特集【ポスト・コロナの時代にむけて】

検事長の定年延長で見える政権の横車 VS 行政監視の今(2)
――ドキュメント 国会会議録を読む、解く――

浜谷 惇

■局面5 新たな発掘史料で迫る「解釈変更」の違法行為

小西洋之氏(立国社)は、新たな発掘史料を突きつけ、これまで「できないとしてきた検察官の定年延長」を、突然「できると解釈変更した」違法行為を森雅子法相らに迫っていきます。

┃人事院局長、史料の書簡(政府統一見解)は人事院勧告と同様の意義

 引き続き国会会議録を読み進めます。
 黒川検事長の定年延長問題、検察庁法改正をめぐる質疑・答弁はドラマかと見間違うほど、局面ごとに劇的な展開をみせてくれます。

 小西氏が3月9日の参院予算委員会で提示した発掘史料は、国立公文書館にあった「国家公務員法の一部を改正する法律案(定年制度)想定問答集(昭和50年10月総理府人事局)」です。想定問答集とは、政府側があらかじめ与野党の質問に備えて作成された答弁メモのことです。

 史料は、同氏が探し出したもので、検察官の「定年、特例定年、勤務の延長及び再任用の制度の適用は除外される」ことが明記されていています。すでに前回ふれた、山尾志桜里氏が衆院予算委員会で提示した1981年改正国家公務員法を審議した際に斧政府委員が答弁した、検察官には「定年制は適用されない」見解を、裏付ける重要な証拠としての意味を持っています。(想定問答集と書簡の3点は本誌『オルタ』4月号の「データ・にっぽん」を参照ください。https://bit.ly/31cbZ4c

 発掘者である小西氏は、「森大臣は(略)、この想定問を突き付けられて、いや、勤務延長は適用除外だというふうには書いてあるけれども、なぜそうなったのか過程や理由は分からないというふうに答弁していますが、その考えでよろしいですか」と確認を求めます。

 法相答弁です。「当時の解釈についてはお示しの想定問答集にその結論が書いてありますが、その理由、また検討の経過については、必ずしも、当時の理由、そのように検討した経過がつまびらかではございません。」
 この「つまびらかに」を記憶にとどめておきたいと思います。

 何回ものやりとりを交わした後、小西氏は、1979年8月9日に藤井貞夫人事院総裁から三原朝雄総理府総務長官にあてた「国家公務員の定年制について」を示して、現人事院総裁に「当時のこの人事院の見解は、勤務延長制度を含む定年制度全てについて検察官は国家公務員法から適用除外すべきだ、そういう趣旨であるというふうに理解してよろしいですか」と確認します。

 一宮なほみ政府特別補佐(人事院総裁)の答弁です。「適用除外されているという理解でした。(略)詳細な検討過程はつまびらかではございませんけれども、定年年齢等については、国家公務員法に定年制が導入される以前から身分関係の特例として定められていたという経緯に鑑みて、引き続き国家公務員法の特例として取り扱うことが適当と判断されたものと考えております。」

 さらに小西氏は、「(略)この当時の(昭和)54年の見解は、人事院勧告にも相当する、それが私の発見した想定問、政府統一見解(書簡)としてあるという事実でよろしいですね。(略)」と確認を求めます。
 松尾恵美子給与局長の答弁は、「当時は書簡でお返ししたわけでございますけれども、(略)書簡についてでございますが、国家公務員法上の規定はございませんが、先ほど申し上げたような役割を担う人事院の見解表明である点におきまして、意見の申出や勧告と同様の意義があるものと考えております」と明瞭です。

 なお、松尾氏の答弁で「書簡」という言葉が使われています。その意味について松尾氏は次のようにふれていますので付記しておきます。「国家公務員法上、意見の申出というのは、国家公務員法の目的達成上、法令の制定又は改廃に関し意見があるときに国会及び内閣に対して行うものとされ、勤務条件に関する勧告は、職員の給与その他の勤務条件に関する事項を社会一般の情勢に適応させるために国会及び内閣に対して行うものとされております。」

続いて法相答弁です

○国務大臣(森まさこ君) いや、まさに今お示しいただいた資料によっても結論は書いてありますけれども、その理由、検討の過程が書いてございません。今、人事院総裁も詳細な検討過程はつまびらかでないというふうに御答弁をなさっておりました。ですので、今般、法治国家の下での有権解釈として、所管省庁である法務省において、適正なプロセスを経て、適法に解釈したものでございます。

 法相はまた「つまびらかでない」と言い放ちます。政府と人事院が「検察官には勤務延長を含む定年延長は適用しない」とした理由、経過の概要は十分うかがい知ることができます。質問者の問いには真面に答えようとしない法相答弁は甚だしく身勝手と見えます。

┃人事院が発出した「史料」を知らないままで解釈変更、さらに濃厚

 小西氏は観点を変えて問います。「その後、制度が施行されていく中、今日まで、検察官に勤務延長は適用除外である、そのように明示した会議録あるいは文書、そうしたものを検察、法務省は承知していない、そういう理解でよろしいですか。」

