【視点】

枝野立憲民主党首の西日本新聞インタビューへ原自連が公開質問状

仲井 富

<はしがき> 原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟 (会長吉原毅)は、6月14日付けで、枝野立憲民主党首に対する以下のような公開質問状を送付した。西日本新聞の2021年2月14日の枝野氏のインタビュー記事が、あまりにも「原発ゼロ」を党是とする立憲民主党の方針とかけ離れているからである。私自身も西日本新聞の記事を読んで唖然とした。日本の脱原発運動の国会デモの引き金となった、2012年3月の、福井県大飯原発3・4号機再稼動に対する一言の反省もなく、あの再稼動が電力危機を救ったと臆面もなく述べているからだ。

 原自連の質問状は、<立憲民主党の綱領(2020年9月15日)では、「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会を一日も早く実現」するとされています。原発の使用済み核燃料の行き先をきめないことには、原子力発電をやめると宣言することはできない旨の回答は、立憲民主党の綱領と矛盾する>という当たり前の疑問を枝野党首にぶつけたもので、きわめて当然のことである。なお原自連は8月15日までの回答を求めている。「現政権の原子力政策を継続する方針」との指摘はまさに正鵠を得ている。

 ◆ 原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟の公開質問状全文

2021年6月14日
立憲民主党代表  枝野幸男 殿

原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟
会 長 吉原 毅
顧 問 小泉 純一郎
顧 問 細川 護煕
副会長 中川 秀直
幹事長 河合 弘之
事務局次長 木村 結

公開質問状

貴殿は、2021年2月14日の西日本新聞による単独インタビューの際に、原子力政策について発言されております。
しかしながら、当該インタビューにおける貴殿の回答内容からは、原子力政策に関する見解が明確ではなく、むしろ、現政権の原子力政策を継続する方針を示すようにも受け取れる内容です。

すなわち、貴殿は、今後の原子力政策をどう進めるべきかという質問に対し、「原発の使用済み核燃料の行き先を決めないことには、少なくとも原子力発電をやめると宣言することはできません。使用済み核燃料は、ごみではない約束で預かってもらっているものです。再利用する資源として預かってもらっているから、やめたとなったらその瞬間にごみになってしまう。この約束を破ってしまったら、政府が信用されなくなります。ごみの行き先を決めないと、やめるとは言えない。」と回答されています。

この約束とは、平成20年4月25日付甘利明経済産業大臣文書(平成20・04・23資第5号)の「2.青森県を高レベル放射性廃棄物の最終処分地にしないことを改めて確約します。」という文言を指していると思われます。しかしこの文書は「原子力発電をやめると決定したら、すぐに使用済み核燃料を青森県から搬出する」ことを約束したとは読めません。

この文書は、青森県を高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の最終処分地にしないことを約束しているだけです。したがって、政府が原発を廃止すると宣言した場合、政府は六ヶ所村にある高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)を青森県外に搬出すべき方策(最終処分場を決定して建設して搬入する)を追求すればよいのです。即時に高レベル放射性廃棄物を青森県外に搬出すると約束はしていません。まして高レベルでない単なる使用済み核燃料をもとの原発サイトに戻すなどと記載していません。

また、上記政府文書が引用する「高レベル放射性廃棄物の最終的な処分について(平成6年11月19日 6原第148号)」、「高レベル放射性廃棄物の最終的な処分について(平成7年4月25日 7原第53号)」もどこを読んでも政府が原発廃止を決定したら直ちに使用済み核燃料、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)をもとの原発サイトなど青森県外に搬出するというような記載はありません。

