【選挙分析】

河村たかし名古屋市長圧勝
―自公民共社民の既成政治勢力惨敗―

仲井 富


 4月23日に行われた名古屋市長選挙は、2008年に掲げた減税日本の公約を守り続けた河村市長が、自公民共社民+連合という日本の既成政党連合を一蹴して完勝した。名古屋市長選は23日投開票され、いずれも無所属で、現職の河村たかし氏(68)=減税日本推薦=が、前副市長で弁護士の岩城正光(まさてる)氏(62)と、元会社員の太田敏光氏(68)の新人2人を大差で破り、当選を決めた。市議会解散請求(リコール)に伴う1期目途中の辞職、出直し選を含め4回目の当選となり、河村市政は3期目に入る。選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた後、初の政令市長選だったが、投票率は36.90%で、4年前の前回を2.45ポイント下回った。

 地元紙中日新聞は、以下のように報じている。
 ―選挙戦は、2期8年の河村市政の継続か刷新かを最大の争点に、河村氏と岩城氏による事実上の一騎打ちとなった。河村氏は名古屋城天守閣の木造復元を核とした街づくりや、2012年度に始まった市民税5%減税の実績などを中心に訴えを展開。知名度の高さに加え、自らの給与削減や退職金廃止などの姿勢も評価された。
 河村氏は当選確実を受け、記者会見で「市民税減税と併せ、天守木造化に対する『住民投票』のような意味合いがあった。名古屋人の郷土愛の深さが表に出た。千年大事にし、まず百年で国宝を目指す」と述べた。全国的な改革勢力の結集への思いも強く、7月の東京都議選を視野に、小池百合子知事との連携を模索していくとみられる。
 岩城氏は、自民、民進、公明、共産の各市議から支援を受け、社民党愛知県連合が支持。議会や市職員との対立で現市政が停滞していると批判し、市民税減税の廃止などを掲げた。だが有権者に浸透せず、知名度不足も響いた。太田氏は街頭演説で減税廃止などを訴えたが、及ばなかった。―(中日新聞 017・4・24)

 名古屋市長選挙結果からみると、得票数と得票率は、河村たかし454,837 (67.8%)減税日本/ 岩城正光195,563(29.1%)自、公、民、共、社民/太田敏光 無所属(2.9%)。自民から共産に至るまで既成政党が束になって河村三選阻止に動いた。共産党も今回は独自候補を立てず自公民社民と連携した。その結果が前回014年以上の大差での敗北である。ちなみに直近の国政選挙である016年の参院選における各党の比例区得票を見てみると、反河村陣営の名古屋市における比例区総得票は合計で79万票余である。対する河村陣営は、比例区候補は出さなかったが、選挙区候補が出馬した。しかし名古屋市では合計89,945票と惨敗している。にもかかわらず市長選挙では既成政党連合が惨敗を喫した。約80万票の比例区票を誇る既成政党連合が、わずか約9万票の減税日本の河村市長に敗北したのである。大阪でも同様に、自、公、民、共、社民の既成政党連合が大阪維新の大阪都構想をめぐる府知事、大阪市長選挙で2008年以降連敗を重ねている。この意味を解かなければ次の国政選挙の展望は出てこない。(図1 参照)

・017年参院選比例区得票
  反河村政党 名古屋市計 791,093
  自民 291,502 民進 252,990 公明 115,467 共産 110,723 社民 20,411
・017年参院選
  減税日本候補者得票 名古屋市計 奥田かよ 89,945

◆ 出口調査 自・民支持層と無党派層河村 公共支持者は岩城へ

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  図1 出口調査(中日新聞 017・4・24)

 中日新聞が名古屋市長選投票日の4月23日に実施した出口調査によると、河村は無党派層のみならず、自民や民進の支持層からも幅広く票を集めた。自民支持層の70%、民進支持層の69%が河村に投票。「支持政党なし」からも66%を得た。対する岩城は市議会主要会派の議員から支援を受けたが、支持政党別で河村を上回ったのは公明と共産のみ。市議の支援は、得票にほとんど結びつかなかった。
 投票の際に最も重視した政策を聞くと、河村が力を入れる「減税」(32%)「福祉・医療」(14%)の順になり、有権者の多くが現市政の継続を望んでいるといえそうだ。河村のこれまでの市政を「大いに評価する」と答えた人が、その理由に挙げたのは「市民税の5%減税」が32%で最多。「市長給与八百万円」(20%)が続いた。逆に「まったく評価しない」を選んだ人の理由は「名古屋城の木造復元」(22%)「減税」(21%)の順。減税政策に反発はあるものの、おおむね評価された。一方、名古屋城の木造復元には全体の39%が「木造には賛成だが、二〇二二年より後でよい」と回答。河村を支持した人の36%も「二二年より後」に賛成した。「工期の見直し」を訴えた岩城に近い考えを持つ有権者が少なくなかったが、積極的な投票の判断材料にはならなかった。(中日新聞017・4・24)