 法務省の川原隆司政府参考人(刑事局長)は、「そのような文書は承知してございません。」
 誤植ではありません。

 続いて小西氏は、人事院から入手した文書によれば、「国家公務員法第81条の2、1項の別段の定めに当たるものとしては検察庁法第22条の規定がある。この文章は、検察官に対しては勤務延長を含む定年制度は適用除外である、そういう趣旨でよろしいですか」と確認を求めます。

 人事院の松尾氏は、「勤務延長を含む国家公務員法上の定年制度が検察庁法により検察官には適用されないことを示す趣旨で発出されたものでございます」、「令和元年5月時点においても、そういう趣旨でございました」と答えます。

 小西氏が次に質問したのは法務省の官房長です。「(略)この人事院の事務総長の通知の宛先なんですけれども、法務事務次官、法務省に通知されているわけですよ。(略)この通知の存在、御存じでしたか。」

 政府参考人の伊藤栄二官房長は、「この通知の、人事院事務総長通知の存在は把握しております。(発言する者あり)ただいま、ただいま把握しております」と。さらに小西氏から明確にと問われ、「法務省として把握している文書でございます」と答えます。

 続いて「いつ把握したんですか」との問いに、「昭和59年に法務省としてこれを承知をしたということになります」と。「官房長自らが、いつこの通知の存在を把握したんですか。その日時を答えてください」との問いに、「私としてこの通知を明示的に把握したのは本日でございます。(発言する者あり)」

 ここで小西氏は刑事局長の川原氏に、「この通知をいつ把握したんですか。日時を答えてください」と問います。
 川原氏は「(略)その通知文書につきましては、私は、(発言する者あり)いえいえ、今回の人事の過程の中で把握してございます」、「(略)部下から見せられたことは間違いございません」と答弁します。

 小西氏です。

○小西洋之君 これはもう完全な虚偽答弁ですよ。だって、あなた、さっき、そういう文書は存在しないって言ったじゃないですか。(略)少なくとも勤務延長を強行した官房長は、この通知の存在、今日まで知らなかったわけでございます。森大臣が行った黒川検事長の勤務延長は、法律に違反し、そして法律の下の運用をずたずたにする真っ黒の違法行為ではないですか。

 しかし法相の答弁はこれまでと全く同じです。「小西委員、想像たくましく決め付けられておりますけれども、今まで国会で答弁申し上げましているとおり、当時の解釈について、るる本日もおっしゃっていますが、当時の解釈については法務省認めております。それの解釈を前提として運用がなされてきたものでございます。
 そして、今お示しの人事院の文書は、22条が特段の定めと書いてありまして、私ども、今般は、その22条の特段の定めは年齢と退職時期というふうに解釈したものでございます。」

 これが今の政府答弁の現実です。くり返しますがこれを予算委員長、与党も追認しています。
 今回の会議録を読むと、森法相と法務省は、検察官の勤務延長を含む定年制に関する過去の史料や会議録を精査しなかったばかりか、人事院が法務省宛に発出した文書を読んでいなかったことが明らかにされています。

○そういえば法相は、前回(1)で山尾氏が示した81年会議録についての答弁で「読んだ、見た」といった言質を残していません。「報告を聞いた」です。
 この日の法相、刑事局長の答弁から1月31日の閣議は、山尾氏が指摘した会議録にくわえ、今回小西氏が提示した史料を読むことなく、黒田検事長の定年延長を決めたという事実が濃厚になったと言えます。

■局面6 森法相の「検察官が最初に逃げた」発言の顛末

法相は、突然「検察官が逃げた」と発言。質疑を通じて法相は「撤回・お詫び」しますが、その政治責任の欠如、何を撤回したのか、さらに質疑が続きます。

┃森法相のあの「発言」を会議録で再現

 その後質疑・答弁が交わされる中、小西氏は「(略)どのような社会情勢の変化があって、日本中の検察官に勤務延長が必要になったのでしょうか。聞いたことだけに答えてください。(発言する者あり)」と問います。

 このときの会議録(参議院予算委員会3月9日)です。

○国務大臣(森まさこ君) 元山下担当大臣も頭にあったということですから、一つの論点ではあったわけです。
 昭和56年当時と比べ、どのように変化をしたかということでございます。例えば東日本大震災のとき、検察官は……(発言する者あり)
○国務大臣(森まさこ君) 福島県いわき市から国民が、市民が避難していない中で、最初に逃げたわけです。そのときに身柄拘束をしている十数人の方を理由なく釈放して逃げたわけです。そういう災害のときも大変な混乱が生じると思います。また、国際間含めた交通事情は飛躍的に進歩し、人や物の移動は容易になっている上、インターネットの普及に伴い、捜査についても様々な……(発言する者あり)
○委員長(金子原二郎君) 法務大臣、簡潔に、簡潔に。
○国務大臣(森まさこ君) 多様化、複雑化をしているということを申し上げておきたいと思います。(発言する者あり)
○委員長(金子原二郎君) 法務大臣、簡潔に。(発言する者あり)
 速記を止めてください。

