【ポスト・コロナの時代にむけて】

検事長の定年延長で見える政権の横車 VS 行政監視の今(1)
――ドキュメント 国会会議録を読む、解く――

浜谷 惇

 初岡昌一郎氏が『オルタ』5月号で呼びかけられた「ポスト・コロナの時代にむけて」に、また荒木重雄氏の「ご理解とご協力をお願いします」の呼びかけに、私はともに賛同いたします。
 呼びかけに直接沿うテーマではありませんが、議会政治を考え直す、作り直す手がかりを見つけたいとの問題意識で、以下、国会会議録の中から「検事長の定年延長問題」に焦点をあててみることにしました。

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はじめに

 テレビやラジオの報ずる国会中継を視聴したり、新聞を読んでいると、場外からとはいえ思わず、それって「なぜ? おかしいよ」と声をあげたくなります。付け加えれば腹立たしいかぎりの連続です。その国会もなぜか6月17日閉会しました。

 ちょうど日本でも新型コロナ感染症の拡大が心配され始めたその時、安倍政権は、東京高等検察庁の「黒川弘務検事長の定年延長」を閣議決定しました。突然にです。
 すぐに野党は、安倍政権が、一人の検事の「定年延長」を急いだ狙いは何か。その手荒な手法にはどんな問題があるのか。法相答弁はなぜ混乱をくり返すことになったのか。なぜ検察庁法改正案の提案・審議に至ったのか。検察官の定年延長問題は、議会政治、民主主義の根幹を壊すことになる深刻な問題を抱えているのではないか――を次々きびしく質すことになります。

 ここでは、先の第201通常国会(1月20日-6月17日)の国会会議録を「読む・解く」ことによって、局面ごとの緊迫した質疑・答弁の生々しいやりとり、そこから明らかにされたこと、残された疑義、疑惑――を2回にわたって探ってみることにしました。

 今号(1)は、国会前半の衆院予算委員会の質疑・答弁を取り上げました。今回読んだ会議録は特記する以外はすべて衆院予算委員会です。質問者の所属会派のうち「立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム」は「立国社」としました。
 次号(2)は中盤・後半国会の質疑・答弁を取り上げます。
 なお、(1)(2)とも国会会議録を抜粋、引用するにあたっては、日時の漢数字を洋数字に置き換えました。国会会議録は「国会会議録検索システム」を利用しました。

■局面 1 事の始まりは無理筋から

 

黒川検事長の定年延長を決めた閣議決定は、無理筋で、違法であること、次期検事総長を見据えた安倍政権による介入人事であることを指摘します。そして政府答弁には正当性がなく「今後もたない」ことが、質問者によって警告されます。

┃法相答弁の「差し控える」に透ける背景

 事の始まりは今年1月31日の閣議決定。それに先立つ1月29日、黒川弘務検事長は安倍総理大臣宛に「同意書」を提出しています。
 同意書には、「私は、国家公務員法第81条3第1項の規定に基づき、令和2年8月7日まで勤務延長されることに同意します」と書かれています(参院議員の小西洋之氏公表資料)。黒川氏の定年退官が2月7日に迫るあわただしい中、閣議は延長人事案件を決定したわけです。

 閣議決定の翌週月曜日の2月3日の衆院予算委員会で、渡辺周氏(立国社)が初の質問を展開しています。渡辺氏が疑義を向けたマトは2点です。

 その一点。渡辺氏は、「駆け込みで(黒川氏を)定年延長しなければならないほどの緊急性や必要性とは一体何ですか」と問い、答弁を安倍首相に求めています。
 首相は「法務省の人事でございますので、法務大臣から答弁させます」と逃げています。かわって答弁するのは森雅子法相です。会議録から切り取ると次のとおりです。

○森国務大臣 東京高検、検察庁の管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査、公判に対応するため、黒川検事長の検察官としての豊富な経験、知識等に基づく管内部下職員に対する指揮監督が不可欠であるというふうに判断したため、当分の間、引き続き東京高検、検察庁検事長の職務を遂行させる必要があるため、引き続き勤務させることとしたことでございます。

 続けて、法相は「詳細については、個別の人事に関することである上、捜査機関の活動内容やその体制にかかわる事柄でもあることから、お答えを差し控えさせていただきます」。また「高度な判断が必要なものが複数ございまして、こちらは勤務延長するという判断をした」と答弁します。その後も問いに「差し控える」を繰り返しています。

 そこで気になるのが「差し控える」です。広辞苑を引くと、(個人的な都合や他者への気遣いから)ある行動を取らないようにする。見合わせる――とあります。
 すると「個人的な都合」とは森法相自身のこと、「他者への気遣い」とは安倍首相と菅義偉官房長官、黒川検事長と置き換えられることになります。こうした事情があったので法相は質問者の問いに答えない、答えられなかったのでしょう。
 ちょっと視点を変えると、法相答弁の核心が透けて読み取れます。