◆ 河村市政の8年間 既得権益打破とぶれない減税・身を切る改革

 河村たかし市長の過去8年間を見ると、何よりも身を切る改革の先頭に立ちつづけていることだ。09年の市長当選直後、市長歳費2,750万円を800万円に減額、さらに一期で4,220万円の退職金を廃止することを提案した。同時に市民税減税10%を提案した。議会は民主党をはじめすべての会派がこれに反対した。理由は「そんなことをすればこれから市長をやる人は居なくなる」ということだった。そこで河村は議会の同意を得るために河村市長在任中という特例条例を可決させ、「ゼロ(不支給)」とした。続いて市議会議員の年間歳費1,600万円を半額の800万円にすると提案したが議会のすべての会派の反対で暗礁に乗り上げた。しかし中途で公明党議員団が、学会支持者から、市長より高い給与はもらい過ぎという批判が出て、やむを得ず市長提案の年間800万円に賛成した。しかし議会の過半数を占める公明を除くすべての会派の反対で通過しそうにないと分かった。そこで河村市長は市議会解散のための署名運動を呼びかけた。

 かくして戦後初めて政令都市による市議会解散署名の有効数が過半数を超えて住民投票実施に至った。そして市民の圧倒的支持によって市議会解散に成功した。011年3月の出直し市議会選挙では、自らも市長を辞任し圧勝した。たった1名の与党減税日本の議員は議会第一党となる躍進を遂げた。結果として市議会議員歳費の年間800万円も市議会で承認された。013年4月の市長選挙では63万票を獲得、3選を果たしたが、翌年014年の市議会選挙では、与党減税日本は半減、自公民の野党3党が三分の二を占める結果となった。
 その結果、市議会議員800万円の歳費は、016年4月市議会で、自公民議員団の提案によって1,455万円に値上げすることが可決された。狂瀾怒濤の8年間だったが、河村市長は少数のときも多数派となったときも、市長当選当時の所信を頑固に守り抜いた。多数派に迎合せず、身を切る改革の先頭に立っている。今回の市長選挙でも、投票率は低下したが、前回の市長選挙の得票率62.20%を上回る67.84%を獲得しているのも、ブレナイ河村市政への市民の評価が定着してきたからだと言えよう。(図2 参照)

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  図2 河村たかし市長の歩み(中日新聞 017・4・24)

◆ いまなお残る民主党政権の大嘘と公約違反の後遺症

 09年に発足した民主党政権が、早々と辺野古移設反対の旗を降ろし鳩山首相が辞任。次いで菅首相は辺野古移設を断念し従来の日米同盟復帰をオバマに約束した。さらに次のテーマとして消費税4年間は上げずの公約を破棄、自公政権の5%値上げに同調すると述べた。この結果が010年参院選の惨敗につながった。これで民主党政権は半身不随となった。身を切る改革と称した議員定員80人削減には全く踏み込まず、TPP参加を一番に言い出したのも菅首相だった。「コンクリートから人へ」のスローガンも菅政権の下で姿を消し、目玉の八ッ場ダム中止も容認に転じた。3年毎の見直しを行ってきた「思いやり予算」は、2010年には1,881億円となっていたが、菅政権は、以後5年にわたって前年度水準を維持することを決めた。後継の野田首相も「天下り団体に群がるシロアリ退治なしに消費税値上げはあり得ない」と09年の総選挙で大見得を切ったにもかかわらず、アッサリ消費税値上げに転換。自公の助けを得て5%値上げを可決して012年総選挙で回復不可能の惨敗を喫したのである。

 その反省もお詫びもなく、再出発の民進党首選で当選した蓮舫代表が、戦犯ともいうべき野田元総理を幹事長に指名した。大阪、名古屋、東京の3大都市の首長選挙や都議会、市議会選挙で連敗を重ねているのも、民主党政権の大嘘に辟易した有権者の政治離れがつづいているからだ。愛知民進党は016年の参院選で唯一、4名区2名の当選を果たしたが、自公民連合で、3度河村市長に敗北した。大阪と同じく、既得権益擁護で一致する共産党までが独自候補の擁立をやめて一枚噛んだが惨敗した。

 公明党の立ち位置も問われる。大阪では、自公民共連合で大阪維新に対抗しながらも、内実では、大阪市内の4選挙区で維新の支援で衆院の議席を確保し、その代償に大阪都構想の住民投票に賛成した。そしてカジノ法賛成、大阪万博賛成で維新に借りを返している。名古屋では当初は河村の歳費値下げに同調したが、現在は自公民共社民闘に復帰して反河村に変身した。東京では、自民都連と決別のフリで、真っ先に小池都政に同調、築地市場の賛否はさておいて、都議選勝利の為になりふり構わぬ小池担ぎだ。
 民進党にも小池新党にはせ参じる都議候補が相次いでいる。もはや政策や筋などは関係なく自分が生き延びるために手段を選ばない。参院選一名区を中心に野党共闘での勝利を勝ち取った熱気は3大都市の民進党にはカケラもない。次の総選挙は改憲がテーマとなるが、維新は安倍政権と同一歩調で与党化のへの道を歩んでいる。次の総選挙まで野党として生き残るのはどこの党だろうか。

 (世論構造研究会代表)

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