 予算委員長の金子原二郎氏は、発言中の法相を制して速記中止を求めています。その後、委員長は「答弁者は、質疑者の質問に的確、適切にお答えいただくようにお願いいたします」と、法相に異例のイエローカードを出しています。

┃「検察官が逃げた」は個人的見解と法相、事の重大性を理解できず

 翌々日の11日の衆院法務委員会です。山尾氏(立国社)が先ず一点として発言は事実なのですか、二点は発言が本当に今回の解釈変更に関係しているのですか、と問います。

 法相です。一点目は「事実でございます。」、二点目は「(略)大規模な災害があるときに、大変混乱をしていたんだと思いますけれども、(略)そのときに勤務延長を一日たりとも、どんな場合でもしないということがあり得るのかというふうに私はその当時も思ったわけでございますけれども、そういった例として一つ挙げさせていただきました。」

 さらに山尾氏は「(略)検察官が逃げたということが事実なんですか(略)」と確認を求めます。すると、法相は「市民に避難指示が出されていないときに、国家公務員たる検察官が福島地検いわき支部から郡山支部のある方へ移動した、そのときに身柄拘束をされていた十数人の方が同時に釈放されたということで、当時報道もあったと思います」と答えます。

 すかさず山尾氏は「(略)これが事実であるという認識が安倍政権の見解ですか」と問います。法相答弁です。

○森国務大臣 当時の政府は民主党政権でございましたので、私が野党委員として質問したときには、答弁は、裁判所が移ったので検察庁も移ったというふうに、その旨の御答弁があったというふうに承知をしております。私の今御指摘の予算委員会での言及は、当時の個人的な見解でございます。

 こんどは法務委員長の松島みどり氏が速記中止を命じます。
 その後、委員長は質疑を再会させ、「委員長から一つ申し上げます。(略)先日法務大臣として発言し、今山尾さんが質問されたこと、そして、きょうその質問に対して今答えられたこと、(略)今閣僚として、法務省を預かる大臣としての御発言とを、ちょっと整理をして発言していただきたいと思います。(略)」と、法相に通告します。

 すると、また驚きの答弁が続きます。「(略)私が個人的に当時、理由なく釈放した、そして検察官が逃げたというふうに感じたことを申し上げたことであり、理由なくということと逃げたというところについては個人的見解でございます。」

 山尾氏は「(略)ちょっととめてもらっていいですか」と委員長に提案。
 会議録には、委員長は山尾氏の提案を受け入れて、速記を止めて一時中断。その後、「理事会を開きます。(略)委員会は暫時休憩します。午前11時休憩 〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕」とあります。

 もう答弁者の体さえなくなっているということです。法相は、この段階に至っても自らの発言の事の重大さを全く理解されていないようです。解釈変更の後づけを整合あるものにしようとする法相答弁はさらに混乱を深めることになりました。

┃法相、4つのお詫びの詳細を語れず

 それから翌々日の衆院法務委員会(3月13日)の開会冒頭、法相が4つのお詫びの発言をします。一つは国会審議にご迷惑をおかけしたこと、二つは3月9日(参院予算委員会)の答弁を撤回すること、三つは山尾委員の答弁に誤解を招きかねない発言があったこと、四つは予算委員会(3月11日)の質疑中に離席した際に記者の取材を受けた不適さ――についてお詫びです。

 葉梨康弘氏(自民党)は、「(略)どういう点が問題となり、撤回されたと御認識されているでしょうか。」、そして「今後しっかり的確な答弁をお願いしたい」と苦言を呈した上で「予算委員会を中座した折に、記者との立ち話で、国会から要請をいただきましたので撤回しましたというふうに発言されたと報道されている。(略)一体、大臣、これは何を指すんでしょう」と問います。

 法相の答弁です。「法務委員会や参議院予算委員会においてさまざまな御指摘をいただいたという意味でございます。」
 与党の質疑ですからこれで終わっていますが、行政監視の役割を担う野党の質疑はそんな姿勢を許しません。

 川内博史氏(立国社)は、「法務・検察行政に対する国民の信頼をおとしめてしまった、だから謝罪するということでなければならないのではないかというふうに思います」と質問を始めます。
 法相は「検察の活動の公正性について誤解を招きかねない答弁をしたことは不適切であったというふうに考えまして、真摯に反省し、答弁を撤回したものでございます」をくり返します。

 川内氏は「国民は誤解も何もしていないんですよ」と切り返しした後、質問します。

○川内委員 (略)なぜ勤務延長を解釈変更したんですかと問われて、社会情勢の変化があったからだと、その社会情勢の変化について述べた答弁ですよ、逃げた、理由もなく釈放したという御発言は。(略)国民の検察に対する信頼を失墜させるようなことを言ってしまったというふうに自覚しているのかしていないのかということに関して、きちんと真正面から答えないというのは、私は、それこそ法務大臣の任にあたわないということになると思いますよ。(略)再度答弁を求めたいと思います。

