【旅と人と】

母と息子のインド・ブータン「コア」な旅(20)

坪野 和子


◆ブータンでの買い物は手ごわい、日本人が恥ずかしい(1)

 みなさまへの情報です。朗報なのかどうなのか今のところわかりません。
 もしもこの夏休みくらいにブータン旅行をお考えでいらっしゃっており、まだ旅行会社を決めていらっしゃらないかたは、もう少しお待ちになったほうがよいと思います。

 ブータン・日本国交樹立30周年を記念して、さきの1月21日に「ブータン・日本親善オファー」という企画がブータンの外務大臣と経済大臣より発表されました[註1・2]。
 期間限定、2016年6月から8月の間に日本国籍を有し、観光を目的とした入国者に対してディスカウントをする、というものです。この期間、現地の太陰太陽暦4月に行われるお寺の行事と中央ブータンでの「松茸祭り」という日本人旅行者向け松茸狩りと食べ放題が主な行事予定です。

 通常のブータン旅行は「公定料金」というものが設定されており、時期によって異なりますが、1日200ドルまたは250ドル支払うシステムとなっております。「公定料金」には三つ星四つ星ホテル代+食事+認可現地旅行代理店各種手配手数料および有資格者ガイド+ドライバー付き専用車が含まれております。ほかビザ代(+タイやバングラデシュから飛行機出入国の場合航空運賃)は別途となります。
 ですが、この期間の訪問者は65ドルの内国税+旅行にかかる手数料諸経費込、三ツ星以上の指定ホテル半額、政府指定レストランからの自由選択、航空運賃半額、ただし条件としてドライバー付きガイドを雇う、認可現地旅行代理店を使うというものです。

 つまり、町中の食堂にふらっと入って食べたり安宿に泊まることなく、ガイドとドライバーをつけなくてはいけないので現地のタクシーや公共交通機関を使えず、はい自由旅行ですよという訳ではないのです。ネパールやインド発のツアーに参加する場合、どの程度このオファーが認知されているのか現在ネット上ではみつけられませんでした。
 この企画を活かすのであれば、良いツアーに参加するか、現地旅行者直接交渉がベターでしょう。

 現時点での日本の旅行代理店企画のブータンツアーは、すでに昨年に契約が決まっているものが多く、このオファーを適用しているツアーは見当たりません。
 私の知るところでは、この連載中の旅でお世話になったGNHトラベル[註3]が現在企画中です。
 <引用>弊社ではこの特別オファーを踏まえ、この時期にブータンへご旅行いただく皆様に、少しでもお安く、かつ今までと変わらず旅行の「質」を落とすことなく最高のブータン旅行をしていただけるように、現在現地事務所と最終的な調整を行っております。近日中に当ホームペーにてご案内できる予定で進めておりますので、ご期待下さいませ。<引用ここまで>

 また、現地旅行代理店に直接問い合わせてアレンジしてもらう、というより、料金交渉するという方法があります。
 通常の「公定料金」よりお得な旅行にするためには、旅行代理店+ガイド+ドライバーの取り分を値切る、あるいは快適な旅のために通常では泊まれないいいホテルを指定するなど、お仕着せではない楽しみがあります。
 私宛のメールで早速売り込みをしてきた現地旅行代理店があります。ここは日本語対応が可能なスタッフがいらっしゃるので、また誠実なかたではありますので、ご参考まで[註4]。
 2014年にタイの観光客のための同様のオファーは2国間の外交関係の25周年を記念して同じ企画をしたことがあります。二匹目のドジョウを期待するにはもう少し日本人の旅行スタイルについて現地が理解しないとならないような気がしますが。

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1.プンツォリンからパロまで---整備されている幹線道路---
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 ガイドさんの提案「1泊プンツォリンで、朝パロでもいいと思う」。チベット、インド、ネパールの経験でなるべく目的地に到着したほうがいいと考えて、パロに向かった。ええ?? こんなに道が良いの?? 予想外。ドライバーさんも腕がいいので坂道、山道、平地と差がなくさりげなく運転し、そして日本車‘TOYOTA’だから。
 帰国してから…ブータンに行ったことがある日本人に「ブータンってすごく道がいいね」と言うと大抵の人は「?」。中央ブータンの山道は大変だったとか、比較の対象が先進国だとか、私の基準とは差異があるようだ。絶対に車では入れないような土地に外国人を入れるような国ではないので、現首相が選挙中に公約した「僻地へのヘリコプター導入」、 現在緊急事態があった地域に実験的??に数回運行したそうだが、国家予算としては現実無理だろう。その理由としてインフラは国民労働者に期待できないからだ。

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2.プンツォリンからパロまで---ナンバーでわかる労働事情---
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 ブータン人はガテン系(死語??)仕事をしない。食肉関係の仕事もネパール系住民でなければしない。牧畜農家(チベット同様半農半牧が多いがチベットと違うのは優先する仕事の比率の差…だからブータンは農業国と呼ばれ、チベットは遊牧が中心と言われている。実態はどちらも半農半牧が中心)も屠畜は専門の業者が行う。刃物で伸びている髪(髪も生命の一部)をカットする床屋もインド人ばかりだ。
 途中の道路工事や修復をしている人たちのトラックを見るとナンバープレートがインド・西ベンガル州のもの。ブータン人は国境関係なく「ブータン人カースト」があるのだ。