 もう一点。法相が何度もくり返すことになる上記答弁は、後に黒川氏が賭けマージャンで辞任することになって、この答弁がまったくの作り事であったことが明らかになります。(これらについては次号でふれます。)

┃質問者は「この後答弁もちませんよ」と警告

 何度か法相とのやりとりの後のこと、首相はやっと次のように答弁することになります。

○安倍内閣総理大臣 総理大臣としては、先ほど申し上げましたように、法務省において人事を決定するわけでございまして、その法務省の考え方として請議をしているわけでございまして、その中身につきましては先ほど法務大臣からここで答弁をさせていただいたとおりでございまして、我々はその考え方を了としているところでございます。

 〈請議〉とは聞きなれない言葉です。内閣法によれば、大臣は内閣総理大臣に閣議を求める手続をすることができることになっています。安倍首相は、森法務大臣から「黒川検事長の定年延長」の案件を閣議決定してほしい旨の請議が出されたので閣議決定した、と言いたいわけです。

 渡辺氏は、国家公務員法を根拠とする答弁のくり返しにたいして、「この後答弁もちませんよ」と次のように強く警告します。この警告は以後の国会審議の展開を予告するものとなりました。

○渡辺(周)委員 (略)今、国家公務員法で乗り切ろうとしているんでしょうけれども、それは無理な話でありまして、じゃ、なぜこの検察庁法には別段の定めということでわざわざ書いてあるかといえば、やはり、刑事訴訟法上、強大な権限を持っている、その職責に鑑みて、やはり長くできないような仕組みになっているわけなんですが、これは、その説明については、この後答弁もちませんよ。(略)

 警告した上で渡辺氏は、「検事総長にするおつもりでこの方(黒川氏)を定年延長したんですか」と、首相に問うけれども、首相はまた逃げてしまいます。この日、渡辺氏の質問に安倍首相が再び答弁席に立つことはありませんでした。

 法相は「検察庁法は国家公務員法の特別法に当たります。そして、特別法に書いていないことは、一般法である国家公務員法の方で、そちらが適用されることになります」と答えます。問いには答えようとしません。

 そもそも検察官の定年は、「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」(検察庁法第22条)によって実施されてきました。それは「検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、同法(国家公務員法)の特例を定めたもの」(第32条の2)とあります。
 事実、政府答弁によって検察官の定年は1947年以来、一度の延長事例もなく今日まで実施されてきたことが明らかにされています。

 座したままの首相に向かって、渡辺氏は、IR捜査、桜を見る会・安倍後援会の前夜祭などを事例にあげ、「政権の中枢にも何らかの形で事が及ぶのではないだろうかというようなことを考えて」、「官邸と政権と意を通じやすい人たちになっていただいて、このまま引き続きいていただいて、にらみをきかせて、その立場を盤石にしようとしているのではないか」と指摘します。
 会議録からは安倍首相の表情を残念なことに窺い知ることはできませんでした。

 続けて、「公正中立な検察の捜査を見守ると同時に、やはり検察の人事までもが官邸の恣意的な人事によって左右されることがないように、ぜひとも私たちもしっかりとこれは監視をしていきたいと思います」、「また、大勢の方でおかしいと思っている方がいたら、ぜひ我々野党にいろいろな御意見や情報を寄せていただきたい」と訴えています。

■局面 2 過去の政府答弁、政府解釈と整合もせず閣議決定

質問者によって、過去に行われた国家公務員法改正の審議の際の政府答弁が、今日まで適用されていることを知らないまま、閣議決定したことが明らかにされます。

┃質問者は“国家公務員法の規定では延長できない”と指摘

 局面はここで大きな展開を見せることになります。これまで(「局面 1」)の森法相の答弁が根底から崩れることになります。

 山尾志桜里氏(立国社)は2月10日の衆院予算委員会で、「検察官の定年延長が認められるようになったのはいつからですか」と問う。
 すると、森法相は「昭和56年(1981年)の国家公務員の法改正が60年(1985年)に施行されておりますので、そのときに、制度が入ったときに勤務延長の制度が検察官にも適用されるようになった」と答えます。

 法相が解釈できるというのは、上記でふれた黒川検事長が安倍総理大臣宛に提出した定年延長「同意書」に記された国家公務員法第81条3第1項の規定(定年による退職の特例)のことです。少し長くなりますが条文を抜粋しておきます。

<国家公務員法(定年による退職の特例)>
 第81条の3 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。

 山尾氏は、「もし」と前置きして、法相が言うとおり国家公務員に定年制導入の際に、検察官にも定年延長を認めるということを「立法者が判断したなら、前条第一項の規定によりと書かずに、定年に達した職員が退職すべきこととなる場合にと書きますよね。」
 やりとりが交わされた後、山尾氏は「今大臣が主張している、国家公務員法の規定でできるんだというのは成り立たないわけですよね」と問います。

 森法相の答弁です。「検察庁法22条には、定年制を定める旨、そして定年の年齢と退職時期の二点について特例として定めたと理解をしております」とした上で、検察庁法には「勤務延長」が「記載されていない」ので「国家公務員法(定年による退職の特例)が適用される」と主張します。