 しかし法相の答弁は変わりません。
 川内氏は質問を変えて、法相が昨日(3月12日)総理から厳重注意を受けたという内容、その後に記者団に語ったとされる「法務省が確認した事実と違う事実」とは何か――について質疑・答弁がくり返されます。途中、松島委員長が速記中止を求めた後、「川内委員の質問にお答えください」と促しても、真面な答弁は返ってきません。

┃法相流答弁は「自分の答えたいことを答える」のみ

 質問に立った勝野保史(共産)は「大臣の個人的見解そのものを撤回したということですか」と問います。法相は「個人的見解については、この場では申し上げることはいたしません」と答えます。

 そこで勝野氏は「謝罪、撤回したとおっしゃいますけれども、全くしていないと私は感じました」と指摘した後、今回の解釈変更の根拠づけとして小西氏が指摘した「人事院規則11-8」の第7条の「一号、二号、三号」の内容を紹介した後、先の法相発言は「この二号についてですね」と確かめます。

 ちょっと上記の「号数」について補足します。会議録で勝野氏は、国家公務員が勤務延長を認められるのは次の各号に該当する場合だとしています。
 一号とは、「職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき。」
 二号とは、「勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき。」
 三号とは、「業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき。」

 委員会の質疑に戻ります。勝野氏の質疑に、法相は「離島などの例というのは、二号のことでございます」と答弁します。

 勝野氏は「今回の解釈変更に関するのは三号なんです」、「大臣にお聞きしますが、何で三号ではなくて、二号に関係する福島のことを答弁されたんですか」と問います。
 何度もやりとりした後、法相は「これは、勤務延長という法律の解釈変更について述べたものでございまして、個別の人事のことを答弁しているものではございません」と答えます。

 勝野氏は、「要するに、答えないんですね。勝手に質問をねじ曲げて、自分の答えたいことを答える。(略)大臣としての資質が問われると思うんですね」と指摘します。

 続いて質問に立ったのは串田誠一氏(維新)です。
 串田氏は、撤回されたのは「(略)これは理由があったんだ、こういうふうに撤回されたのか、それとも、この検察官定年延長に対する理由として全てを撤回して、なくしたのか、これを聞いているんです」と問います。

 法相は、「答弁の一部を撤回したということです」「答弁の撤回というのは、その部分を答弁しなかったということで議事録からその部分を削除をするということだと思います」と答えます。

 以下は余談です。もしそうであるなら、上記(「検察官が最初に逃げた」発言を会議録で再現)で法相発言を抜粋していますが、元の発言はもっと過激な発言をされたのかという疑問が生じます。

┃許されないゾンビのような解釈変更

 同じ日(3月13日)串田氏は、「想定問答集や政府答弁によって検察官には定年延長はできないという答弁があるわけですよ」と次のように問います。
 「AとBという解釈があった場合、Aは立法趣旨に合致している、しかし、Bまで広げるとこの法律は行き過ぎだということで、私たちは今法案の質疑をして、Bという解釈はできないんですねということで法案質疑をしているわけでしょう。(略)それが、後になってゾンビのようにBの解釈が浮かび上がって、Bをやっても構わないんだということになったら、これは法案質疑をしている意味がないじゃないですか。」

 法相はこれまでと同じ答弁の返しです。
 「法令の解釈は、当該法令の規定の文言、趣旨等に即しつつ、立案者の意図や立案の背景となる社会情勢等を考慮するなどして論理的に確定されるべきものであり、検討を行った結果、従前の解釈を変更することが至当であるとの結論が得られた場合には、これを変更することがおよそ許されないというものではないと承知しております。」

 再度、串田氏は法相に強く警告します。ここには国会議員が質問準備をする際の一端が率直に語られており、興味深く会議録を読むことができます。

○串田委員 (略)解釈が法案質疑で行われ、想定集に書かれていて、検察官には定年延長が適用されないと書いてあるから信頼するわけですよ。(略)(質問者が)レクを受けるときに、そういうことはありませんと答えられれば、じゃ、その質問をやめましょうとか、(略)資料に基づいて、官僚が説明に来たときに、こうですよと見せられて、その質問をしないことだってあるわけですよ。(略)その答えが後になって違うというんだったら、何のために法案質疑するんですか。

■局面7 解釈変更の「後づけ・裏づけ」、一段と深まる疑惑

法相が約束した解釈変更を裏づける新たな文書はいまだに提出されません。法務省と人事院からすでに提出されている文書には、何時から「解釈変更」する(した)という日付が記載されていいません。これらが問いただされていきます。

┃法相、解釈変更で内閣人事局との協議を認めるも、内容は行政裁量で拒否

 参院予算委員会(3月5日)で杉尾秀哉氏(立国社)は、法務省から衆院予算委員会の理事会(2月26日)に出された「検察官の勤務延長について(200116メモ)」の真偽を裏付けるために、「文書を作った電子データ」の提出を求めます。
 法相は、「(略)今、更に御証明をする文書を探しているところでございます。(略)」と答えます。

