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有閑随感録(40)

矢口 英佑

 日本は65歳以上の高齢者が全人口の25%を超える「超高齢化社会」となって久しい。この事実は多くの日本人が知識としては知っている。しかし、実感としてこうした状況を深刻に捉えられている人は少ない。だが、そんなことにお構いなしに目の前に広がっている日本は、
 ① 日本の全人口の四分の一の人が年金暮らし。
 ② 65歳以上の高齢者が中学生までの子どもの倍以上。

 その結果、
  生産年齢人口(15歳以上、64歳までの人びと)減少→
  経済成長率低下→ 国際競争力弱体化→ 国の税収入下降線→
  年金、医療費などの社会保障費不足→ 年金だけで生活はできなくなる
 これがまぎれもない現実である。

 生産年齢人口は2015年には7,728万人余りだったが2030年には6,875万人余りになると予測されていて、わずか15年間で約825万人も減少してしまうことになる。経済を持続的に発展させ、人びとが安心して暮らせるためには、十分な働き手が必要なことは明らかである。国もこうした状況は十分に承知している。しかし、その取り組みとなると、積極的とはとても言えない。まるで何かを恐れているかのように。

 現在の日本の政策では、外国人観光客は大いに歓迎し、その受け入れ体制にも十分配慮がなされているように見える。旅行客として来日するのであれば、可能な限り入国しやすくするということで、規制が緩やかになっている。ところが、日本に住むとなると、一転して厳しくなるのもこれまた日本の現実である。

 労働力不足を補うために、企業は65歳までの定年延長を実現させ、さらに70歳までの定年延長が政府や一部の企業で、その視野に入ってきている。しかし、かりにそうなったとしても、いちばん一息つけるのは、社会保障費、年金支払いなどでの負担を減らせる国であり、企業からすればこうした働き手の職種は限定的とならざるを得ない。
 日本の生産年齢人口減少に歯止めがかからない以上、働き手を長く確保するためには、どうしても外国人労働者に頼るしかなくなってきていると言えるだろう。

 ところが、外国人がこの日本という国で働くためには、言い換えれば、日本で1年、2年と長く住むためには「在留資格」を持たなければならない。最近はさまざまな場所で働いている外国人をよく見かけるが、彼らは「在留資格」を持った外国人である。ただし、誰もが同じ「在留資格」で働いているとは限らない。そのため、彼らの身分の安定度には大きな差が生じている。
 たとえば、大学で教員として働いている外国人と建設現場で働いている外国人とでは、その身分の安定度には雲泥の差がある。「特定技能」と「技能実習生」とでもその差は決して小さくない。

 一般的に外国人が取得できる「在留資格」は大別すると四種類である。「身分に基づく在留資格」、「専門的・技術的分野の在留資格」、「技能実習生」、「特定技能」のいずれか一つで「在留資格」を取得する。
 そのほかに、コンビニなどで働いている外国人を見かける場合もあるが、彼らはほぼ間違いなく留学生である。日本では、長期滞在が許される外国人が持つビザは通常、「留学ビザ」と「就労ビザ」で、上述した四種類のうち、「身分に基づく在留資格」を除いた三種類はすべて「就労ビザ」の範疇に入る。

 留学生が持つのが「留学ビザ」で、彼らは日本企業で正社員として働くことは禁じられている。理由ははっきりしていて、留学生は学ぶために来日しているからである。しかし、そうは言っても学費や生活費も必要になるとの判断から日本政府は「資格外活動」としてのアルバイトを認めている。ただし週28時間以上の労働は認められず、長期休暇中でも1日8時間以内の労働時間制限が設けられている。しかし、この労働時間制限を超えて働いている外国人留学生も少なくなく、本人はもちろん、学んでいる学校の監督責任が問われる場合もある。

 なお留学生とは、大学で学ぶ外国人だけでなく、日本語学校や専門学校で学ぶ外国人も留学生と呼ばれる。そのためコンビニや居酒屋などでアルバイトとして働いている留学生も身分的には一様ではない。また、日本語運用能力にも留学生によって大きな差がある。日本語学校生は日本語がまったくわからずに来日して日本語を学んでいる外国人が多く、専門学校生や大学生なら入学時に一定の日本語運用能力試験にパスしているからである。
 ついでに言えば、彼ら留学生のうち卒業(修了)後、日本で就職できる資格があるのは大学卒業生と専門学校修了生に限られ、日本語学校修了生は就職できない。そのため、さらに専門学校や大学に進学して留学ビザで滞在するか、帰国するしかない。

 日本で働くためには三種類の「就労ビザ」のうちどれかを取得しなければならないことは書いたが、先ずはこの三種類のビザの違いを簡単に説明しておく。

・「専門的・技術的分野の在留資格」
 この資格のうち、大学を卒業した(日本、国外いずれでも可)外国人(留学生)の90%以上が取得する就労ビザは「技術・人文知識・国際業務」というもので、技術者や事務ワーク等の仕事に就く在留資格で、「高度外国人材」と呼ばれる。
 その他に2019年5月から「特定活動46」という在留資格が加わっている。これは日本の大学、あるいは大学院を卒業(修了)した留学生で、日本語能力試験N1に合格した人を対象に「技術・人文知識・国際業務」以外の業務にも就くことが可能とするもので、日本での就職が非常に有利になっている。

・「特定技能」
 これには「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があり、〝相当程度の知識または経験〟を必要とする業務に就く外国人で、日本語能力試験N4レベルであれば良いとされている。この日本語能力では日常会話がスムーズにはできないレベルだが、業種が14種類と限定されていて、しかも単純労働と言えるものである。在留期間は通算で5年間と切られている。そして「特定技能2号」は「熟練した技能」が必要で、建設業と造船・舶用工業の2業種だけで、こちらは在留期間に制限はなく、家族の帯同も可能となっている。

・「技能実習生」
 今回、この「技能実習生」について触れることが主眼だったのだが、時間切れのため、次回で触れることにするが、大いに問題がある在留資格と言える。

 (元大学教員)

(2022.6.20)
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