「政府の約束」に言及されるならば文言は正確に読んでいただきたいと存じます。
ところで、原子力発電をやめる宣言をせずに原発の運転を続けるとなれば、その継続により新たな使用済み核燃料を生み出します。使用済み核燃料が増え続け、その総量が決まらないままそれらの最終処分場など決められない、国民が協力するわけがないと考えるのが常識です。使用済み核燃料の行き先を決めないことには、原子力発電をやめると宣言しないということは、結論として原子力発電をやめないことと同義になるのです。しかも使用済み核燃料の行き先を決めること(最終処分場の場所を決定し、現実に建設すること)は、全く見通しが立っておらず不可能と言われている(世界中でもフィンランドのオンカロの一部完成しかない)のですから、それを条件とすることは見通しが立たないことの成就を条件としていることになります。

そこで、以下の各質問について、2021年7月15日までに書面にて回答をいただくことを求めます。

質問1
貴殿が代表を務める立憲民主党の綱領(2020年9月15日)では、「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会を一日も早く実現」するとされています。
貴殿の、原発の使用済み核燃料の行き先をきめないことには、原子力発電をやめると宣言することはできない旨の回答は、立憲民主党の綱領と矛盾するものと考えますが、この点について、貴殿のお考えをお示しください。

質問2
原発ゼロ社会の実現のためには、先に脱原発の意思決定及び宣言を実施し、その後に使用済み核燃料の行き先を考えるのが適切な順序であって、使用済み核燃料の行き先の決定を脱原発の意思決定及び宣言の前提条件とすることは、実質的に原発ゼロ社会の実現を不可能にすることだと考えますが、この点について、貴殿のお考えをお示しください。

以上の質問に対する回答は、2021年7月15日までに、以下の連絡先まで、郵送、FAX又はE-mailでお送りいただきますようお願いいたします。
また、回答いただいた内容は、メディアやホームページ等を通じて公表することがありますのでご承知おきください。
以上

(連絡先)
原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟
住所:東京都新宿区四谷本塩町4-15 新井ビル3階
電話:03-6883-3498
FAX:03-6709-8712
メール:genjiren2017@gmail.com

 ◆ 原発ゼロの具体的展望なき枝野党首の西日本新聞インタビュー

 原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟が枝野立憲民主党首に疑問をぶつけた2021年2月14日の西日本新聞による単独インタビューの際に、枝野氏は以下のように述べている。

◇ 苦渋の大飯原発再稼働

 《枝野氏は官房長官退任後、野田佳彦政権で経済産業相に就任。原子力政策の指揮を執る立場になった。在任中、12年7月に関西電力大飯原発(福井県)を再稼働させた》

 -大飯原発の再稼働はどういう理由で判断されたのですか。
 「あのときは本当に電力供給が不足するかもしれないという、これまた恐怖ですから。関西圏でブラックアウト(全域停電)が起きれば、医療現場では人命に関わる。原発を使えば少なくともそのリスクは大幅に下がることが分かっているわけです。再稼働すれば、発生確率は低いが万が一の事故が起こった時のリスクが大きい。二つのリスクを比較、考慮しなければならなかった」

 -大飯再稼働は苦渋の決断だったと。
 「もちろんです。政治の決断ってほとんど苦渋の決断ですから」

◇「無責任なことは言わない」

-今後、原子力政策をどう進めるべきだとお考えですか。
 「原発の使用済み核燃料の行き先を決めないことには、少なくとも原子力発電をやめると宣言することはできません。使用済み核燃料は、ごみではない約束で預かってもらっているものです。再利用する資源として預かってもらっているから、やめたとなったらその瞬間にごみになってしまう。この約束を破ってしまったら、政府が信用されなくなります。ごみの行き先を決めないと、やめるとは言えない。でも、どこも引き受けてくれないからすぐには決められない。原発をやめるということは簡単なことじゃない」

 -立憲民主党は綱領に一日も早い「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会」の実現を掲げています。
 「使用済み核燃料の話は、政権を取ったとしてもたぶん5年、10年、水面下でいろんな努力をしない限り無理です。だから政権の座に就いたら急に(原発ゼロを実現)できるとか、そんなのはありえない」(以下略)