 一週間前に「探す」と約束したことです。いまだに探していること自体がおかしなことで、その手がかりすら見つからないとは奇奇怪怪です。解釈変更が何時行われたのか疑惑は深まります。

 舞台は変わって3月13日の衆院法務委員会です。川内氏が視点を変えて問います。

○川内委員 (略)そもそも、国家公務員法全体の定年制度は内閣官房が所管していますよね。内閣人事局ですね。内閣人事局が所管している。この定年制度について解釈変更を行うに当たり、森大臣は、法制局、人事院と協議をした、こうおっしゃっていますが、現行法において定年制度の解釈を変えるのであれば、定年制度を所管する内閣人事局とも協議をすべきであるというふうに思いますが、内閣人事局とも協議しましたよね。

 森法相がひさびさに見せた明瞭な答弁です。「はい、いたしました。本年1月23日に協議をいたしております。」

 そこで川内氏は、「(略)22日は、解釈整理の文書を人事院の事務総長にお渡しになられて、1月24日には、人事院の事務総長から法務省の事務次官が、人事院としての、それでいいんじゃないですかという紙を法務事務次官が受け取って法務省に戻る。そのいずれも、人事院を事務次官が訪れる前に首相官邸を訪れています。(略)これは内閣人事局との御相談ではなかったかというふうに思いますが、誰に会われたのかということを教えていただきたいと思います」と問います。

 法相は、「事務次官が報告や協議のために官邸を訪問する理由はさまざまでございまして、政府部内における報告や協議の詳細に関することについてはお答えを差し控えさせていただきます」と答弁します。
 川内氏が、「聞き方を変えましょう」「詳細を聞いていない」「誰にあったんですか」と質問しても、先ほどの答弁をくり返すだけです。

 川内氏が「公務員が公務員として仕事をして、どなたかと打合せをするということに関して、それを秘匿する、言えませんというのは、それは相当な理由がなきゃだめですよ。その法的根拠を述べてください」と問います。
 すると「行政裁量の問題でございます」と法相です。松島委員長も「川内さんの質問に対しては答えたと思います」と発言します。

 この日最後の質疑・答弁です。

○川内委員 じゃ、行政裁量で答えないというのは法的根拠のある御答弁なんですか。
○森国務大臣 さまざまな行政法の法体系のもとで行政機関として行政行為をしております中での行政裁量の問題でございます。

┃法相、閣議決定までに解釈変更したことを証明できず

 政府は3月13日、野党が「後づけを合法化するもの」と指摘する検察庁法の一部改正案を国会に提出しまします。しかもその内容は政権が検察官の人事権を恣意的に采配できるようにする内容を含むものであり、その手法はというと国家公務員法改正案の中に検察庁法改正案を束ねて一括審議するというものです。

 階猛氏(立国社)は3月31日の法務委員会で、法相に再度問います。「私が尋ねたのは、その法改正が、実際に案がつくられる前に、法解釈を変えて黒川氏の定年延長がされた。なぜ、その法改正を待たずして法解釈を変更して、そして運用をしなくちゃいけなかったのか、ここを聞いているわけですよ。」

 ここでも真面な答弁はありません。審議が一時中断した後の法相答弁です。「(略)実際の運用については、特に急いだとか、そういうことについて、個別の人事についてはお答えを差し控えさせていただきますけれども、適正なプロセスを経て法解釈が変更されたと考えております。」
 これもくり返され聞いてきた説明です。

 同じ趣旨の質問です。法相の答弁です。
「法解釈の変更については、有権解釈として、所管省庁である法務省において第一義的に判断を行うということになっているというふうに思います。
 1月24日の段階で、現行法の解釈として、検察官にも勤務延長の規定が適用できるものというふうに解釈が決定したわけでございますので、その後、運用したということでございます。」

 さらに階氏の問いです。「(略)一般論として聞いても、全く答えが返ってこないんですよ。(略)説明してもらわないと、私だけではなくて、国民は納得しないと思いますよ。(略)説明できないのなら、黒川氏のためでしたというふうに認定せざるを得ません。どうですか、大臣。」
 法相の答弁は「黒川氏の、個別の人事のために今回の法解釈の変更をしたわけではございません」と。これもやはりくり返しです。

 ここで階氏は、「さっきから解釈変更があったという前提で説明していただいておりますけれども、本当に解釈変更があったのかということを私は疑問に思っています」と、その理由を指摘します。

 最初の指摘です。下記に出てくる「両方の文書」とは、①法務省から1月22日に人事院へ交付した「勤務延長制度の検察官への適用について」、②人事院から法務省に発出された「この件に関する回答について」、ということです。

○階委員 (略)もし本当に解釈を変更するんだったら、従前の解釈をいつ、どの段階から変えるのかということが日付として明示されていなくてはおかしいと思うんですね。ところが、この両方の文書、どこにも日付も出てきておりません。作成日もなければ、新解釈の運用開始日も出てきていない。
 これは解釈変更じゃないですよね。解釈がこうだよねということを確認したというにすぎないのではないですか。(略)解釈変更は黒川氏の人事の前にやっていたというのであれば、この書面だけからはそれは証明できません。解釈変更をやったという証拠はありますか。

