるばあちゃん(正司照枝)に対し、「チッ」と舌打ちしながら力づくでリアカーに乗せてしまう・・・こうしたふてぶてしい態度は、同世代の美人女優にはなかなか難しい。

 『カーネーション』でのブレイクに続いて、NHKでは『夫婦善哉』(2013)、『足尾から来た女』(2014)、『夏目漱石の妻』(2016)に出演。明治末期、鉱毒の被害を受けた村から都会に出て来た娘の視点で、近代日本の矛盾を描いた『足尾から来た女』では、時代の嵐の中で、両足をしっかり踏ん張って大地に立つ、たくましいヒロイン像を生み出した。

 キャリアウーマンやセレブ妻も演じるが、本領を発揮するのは『最高の離婚』(2013、フジ)の陽気な主婦や、『極悪がんぼ』(2014、フジ)での紅一点の事件屋といった役どころだろう。一方でその強気なキャラクターを裏返せば、映画『きみはいい子』(2015、監督・呉美保)での、娘に手を上げてしまう母親の深い苦悩も表現できる。映画『後妻業の女』(2016、監督・鶴橋康夫)では、父の財産乗っ取りに立ち向かう「長男女子」となって、悪女・大竹しのぶと掴み合いのバトルを演じた。
 現在放送中の『この世界の片隅に』(2018、TBS)でも、戦時下に夫を亡くしながらも奮闘する、元モガの小姑役を好演している。アラフォーとなるこれからも、オノマチさんにはバイタリティ溢れる女性を演じ続けてほしいです。

参考サイト:NHK「連続テレビ小説一覧」 https://www.nhk.or.jp/hanbunaoi/asadora/

(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信

◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
 働く文化ネットでは、毎月第2木曜日に労働映画鑑賞会を開催しています。お気軽にご参加ください。

◇次回のご案内
【2018年9~11月期 特別企画 アジアの労働映画】
第52回 労働映画鑑賞会 《そして、ミニバスは今日も行く》
・2018年10月11日(金)18:00~(参加費無料・事前申込不要)
・会場:連合会館 201会議室(地下鉄 新御茶ノ水駅 B3出口すぐ)
・上映予定作品:『忘れえぬ想い』(2003年・108分・香港)
 香港市民の足・ミニバス。恋人を事故で亡くし、運転手の仕事を引き継いだ女と、彼女を助ける同僚の男。不器用に生きるふたりの、もどかしくも切ない愛の物語。
 監督:イー・トンシン(爾冬陞) 主題歌:「忘了忘不了」セシリア・チャン
 出演:セシリア・チャン(張栢芝) ラウ・チンワン(劉青雲) ルイス・クー(古天樂)
 詳しくは、働く文化ネット公式ブログをご確認ください。 http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島! 9~10月
※《労働映画列島》で検索! http://d.hatena.ne.jp/shimizu4310/00181003

◇新作ロードショー
『あまねき旋律(しらべ)』《10月6日(土)から 東京 ポレポレ東中野ほかで公開》
 インドの農村で受け継がれてきた歌をめぐる音楽ドキュメンタリー。棚田の準備、苗木植え、穀物の収穫と運搬などの作業中に口ずさむ歌と、村人たちの生活を映し出す。(2017年 インド 監督:アヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール) http://amaneki-shirabe.com/
『教誨師』《10月6日(土)から 東京 有楽町スバル座ほかで公開》
 受刑者の道徳心の育成や心の救済を行い、彼らが改心できるよう導く教誨師。ある牧師が死刑囚たちと向き合う姿を描く。2月に急逝した俳優・大杉漣の最後の主演作。(2018年 日本 監督:佐向大) http://kyoukaishi-movie.com/
『ピッチ・パーフェクト ラストステージ』《10月19日(金)から 東京 TOHOシネマズ日比谷ほかで公開》
 大学アカペラ選手権を描いたミュージカルコメディの完結編。大学を卒業して社会に出た「ベラーズ」の女性たちが、“社会人アカペラグループ”として再集結する。(2017年 アメリカ 監督:トリッシュ・シー) http://www.pitchperfect-last.jp/

◇名画座・特集上映
◎全国
【東京 キネカ大森/名古屋 シネマスコーレ/大阪 十三 シネ・ヌーヴォ/福岡 イオンシネマ大野城】 9/8~10/5「インディアン・シネマ・ウィーク2018」…ならず者たち/神が結び合わせた2人/親友の結婚式/マジック/レディース・オンリー/他
◎北海道・東北
【青森県立美術館】 10/19~21「わたしの家族、家族のわたし」…煙突の見える場所/この広い空のどこかに/裸の島/名もなく貧しく美しく
【宮城県大和町 にしぴりかの美術館】 10/6・7「第3回 吉岡宿にしぴりかの映画祭」…獄友/道草/11歳の君へ~いろんなカタチの好き/恋とボルバキア