 彼らはガテン系や植物以外の命を絶つことにかかわる仕事は自分たちの仕事ではなく、インド人・チベット人・ムスリムの仕事と決めているのだ。ブータンの若者の就職難は単純にこういった仕事が選択肢に入っていないので、または就きたがらないからだ。貧しい国と言われているのだが、こういう職業に対してインド人・チベット人たちに賃金を払っている。日本のメディアは単に「ブルーカラーを嫌うブータンの若者」というイメージで報道しているが、少し違うと思う。

 もうひとつ、ナンバープレートでどういう目的で運行しているのか判別する。
日本だと白ナンバー・緑ナンバーであるが、ブータンは、
 1.ギャルコール=王族公用車。
 2.シュンコール=公共車…パトカー・救急車・消防車・役所…ガイドさんがいなければ公用車と勘違いして…でも町の人に質問したかもしれませんが。
 3.ラーコール=賃走車…つまりタクシーや業務用。
 4.ランコール=自家用車。そして、ベンガル語のガテン業務車。自動車ナンバープレートだけでここまでブータンの労働状況がわかるとは思わなかった。

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3.プンツォリンからパロまで---かなり強気な売り手たち---
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 まず一般的な日本人はリクエストしない買い物をガイドさんにお願いした。
 「乾燥チーズを買いたい」これは普通の日本人にはおすすめできない。私は大好き。乾燥チーズはネパールにいたころアパートの斜め向かいに住んでいたブータン人家族が仏塔の路上販売の商品として売っていて、コクがあってまろやかな味で…しかも程よく固い。忘れられない美味しい味だった。だからブータンに行ったら絶対買って食べたいと思っていた。「ハ県の乾燥チーズは絶対に美味しいですよぉ」とガイドさん。
 路上販売では、乾燥唐辛子、実山椒、チーズを「道の駅」的な販売をしていた。値段をきいてびっくり!! …高い!! で、インドの調子で値切り交渉をしたけれど、けんもほろろ。絶対にまけようとしない。すごく強気な商売だ。長年物々交換をやっていた国だから、お金より自分たちの商品のほうが価値があるという態度でなければいけない。インドでの値切り交渉を楽しむ買い物とも違う。シビアだ。

 その後、パロの町中のスーパーにも寄ってもらった。唐辛子は道の駅ほど鮮度がよくなかった。川海苔が売られていた。ものすごく高い。なんでも手摘みで冷たい川の中に入って長い時間できるような仕事ではなく希少だから。ブータン高級食材。小中学生のアルバイト。私の買い物は現地のゾンカ語新聞。バックナンバーもあった。…息子は…オレンジジュースのペットボトルにニヤニヤしていた。「ブータンでもシャー・ルク・カーン」そうシャー・ルク・カーンはインドのトップスター。あららまた映画のこと。
 スーパーは日本と同じで定価販売のようだが、たぶん会計のとき値引き交渉もありそう。ただ大した買い物もしていないのと外国人だからまけてくれないだろう、試さなかった。

 帰国して、ああやっぱり乾燥唐辛子を買って帰ればよかったと後悔。日本で同じ唐辛子を買おうと思ったら、アメ横の中国食材屋へ行かなければならない。四川唐辛子として売られている。この大きくてコクのあるブータン唐辛子はどんな料理でも合う。アジアはもちろん、ガーナ、メキシコ料理を作っても合う。日本・韓国・中国の日本で売られている唐辛子と味が違う。
 尚、乾燥チーズだが、私にとってはれっきとした人間用の間食だが、日本ではコストが安いネパールから「犬用のおやつ」として販売されていた。ハ県の乾燥チーズはスモークチーズ味。帰国してチベット人と日本人と同時に会って…チベット人にはささやかなお土産でチーズを、日本人にはダージリンティを渡した。「このチーズ、チベット人はよろこぶと思うけれど日本人には勧められませんので」とても硬い。なにしろガイドさんが「ガムより(時間を)つぶせるよ」と息子に言ったくらいだから。息子が「このチーズの美味しさは理解できないな。ナチュラルすぎる」

 次回、パロ。日本人が恥ずかしいと思った「旅の恥はかき捨て」。目的地「高僧タントン・ギャルポの橋」

[註1]「ブータン・日本親善オファー」[英文]
  http://www.kuenselonline.com/bhutan-japan-friendship-offer-launched/
 ※JETROでの発表である。日本語の多くは「期間限定の公定料金撤退」と表現。内国税があるので、厳密に撤退という表現は実態と合わない。
[註2]ブータン政府観光局[日本語]
  http://www.travel-to-bhutan.jp/archives/2248
[註3]GNHトラベル&サービス
  http://gnhtravel.com/
[註4]ブータン・ゾクチェン・ツアー
  http://www.bhutandzogchentours.com/bhutanjapan/
 ※政府観光局のコピペですが、「ご予約は日本語で気軽にどうぞ」と。

 (筆者は高校時間講師)


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