 会議録から緊迫感が伝わってきます。山尾氏は「検察庁法の32の2ができたのは昭和24年(1949年)なんですね。このとき、国家公務員法には定年も延長もないんです。だから、そこで書かれているはずだなんということは通用しないんですね」と指摘した上で、「それでも今の独特な理解を、法務大臣、維持されるんですか」と質します。

 法相は「先ほど答弁いたしたとおり」「国家公務員法と検察庁法の、この両法の関係を定める規定の中に定まるはず、そういう理解でございます」と見解をかえません。

┃改正国家公務員法審議で“検察官の定年制は適用除外”と斧政府委員が答弁

 それならと山尾氏は、国家公務員に定年制を導入した1981年改正国家公務員法を審議した際の政府答弁を当時の会議録(議事録)で示します。

○山尾委員 (略)昭和56年4月28日、衆議院内閣委員会、これは当時民社党の神田厚さんという議員がこういうふうに聞いています。「定年制の導入は当然指定職にある職員にも適用されることになるのかどうか。たとえば一般職にありましては検事総長その他の検察官、」「これらについてはどういうふうにお考えになりますか。」と聞いています。それに対して、斧政府委員、これは人事院の事務総局の方です。「検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。」「今回の定年制は適用されないことになっております。」こういうふうにもう答弁していますよ、定年制は適用されないと、この国家公務員法の。適用できないんじゃありませんか。」

 でも法相は「独特な理解」を変えません。
 続けて山尾氏は、斧政府委員答弁の「5日前(昭和56年4月23日)ですね。国家公務員法に定年制度を導入する担当大臣は、当時、中山太郎大臣。中山太郎大臣が趣旨説明をされていて、国家公務員については、検察官など一部のものを除いて、現在、定年制度は設けられていないわけですがというふうに言っています。」と会議録を示して、さらに、法相に問います。

┃81年会議録の指摘に、法相は「詳細は存じ上げない」など4回も答弁

○山尾委員 (略)大臣、この議事録、ちゃんと読まれましたか。
○森国務大臣 その議事録の詳細は存じ上げませんけれども、人事院の解釈ではなく、検察庁法の解釈の問題であると認識しております。

 思わず〈場外者〉である筆者も、過去の政府答弁との調えを怠って、勝手に有権解釈は法務省にあると言い張る法相答弁に驚くばかりです。真面に向き合おうとしない、質問者を国民の代表・議会人と位置付けることができず、ただ敵と見なすかのような「傲慢と無恥」の最たる答弁だ、言いたくなります。

 でも、山尾氏はそうは告げず、「この議事録(会議録)を読んでいただかないことには」と質疑を続けています。

○山尾委員 (略)もう一回、御自身の人事が法的根拠を持つものなのかどうか、再確認していただきたい。(略)違法だと思いますよ、私は。政府の統一見解を求めたいと思います。

 しかし、法相は「詳細を読んでおりませんけれども、法務省としては、検察庁法を所管する立場として、ただいま申し上げましたとおり、定年年齢と退職時期の二点が特例として定められているというふうに理解をしております」をくり返します。
 検察庁法には定年延長(勤務延長)が含まれていないから国家公務員法を適用できるとする見解です。しばらく押し問答です。

 この間、法相は議事録について「詳細を読んでいません」を3回、「承知していません」を1回、重い言質として残しています。
 会議録を読むと、予算委員会室が与野党委員の間で熱い応酬を交わしていたことがわかります。予算委員会委員長が、しきりに「御静粛にお願いいたします」をくり返していることや、「発言する者あり」がひっきりなしに出てきます。

┃「法務大臣が答弁をしているとおり」と菅官房長官

 そこで山尾氏は菅官房長官に向かって、「政府として整合性を図ってほしいんですね」、「菅官房長官、ちょっと調整していただけないですか。(発言する者あり)」と問います。

 対する官房長官は、「調整というよりも、法務大臣が答弁をしているとおり、検察官も一般職の国家公務員であり、国家公務員法の勤務延長に関する規定が適用されるものである、そのように聞いております。(発言する者あり)」と答弁します。 

 これにも一瞬唖然。無責任。法相答弁をなぞった上、「そのように聞いています」と人ごとのような官房長官答弁に、間髪を容れず予算委員長が「御静粛に。質問が聞こえなくなりますから、御静粛に」と制するほど、与野党委員席もヒートアップ状態になっていることが分かります。
 黒川検事長の定年延長を決めた閣議決定と、過去の政府答弁との整合について何らの説明もしない(できない)のです。

 この後、山尾氏は、①自衛官が定年延長を認められる場合は自衛隊法の規定に沿って実施されていること、②裁判官は定年延長に関する法律がなく、定年延長を行った前例がない――点を、河野太郎防衛大臣と堀田眞哉最高裁判所長官代理者の答弁で確認しています。
 つまり、「自衛官はきちっと法に規定があるから延長する、裁判官は法に規定がないから延長はない、何で検察官だけ法に規定がないのに延長があるんですか」「黒川検事長にしかできない検事長としての仕事というのは何なんでしょうか。」と官房長官に迫ります。