続く指摘です。

(略)これは総裁以下幹部の方でつくったペーパーですよね。それで、もし1月24日にこのペーパーがつくられたとしたら、当然、そのことは認識した上で国会の答弁に出ているはずだし、そうであるとすれば、(略)「制定当時に際してはそういう解釈でございまして、現在までも、特にそれについて議論はございませんでしたので、同じ解釈を引き継いでいる」と。これは2月12日ですよ。本当に1月の24日にこのペーパーをしっかりとした手続でつくっているというのであれば、これはほかの委員もいろいろな場で質問していますけれども、絶対にこんな答弁にはならないわけですね。

さらに指摘が続きます。

(略)取調べのときに私は犯罪を犯しましたと言って、公判でいきなり、あれは言い間違えましたと言ったとしても通らないですよね。そんなことが通るんだったら、刑事司法も成り立ちません。(略)私は2月12日の(松尾さんの)答弁の方が正しかったと思いますよ。解釈変更なんということは全くやられていなかった、2月13日に総理が解釈変更ということを本会議で答弁されたので、後づけで解釈変更という話にしていったということだと思います。(略)

 納得できる答弁は聞けず、階氏は「解釈変更がされたのかどうか(略)しっかり証明できる資料をこの委員会に出していただきたい(略)」と、要求して質問を終わっています。

■局面8 黒川検事長が賭けマージャンで辞任、その処分と責任

黒川検事長が、緊急事態宣言の発令中に賭けマージャンをした事実を認め、局面は急展開します。それは黒川氏の定年延長問題をめぐる一連の責任・糾明の大詰めへとつながっていきます。

┃甘い調査、軽い訓告処分の責任は法務官僚?・閣僚?

 新型コロナ禍で緊急事態宣言の最中に黒川検事長が親しい新聞記者らと賭けマージャンしていたことが5月19日に発覚。政府は黒川氏から出された「辞表願」を22日の持ち回り閣議で了承、また法務省は21日に訓告処分にしました。

 その持ち回り閣議中に開催された衆院法務委員会(5月22日)で与野党は、「賭けマージャンの真相と一連の勤務延長問題の責任の所在」を質しています。

 山尾氏は問います。「大臣、今回、訓告にされたわけですけれども、これは何をもって訓告にしたのかということを聞きたいんですけれども。一つ、違法にもなり得るかけマージャンをしたということ。二つ目、特定のメディアと不適切な癒着があったのではないかということ。三つ目、自粛中にいわゆる三密活動をしたということ。あるいはその他もあるかもしれないですけれども。何を訓告の対象としたんですか。」

 川原刑事局長は、「今回の調査は今月19日火曜日から開始をしておりまして、昨日調査結果を取りまとめるまでの間にわたりまして、事務次官が必要に応じて複数回にわたり聴取をしているところでございます」と答えます。
 すぐさま山尾氏は「何回聞き取りをされて、それは延べ何時間なんですか」と問うと、こたえられません。

 二度にわたって「速記中止」(審議中断)の後、松島委員長が「今の詳しい中身については、後刻理事会で協議して、質問要項を細かく詳しく出して、それに対してはきちっと答えられる態勢にしてください」と促します。

 質疑が続き山尾氏が問います。「(略)黒川さん自体、3年前から特定の記者と月一、二回程度かけマージャンを継続しており、およそ、ハイヤーの接待も受けていたということは認めているという話だったんですけれども、森大臣、それなのに、なぜ懲戒ではなくて訓告なんですか。」
 法相は「事案の内容と諸般の事情を総合的に考慮し、適正な処分を行ったものでございます」と答えます。

 山尾氏です。「(略)階(猛)さんの資料にあるように、人事院の指針は、賭博をしただけでも減給又は戒告、常習だったら停職。(略)どうして国公法にも当たらない訓告で足りると考えたのか、実質的な理由をきちっと国民の前で説明してください。」

 でも返ってくる説明は、「レートは千点を百円」、「ハイヤーも同乗」であって「社会通念に相当」するもので、処分は「懲戒」にあたらず「訓告」だというわけです。

┃黒川問題の一連の責任は“二重の違法”を主導した法相にあり

 数日経った5月26日午後に開催された参院法務委員会で、有田芳生氏(立国社)氏が質しています。
 「黒川弘務前東京高検検事長に代わって、後任として林眞琴名古屋高検検事長が決まりました。(略)これまで何度も何度も黒川さんしかいないんだと、野党の言葉で言えば余人をもって代え難いと言われていた黒川前東京高検検事長ですけれども、すぐ後任いるじゃないですか。(略)」

 法相です。「林眞琴名古屋高検検事長を後任になっていただきまして、業務遂行上支障が生じたこの空白期間を埋めていただき、東京高検圏内の職務に当たっていただきたいと期待をしているところでございます。」

