【北から南から】中国・吉林便り(17)

祝労働節と平和憲法そして婚姻

今村 隆一


 5月1日はメーデー。中国では「国際労働節」として休日になっています。「労働は価値を創造するのであり、個人の幸福も、社会の発展も、労働者の勤勉なはたらきによらずに生まれたものは一つもない。労働節によせて、労働者に敬意を表する。」とこの日、人民日報は報じました。

 私は22歳でそれまでの学生から労働者になって、60歳で定年退職し、その後今日まで、仕事はあまり真面目ではなかったけれど一途に労働者だったと自認しています。最初に就職した会社も、2年後転職した次の会社にも労働組合が無く、労働組合員になれないことを不安に感じたものでした。次の転職で入った市役所には労働組合(職員組合)があったのですが、採用時に加入の勧誘がないままに半年近くが過ぎて、自分から組合の委員長に加入希望を伝え晴れて労働組合員になったのでした。加入勧誘しない組合の委員長は、直ぐに党員にとって変わった結果、反動として組合員の減少を招くことに。お蔭で私の組合執行部入りとなったものでした。

 労働者でありながらそれを自覚したくない人が多いのか、労働組合を必要としない人が多いのか、今や労働組合が社会の片隅に、合わせてマスコミの扱いもメーデーを小さく報じるようになりました。それでも連合と全労連のメーデーは、どちらも1920年からの通算回数が今年で第88回目と伝えました。今年のメーデーには東京では前者は4万人、後者は3万人が参加し、「長時間労働の撲滅」「格差是正」「貧困と格差の是正」「共謀罪法案反対」「反核」などを訴えたと伝えました。スト権確立投票すら聞かなくなり、ストライキは今や死語になったようで、これで良いのかという心配も久しいですが、労働者応援鼓舞の遠吠えはこれからも続けたいと思っています。

 中国では国の通知で4月29(土)・30(日)・5月1日(月)の3連休となり、私は前の2日はそれぞれ日帰りの戸外活動で舒蘭(シュウラン)市の冒山(マオシャン:745m)と蛟河(ジャオハ)市の小猪砬子(シャオジュウラーズ)三柱峰(サンジュウフェン:630m)に行き、連休最後の1日は家にいて洗濯と買物に精を出し、スマホで「労働節快楽(メーデーおめでとう)」と戸外活動で出会った人やご無沙汰している知人にお祝いのメッセージを送信しました。

 5月3日は日本の「憲法記念日」。CCTV(中国中央テレビ局)ではこの日の午後6時、7時、8時と翌朝、それぞれ日本の「憲法施行70年集会」を、主催者主導のシュプレヒコールや参加者のインタビューを交え、この集会は憲法施行70周年に当たり5万5千人が有明に集ったことを現地から中国人報道員の解説で伝えました。“安倍政権打倒”、“共謀罪法案反対”、“憲法9条、世界の宝”などの訴えと参加者の多さが、画面を通してしっかりと私に伝ってきました。午後8時のニュースでは合わせて安倍晋三の憲法改正に向けた表明が動画で紹介された一方で中国論説員による現行平和憲法誕生の由来が解説されました。

 またこの集会では、威力業務妨害や傷害などの罪を着せられ、不当逮捕が5ケ月に及んだ拘留から3月に保釈された山城博治(沖縄平和運動センター議長)さんが元気な姿をみせ「凶暴化するファシスト内閣を倒そう」と訴え、ファッション評論家のピーコさんも自民党の憲法改正草案の不備を指摘し糾弾したとネットで見て、当たり前のことを言明し行動することを批難視する風潮が強くなっていると私は感じていますので、山城さんやピーコさんが頼もしく感じました。警察・検察に市民運動や労働運動を委縮させ、弾圧する武器を与える「共謀罪(テロ等準備罪)」が身近に感じる人に及ぶ危険を中国吉林に居ながらも心配します。

