【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(2)

留学生ではありません。「呼び寄せ家族」の若者(2)

坪野 和子


 先日、インドのモディ首相が来日しました。そのときのスピーチ。日本語で「一期一会」「おもてなし」という言葉を入れ、そして、英語ですが、今年2016年3月から「(パキスタンの親族を持たない)日本人[その他、条件がありますが]」を対象に[事前申請不要ビザ(主要6空港)]を適用し始めたことのアピールもしました。外交をする政治家のリップサービスと相手国の国民との交流を尊重しているアピール。安倍首相をうならせました(きっと次の外遊では真似るでしょうね)。

 日本の場合、政治家より役人が、相手国に対する態度が良くないと感じる事が何度もあります。お金を落とす観光客には非常に緩く、「留学生」にも甘く、しかし、永住者ではない「定住者」在住外国人や技能研修生、EPAの特定活動資格。同じ国から来たのに、その立場だけで、日本での居心地がまったく違ってくるのです。それでも「労働力」とみなされた大人はまだマシなのですが、高校卒業後、「労働力」ではなく「大学生」となった場合、多くの矛盾と差別感を味わうことになります。今回は在住外国人公立大学生の話です。

◆ 1. 高校入試…「外国人特別選抜」の矛盾

 例えば、小学校の段階で親から呼び寄せられた場合。「外国人特別選抜」もしくは「帰国生選抜」(日本籍を持つ)という形で、「国語」といくつかの教科を免除した高校入試制度の適用が来日3年以内というのが多くの都道府県での条件。つまり日本人と同じ条件の一般入試を受験することになります。それが必ずしも不利になるとも言えません。「外国人特別選抜」もしくは「帰国生選抜」は「国語」(日本語)がない分、英語・数学のハードルが高くなり、むしろ一般入試よりレベルが高くなってしまうこともあるのです、いや、そういうケースのほうが多いようです。

 私自身が指導した子たちもそうでした。現地のトップ校でしかも成績も良い、国によってはガリ勉体制、そこから日本に来ているのですから。生徒によっては、筑波大学付属レベルの学校でした。「小学校から日本だから在籍資格によって特別選抜で受験できなかったから落ちた」と言っていた子がいますが、あまり勉強しないし、英語ができない日本人と一緒に受験して落ちるのですから、「外国人特別選抜」での合格は難しいだろうと思います。
 ある意味、配慮した選抜ではなく「外国人もいる特別進学クラス」形成のための選抜。日本人受験生保護者の錯覚をも期待されているとも感じます。つまり「学校要覧」で進路先一覧に外国人特別選抜と一般入試との入学過程の差別なく、合格大学を並べているのです。「あら、この高校、偏差値50(中レベル)なのに結構いい大学に入っているわ」と。本当は優秀な…でも、日本語のハンデがあるが故に…ハンデがなければ、いわゆる進学校に入っていたはずの子たちの合格結果なのです。ただし、日本人とカウントされる、いわゆる「ハーフ」「クォーター」の子たちとその保護者が進路サポートを期待し、しかも、ふたを開けると確かに日本以外にもルーツを持つ友達がたくさんいて居心地よい環境となっているとも言えます。

◆ 2. 学生課でウロウロ…え??ダメなの??

 私が指導した一番優秀な男子。都下のトップ国立大学に入学しました。現在、英国の大学院を目指しています。私個人としては東京大学に入ってほしかったのですが、日本の大学院に入ろうとすると、ひとつ大きな障害があります。それは「給付型奨学金」を得ることができないからです。

 彼がその大学に入学してすぐのことでした。まずは一般的な入学事務手続きのため、学生課に行きました。「キミ、『留学生』の窓口はあっちですよ」「いや、ボクは『留学生』じゃないんです(笑)」
 …事務のかたはどっちの窓口で対応したらいいのか問い合わせをはじめたとのことでした。日本人と一緒の窓口であることを確認し、そこから進みました。外国人慣れしていそうな大学なのに。
 その後、奨学金について問い合わせるために窓口に行きました。
 …え?? 日本国籍でないと受けられない給付型奨学金・日本国永住資格がないと受けられない(または借りられない)奨学金・華僑や在日コリアでないと受けられない(または借りられない)奨学金…しか…ない…ショック〜〜!!!

 さらに彼はもっとショッキングな出来事が…。中学の同級生が日本に『留学生』として無償で大学…私大に入学していて…学生の活動で偶然出会いました。彼のように優秀な学生であっても「在住者資格」であるがために親のロジスティック労働の頼りない収入と自分のバイト収入で学費をなんとかしなくてはならないのです。英国短期留学後、「日本以外なら『留学生』だから給付型奨学金も貰える。だから大学院は英国にした」…すごくショックです。彼を一生懸命育てたつもりだけど、日本の制度で海外に持って行かれるんだ…という悲しさ。日本と彼の母国をつなぐ存在、しかも、母語+英+中+日。こんなデキる子を…。日本の損失ですよぉ。
 (ああ…日本を母国とするノーベル賞受賞者たちもアメリカ国籍取得しているのですよね)

 (高校日本語コミュニケーションアドバイザー&専門学校時間講師)


最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