 有田氏は法相を叱ります。「法の解釈まで変えて黒川さんを、定年延長を合法化するために法律まで変えようとしていて、(略)黒川さんが辞めざるを得なくなったらすぐに林さんが出てくる。これまでの説明なんていうのは全く意味を成していないんですよ、御都合主義なんですよ。」

 前後しますが、この日(26日)午前に開かれた衆院法務委員会です。ここで、山尾氏は、「検察定年延長問題をめぐる一連の出来事の核心は、黒川さんのかけマージャンではなくて、森大臣の請議に始まった違法な閣議決定だと思いますよ」と指摘します。

 その上で山尾氏の問いです。「1月24日に既に解釈変更がなされていたのであれば、2月10日、予算委員会で、私が森大臣との質問に立って、まさにこのテーマをやりとりしたときに、解釈を変更しておりますという事実を言わなかった理由は何ですか。」
 法相答弁です。「解釈を変更したかというお尋ねではなかったからです。」

 山尾氏です。「(略)私は六回聞いています。六回目は、議事録のことを聞いていません。過去の政府見解に対する認識を尋ねています。(略)知っていたのに知らないと言ったのは、じゃ、なぜなんですか。」

 法相です。「(略)事務方とすれ違いがあり、私の手元には議事録がなかったわけでございますので、(略)今手元にないことを申し上げ、その詳細については認識をしていないということを述べたものであり、検察官には勤務延長制度の適用はないという従前の解釈が、それがないという趣旨で答弁したものではございません。」

 山尾氏は「(略)私は過去の政府見解に対する認識を尋ねていますよね。それを議事録しか尋ねられていないというふうに勝手に矮小化するのもやめていただきたい。(略)」と抗議します。

 その後、山尾氏は法相を次のように断じています。

○山尾委員 知らないことをその場で知ったかぶりをしてしまうというのは、人間、間々あるんですよ。でも、知らないと正直に言ってしまっておきながら、実は知っていましたと言い張るのは前代未聞なんですね。

 しかも、国会の予算委員会で大臣として答弁しているわけです。今でも、誰でもアーカイブで見られるんですよ、森大臣が承知しておりませんということを言っているのが。インターネットでもこの様子はどんどんシェアされて、繰り返し再生されているんですね。それを見ている国民に対して、いや、私は知っていたんです、聞かれていなかったから答えなかっただけですと。本当にそういう説明で、法務大臣として、自分の良心が耐えられるんですかね。

 私はこの間ずっと一連のやりとりをしてきましたけれども、結局、森大臣、2月10日の時点では、過去の政府見解、あえて言えば2月10日当時の政府見解、これを知らなかっただけだと思いますよ。検察官の定年延長は現時点で法の解釈として許されない、国公法は適用されないという、その当時の政府見解を知らなかっただけでしょう。

 だから、結局、今回の1月31日の閣議決定というのは、私は二重の違法があると思っています。一つは、そもそも解釈変更の限度を超えた解釈変更であるという違法。そしてもう一つは、実際は2月12日から13日にかけて、つまり人事院の松尾さんが今も変わっておりませんと言っちゃってから、その当日から翌日にかけて行われた解釈変更を、1月24日に既に行われたことにして、時点をずらした違法。私は時点をずらした違法なんて言ったこともないんですけれども、こんな時空を超えた違法なんて法務省がやると思っていなかったから、今まで。

 こんな二重の違法を抱えた閣議決定はやはり撤回していただきたいんですが、大臣、いかがですか。

 法相の答弁はこれまでのくり返しです。
 会議録を読みすすめてきた筆者は、山尾氏が何時の段階で、法相の矛盾だらけの答弁を断じてくれるのか注目していました。

■局面9 検察庁法改正案の提出から廃案の粗筋

一先ずドラマは終局です。余人を持って代えがたいとしてきた黒川人事の閣議決定と解釈変更の違法、後づけ工作の失敗が明らかにされ、さらに黒川氏の自滅行為が加わって、官邸と内閣が検察幹部人事の恣意的介入を狙った検察庁法改正案は廃案となります。

┃改正案の具体的な“立法事実は黒川定年延長のみ”と武田担当相

 安倍内閣が国会に提出(3月13日)した検察庁法改正案を束ねた国家公務員法等の一部改正案は衆院内閣委員会で審議の手順をめぐって与野党が調整を続けていました。
 ところが成立を急ぐ政府・与党(自民党と公明党)は、法務委員会との連合審査など与野党協議が整わないまま、さらに森法相の出席をさえ与党が拒む中、早期に採決する構えで5月13日衆院内閣委員会が委員長職権で開催されています。

 検察庁法の改正案(定年延長)で最も重要な点は、次長検事および検事長は63歳(検事総長は65歳)の職務定年に達しても、内閣や法相が必要と認める一定の理由があれば1年以内の範囲で、最長3年役職に留まれることを可能にする、というものです。

 もし、この改正案を成立させるとどうなるか。この日(13日)、黒岩宇洋氏(立国社)は黒川東京高検検事長を例にあげて「何歳まで延長が可能になるか」を問います。
 武田良太国家公務員制度担当相は、「一般論を申し上げたいと思いますが、次長検事及び検事長は、63歳以降、役おりの特例により最長65歳まで、さらに、勤務延長の規定を適用することにより最長66歳まで勤務することが可能となっております。」