 ここでも官房長官は法相答弁をなぞるがごとく、「検察庁の業務遂行上の必要性に基づき、検察庁を所管する法務大臣からの閣議請議により閣議決定をされ、引き続き勤務させることにしたものであり、政府としてはそういう方向で閣議決定したということであります」と答弁します。

 山尾氏は、「特別職であれ一般職であれ、法の根拠が必要だという点は同じで、なぜ検察官だけは法の根拠がないのに認めるんですかという質問をしたわけです」と指摘して、この日の質疑を終えています。

┃人事院局長は「現在まで同じ解釈(定年延長できない)を引き継いでいる」と答弁

 それから2日後(12日)です。この日、人事院の松尾恵美子給与局長が政府参考人として答弁席にいました。質問者の後藤祐一氏(立国社)の要請によるものです。給与局長というポストは1981年に「検察官と大学教官には今回の定年制は適用されません」と答弁した斧政府委員の任用局長の名称が変更されたものです。

 後藤氏は、「現時点あるいは平成25年の時点において、この81条の3の定年延長も含めて検察官については適用されないということで、人事院、よろしいでしょうか」と尋ねます。

○松尾政府参考人 (略)先ほど御答弁したとおり、制定当時に際してはそういう解釈でございまして、現在までも、特にそれについて議論はございませんでしたので、同じ解釈を引き継いでいるところでございますが、他方、検察官も一般職の国家公務員でございますので、検察庁法に定められている特例以外については一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にございます。

 前後しますが「先ほどの御答弁」とは、「国家公務員法の勤務延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと認識をしております」を指しています。これまで野党の各質問者が指摘してきた論議とまったく同じ認識に立っていることが明らかにされたことになります。

 ただ、松尾氏はこれからのことについて、「(略)国家公務員法と検察庁法の適用関係は、検察庁法に定められている特例の解釈にかかわることでございまして、法務省において適切に整理されるべきものというふうに考えております」が、付け加えられています。

 後藤氏は、森法相に向かって、定年延長で「何でそんな無理な解釈」するのか、と問いますが、法相はこれまでの見解をくり返すのみです。

 そうすると、10日に山尾氏が指摘した「81年の会議録」を法相がどう読まれたのか、知りたくなります。
 逢坂誠二氏(立国社)が2月12日に問います。「前回の山尾さんの質問に対しても、知らなかった、承知していないということを言っていますので、56年答弁を知ったときにどう感じましたか。これはまずいなと思いませんでしたか。」

 法相は何と答えたか。これが残念なことに今の国会での実相の一例です。

○森国務大臣 山尾委員が御提示になった議事録でございますけれども、もちろん、私、その詳細は手元にございませんので承知をしておりませんが、この4月23日と28日の議事録、まず、23日では趣旨説明をしております。その改正の内容、趣旨説明の内容についてはもちろん承知をしておりました。
 でございますので、4月23日の山尾委員が御提示になった議事録の中の改正点、六個挙げられておりますが、そのうち、改正の第四というところに書いてある、定年の必要な調整等を行う、これは検察官にも適用されておりますので、やはりこの議事録をもってして、これだけをもってして検察官に適用がないということはないと解釈しております。

 逢坂氏は、「また森大臣も聞いたことに答えない。全然方向外れなことを答えている。こんなやりとりをしているから時間が無駄になるんですよ。(略)知らなかったときに、初めてこれを聞いたときにどう思うかと聞いたんですよ。何も答えていないじゃないですか」と、問われても答えは返ってきません。

「総理がでたらめをやるから国全体におかしなことがいっぱい広がっているんですよ」と逢坂氏。そう叫びたくなります。これが残念なことに今の行政監視と立法をめぐる政府答弁の実相です。そして与党もそれを支えているのです。

■局面 3 人事院の発言を撤回させた首相見解の圧力

法相や法制局、人事院が閣議決定や首相の「解釈変更」発言を正当化するために「後づけ」(後だしジャンケンのようなズル)をしていると思われる事実が、質問者によって次々と指摘されていきます。

┃首相が命じた「今般、法解釈を変えた」の3つの意味

 安倍首相は焦ってあわてたようです。山尾氏によって指摘された81年会議録の人事院答弁、さらに松尾人事院給与局長が「現在までも同じ解釈を引き継いでいます」と答弁するに至り、黒川氏の定年延長を認めた閣議決定の説明が崩されることに危機感をつのらせたからでしょう。

 安倍首相は、松尾答弁の翌日(2月13日)の衆院本会議で高井崇志氏(立国社)の質問に次のように答弁します。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) (略)検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知しております。
 他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。

