【沖縄の地鳴り】

県民投票に暗雲

平良 知二


 新年2019年が始まった。4月に平成が幕を閉じ、5月から新しい元号となる。時代転換の年である。沖縄は「辺野古」埋め立てをめぐる県民投票など政治潮流を左右する決戦がつづく。

 「辺野古」埋め立ての是非を問う県民投票(2月24日投開票)がいま、大きな岐路に立っている。
 投票事務の予算が議会で否決された沖縄市と宜野湾市、宮古島市の3市長が投票事務を実施しないと表明し、同様に予算が否決された石垣市とうるま市の市長も3市に同調する気配だ。この事態に県や署名運動を担った「県民投票の会」、県議会の知事与党が対応に追われ、緊迫した日がつづいている。5市の有権者数は全有権者の30%にも達し、もし5市抜きでの実施となれば投票の意義が問われることにもなる。

 5市はいずれも保守系市長であり、議会も保守勢力が強い。市長は一応、投票事務予算を議会に提案した。しかし否決され、再議にかけたりしたが議会の壁は厚く、沖縄市などの3市では市長判断も議会に沿う形になった。いずれの市長も「辺野古」埋め立ての賛否を明言していないものの、埋め立てを「やむを得ない」とする立場だと見られている。
 宮古島市については、玉城デニー知事が9日に市長に直接会い、協力を要請したが、市長は投票を実施しない方針を変えなかった。

 「県民投票の会」や県はこの事態を予想してなかったとは言えないが、最後は投票実施でまとまるはずだとの姿勢だったように思われる。しかし保守系優位の各議会が予算案を“人質”に強気の姿勢をとってきたため、市長も議会に反する判断をしにくくなった。
 このため「県民投票の会」では、埋め立てに「賛成か反対か」の2択設問をさらに増やしたらどうかという考えも浮上している。沖縄市長が同会にそのような発言をしており、宜野湾市長もそうなれば検討の余地がある、との姿勢のようだ。
 ただ、県議会与党には県民投票条例を制定する審議の中で、設問を2択として条例採択してきた経緯があり、選択肢の変更には「いまさら」の声が強い。県議会野党の「賛否だけでなく選択項目を増やすべきだ」という声をはねつけての採択だっただけに、変更に簡単に応じることはできない。

 5市議会の反攻は県議会野党の無念を晴らすような勢いになった。市議会同士が“連携”して首長の動きを制し、知事・県政に対抗するという構図である。動きを制しというより、首長と互いに通じ合った一体化による対抗ともいえる。政権の影を見る向きもある。

 県は地方自治法に基づく「勧告」などで投票を実現させる手立てを尽くすようだが、最悪は3市(あるいは5市)抜きで実施するしかないという考えも出ている。この問題をめぐって県と市が裁判で争うようなことは避けたいし、3市抜きでも一定の意義は有するとの考えだ。ただ、県民投票を実施しないとしている市長を訴えようという動きがそれぞれの市民の中にあり、情勢は流動的である。自主投票を模索する市民の動きもある。
 県民投票については埋め立て反対の「オール沖縄」側の内部にも異論があって、投票実施に向けてなかなか意思統一できなかった。市民運動的に署名活動が成功し、県、県議会与党が腰を上げたというのがこの間の流れである。
 それだけに新たな事態に統一した対応が取れるかどうか。就任間もない玉城知事にとって早くも厳しい局面である。

 (元沖縄タイムス記者)

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