 ◆ 立憲民主党の原発政策では、原発ゼロは半世紀かけても実現しない

 枝野氏の強弁にも関わらず、この大飯原発3・4号機の再稼動こそが、国会を取り巻く再稼動反対デモ契機となった。その波は全国的に拡大した。
 2012年7月16日「さようなら原発10万人集会」と銘打ったデモが、東京都渋谷区の代々木公園で開かれ、主催者発表で約17万人、警視庁関係者によると約7万5千人が参加した集会が原発再稼動反対の決議を行った。その波は関西から全国的な原発再稼動反対の運動として広がったのである。その国会デモの歴史すら忘れて、あたかも大飯原発3・4号機再稼動は、電力危機を救ったという自画自賛のインタビュー記事となっている。

 旧民主党政権は「原発ゼロ」を掲げながらも二つの決定的な誤りを犯した。その一つが大飯原発3・4号機の再稼動だった。もう一つの誤りは、政権末期に原発事故で中止していた、三つの原発の工事再開を容認したことだ。青森県大間原発、青森県東通原発、そして島根原発3号機である。2012年の総選挙で2030年代の原発ゼロを目指すといいながらそれを事実上空文化する決定だった。
 これらの3原発はいずれも工事中であるが、来年2022年に稼動できたとしても、40年稼動を前提とすれば、原発の停止は2060年を超える。民主党の原発ゼロ政策なるものは、このような欺瞞の積み重ねによって空文化されたのだ。

 青森県大間原発も工事中だが、敷地内には土地を売ることを拒否した「あさこハウス」が建てられ、熊谷あさこさん亡き後は娘の熊谷厚子さんがそこに住み込んで、いまなお土地売買を拒否して闘っている。また大間原発の対岸にある函館市では、事故の影響を最も受けるとして、函館市が原告となって2012年から、9年間にわたる工事差し止め訴訟が続いている。

 ◆ 旧民主党は大嘘つきを清算せよ 総務相を務めた片山善博慶大教授

 菅直人、野田両首相は、口を開けば「消費税値上げと原発ゼロ政策は正しかった」といまなお公言しているが、その消費税値上げと原発ゼロ政策なるものの実態はまさに欺瞞に満ちているのだ。その悪夢から逃れるために党名を転々として立憲民主党となったが、世界の先進国で大敗するたびに党名を変える政党などない。なお枝野党首は7月半ば、原自連の二つの質問に回答文を出したが、枝野的言辞の羅列で疑問に答えたとはいい難い。

 読売新聞の7月13日の世論調査結果によると、確かに菅政権の支持率は、政権発足以降の最低となった。支持するは37%。支持しないは53%。だが自民党支持率は39%、公明の4%、維新の2%を足すと与党支持率合計は45%になる。野党支持率は、立憲が5%、共産3%、国民1%と合計9%だ。野党政権への期待が高まっているとは言い難い。なお支持政党なしは43%となっている。
 次の選挙でどこの政党に投票しますかとの問いについては、与党では自民39%、公明6%、維新6%で合計51%が自公政権に投票すると答えている。野党への投票は、立憲10%、共産党6%、国民2%、れいわ1%で合計19%に過ぎない。菅政権への不支持拡大にもかかわらず。大多数の有権者は野党連合政権を期待していないのだ。(下表参照)

画像の説明
  読売新聞世論調査 2021年7月13日

 かつて民主党政権で総務相を務めた片山善博慶大教授は「民主は大うそつきを清算せよ」と述べている。

 ――民主党は高をくくっていた。3年前の衆院選で「消費税は上げません」といって政権を取ったのに、まるでそんなことは言っていなかったような振る舞いをした。野田首相は「消費税引き上げは大義だ」とまで言い始め、世間の人は大うそつきだと見た。ところが、どういうわけか、民主党に残った議員たちは自分の中でその問題を勝手に清算していた。党の再生はうそつきを解消する作業から始まる――(毎日新聞2012年12月18日 三者座談会「選挙結果と今後」)

 (世論構造研究会代表・オルタ編集委員)
                          (2021.07.20)
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