 ここで示された「安倍見解」には三つの意味が透けて見えます。
 一つ。政府は「今般」まで解釈してきた検察庁法と国家公務員法の解釈を変更し、検察官の定年延長をできることとする断固たる姿勢を示したことです。
 二つ。森法相と法務省、内閣法制局、人事院にたいして、今後は「安倍見解」を軸にしてほしい旨を指示。これまで枠をハミ出した答弁は自己責任で修正、補強するように迫ったものと言えます。
 三つ。野党の質疑者から政府答弁の乱れ、矛盾をつかれ何度も政府統一見解が求められており、それに答えたというものです。

 それら以上に、安倍首相が突然「法解釈を変更」したことには重大な問題があります。
 検察庁法が施行(1947年)されてから73年間、定年制を導入した改正国家公務員法が施行(1985年)されてから35年間もの長きにわたって運用されてきた基本的な解釈を、法改正をするでもなく、閣議に諮るでもなく、国会に諮ることもなく、首相の一存で「法解釈の変更」が許されるのか。それ自体が法律違反です。議会政治の手続きにおいても重大な誤り犯している、まことに狡猾で手荒な手法です。

┃首相は「解釈変更」を説明せず、法相は独特な“答弁話法”くり返す

 それから4日目の予算委員会(2月17日)です。
 奥野総一郎氏(立国社)は13日の安倍答弁を読み上げて「なぜ解釈を変更されたんでしょうか」と問う。
 想定されたこととはいえ森法相が答弁に立ちます。会議録には「(奥野(総)委員「総理です、総理。総理の答弁ですから。総理」と呼ぶ)と記されています。委員会室の雰囲気が伝わってきます。それから法相と5回ものやりとりが交わされます。

 会議録を読むと、何を問われても、法相は「私がこの国会で何回も答弁をしている内容と全く同じでございます」とした上で、別表【森法相がくり返す答弁の抜粋・要約一覧】の❶から❺を組み合わせた「答弁メモ」をくり返し読み上げることに徹していることがわかります。

''【別表】森法相がくり返す答弁の抜粋・要約一覧
画像の説明

 その後首相は何と答弁したか。「詳しくは法務大臣から答弁をさせていただきましたし、また必要であれば答弁をさせていただきますが、森法務大臣が法務省として閣議請議をする前に、この法解釈について今般こうした解釈を行ったということであろう、こう考えております」と。
問いについては何も答えていません。

 しかし首相は、後段で「森法務大臣が法務省として閣議請議をする前に、(略)今般こうした解釈を行ったということであろう」と推量して、断定することを避けています。
 閣議(1月31日)前、あるいは閣議の時点で首相は、〈検察官の定年延長はできないとする81年政府答弁の解釈が、今日に至るまで適用されている〉事実を知らないで閣議決定したのではないか。首相が知ったのは何時のことか。疑義は深まります。

┃法相、「過去の政府答弁の解釈を知ったのは何時?」に答えられず

 予算委員会(2月19日)で、三度目の質問に臨んだ山尾氏は、冒頭「黒川検事長の定年延長というのは「二重に違法な人事」――①解釈変更は本来法改正すべきこと、②1月31日に解釈変更はされていないこと――を指摘し、「なぜ国会に諮らず、内閣の解釈変更で足りるというふうに考えたんですか」、「具体的な検討をいかにされたんですか」と問います。

 近藤政府特別補佐人(内閣法制局長官)は、「政府の解釈に関する基本的な考えに基づき、法務省において今回解釈の変更が至当であるという御判断をされたという御説明がございましたので、私どもはそれを了としたということでございます」と答えます。

 山尾氏は、「内閣法制局はそういうふうになってしまっていますからね、もうこの数年。(略)検察官という職業の特殊性に着目した実質的検討は一切なされていないということがはっきりしました。こんなので本当にいいんですか、内閣法制局。(略)こんな説明では、これは裁量の範囲内で、解釈変更でいいんですよなんという法制局のお墨つきは何の意味もありませんよ」と、変質した法制局を叱っています。

 「最終的に安倍内閣として解釈変更したのはいつですか」と山尾氏がさらに問うと、会議録からは、いずれも一回の問いでは得られず、「更問」を重ねてやっと引き出せることがわかります。
 法相は「内閣法制局との協議が1月17日から21日にかけて、人事院との間の協議が1月22日から同月24日にかけてでございますので、その後でございます」といった具合で特定しないのです。

 その後法相は「1月29日」と答えます。

○山尾委員 結局、後から解釈変更したということにしているから、自分がやった請議は1月29日だったな、だったら、そのときに解釈変更も政権として終わったことにしておかなきゃいけないよね、こういう思考の過程が全部見えるわけですよね。
 1月29日でいいんですか。(発言する者あり)

 問いが続きます。「国公法改正当時の政府見解は検察官については適用外だということを知ったのはいつですか。大臣が、昔は適用外だったということを知ったのはいつですか」と山尾氏。法相は、ここでも「更問」をくり返しても「1月の下旬でございます」と特定できません。

