■ 海外論潮短評【番外編】            初岡 昌一郎


◇◇(1) 飢餓に苦しむもの10億人超 - 国連発表


  6月20日ローマ発のAP電によると、世界的な金融危機による経済的な困難
が世界中で飢餓状態にあるものを増加させ、10億人超という最悪の記録を更新
したと国連食糧農業機構(FAO)が発表した。戦争、旱魃、政治的不安定、貧
困などの原因から、世界で6人に1人が飢餓に苦しんでいる。一日あたり1,8
00カロリー以下の食糧しか摂取できないものが飢餓状態にあると見て、その数
は昨年より1億人以上増加し、10.2億人に達したと推定されている。ほとん
ど全ての飢餓人口は開発途上国に住んでいる。飢餓人口は、世界人口全体よりも
高い割合で増加している。

 食糧支援を組織している国連食糧プログラムによると、飢餓は人災であり、昨
年だけでも30カ国以上で食糧暴動があった。これには食糧価格暴騰が食糧の入
手を困難にし、食糧安全保障が脅かされたためである。ハングリーな世界はアン
グリーになる。


◇◇(2) 再び騰勢を示す世界の食糧価格


 7月4日号の『エコノミスト』(ロンドン)は、一旦は落ち着きを見せ、下落
傾向を示していた世界の食料価格が、最近再び騰勢に転じてきたと報じ、その原
因を分析している。 

 世界の食糧価格は2007-8年に高騰し、何億人もの人々を貧困に突き落と
した。高価格は農民、特に貧困国の小規模農民には朗報と当時は見られていた。
ところが2008年は豊作で市場への穀物供給量が増加したし、石油価格の低落
につれてエタノールの価格も下がったので、トウモロコシが十分に穀物市場に出
回った。供給が増えたのに、世界不況で需要が減り、価格がまた下がった。20
08年7月の価格のヤマと12月の谷では、エコノミスト食糧価格指標が40%
も低下した。

 しかし、今年になってからの価格動向は不思議な変化を見せている。昨年12
月から今年の6月中旬までに食糧価格指標は約3分の1を戻した。今年の穀物類
の収穫予想は22億トンで昨年に続く豊作が見込まれているのに、価格が上がり
始めている。好況時なら理解できるが、不況時には価格が下がるはずなのに。

 その理由には二つの説明がされている。一つは、循環要因である。食糧供給が
タイトで価格が上昇した2006-7年には、ストックが4.5億トンにまで減
少したが、今は5.2億トンにまで回復した。さらに、原油価格がまた上がって
きたので、エタノール用の穀物需要が増えている。さらに、ドル安と船賃の急落
で輸入国の購買力が上昇し、需要が増えた。

 第二に構造的要因がある。2007-8年の世界食糧危機は、事態が循環的な
要因だけによるのではないこと、そして構造的な要因こそが主なものであること
を示した。それらは、世界人口の継続的増加、都市化、途上国における穀物から
食肉への嗜好変化である。こうした傾向は徐々に進行しているものであるが、止
まる兆しはない。

 世界の飢餓人口が拡大したために、緊急人道援助向けの食糧調達量が増加した
。また他面で、新興国、特に中国とインドの経済成長が、穀物需要を拡大してい
る。食習慣は所得が向上するにつれて穀物中心から、肉食の拡大へと移り、それ
が飼料としての穀物需要を大幅に引き上げる。こうした複合的な要因から、不況
期に豊作が続いても通説経済理論通りに価格は低下することなく、むしろ騰勢に
転じている。

 今日の世界人口は67億人で、先進国での人口減少傾向にもかかわらず、毎年
7,500万人増加している。新生児10人中、9人が途上国で生まれている。
国連食糧農業機構によれば、2050年までに開発途上国の穀物需要は倍増する
と予測されている。経済学者は需要が高まれば供給も増えるというが、事態はそ
れほど甘くない。多くの国では、既に明白になっている水不足が増産を妨げる深
刻な障害となっている。

           (筆者はソシアルアジア研究会代表)

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