【沖縄の地鳴り】

書評『沖縄「格差・差別」を追う』 羽原 清雅

平良 知二

 このところ沖縄に関する本、いわゆる「沖縄本」の出版がめざましい。特に政治、安全保障、歴史関係が多く、沖縄県外出身の方々の著作も目立つ。本書もその一冊ということになる。沖縄戦で悲惨な体験を強いられた沖縄は、現在も変わらず理不尽な状況に置かれている。そのままでいいのか、という義憤の気持ちが、これら「沖縄本」の著者と多くの読者に共有されているのだろう。「本土復帰」50年の、節目をうねる活況といえる。

 この本はタイトルの通り、沖縄が差別されてきた明治以降の歴史を追っている。その最初の1章は明治初期~中期の山県有朋の沖縄施策に焦点を当てているが、日本政府の沖縄に対する長年の差別的対応は山県から始まったと捉えている。山県は琉球処分にかかわり、内務大臣として1カ月余も沖縄を視察している(1886年)。
 その政治的姿勢は「軍事国家の基盤作り」「天皇を軸とする専制統率型の国家像」を目指すもので、羽原氏は(沖縄に対しては)「開発の遅れた現地事情への配慮は乏しかった」と評し、「山県路線の踏襲が、いまだに今日の沖縄を統治し続けている」と断じている。

 「格差・差別」については昭和初期の貴族院議員・大城兼義の「演説草稿」を取り上げている。戦前の沖縄について筆者(平良)は断片的な知識しか持ち合わせておらず、大城議員の名は初めてであった。琉球処分から昭和10年代(沖縄戦)までの政治、経済、社会状況については、郷土のことでありながら、筆者の知識は乏しい。無知を他人のせいにするようで申し訳ないが、この期間の沖縄の歴史は一般的にあまり深められていないのではと感じている。

 著者の羽原氏はその期間についても探索し、大城の草稿を見つけている。大城は「明治12年廃藩置県以来、50年間に於いて、殖産興業に対する根本的施設としては、何等の見るべきものが無い」と沖縄の実情を訴えている。大城の現状認識、課題提起を紹介したあと、羽原氏は「100年近く前の『しまちゃび』、大城の言う『孤島苦』は消えていない」と現状を厳しく捉えている。

 興味を引いたのは11章の「摩文仁に死す・ある新聞記者の場合」。沖縄戦で亡くなった朝日新聞那覇支局の宗貞支局長の最後の原稿(記事)など、いくつかの戦時の原稿が紹介されている。宗貞記者は毎日新聞の2人の記者とともに軍司令部、島田知事ら県幹部と南部・摩文仁にまで逃避、6月25日ごろ亡くなっている。
 宗貞記者の最後の記事は亡くなる1カ月前の5月26日紙面(一部27日)。「穴籠り戦術で敵誘引 凄壮を極める地上戦闘」の見出しで、戦闘の凄まじい様相が記事になっている。砲弾、銃弾飛び交う中、逃げ隠れしつつ東京までよくも送信できたものだと感心する。沖縄戦の臨場での重要な証言である。
 戦時の新聞記者の動向は沖縄タイムス社刊行の『鉄の暴風』などに載っているが、広く知られているとは言えない。その点で、宗貞記者を追ったこの章は貴重である。

 宗貞記者は羽原氏の先輩にあたる。その縁もあって宗貞記者を追うことにしたのだろうが、羽原氏には新聞記者、新聞社は戦争をどう報じたのか、強い問題意識があった。その意味で15章の「朝日新聞に見る戦時下の著名人の戦争観」は著名人の言葉を借りた新聞社の戦争観と言えなくもない。
 15人の社外著名人と5人の朝日記者のコラムを取り上げている。1945年3月から6月の掲載。宗貞記者が必死に記事を送信した激戦のさなかであり、羽原氏は「敗戦がまぢかに迫り、大量の命を失いつつある沖縄戦のさなかに、なおも状況を見ない言論がまかり通っていた」とこれらコラムの内容を批判している。

 羽原氏は1938年生。復帰前の沖縄に朝日新聞の「沖縄報告」取材班の一員として来て、以後沖縄とのかかわりを深くしている。「沖縄は、もっと声をあげてはどうか。戦火の体験に基づく大きな原則を将来に向けて叫んではどうか」と「あとがき」で後押ししている。

<目次>
1.山県有朋の「沖縄軍事化」
2.吉田松陰、山県有朋、岸信介、安倍晋三
   ―長州「差別と軍事強化路線」の定着
3.昭和初期の格差・差別の現実
4.戦前の「不敬罪」の波紋
5.沖縄「差別」の政治的背景
6.広津和郎「さまよへる琉球人」考
7.「琉球処分」の歴史と今
8.「琉球処分」旧慣温存か 改革推進か
9.権力の奈良原繁・民主化の謝花昇の対立
10.沖縄戦・軍部と県民の断絶
11.摩文仁に死す・ある新聞記者の場合
12.死地に赴く1000人の「疎開児童」
13.沖縄戦にあった日米対話的交流
14.「アメリカ世〈ユー〉」下の沖縄のあがき
15.朝日新聞に見る戦時下の著名人の戦争観
16.「孔子廟」最高裁判決は正しかったか

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 (元沖縄タイムス記者・沖縄在住)

(2022.6.20)
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