 山尾氏は森法相に次のように告げます。「違うでしょう。申しわけないけれども、誰が見ても、2月10日に私がここで紹介して初めて知ったでしょう、はっきり言うけれども。
 では、何で、森大臣、2月10日にこの場で私に、こういう解釈にしたんですというふうに言わなかったんですか。何で解釈変更を説明しなかったんですか。」

 答えは返ってきません。さらに問うと、法相は「過去の政府答弁というのは山尾委員がおっしゃった議事録のことだとすると、その中には書いてございません。そのことについては誠実に御答弁申し上げたことは申し上げておきたいと思います。そして、私は、いずれにせよ、政府としての……」。

 会議録には、予算委員長が「御静粛に。大臣は答弁を続けてください。御静粛に。大串理事、少し静粛にさせてください。答弁、どうぞ」という発言あり。
 法相は続けて「この国会質問のときに、山尾委員からの御質問に対して、政府の見解を申し上げたところでございます。(発言する者あり)」と、意味不明の答弁が続きます。

 山尾氏が10日の質疑で示した斧政府委員が「検察官と大学教官には今回の定年制は適用されません」と答弁している当時の会議録をこの期に及んでも「読んだ」と言えないのです。

┃人事院局長は「現在までも同じ解釈」を撤回、法相は〈後づけ〉で答弁

 この日の質問で山尾氏はもう一つハイライトを残しています。「局面 2」の項で紹介した人事院の松尾政府委員答弁――後藤氏の質疑に答えて斧政府委員答弁を「現在までも同じ解釈を引き継いでいます」――を取り上げて、山尾氏は何度も質疑をくり返します。
 すると松尾氏は、「現在という言葉の使い方が不正確でございました。撤回をさせていただきます。(発言する者あり)」と。

 さらに山尾氏は「要するに、全部変えないと通らないんですよ。どのように撤回されるか、もう一回やり直してください」と手を緩めません。
 すると松尾氏、「済みません、繰り返しの御答弁になりますけれども、1月22日に検察庁法の解釈が示されたというところで、特別法たる検察庁法の解釈によるものとしたところでございます。(発言する者あり)」と答えます。

 すかさず山尾氏です。

○山尾委員 2月12日の時点で、現在までも議論がない、解釈は同じだとおっしゃっているので、それは、今、森大臣や人事院がおっしゃっている、1月22日の時点でもう両者で相談をして、解釈変更ということで相調いましたと言っていることとは両立しないでしょう、おかしいですねと。
 じゃ、解釈変更の方が後づけだから、私は、2月12日の人事院の松尾さんの答弁は事実なんだと思いますよ、認識として。だって、事実を述べたから、こんなうそをつく理由もないし、これは間違うところじゃないですもの。現在までも同じ解釈、特に議論はないと。
 (略)2月13日に、突然総理が本会議場で、解釈を変えました、新しい解釈はこれです、こういう時系列ですから。だから、私は不本意ですよ、2月12日の松尾さんの答弁を撤回しなさいというのは。だって、これが正しいんだから。

 さらに質疑・答弁が続き法相を諫めています。

○山尾委員 (略)法務大臣、こうやって御自身の上塗りの答弁に人事院をつき合わせて、2月12日、本当のことを言っていたのに、済みません、つい言い間違えました、撤回しますなんて、そんなことを言わせるようなことをやってほしくないんですよ、大臣。
 御自身が2月10日の時点で知らなかったでしょう、昔の答弁を。そして、昔の答弁を知らなかっただけじゃなくて、過去の政府見解を知らなかったでしょう。
 森大臣、知っていたんですか、過去の政府見解。今もなお言いますか、2月10日の時点で、山尾さんから言われるより前に私は知っていましたと。答弁じゃないですよ。過去に適用外だと政府は解釈していたという事実を知らなかったでしょう。

 それでも法相は、「当時の解釈については必要な説明を受けて認識をしておりました」と答え、「読んだ」とは言いません。続けて「森大臣のうそにつき合わせてというところについては違うということをはっきりと申し上げておきたいと思うところでございます」と。どう読もうとも法相答弁は〈後づけ〉となります。

 山尾氏は、「これはこのまま終わったらだめですよ。まずは、委員長、人事院が今おっしゃった、1月22日から相談を受け、1月24日に了としたということを示す書面があると思いますので、その提出を求めます」と質疑を締めくくっています。

■局面 4 法相答弁で“後づけ工作”が露顕

質問者が要求した解釈変更を裏付ける「文書」が提出されます。しかし「文書」には日付がない。決裁を問うとあいまいで、答弁が変わります。質問者はさらなる文書提出を求めますが、〈後づけ〉の疑惑は深まるばかりです。

┃解釈変更しないままで閣議決定したことは違法

 この日(2月19日)引き続いて質問に立ったのは階猛氏(立国社)です。
 階氏が問いただしたのは、①解釈変更をしなければ黒川氏の定年延長はできなかったというふうに大臣は当時お考えだったでしょうか? ②2月12日、松尾政府参考人が「法務省において適切に整理されるべきものというふうに考えております」と答弁した折に、法相はなぜ「法務省では解釈変更を適切にやっていました」と言わなかったのですか?――の2点です。

