【コラム】
風と土のカルテ(73)

目指せ! 看護師副院長
非常時の今、改めて思う看護師の存在の大きさ

色平 哲郎

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に対する緊急事態宣言が、全国47都道府県で解除された。各医療機関で第2波への備えを進めていることと思うが、このような「非常時」が続く中、改めて看護師の存在の大きさを感じる。病院職員の6割から7割を看護師が占めている、その事実の重さだ。

 看護師たちは、軍隊並みの秩序で院内感染を防御しつつ、個々の患者さんには細やかな心遣いを持ってケアを提供するという、「硬」と「軟」、両面の資質と技量を兼ね備えている。そして、そのことでどれだけ私たち医師が助けられていることか、、、看護師の役割の大きさを理解していても、「平時」には、そのことに思いが至らないこともあるのではないだろうか。

 そんなことを思いながら、先日、全国病院事業管理者等協議会の会長を務めておられた故・武(たけ)弘道先生が編著者を務めた『目指せ! 看護師副院長』(日総研)を、久しぶりに書庫から出して開いた。今から12年前に出た本だが、看護師の最高職位を看護部長止まりでなく、副院長に上げることで、どれだけその病院が生き生きと活性化され、みなが働きやすく、患者さんから、そして地域からも評価が高まるか、再認識した。

 1937年生まれの武先生は、九州大学医学部を卒業後、2度のアメリカ留学を経て、病院勤務医として鹿児島市立病院に勤めた。同院の事業管理者兼病院長を務め、その経営手腕を見込まれて埼玉県庁にスカウトされる。病院事業管理者として埼玉県立4病院の質向上と経営改善に尽力された。

 その武先生が、こう言い切る。

 「病む人の一番近くで働き、沢山の患者さんに優しい目で接して、いくつもの科を回りながら、『病院を見る目』を養ってきた看護師の中から、副院長を一人置くことによって、病院の実態が経営に反映されて『より良い病院になる』というのが、生涯勤務医として働いてきた私の確信である」(p.16)

●副院長登用に数多くの利点

 では、看護師が副院長になると病院の何がどう変わるというのか。この本の内容を要約すると、次の5つになりそうだ。

(1)職員の最大集団の代表が経営陣に入ることで看護部の意見をくみ上げた経営ができる。
(2)看護職の地位向上、将来への展望が開け、日常勤務にも意欲がわいてくる。
(3)医師は、ともすれば自分の専門の科の視点で病院を見がちだが、各科を回った看護師は病院全体を見ることができる。看護部長は多数の看護師を統率しているので、人事管理能力が高い(場合が多い)。
(4)欧米では昔から看護師副院長は存在している。女性であっても管理能力のある人材がたくさんいることが院内の共通認識となって、総合的な組織力が上がる。
(5)学歴(なるもの)とリーダーシップとはほとんど全く関係がない。現に看護師副院長のいる病院は、経営・運営上のメリットをたくさん享受している。

 そして、武先生は、医師にとっての利点を、こう記している。

 「それは、看護師副院長を置くと『医師と看護師の間の相互理解が深まり、医師が看護師の不満を理解するようになる』という収穫である」

 同書によれば、看護師の匿名座談会で、ある看護師は「こんなにいがみあっている二つの職種が、一緒に働いている職場なんて世間には、そうないでしょうね」と発言したという。看護部長の立場であっても、医師にはなかなか直言し得ないのが実情だ。だが、「副院長」の地位・肩書がつけば、いかにして病院を、チームとして効率的に、そして公平に動かすか、という大局からの発言が期待されることになる。

 医師たちは「副院長の立場が言わせること」と納得し、受け入れられると武先生は述べている。この本を出版した翌年、武先生は急逝されたが、着眼点は全く色あせていないと感じた。

 実は、、、看護職に限らない。薬剤師・技術職も含め、「ふさわしい」人物こそ、その病院の宝物である。

 (長野県佐久総合病院医師・『オルタ広場』編集委員)

※この記事は著者の許諾を得て『日経メディカル』2020年5月29日号から転載したものですが、文責は『オルタ広場』編集部にあります。
 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/202005/565738.html

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