◎関東・甲信越
【東京 ポレポレ東中野/他】 9/22~28「福島映像祭2018」…モルゲン、明日/たゆたいながら/ふたつの故郷を生きる/かえりみち/福島中央テレビの現場から/他
【東京 神保町シアター】 9/29~11/2「伴淳三郎と三木のり平 昭和に愛されたふたりの喜劇人」…二等兵物語/駅前旅館/太鼓たゝいて笛吹いて/社長漫遊記/太陽の墓場/喜劇 冠婚葬祭入門/ちんじゃらじゃら物語/他
【東京 池袋 新文芸坐】 10/1~7「是枝裕和 全作上映」…幻の光/誰も知らない/花よりもなほ/歩いても 歩いても/奇跡/海よりもまだ深く/いしぶみ/三度目の殺人/他
【東京 新宿 K's cinema】 10/6~26「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形 in 東京2018」…ニンホアの家/肉屋の女/アフリカ、お前をむしりとる/我々のものではない世界/天竜区奥領家大沢 別所製茶工場/他
【横浜寿町 かながわ労働プラザ】 9/22「横浜キネマ倶楽部 第51回」…どっこい!人間節 寿・自由労働者の街(1975年 構成/小川紳介)
【上越 高田世界館】 10/3~7「高田世界館107映画祭」…伊豆の踊子(1963年版)/稲妻/にごりえ/華岡青洲の妻

◎東海・北陸
【福井メトロ劇場】 10/6~11/2「華麗なるフランス映画」…太陽がいっぱい/昼顔/太陽はひとりぼっち/哀しみのトリスターナ/エヴァの匂い/突然炎のごとく/ダンケルク(1964年版)
【岐阜 ロイヤル劇場】 10/6~19「有吉佐和子 文芸大作特集」…紀ノ川/三婆(週替り上映)
【伊勢市生涯学習センター】 9/24・25「名作映画鑑賞会」…二十四の瞳/野菊の如き君なりき/喜びも悲しみも幾歳月/カルメン故郷に帰る

◎関西
【奈良 ならまちセンター/他】 9/20~24「なら国際映画祭2018」…二階堂家物語/ア リトル ウィズダム(ネパール)/ザ スナッチ シィーフ(アルゼンチン)/地蔵とリビドー/裸の島/世界一と言われた映画館/他
【神戸アートビレッジセンター】 9/21・22「市民映画劇場 第545回」…Viva!公務員(2015年 イタリア)
【神戸映画資料館】 10/20~28「神戸発掘映画祭2018」…夢で逢いましょう/恋の捕縄/鍋かぶり日親/釈迦の生涯(大聖釈尊)/朝から夜中まで/執念の毒蛇/狂熱の果て/他

◎中国・四国
【広島市映像文化ライブラリー】 10/11~31「生誕100年 川島雄三監督特集」…銀座二十四帖/洲崎パラダイス 赤信号/わが町/幕末太陽傳/貸間あり/雁の寺/青べか物語/しとやかな獣
【山口情報芸術センター】 9/27~30「溝口健二監督特集」…浪華悲歌/西鶴一代女/雨月物語/山椒大夫
【島根県内13会場】 9/29~11/25「第27回 しまね映画祭」…いただきます みそをつくるこどもたち/カレーライスを一から作る/シング・ストリート/日本刀/みんなの学校/喜びも悲しみも幾歳月/他

◎九州・沖縄
【小倉昭和館】 10/10~26「大泉洋特集」…焼肉ドラゴン/恋は雨上がりのように(2本立て)
【福岡市総合図書館 シネラ】 10/3~20「ベトナム映画特集」…おかあさんはおるす/旅まわりの一座/黒いサボテン/グァバの季節/ゴミの山の大将/アオザイ/きのう、平和の夢を見た/他

『日本の労働映画百選』記念シンポジウムと映画上映会
  http://hatarakubunka.net/symposium.html

・「日本の労働映画百選」公開記念のイベントを開催(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160614/1465888612

・「日本の労働映画の一世紀」パネルディスカッション(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160615/1465954077

・『日本の労働映画百選』報告書 (表紙・目次)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen_index.pdf

・日本の労働映画百選 (一覧・年代別作品概要)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen.pdf
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