 ①について。法相は「一般論として申し上げますと、今回の解釈をとらなければ勤務延長というものはなし得ないということです」と答弁します。
 しかしこの「一般論」ですら何回ものやりとりがあってのことです。階氏が「聞かれたことに答えてくださいよ」と言っても、法相からは「手続は適法であると考えております」など、あいかわらず真面に答えようとしていません。

 ②についてです。これも①の場合と同様に質問になかなか答えません。たまりかねて階氏は、森法相の答弁中に叫んでいます。

○森国務大臣 (階委員「いや、山尾委員の答弁じゃないです。2月12日だから後藤さんの答弁」と呼ぶ)2月12日でございますか。大変失礼いたしました。10日のことと勘違いいたしました。
 以上でございます。(階委員「いやいや、ちょっと待って。答えてないじゃない。答えてないよ。何を言っているんですか。2月12日の答弁」と呼ぶ)恐縮ですが、では、もう1回、12日についての御質問をもう一度いただけますか。(階委員「12日と言っているじゃないですか」と呼ぶ)12日のどの部分でございますか。
○棚橋委員長 階君、申しわけないんですが、今、直接やりとりして混乱されたので、再度質問をお願いできませんか。
○階委員 ちょっと時計をとめてください。ちゃんと質問していますよ。

 もうひどい混乱状態というほかありません。
 ここで階氏が「時計をとめて」と言っている意味について付記しておきます。質問時間は理事会で決められ、厳格に守ることが求められています。質問者にとっては1分といえども、大事な時間です。無駄にしたくありません。時計を止めて、とは質問時間にカウントとさせない要求ということになります。

 階氏は、「解釈変更がなければ人事はなし得ない、すなわち違法だという立場をとったわけですから、この解釈変更があるかないか、そのことによって、法務大臣が違法なことをしたのかどうか、ここが決まってくるわけです。重大な問題ですよ。(略)解釈変更の手続がきちっとされていたのかどうか、そして、大臣がそれをいつ認識していたのかということを、改めて、裏づける資料とともに、政府見解を出してください」として質疑を終えています。

┃法務省、人事院から出された「公式文書」に日付なし、決裁はあいまい

 質問者が要求した公式文書が、法務省と人事院から2月20日の予算委員会の理事会に出され、早速、小川淳也氏が「紙が真正のもので、なおかつ時期的に狂いがなければ、それ相応の検討がなされたものと受けとめられる」とした上で、二つの疑問を取り上げています。

 その一つは、文章に日付が記されていないのはなぜか?というものです。
 森法相は「日付がございませんけれども、御答弁している日付で協議されたことは確実でございます」。また人事院の松尾氏は 「1月の24日に法務省に対して直接書面をお渡ししており、特にその日付を記載する必要がなかったことから記載しなかったものでございます」
 小川氏は「こんな重要文書に日付を打っていないというのは、私、初めて見ましたよ」と指摘します。

 その二つは、内部決裁は取っていますね?というものです。
 法相は「必要な範囲で決裁を受けたと認識しております」。他方、松尾氏は「決裁はとっておりません」。
 小川氏は「こんなに重要な文書を決裁とらずに法令解釈したなんて、聞いたことがない。一体霞が関の中で何が起きているのか、検証してください」と注文をつけます。法相は、前言を言い直して「部内で必要な決裁をとっております」と答弁を変えます。

 小川氏は、「もうここまで疑わないと疑念が晴れない段階になっていますから、この文書を打った担当職員のパソコンの電子記録、一体、何年何月何日何時にこの文書を打ったか、それもあわせて確認して、今日じゅうに委員会に提出してください」と要求、「追ってやりましょう」と通告して、他の質問に移っています。

┃与党質問者は「法相時代に黒川人事を決断」、法相は「口頭決裁」で解釈変更

 この日(2月25日)の質疑者の一人は与党の自民党です。山下貴司氏の質疑・答弁からは次のことが注目されます。

 その一。山下氏が「野党の質問は、ともすれば細切れになってしまうんです。国民にはわからない。ぜひ国民の皆様にわかりやすいようにお願いいたします」と問うと、法相は、るる述べる中で「(略)検察官についても検討を進めてくださいということが、内閣から指示がございました。そこで、法務省においては、検察庁法を所管する省庁として、検察官の定年について検討をしてきたところでございます」と答弁します。

 法相は「内閣からの指示」を何時受けたのか? 指示の内容はどういうものであったのか? ぜひ知りたいところですが、そのやりとりは行われていません。

 その二。解釈変更の手続について、山下氏は「口頭の決裁であることを問題視する向きもございますが、この点について、大臣の見解を伺いたいと思います」と問います。
 法相は、「内閣法制局等と協議するに当たり、事務次官まで、内閣法制局に提出する文書を確認して、その旨の了解を口頭で決裁を受けたということでございます」と、さらりと答弁します。