 黒岩氏が「66歳までということですね」と確認すると、武田担当相は「そのとおりであります」と。さらに確認を求められても武田担当相の答弁は変わりません。
 黒岩氏に「68歳の前日まで定年延長が可能なんじゃないですか」と念押しされて、武田担当相の答弁です。「一般論として、検事総長は68までですね、検事総長は。」

 続いて質問に立った後藤氏は、「先ほどの答弁に加えて、階先生の質疑の中で武田大臣は、こういった検事長の63歳以降も居座れる規定をつくらなくても、公務の運営に著しい支障が生じるような事例は特段見当たらなかったというところまでおっしゃっていますが、それでよろしいですか。(略)」と確認を求めます。

 階氏にたいする答弁とは、「昨年十月末ごろ時点では、(略)検察官については勤務延長及び役職定年の特例に相当する規定を設けなくとも、公務の運営に著しい支障が生じるなどの問題が生じることは考えがたいと結論づけていたものと聞いております」、です。

 武田担当相は、「事例が見当たらなかったということでございます」と答弁します。
 そこで後藤氏は、「昨年10月以降、検事長が63歳を超えて居残り続けられるように今回のような法改正をしないと、公務の運営に著しい支障が発生する、そんな具体的な立法事実はどこにあるんですか」と質していきます。
 やりとりが続きます。

 後藤氏は、「もう、ちょっと、これは6回目になります。これ、答えないんだったら、これ以上質疑を続けられないですよ」と、さらに問います。するとです。

○武田国務大臣 私の承知しているところについて言えば、黒川さんの件以外にはありません。
○後藤(祐)委員 つまり、この22条5項の、検事長が63歳以降も居残れるという規定は、黒川さんのケースにのみ、過去当てはまった立法事実だということでよろしいですね、大臣。
○武田国務大臣 何度も言うように、今後の複雑困難化した社会に対応していく必要があるんです。御理解ください。(後藤(祐)委員「答弁したじゃないですか、確認しているだけですよ」と呼ぶ)現在はそうですけれども、今後あり得ることを想定してやっておるわけです。

 翌々日(15日)に開かれた内閣委員会には森法相が出席して質疑者が続行します。ここで後藤氏は森法相に問います。

○後藤(祐)委員(略)森大臣に確認までに同じことを伺いますが、昨年十月以降、63歳以降も検事長が居座らなきゃいけないような立法事実がまさに体現化された具体的な人事のケースは、黒川さんの人事の件以外にないということでよろしいですか、森大臣。
○森国務大臣 はい、具体例はございませんでした。

 ここに、1月31日に始まった今回の「黒川検事長の定年延長」問題めぐる真相が明らかにされています。

┃答弁に窮し、元検事総長らの反対意見や市民の声の高まりで廃案

 5月13日の内閣委員会に戻ります。後藤氏は、22条5項について「どんな要件ですか。具体的にわかる形のものにしてください。今示してください。」と迫ります。
 改正条文に「定年後も引き続き勤務させることについて内閣の定める場合に限るものとする」とあることについて、その概要、イメージの説明を求めているものです。法案審議ではあたり前のことです。

 これも押し問答をくり返すことになりますが、武田担当相は「施行日までにはしっかりと明らかにしてまいりたいと思います。(発言する者あり)」以上の答弁をすることができません。法案成立後でなければ説明できないというわけです。

 再び15日の内閣委員会です。この日、武田担当相と森法相に野党側の質問が続行しますが、政府側は「施行日までにしっかり明らかにしてまいりたい」と、くり返すばかりです。答弁に窮した状況が続きます。

 会議録には「松本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。ただいま武田国務大臣不信任決議案が提出をされました。午後四時二十八分散会」で終わっています。
 その後、検察庁法改正案を含む国家公務員改正案は審議されることなく6月17日、国会が閉幕されます。

 衆議院HPに、6月17日に閉幕した201通常国会に提出された「議案経過」の一覧が掲載されています。この中の、検察庁法の一部改正案を束ねた「国家公務員法等の一部を改正する法律案」を開くと、令和2年(2020年)3月13日に衆議院と参議院が議案を受理し、4月16日に衆議院内閣委員会付託され「審査未了」(廃案)となっていることが記載されています。

         *         *         *

 終わりに一言です。
 検察庁法改正案の「廃案」には、議会(院内)における地道な質疑の積み上げと、議会の外(院外)からの高まりの声が、「このままでは危ない」という一点で共鳴し合えたからだと、読み取ることができました。
 その意味で、「#検察庁法改正案に抗議します」の高まりや「国会前での無言デモ」、また元検事総長や元特捜部長の方が「検察庁法改正案に反対する意見書」を法務大臣宛てに提出された異例ともいうべき行動を紹介できなかったことが残念でした。
 他の機会に深めてみたいと思います。

(一社・生活経済政策研究所 参与)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