【コラム】酔生夢死

相似って、言われるけどさ

岡田 充


 「朝鮮は台湾にとって“救星”(救いの星)だよ」。台北のホテルで旧知の台湾政治家と昼食を摂っていると、彼がこう切り出した。「救いの星?」。まるで毛沢東か「金王朝」を象徴するみたいな二文字を聞いて一瞬、その意味を測りかねた。「歴史をみて」と彼は続けた。

 国共内戦に勝利した中国共産党は1949年、中華人民共和国を成立した。日本の植民地だった台湾との統一は、共産党にとって早く実現しなければならない。だが翌年の50年に勃発した朝鮮戦争で頓挫する。一時は国民党政権を見限ろうとした米国だが、冷戦が始まって「反共防波堤」の戦略的任務を台湾に与え、蒋介石政権はかろうじて生き延びた。

 「歴史に遺留された台湾問題」の「歴史」はここに始まった。「救星」とは朝鮮戦争によって、台湾が共産化を免れたという意味である。それから約70年、中国は米国と肩を並べる大国に台頭した。トランプ米大統領は、蔡英文台湾総統と電話会談し「台湾カード」で北京を揺さぶったが、習近平国家主席との電話会談で「一つの中国」の従来政策を確認し、「元のさや」に収まった。

 北朝鮮によるミサイル開発の格段の進歩で、朝鮮問題の比重は一気に増した。米中にとってアジア太平洋地域のホットスポットは、台湾ではなく朝鮮問題。トランプと「新型大国関係」構築を目指す北京にとっては、朝鮮問題は自分の安全保障にかかわる重要課題。うまく処理すれば、米中協調を演出できる。台湾が「おいた」をしても、米国を使い抑え込める自信がある。今回、台北は北京の統一攻勢にさらされずに済んだ。また「救星」に救われた―

 戦後史をみると、台湾と韓国は実によく似た道を歩んでいる。蒋介石と朴正熙は「反共防波堤」の任務遂行のため、徹底した独裁体制を敷いた。しかし1972年の米中和解に続き、中国が改革開放政策に乗り出すと、両者とも経済建設に傾注し急成長を遂げた。

 だんだん中産階級が育ち、独裁に反対する民主化要求の声を挙げ始める。台湾では79年、反国民党雑誌の弾圧に抗議する「美麗島事件」が発生。韓国では翌80年、韓国軍が学生デモを武力制圧する「光州事件」が起きたところまで一緒。その後、韓国は87年に「民主化宣言」し、台湾では88年、李登輝が総統に就任し民主化に着手した。ねぇ似てるでしょ。

 「相似」と言っていい。相似は一般的には「外形がよく似ている」状態を指すが、辞書によると「起源は異なるが似た形態を持つこと」が正確な意味らしい。確かに朝鮮半島と台湾は、その成り立ちは異なる。だが共に日本の植民地支配を受け、戦後は米国の反共防波堤になったところまでは一緒。戦後史が似ているのは、日本と米国という共通の支配者を「起源」に持つからだろう。こう考えると「起源が同じで似た形態を持つこと」が正解じゃない? (一部敬称略)

 (共同通信客員論説委員)

画像の説明
  (「ワシらってそんなに似てる?」蔣介石(左)と朴正煕)

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