○すると山下氏は、「まさにそうなんですよ。要するに、解釈確定に至るその検討段階において、一々書面はつくらない。私、民主党政権時代にも法務省に勤めておりました。山ほど口頭で了解をとっています、こういったものについては、各省合い議については。当たり前です。じゃないと回らないんです」と自らの見解を述べています。

○ その三。山下氏は、法相在任中(2018年10月2日-2019年9月11日)に黒川東京検事長人事に深く関与したとする発言しています。

○山下分科員 高検検事長に推挙したのは、私であります、法務大臣当時の。なぜか。それは、黒川さんは私、特捜部時代に御一緒していまして、捜査能力も極めて高い、そしてまた、司法制度改革や刑事司法改革もしっかりやっておられた。そうした両方の経験を持つというような、なかなか希有な人材であったわけであります。だから、通常は、事務次官からワンクッション、ほかの検事長を置くのでありますけれども、東京高検検事長にお願いしたというわけであります。(略)特定の官僚が後任を指示する権限を持っているわけではないというわけです。

 この山下発言は重要で注目すべき発言です。かなり早い段階から黒川人事が法務大臣人事であり、官邸人事であったことがうかがえます。山下氏を起点に法相経験者をみると、前任は上川陽子氏、そして後任は河井克行氏、そして現在の森氏です。少なくともここにあげた法相経験者は、官邸から黒川人事で何らかの指示を受けていた、と「読む・解く」ことができます。

 続く質問者は後藤祐一氏です。法相が「口頭決裁」と言っているのは「法務省として「決裁が完了した文書ですか」と問うと、法相は「はい。私は口頭で決裁をしておりますので、決裁が完了した行政文書でございます」と、ここは明快でした。

 しかし、後藤氏が、「法務省行政文書取扱規則第17条は、『決裁を完了した行政文書の文書番号は、文書管理システムにより登録する』と書いてあります。文書番号はとっていますか」と問うと、法相は「規則上の決裁を得る文書ということではございませんので、番号はとっておりません」と答えます。
 これでは、口頭決裁を裏付けるものが何も示せないということになってしまいます。

┃「法相が国会で答弁している」をもって真実の証明だと言われても?

○黒岩宇洋(立国社)は2月26日、予算委員会の理事会に提出された「検察官の勤務延長について(200116メモ)」――「日付のない」と指摘された文書に日付が記入された――が「客観的にその解釈変更の時期を証明でき得る文書なんですか」と問います。
 法相は「はい。1月16日に部内で解釈について検討していたことを証明できるものと考えております。」

○ここからやりとりが続きます。黒岩氏はどうやって証明するのか、後刻打ったって打てるでしょう。「電子的なログを添付して出せますか」と迫ると、法相は「これはまさしく20年1月16日につくられたものでございまして、後日つくったものではございません」と答えます。

○すると、黒岩氏は「大臣、では、法廷で、これは20年1月16日だと事実認定をするときに、このメモだけで事実認定できますか」と問う。法相は「私が法律家として、また法務大臣として、この国会で答弁をしているということがその証明でございます。(発言する者あり)」

○黒岩委員 (略)何を根拠として、何を真偽をはかるものとして根拠として示せるかで、我々は、真実なのか、それとも虚偽なのか、そうではないのかということをはかろうとしているわけですよ。それを、法律家である森大臣が、私がここで言ったから、議事録に残るから真実です、よくぞこんなことをおっしゃった。(略)いつ作成したか、作成年月日がこれは電子記録上あるわけですから、これは当然出させるでしょう。大臣、違いますか。

○答えはありません。視点を変えて、黒岩氏は、口頭決裁でなくて「文書決裁をしなければいけない決裁じゃないんですか」と問います。ここでもなんどかくり返しますが法相から答えはありません。さらに「私が聞いているのは、大臣、文書決裁にしておけば、日付もわかる、誰が決裁したかもわかる、後で検証できる、そんなことをなぜしなかったのか。わざわざ、逆を考えれば、検証できないような、日付がわからないような、そんな決裁をする必然性があったんですかと聞いているんです」と迫ります。

○でも法相は問いを外して、「委員は後づけでつくったのではないかという前提のもとに御質問なさっていますが、後づけではありませんし、1月16日の日付の文書も先ほど理事会にお示しをいたしました」「その経緯がしっかりとわかるような文書等がないか、証明するものがないかということは、これからきちっと事務方に探させるというお約束もいたしました。ですから、後づけであるというその前提自体、否定をしておきます」と答えます。

 この日、唯一はっきりしたことといえば、証明できる別の「文書」を探すことを法相が約束したことです。でも法相が〈後づけ〉を否定すればするほど、〈後づけ〉が浮き彫りになるというように読み取れます。

○たくさんの疑義、疑惑が残されたまま質疑・答弁の主舞台は、参院予算委員会に、そして衆参の法務委員会と内閣委員会、衆院予算委員会に引き継がれることになります。

 なお、今回の続きとなる「国会会議録を読む・解く」(2)は次号8月号の掲載となります。

 (一社・生活政策研究所 参与)
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