【コラム】
神社の源流を訪ねて(2)
白鬚神社
◆琵琶湖の厳島―渡来人が信仰
昨年(2018年)春、近江の神社をめぐった。琵琶湖周辺は渡来人が開拓したところが多く、珍しい名前の白鬚神社の由来を知りたくなった。大津駅から湖西線を北上し高島駅で下車。1台あったタクシーに乗って、10分ほどで白鬚神社に着く。白砂青松の向こうに広がる湖面はまぶしい感じだ。湖の中に建つ朱塗りの鳥居は、琵琶湖の厳島と呼ばれ、創建は垂仁天皇25年という伝承を持つ。神社の後ろの小高いところに古墳群があり、いい伝えなどからも相当古そうだ。
古代史を考える場合、朝鮮半島にはかつて高麗、百済(くだら)、新羅の3国が鼎立し、また半島との間に、今のように厳密な国境はなかったことを知っておくと便利だ。白鬚神社は全国に4百社近くあり、ここはその総社。神社は先祖を祖神として顕彰したものが多いので、各地の白鬚神社はここの氏子たちが、広がった足跡とも考えられる。
まず白鬚の名前だがいくつも見方があって難しい。谷川健一氏の『日本の神々』によると、白鬚は比良神(ひらがみ)とか比良明神と呼ばれ、ヒラはシラに通じ、新羅の初めの国号の新羅にも通じるとする。白鬚神社の背後に比良山地が連なっており、白鬚神社の祭祀は、この比良山の信仰にも関係あるようだ。
中村利一郎氏の「白鬚考」も、新羅系神社説だ。また新羅の最初の国号が斯盧(しら)で、新羅と変わる過程で「しらぎ」が転化して「白鬚神社」になったとの見方もある。東京・浅草に白鬚神社があり、近くの隅田川に白鬚橋が架かる。
一方、埼玉県日高市の高麗神社の境内に、高麗王若光を祭る白髭大明神がある。宮司の高麗氏は代々「高麗」を名乗っている。宮崎県日南市の白鬚神社は、百済系渡来人に信仰されていたとされる。ちなみに高麗の「白髭」は「口ひげ」で、比良山の「白鬚」は「あごひげ」と区別する見方もある。
百済説では、百済(ひやくさい)が白鬚(「はくしゅう」に転訛したとも説く。ソウル出身で関西大で教鞭をとった古代史家、段熙麟(たん・ひりん)氏は「日本に残る古代朝鮮『関東編』『近畿編』」で、「その観念的形相である白鬚をもじって名付けられたのではないか」とみる。韓国の昔話に、貧しい孝行息子の夢に白鬚の老人が現れ苦難を救う話がある。白鬚神社は由来にかかわりなく、多くの渡来人に信仰されていたのではないか。
(元共同通信編集委員)
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