 労働節前の4月27日(木)、日本のデジタル毎日が、知らぬ間に離婚届がされていたという外国人(母国が日本ではない人)を救済しようと、支援団体が多言語のリーフレットと啓発動画サイトを作っていると報じました。離婚は日本では夫婦が署名した届を役所に出せばよく、署名の真偽は直接確認しなくても離婚が成立することになっています。勝手に離婚届けを出されたのに納得いかないのは当然ですが、例え偽造した離婚届を勝手に届け出されたと主張しても、役所ではそうですかといって勝手に離婚を取り消せない。勝手に出された離婚届を無効にするには裁判手続きが必要です。日本語に不自由な外国人には負担が重く、女性からの相談が離婚全体の9割を占めている、と。この場合、申立人が離婚の意思が無かったことを証明しなければなりません。調停において相手が勝手に離婚届を出したこと等を認めて、双方が合意をすれば、離婚が無効であるとの審判が下されます。
 では離婚が多いと人づてに聞く中国ではどうなのでしょうか? 取りあえず基本的には、中国では婚姻関係を締結した当事者双方が結婚を届け出た機関で同時に二人で離婚の手続きをしなければ認められないそうです。この点は日本の方がおかしいと思うのは私だけでしょうか。

 3月初め北華大学で今学期が開始したばかりの時、映画好きの先生二人の会話は日本語題名が『わたしは潘金蓮(パン・ジンリェン)じゃない』、中国題名が『我不是潘金蓮』、英語題名が『I AM NOT MADAME BOVARY』と言う中国映画の話でした。二人が良い映画だと言うので、私は物語も監督も出演俳優も知らないままにこの映画をハードディスクに入れるようZW先生に依頼し、4月下旬になって早速パソコンで見たのでした。

 本作品は劉震雲(リュウ・チェンユン)の同名の小説を映画化したものです。物語の主人公の李雪蓮(リー・シュエリエン)は夫が会社から提供される部屋取得の目的で偽装離婚に同意します。その後復縁するつもりだったが、夫が別の女性と結婚、策略だったのでした。その事に腹を立てた李雪蓮は訴訟を起こしますが、更に彼女を腹立たせる出来事が起こり、訴訟内容や訴える相手が増えていきます。しかし彼女が本当にはっきりさせたいのは元夫に関連する事のみ。
 1年に一度、訴訟を起こすために北京に向かうようになりますが、気がつけば10年の月日が流れ、トラックの運転手をしていた元夫は誤まって長江(揚子江)に転落し死んでしまいます。戦う相手を失った李雪蓮は首吊り自殺を図りますが、通りかかった老人に綱を外され、その老人に彼の荷物の運搬を手伝わされ、未だ自らが生きる必要があることを悟り、食堂の店員となって働きます。

 この物語に登場するのは主人公の住む地域の省・市・鎮の行政長など司法関係者や主人公が再婚しようと決めた幼友達や近所の人たち。偽装離婚を糾弾する主人公に対し「お前は潘金蓮(パン・ジンリェン)か?」、「結婚した時、処女でなかった」などと人前で元夫から侮辱される言葉に彼女は更に怒りを募らせます。「潘金蓮」とは水滸伝に登場する夫殺しをした、中国では淫猥で凶悪な美貌女性の代表だそうです。
 物語では主人公が訴訟したり、人民代表会議時の北京に出向き会場前などで執拗な告発を続けることで、地元の行政関係者は主人公に振り回され、彼等の事なかれ主義と無責任さや保身、公人(市民)への誠意のなさが個人の人生にどれほどの影響を与えるのかということを皮肉とユーモアを交えて浮き彫りにさせます。この物語の主題は現在の中国共産党政権が強力に推進している腐敗防止を援助するものでもあるところに製作者の狙いがあったようです。

 この作品はサン・セバスティアン国際映画祭(2016年9月スペイン)、アジア・フィルム・アワード(2017年3月香港)、中国映画監督協会年度表彰(2017年4月)と立て続けに最優秀作品賞を授賞しており、5月15日からのフランス中国映画祭でも上映されるそうです。何と日本では大阪アジアン映画祭で今年3月4日と9日の二日間上映されたそうです。監督は中国映画界のヒットメーカーとなって久しい馮小剛(フォン・シャオガン・1958年生)。彼は中国人に北海道観光ブームを生みだした『狙った恋の落とし方:2008年作』をはじめ、70年代の大地震に遭遇した親子の人生や愛憎を描いた『唐山大地震―想い続けた32年:2010年作』、日中戦争の真っただ中に河南省で発生した飢饉時の日本軍と国民党、主に蒋介石等の関わりを被災難民側から描いた『一九四二:2012年作』などさまざまな形の作品を生み続けている監督です。大変珍しい円形画面を使っていて、何故だか観ていて引きつけられました。

 主演女優は日本のネットサイトでは中国一の美人女優との誉高い范冰冰(ファン・ビンビン・1981年生)です。范冰冰も本作品で、サン・セバスティアン国際映画祭とアジア・フィルム・アワードの最優秀女優賞の獲得に続き中国監督協会年度最優秀女優賞も受賞、これは3度目の女優賞の受賞となっています。また彼女は今年5月のカンヌ国際映画祭の審査員としても選出されています。本作品のため彼女は体重を6キロ増加させ、方言をマスターしたり、農村で女性たちが実際に着ていた服を集めてきて衣装として着用したり、メークなしのすっぴん顔での役作りでこの作品に挑んだと言われています。
 これまで彼女は、2007年公開の日中合作映画『墨攻』に出演後、烏龍茶や電気製品の日本製品のCMに出演し、度々来日しています。また自らが校長を務める演劇学校を設立、多忙の為に両親が経営にあたっているそうですが、新時代の女性らしい多彩な活躍ぶりです。私はこれまで数本、彼女の出演作品を見ていますが記憶に残っているのは『孫文の義士団(十月圍城)』位でした。
 この映画『わたしは潘金蓮(パン・ジンリェン)じゃない』の彼女の好演は私にとって他の出演作品と違って強く印象に残った作品でした。

 さて中国の粗結婚率(総人口数÷一定時間内結婚組数)は2010年以降2015年まで、1,241万組:9.3%→1,302万組:9.7%→1,324万組:9.8%→1,347万組:9.9%→1,307万組:9.6%→1,225万組:9.0%の変化でした。これに対して離婚率(年平均総人口÷年内離婚数)は2015年には2.8%となっています。これは結婚1,225万組に離婚384万組で、ほぼ3組に1組に近く離婚していることになります。
 ちなみに厚労省2015年1月1日発表によりますと日本の離婚率は1.77%で、婚姻率(人口1,000人当たり結婚件数)5.2なので、5.2÷1.77、およそ2.9組に1組が日本でも離婚している計算になり、最近の日中の離婚率データは、ほぼ同じ水準となっています。また中国の離婚率の高い地域は1位が黒竜江省0.51、2位が吉林省0.48、3位が天津0.46、4位が北京0.44、5位が重慶0.41です。黒竜江省と吉林省は、結婚した夫婦の2組に1組が離婚していることになります。トップ5は重慶市を除いてなぜか寒いところばかりであります。

 北華大学の漢語の先生の説明によると、人口研究の論評では東北両省の離婚原因の特徴を次の何点か上げています。1.田舎の都市化、2.工業と経済の発達、3.移民且つ民族多元社会である(東北は昔からの満州族、蒙古族の地元民族に加え清朝以降朝鮮族の他河北省、河南省、山東省、山西省などから漢民族が移ってきて現在に至ったことを指します)、4.一人っ子政策家庭が多くを占めたこと、5.飲酒、です。酒については寒い地方のため飲酒が過ぎ離婚に至るということで、この点はロシアと共通しているとも言われました。つまり、中国の離婚原因については日本とは異なると言えるようです。

 現在私の漢語のクラスに蒙古(モンゴル)からの男性留学生がいて、彼は昨年吉林に来て、ロシアの女性留学生とお互い恋愛関係になりました。一目会った時からお互いが惹かれ合ったそうです。しかし、彼は心配しています。将来二人は結婚するほうが良いのか否かと。愛し合っているだけでは生活が続くかと。言語の違いよりも育った環境、風習の違いが何らかの形で影響を及ぼすのではないかと。私には彼の悩みがよく判ります。国際結婚であろうとなかろうと、結婚しようとしまいと、恋愛の悩みは深刻ですが当事者が選択するしかないことは言うまでもありません。

 私は吉林に来てからこれまで4~5回、結婚式に出ています。ほとんどが囲碁クラブの会員の子供の結婚式でした。5月13日に久しぶりに結婚披露宴に招待され出席してきました。
 こちらの結婚披露宴とこの日の披露宴については次の吉林便りでご紹介したいと思います。

 (中国吉林市・北華大学漢語留学生・日本語教師)

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